最終更新日(update) 2024.10.01
句会報(R6)
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令和五年度静岡白魚火忘年俳句大会 令和6年2月号掲載
令和五年度栃木県白魚火忘年俳句大会・忘年会報告 令和6年2月号掲載
秋の吟行俳句会~今高野山~ 令和6年2月号掲載
坑道句会十一月例会報 令和6年2月号掲載
旭川白魚火新年句会 令和6年3月号掲載
令和六年栃木県白魚火会新春俳句大会 令和6年3月号掲載
名古屋白魚火句会五周年記念感謝の会と句会 令和6年3月号掲載
森淳子代表ご苦労様会 令和6年4月号掲載
島根地区白魚火俳句大会開催―白岩主宰を迎えて― 令和6年5月号掲載
雛流し吟行句会記 令和6年5月号掲載
栃木県白魚火総会及び俳句会 令和6年6月号掲載
坑道句会三月例会報 ― 出西織、鵠神社吟行 ― 令和6年6月号掲載
東広島白魚火水曜俳句会 御建みたて神社吟行 令和6年6月号掲載
群馬白魚火会総会、句会報 令和6年7月号掲載
実桜句会総会・吟行報告 令和6年8月号掲載
令和六年度栃木県白魚火第一回鍛錬吟行会 令和6年8月号掲載
静岡白魚火総会記 令和6年8月号掲載
浜松白魚火会第二十六回総会及び俳句大会 令和6年8月号掲載
令和六年度浜松白魚火会吟行記 令和6年8月号掲載
坑道句会五月例会― 出雲大社・稲佐の浜吟行句会 ― 令和6年8月号掲載
きじひき高原・八郎沼吟行会 令和6年9月号掲載
坑道句会七月例会 ― 十六島町若宮神社吟行句会 ― 令和6年10月号掲載
令和六年度栃木県白魚火会第二回鍛錬吟行会 令和6年12月号掲載

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令和6年2月号掲載 句会報

令和五年度静岡白魚火忘年俳句大会

相澤よし子

令和6年2月号へ 

 十二月とは思えぬ暖かな日和に恵まれた令和五年十二月十日、静岡白魚火忘年俳句大会が開催されました。
 遠方より、顧問であり副主宰の檜林弘一氏に御参加いただき、参加者二十四名(不在投句者三名)で、担当の勝間田句会の皆さんの準備、進行のもとに行われました。当季雑詠三句(不在投句二句)出句で、選句は檜林弘一副主宰特選五句入選十句、鳥雲同人特選三句入選五句、白魚火同人五句選で行われ、披講後、檜林弘一副主宰より丁寧な選評をいただきました。また、副主宰の特選句には御染筆の短冊が授与されました。
 三都夫先生亡きあとも、先生の教えを引き継ぎ、素晴らしい作品が投句され、和やかな中にも活気ある句会となりました。

 檜林弘一副主宰 特選
冬紅葉ちりちり色を燃やしけり    柴田まさ江
夕映えや金鈴子とは名にし負ふ    小村 絹子
おしやべりの聞こえてきさう紅葉山  柴田まさ江
ころがれば拾ひたくなる木の実かな  横田じゅんこ
浮寝鳥夕日は山に帰りけり      坂下 昇子

 鳥雲同人 選
  本杉郁代 特選

茶室へと誘ふ石蕗の花明り      辻 すみよ
ころがれば拾ひたくなる木の実かな  横田じゅんこ
参道の日差しの澄みぬ冬紅葉     檜林 弘一
  小村絹子 特選
ころがれば拾ひたくなる木の実かな  横田じゅんこ
鴨百羽浮かべて湖の楽しさう     辻 すみよ
取り替へてもらつても負け木の実独楽 坂下 昇子
  坂下昇子 特選
やり直し出来ぬ悔いあり木の葉髪   大塚 澄江
茶室へと誘ふ石蕗の花明り      辻 すみよ
道連れは落葉踏む音風の音      横田美佐子
  辻 すみよ 特選
目玉まで新巻鮭の塩まみれ      檜林 弘一
ブティックにアロマの香り冬うらら  藤田 光代
ころがれば拾ひたくなる木の実かな  横田じゅんこ
  横田じゅんこ 特選
銀杏散る真つ只中にゐてひとり    相澤よし子
留まるも舞ふも枯葉にある力     大石 益江
茶の花や約しく暮らし恙無く     大石 益江
  大塚澄江 特選
目玉まで新巻鮭の塩まみれ      檜林 弘一
虎落笛空にらくがきして居りぬ    山西 悦子
朴落葉空筒抜けになりにけり     橋本 快枝
  田部井いつ子 特選
虎落笛空にらくがきして居りぬ    山西 悦子
蟷螂の身構ふるまま枯れにけり    大塚 澄江
朴落葉空筒抜けになりにけり     橋本 快枝
 句会終了後には席を移し、檜林弘一副主宰を囲んでの懇親会を行い、美味しいお料理を頂きながらの歓談の場となりました。



令和6年2月号掲載 句会報

令和五年度栃木県白魚火忘年俳句大会・忘年会報告

杉山 和美

令和6年2月号へ 

 栃木県白魚火忘年俳句大会が十二月三日(日)、宇都宮市中央生涯学習センターに於いて開催されました。当日は小春日和に恵まれ、二十三名の参加のもと開催となりました。俳句大会の前に、星田一草顧問の「瑞宝小綬章」受章と栃木県俳句作家協会「七木賞」受賞のお祝いとして、記念品贈呈と写真撮影、その後柴山要作会長から祝辞、星田一草顧問から謝辞がありました。
 俳句大会は五句投句、七句選、うち特選一句で行われました。

 終了後、上位入賞者に賞品の授与、全員に参加賞が配られました。その後、特選句の選評を各自が行い、曙、鳥雲同人による作品鑑賞が行われ、終了となりました。

 その後、会場を移し、八名の参加により忘年会を行ない、俳句談義、吟行のこと、これまでの出来事など大いに語り合い懇親を深めました。
 曙、鳥雲同人の特選句及び参加者全員の当日の一句は、次のとおりです。

曙、鳥雲同人特選句
  星田 一草  特選

冬菊のもたれ合ふ身の軽さかな  奈良部美幸
  柴山 要作  特選
小春日や跳ねて引きたる人力車  星  揚子
  中村 國司  特選
霜の畑パンタグラフの影走る   佐藤 淑子
  加茂都紀女  特選
つちふまずほぐす勤労感謝の日  松本 光子
  齋藤  都  特選
白壁を逃ぐる日脚や暮早し    秋葉 咲女
  星  揚子  特選
乗り継ぎの小さき駅や山眠る   加茂都紀女
  松本 光子  特選
冬菊のもたれ合ふ身の軽さかな  奈良部美幸
参加者の当日の一句(氏名五十音順〉
掌に数多のメモや十二月     秋葉 咲女
走り蕎麦七味の蓋をかけ直す   阿部 晴江
野紺菊赤錆厚き廃線路      石岡ヒロ子
黄落に空襲の陰大銀杏      五十嵐藤重
病棟を照らす一灯冬の星     江連 江女
無惨なる殺生石に風凍る     加茂都紀女
歌垣の山むらさきに冬うらら   菊池 まゆ
山眠るAIの読むニュースかな  熊倉 一彦
神宮の千木の輝く初時雨     齋藤 英子
ゆるゆると今日の一日を日向ぼこ 齋藤  都
霜の畑パンタグラフの影走る   佐藤 淑子
枯蟷螂眼は未だ枯れ切れず    柴山 要作
冬帽子寝ぐせ直して被りけり   杉山 和美
縁の物乾きて爆ずる小六月    鷹羽 克子
鴨の飛ぶ水面を蹴つてけり抜いて 中村 國司
輪王寺の燃え尽きさうな冬紅葉  中村 早苗
冬菊のもたれ合ふ身の軽さかな  奈良部美幸
小春日や跳ねて引きたる人力車  星  揚子
人は人を遺して逝けり冬の月   星田 一草
ぬひぐるみのせて小春の三輪車  松本 光子
咳一つ腰据へて読む『養生訓』  本倉 裕子
冬桜トロッコ列車の無人駅    谷田部シツイ
男体山のよく見ゆる日や大根干す 渡辺 加代


令和6年2月号掲載 句会報

秋の吟行俳句会~今高野山~

東広島市 真野 麻紀

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 私達東広島土曜俳句会は、十一月十八日(土)広島県世羅郡世羅町にある今高野山を訪れ、吟行句会を行いました。前日の天気予報では、「今シーズン一番の寒波」「雪が降ります」との事。寒がりな私は、防寒具や暖かい飲み物など万全の状態で臨みました。当日は、予報通り雪の舞う天気。バスが駐車場に着いた時には風も強く、「えっ。今日は吹雪ですか?」と思ったほどです。駐車場から総門(仁王門)に皆で移動し、その後約一時間半それぞれ自由に散策をしました。


総門(仁王門)

 今高野山は、弘法大師が世羅の地に泊まられた際、山頂に登られた後、麓にお寺を建てられたと伝えられており、その後の太田の荘の隆盛もあり、山内には重要文化財や観音像をはじめ多くの地蔵尊や芭蕉の句碑などもあります。今年は弘法大師生誕千二百五十年という事もあってか、吟行当日はマルシェも開催されていました。美しい紅葉や黄葉、舞う雪と句材あふれる吟行となりました。


地蔵尊

 実は、私は吟行参加は二回目。正直苦手です。こんな短時間で上手く句が作れるのか。悩みながら参加しました。


龍華寺境内

 十一時五十分、句会会場である世羅町甲山農村環境改善センターに移動し昼食。投句締切りは十二時半。その後、二時間半と少し駆け足ではありましたが、参加者十四名和気あいあいと句会を楽しみました。楽しい吟行句会に参加でき、良い経験となりました。

当日の一句抄
重文の結界石や冷えまさる    奥田  積
初雪の降り込む袂大師像     溝西 澄恵
野面積に銀杏黄葉の降り積もる  久保 徹郎
小雪舞ふいにしへの里今高野      有川 幸子
行く秋や昔を偲ぶ今高野     有川 光法
君と来し山の紅葉をひとり踏む  乙重 潤子
木洩れ日の坂道にゐて寒鴉    加藤三惠子
風さわぐ錦秋の山しならせて   佐々木智枝子
古寺の色重なりて冬紅葉     佐々木美穂
掌にコーヒー包み見る紅葉    仲島 伸枝
朱の橋の向かうは紅葉明かりかな 原田 妙子
北風や観光チラシめくりをり   松村 幸子
六花緋色にふれて消えにけり   真野 麻紀
引き水の池に重なる落葉かな   山口 和恵


令和6年2月号掲載 句会報

坑道句会十一月例会報

杉原 栄子

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 十一月二十七日(月)、今年最後の坑道句会の吟行句会が宍道湖の西岸にある宍道湖グリーンパーク周辺で行われました。残念ながらJA北浜句会の人達は、特産の十六島海苔の摘み取りが始まっており、忙しく出席がありませんで、この日は十一名の会員による句会となりました。
 私にとって、この公園に来るのは久々で、一、六ヘクタールあるという樹木林の中の道を通り抜け、グリーンパークの端にある野鳥観察舎に着きました。湖岸に立ち、それぞれにしばらく湖をながめていると、説明をお願いしていた職員の方が望遠鏡二台と参加者分の双眼鏡を持ってやって来られ、使い方を聞いた後、湖や近くの田んぼにいる野鳥を観察し、鳥の名前や見分け方、飛び方、鳴き声、餌などについて詳しく教えていただきました。今年初めて会えた白鳥、真雁や菱食、数多くの種類のある鴨類、眼光鋭い鶚、飛び方が優雅で、冠羽と背中の羽が美しく、田の貴婦人と言われる田鳧などを双眼鏡の丸い輪の中にくっきりととらえ、歓声を上げました。今年も簸川平野を忘れずにようこそ訪れてくれたと、出会えた鳥たちに心より嬉しく感じました。この他にも上げきれないほど多種の鳥が飛来していました。

 宍道湖のしじみ舟は、すでに操業の時刻が過ぎていたらしく、二艘ほどが舟着場に戻ってくるのが見えたほかは、見ることができませんでした。冠雪の伯耆富士は、湖の対岸遠くにうすく霞んで見えました。干拓地の広々とした田でくつろぐ白鳥は、とても優美で魅力的です。穏やかに打ち寄せる波と岸辺の葦のそよぎ等々、しばらく作句を忘れて湖をながめました。
 こうして午前中の吟行を終え、借りてあるグリーンパークのレクチャールームで作った句を推敲し、午後零時半締切りの投句を済ませました。各自持参の昼食・休憩の後、午後一時から句会が開催され、皆様の力作が発表されました。

 旅伏山へと夕日が傾く頃になると、宍道湖を囲む田のあちらこちらから、白鳥が連れ立って宍道湖岸の塒へと向かいます。空を見上げてこの様子を見ることのできる幸せを感じます。こうしてこの日の楽しい一日が終わりました。
 当日の句会の結果は、以下のとおりです。

 渡部美知子 特選(順不同。以下同じ。)
冬の雁胸を汚して田を漁る      三原 白鴉
静けさや水鳥水の音たてず      荒木千都江
みづうみにざつと数ふる鴨の数    荒木千都江

 三原 白鴉 特選
万の穂に万の風あり芒原       荒木千都江
群れながら向きそれぞれに浮寝鳥   荒木千都江
静けさや水鳥水の音たてず      荒木千都江

 荒木千都江 特選
水鳥の日矢差す湖にゆつたりと    井原 栄子
白鳥のすらりと伸ぶる首美しく    生馬 明子
あざやかに湖面に映る番鴨      山本 絹子

 久家 希世 特選
白鳥のすらりと伸ぶる首美しく    生馬 明子
双眼鏡の中に逆立つ鳰        山本 絹子
かりがねの声に見上ぐる斐伊の空   井原 栄子

 生馬 明子 特選
冬の雁胸を汚して田を漁る      三原 白鴉
遠めがね丸き世界に遊ぶ鴨      渡部美知子
かりがねの声に見上ぐる斐伊の空   井原 栄子

当日の高得点句
 七点

静けさや水鳥水の音たてず      荒木千都江
 六点
寒林を抜けて宍道湖波もなく     生馬 明子
白鳥のすらりと伸ぶる首美しく    生馬 明子
かりがねの声に見上ぐる斐伊の空   井原 栄子
 五点
冬の雁胸を汚して田を漁る      三原 白鴉
双眼鏡の中に逆立つ鳰        山本 絹子
遠めがね丸き世界に遊ぶ鴨      渡部美知子

当日の一句抄 (氏名五十音順)
静けさや水鳥水の音たてず      荒木千都江
ちよこちよこと歩む田鳧に見とれけり 生馬 明子
かりがねの声に見上ぐる斐伊の空   井原 栄子
水鳥や湖岸の森の覗き窓       大菅たか子
八雲立つの句碑の辺石蕗の花あかり  久家 希世
にほどりの潜る水輪と浮く水輪    杉原 栄子
打ち寄する波音やさし冬日和     原  和子
戯れて落葉踏み行くスキップで    松村れい子
風渡る水面窄めて鳰潜く       三原 白鴉
双眼鏡の中に逆立つ鳰        山本 絹子
置物のごとき鶚のふと動く      渡部美知子


令和6年3月号掲載 句会報

旭川白魚火新年句会

旭川 吉川 紀子

令和6年3月号へ 

 去る一月十三日(土)、雪晴れの中、旭川白魚火新年句会が市内の「扇松園」にて行われました。
 今回は、北見から金田野歩女先生が泊りがけで参加して下さり、会場までの送迎バスは、嬉しい歓迎の声と共に会場の扇松園へ着きました。
 お部屋は去年と同じ舞台のある部屋です。淺井夫妻の長男文人君は、二歳になり持参のおもちゃで舞台の上で楽しそうに遊んでくれ、パパ、ママ、皆さんの声掛けの中、なごやかに句会が始まりました。
 今回の得点方法は、出句五句の合計点で決める方法をとり、それぞれに賞品が渡されました。
 句会後の宴の冒頭では、野歩女先生よりご挨拶があり、昨年の札幌大会について、温かいねぎらいのお言葉をいただき、感謝感激の嬉しい乾杯となりました。
 文人君はぐずることもなく、みんなの席を回り、一人ひとりにハイタッチをしてくれて、お話も上手にできるようになり、目を見張る成長ぶりに、皆さん、感心しきり!
 楽しい美味しい賑やかな新年句会となりました。
 結果は、以下の通りです。(一句のみ紹介)

一位 小林さつき
 家長より威厳のありぬ睨み鯛
二位 沼澤 敏美
 片頰のほてりどんどを離れても
三位 萩原 峯子
 衣食住足りて息災千代の春

当日の一句(五十音順)
煮こごりの中や古代の魚の影   淺井ゆう子
初飛行能登半島の方を見る    淺井  誠
元朝の真澄の空の青々と     今泉 早知
目隠しの耳にくすくす福笑    金田野歩女
正月や遠きふるさと御殿まり   中村 公春
どんどの火龍登るごと御空へと  平間 純一
火の番は氏子総代どんど焼    三浦香都子
小さき目の竜の箸置きごまめ食ぶ 吉川 紀子



令和6年3月号掲載 句会報

令和六年栃木県白魚火会新春俳句大会

中村 早苗

令和6年3月号へ 

 一月七日(日)、寒に入ったとは思えない程暖かく穏やかな日となった午後、宇都宮市西生涯学習センターに於いて新春俳句大会が開催されました。
 参加者二十二名、五句出句、十句選、内特選二句で行なわれました。
 成績上位八名と飛び賞として十七位一名、役員の特選一位の句に賞品が授与されました。
 役員の特選句と参加者の当日の一句は次の通りです。

 役員特選句
柴山要作 選

鳥のこゑ満ちて古墳の三日かな  五十嵐藤重
毛糸編む針の動きを追ふひかり  江連 江女
 星田一草 選
書初や小筆を洗ふ水の音     齋藤  都
冬蝶の黄をやはらかく日に返す  阿部 晴江
 中村國司 選
文具屋を閉づる赤札寒夕焼    五十嵐藤重
胸の稚両手で初日摑みをり    江連 江女
 加茂都紀女 選
胸の稚両手で初日摑みをり    江連 江女
霊峰や微光を放つ初御空     渡辺 加代
 齋藤 都 選
背比べしつつ立ちたる初鏡    本倉 裕子
日の当たるところざわめく寒雀  阿部 晴江
 星 揚子 選
初春や光る背表紙「膝抱いて」  中村 國司
冬蝶の黄をやはらかく日に返す  阿部 晴江
 松本光子 選
冬蝶の黄をやはらかく日に返す  阿部 晴江
日の当たるところざわめく寒雀  阿部 晴江
 熊倉一彦 選
冬蝶の黄をやはらかく日に返す  阿部 晴江
鍵盤に十指の乱舞初稽古     中村 早苗
 本倉裕子 選
スキップの子ら銀行へ四日かな  齋藤 英子
一日をひらひら過ごす四日かな  中田 敏子
 阿部晴江 選
初春や光る背表紙「膝抱いて」  中村 國司
除夜の鐘心に染むる余韻かな   中村 早苗
 江連江女 選
幼児に七草粥を吹き冷す     菊池 まゆ
鍵盤に十指の乱舞初稽古     中村 早苗
 渡辺加代 選
胸の稚両手で初日摑みをり    江連 江女
八十歳はちじふは眉伸びざかり千代の春  中村 國司

 当日の一句(五十音順)
冬蝶の黄をやはらかく日に返す  阿部 晴江
眉目のよき巫女を選びて福箕受く 五十嵐藤重
老婆心磨きかかりて去年今年   石岡ヒロ子
柏手の白息散らす朝の杜     江連 江女
屠蘇祝ふ八十余ねんまたたく間   加茂都紀女
初景色畏み仰ぐ那須五峰     菊池 まゆ
読初の兜太龍太を範として    熊倉 一彦
年酒酌む生家をまもる三代目   齋藤 英子
書初や小筆を洗ふ水の音     齋藤  都
難のがれ朝茶頂く四日かな    佐藤 淑子
願はくば一日一笑老の春     柴山 要作
両側の媼はほとけ初参      杉山 和美
一日をひらひら過ごす四日かな  中田 敏子
初春や光る背表紙「膝抱いて」  中村 國司
お疲れと交はす言の葉晦日蕎麦  中村 早苗
そそり立つ日光連山年新た    奈良部美幸
人日の紅茶明るく注がるる    星  揚子
人はみな美しく老い屠蘇祝ふ   星田 一草
あらたまの水渾々と神の池    松本 光子
登りきて無口となりぬ初景色   本倉 裕子
地震地なゐちより帰省の子へのお年玉  谷田部シツイ
霊峰や微光を放つ初御空     渡辺 加代



令和6年3月号掲載 句会報

名古屋白魚火句会五周年記念感謝の会と句会

伊藤 妙子

令和6年3月号へ 

 寒波襲来の十二月十七日、浜松より村上尚子先生、渥美絹代先生、渥美尚作さんをお招きし、これまでご尽力いただいたお礼の式典と句会を行いました。
 式典では、牧野さんのハーモニカ演奏の中、お三方をお迎えしました。村上先生、渥美先生、尚作さんそれぞれへ感謝状と花束等を贈呈いたしました。感謝状の内容は、非常にウイットに富んだ内容であり、また尚作さんにはサンタ帽を被って授与に臨んでいただいたこともあり、会場は爆笑の渦に包まれました。

 また、月一回の句会のご指導と雑務を厭わず行っていただいております檜垣会長と野田さんには、以前に結社の表彰を受けられる等ご功績もあり、遅ればせながら、お祝いの花束をお送りしました。
 その後、和やかな雰囲気の中、茶話会を行いました。会員全員の一言もあり、笑いの中で茶話会はお開きとなり、引き続きお招きの三名と名古屋句会十四名、計十七名(内一名は欠席投句)が参加した句会をいたしました。
 先生方からは、「名古屋句会の皆さんはとても良い出来です」の一言をいただき全員の気持ちが和みました。それぞれ特選句、秀句、入選句として採っていただき、該当の参加者は大変嬉しそうな表情をしておられました。
 和気藹々のうちに午後四時過ぎにすべての予定を終了し、記念の集合写真撮影をして閉会となりました。

参加者の当日の一句
年忘大きな猪口を手渡さる    村上 尚子
糸かけしままのミシンや雪催   渥美 絹代
楽の音に踊る絡繰返り花     渥美 尚作
白鳥や倭建命の化身なる     檜垣 扁理
雪吊の天辺星を指してをり    吉村 道子
冬ぬくし鯉のあひだに雑魚光る  野田 美子
病室に鼾の聞こえ冬ぬくし    伊藤 達雄
神明社の落葉焚く煙町包む    伊藤 妙子
石臼も杵も並ぶや年の市     後藤 春子
教へ子の作りし蜜柑贈りけり   牧野 敏信
落葉ふむ音にせかされ逝きにけり 前野 砥水
灯の点る夜の公園に落葉舞ふ   白井 幸雄
冬日さす城を貫く心柱      大塚 知子
突風に落葉渦巻く交差点     三宅 玲子
小春日や乳母車の子手を振りて  森  節子
校庭のグランドゴルフ落葉舞ふ  遠山  都
木の下の雑草おほふ落葉かな   井上  彰



令和6年4月号掲載 句会報

森淳子代表ご苦労様会

函館白魚火会 内山 実知世

令和6年4月号へ 

 一月十三日「おいしいお料理と楽しい集い」を開催しました。今井星女先生ご退任後、函館白魚火会の代表を勤められた(ご高齢ということで引退される)森淳子さんへの感謝を表したいとの案内に、十三名が集まりました。
 一言メッセージでは、お礼の言葉や懐かしいお話もありました。
勿忘草わすれなぐさをあなたに」を赤城節子さんが歌われると、フットワークの良い淳子さんがデュエットされるシーンもあり、楽しくてお元気な様子が嬉しかったです。句作のポイントについては、淳子さんから、印象に残った事をメモしておくと良いとアドバイスも。
 新代表の広瀬むつきさんが、「私達も淳子さんのように元気で良い俳句を作りましょう」と話されました。吟行会も準備中です。
 十二年余り句会報を担当された𠮷田智子さんがお礼のお花を贈呈し、根川文子さんのリードで「今日の日はさようなら」を唱いました。淳子さんに感謝しながら良い一日を過ごしました。
(会場手配等は西川さん、写真担当は富田さん)
(イベント担当内山)



令和6年5月号掲載 句会報

島根地区白魚火俳句大会開催
―白岩主宰を迎えて―

雲南 森脇 あき

令和6年5月号へ 

 令和六年二月二十四日(土)、白岩敏秀主宰をお迎えして、島根地区白魚火俳句大会が出雲市ラピタ本店三階天雅の間に於いて開催されました。この大会は、もともと令和元年五月開催を計画中、突如発生したコロナウィルス急拡大によりやむなく中止になっていただけに皆さんの期待が大きく、当日は遠く津和野町、隠岐島なども含め、計五十九名の参加を得て賑やかに句会大会が開かれました。

 午後一時、開会にあたり準備に当たった三原白鴉氏より、「今年は白魚火創刊七十年目である記念の年でもあり、白魚火創刊の地である松江市に於いて開催される白魚火全国俳句大会が盛大なものとなるよう、島根地区の白魚火会員が一致協力して取り組みましょう」と開催の趣旨が述べられました。
 続いて、主宰からは「白魚火創刊七十年という歴史は全国の結社に誇れるものであり、発祥の地である出雲の皆さんのエネルギーを全国の皆様に示し、松江市で開催される全国大会を大いに盛り上げましょう」とのお言葉をいただきました。

 句会は、参加申込者六十三名が事前投句した当季雑詠三句、計一八九句が印刷配付された選句表中から、白岩主宰には特選五句、入選句数任意、曙・鳥雲同人は、各特選三句、入選十句、そして一般選七句の互選の方式で始まりました。選句終了後、渡部美知子、原みさ、妹尾福子の三氏による披講、原和子、牧野邦子、山本絹子三氏による代返により、円滑に進められ、最後に主宰の特選五句、曙同人の特選三句、鳥雲同人の特選第一位の句にはそれぞれ短冊が授与され、会場は大いに盛り上がりました。
 その後、白岩主宰から、特選句について丁寧な選評をいただきました。

 また、主宰は、作句について、良い句とは「リズムが良い句」「読み手に伝わる句」「景色が見え、感じる句」「言葉の発見のある句」「明るく楽しい安らげる句」であり、そして、「何よりも俳句は楽しみながら作る事が大事である」とのご指導をいただきました。
 句会終了後、四十九名が参加して懇親会が開かれました。この俳句大会の呼び掛け人の一人であり、行事部山陰ブロック代表でもある田口耕氏から、来たる全国大会松江大会への一致協力の依頼と大会成功を祈念して乾杯があり、開宴となりました。同じ島根と言いながら、地区が異なり普段は誌面でしか会えない句友も多く、テーブルのそこここでにぎやかな声が上がり、互いに交流を深めることができました。

 途中、各句会ごとに句会や参加者の紹介、テーブルごとの記念撮影などがあり、終始和やかな雰囲気の続く中、石川寿樹氏の締めにより懇親会がお開きとなりました。
 懇親会の余韻の残る中、私達笹百合句会も今年の全国大会に向け気持ちも新たに頑張ろうと語り合いながら会場を後にしました。
 白岩主宰には、お忙しい中を出雲までお越しいただき、直接ご指導をいただきましたことに感謝申し上げるとともに、このような盛大な俳句会を企画し、お世話いただいた皆様に厚く御礼申し上げます。

白岩敏秀主宰 特選第一位~第五位
洗顔の水に弾力春立てり      古川美弥子
早春の光に向かひボール蹴る    藤田 眞美
子ら連れて春をさがしに斐伊の土手 生馬 明子
泣く声が稚児のちから福寿草    藤原 益世
洗ひ場の固き石鹸寒の水      古川美弥子

安食彰彦副主宰 特選第一位~第三位
立春の日差しを皺の手に受くる   西村 松子
母の息足してまんまる紙風船    渡部美知子
薄氷とふ動かぬ水の美しき     荒木千都江

渡部美知子 特選第一位~第三位
早春の素描のごとき車窓かな    岡  久子
児に吹いていつしか夢中しやぼん玉 三原 白鴉
薄氷とふ動かぬ水の美しき     荒木千都江

三原白鴉 特選第一位~第三位
母の息足してまんまる紙風船    渡部美知子
下萌や潮風に立つ牧の牛      白岩 敏秀
笑ひ声波へ飛ばして海苔を摘む   小澤 哲世

生馬明子 特選第一位~第三位
早春へペダルを踏みて髪切りに   青木 敏子
父親と同じ校歌を卒業す      原  和子
白鳥の水面の光蹴つて発つ     三原 白鴉

石川寿樹 特選第一位~第三位
黒髪を結ぶ船頭春の雪       江角トモ子
飛び足で岩から岩へ海苔掻女    福間 弘子
甘え来る子牛の眸春を待つ     深井サエ子

小村絹代 特選第一位~第三位
薄氷とふ動かぬ水の美しき     荒木千都江
下萌や潮風に立つ牧の牛      白岩 敏秀
山茶花や右と左に別れ行く     中間 芙沙

久家希世 特選第一位~第三位
影ほどの軽さで飛びぬ冬の蝶    荒木千都江
初音いま聞きしと夫の頰ゆるぶ   陶山 京子
沈下橋くぐる水音日脚伸ぶ     松崎  勝

田口耕 特選第一位~第三位
母と云ふだけの幸せ年明くる    安部 育子
立春の日差しを皺の手に受くる   西村 松子
黙々と蟹と向き合ふ同窓会     釜屋 清子

永島のりお 特選第一位~第三位
山住みの身に纒ひくる雪解風    大草 智美
晩熟の子に記念樹の梅ふふむ    周藤早百合
母と云ふだけの幸せ年明くる    安部 育子

西村松子 特選第一位~第三位
影ほどの軽さで飛びぬ冬の蝶    荒木千都江
一月の雲の白さや出雲和紙     安部 育子
はだれ野を行く荷台より牛の鼻   永島のりお

原和子 特選第一位~第三位
笑ひ声波へ飛ばして海苔を摘む   小澤 哲世
母の息足してまんまる紙風船    渡部美知子
はだれ野を行く荷台より牛の鼻   永島のりお

原みさ 特選第一位~第三位
寒凪の一湾ぐつと潮の引く     落合 武子
ふつくらと抹茶のみどり春立ちぬ  藤原 益世
早春の光廻してゐる水車      青木 敏子

牧野邦子 特選第一位~第三位
笑ひ声波へ飛ばして海苔を摘む   小澤 哲世
下萌や潮風に立つ牧の牛      白岩 敏秀
早春の光廻している水車      青木 敏子

高得点句
 二十点
母の息足してまんまる紙風船    渡部美知子
 十七点
影ほどの軽さで飛びぬ冬の蝶    荒木千都江
笑ひ声波へ飛ばして海苔を摘む   小澤 哲世
 十二点
白鳥の水面の光蹴つて発つ     三原 白鴉
白魚の命を透かす二三寸      栂野 絹子
 十点
下萌や潮風に立つ牧の牛      白岩 敏秀
虹足を隠岐に置きたる冬の虹    松村れい子
 九点
洗顔の水に弾力春立てり      古川美弥子
春めくやたなびくやうに牛の声   田口  耕



令和6年5月号掲載 句会報

雛流し吟行句会記

東広島 仲島 伸枝

令和6年5月号へ 

 三月十六日(土)広島白魚火土曜句会は、総勢十七名で東広島市西条町にある黒瀬川で雛流しを行いました。雛を海や川に流すことによって、災厄を払うといわれています。
 日替りのごとく暖かさ寒さが交互にくる中、当日は雲一つない快晴で、せせらぎを聞き初音を聞き、向こう岸では竹林がそよ風に揺れ、川の色は青く深さと流れの速さを感じられました。川の水も澄み川底の砂がきらきら煌めき舟の影も見え優雅でもあり、寂しさもありの雛流しでした。頬を撫でる風が心地よく和やかな時を過ごすことが出来ました。

 予め作っていた紙雛にこんな顔あんな顔と様々に楽しみながら目、口を入れ、美男美女の出来上がり。和紙に男雛女雛を乗せ花と手作りのあられを手向けて、いろいろな思いを託しゆっくりと川へ流しました。
 すいすい流れる雛があれば、ゆっくり同じ場所でくるくる回る雛、風に押し戻されて溯る雛があり、杖で流れに押し出す雛も。「それぞれの人生のようですね」と話し合ったことです。

 河原で昼食をとり句作に悩みながらも和気藹々で句会場に移動しました。今回の吟行は川、河原に集い、わいわいのんびりと楽しみました。ほとんどの人が雛流しは初めてで、感動を胸にまるで遠足の様でした。以前にもまして親睦も深まったように思います。

当日の一句抄
笹竹に風生まれたる雛送り     奥田  積
淵青き流れに送る雛かな      溝西 澄恵
堰越ゆる水音ゆるく水草生ふ    久保 徹郎
そよ風にここちよいかと流し雛   有川 幸子
手を離れ流れのままに行く雛    有川 光法
さざ波の水面滑りて鴨の行く    上野由起子
雛段の段降りてゆくおんな雛    乙重 潤子
細波は風の気紛れ流し雛      加藤三惠子
細き目を入れて美男の紙雛     佐々木智枝子
手作りのあられ香ばしひなまつり  佐々木美穂
母も吾も同じ日生まれ雛流し    田中 京子
のんびりとのんびりと行く雛のあり 仲島 伸枝
川底の影連れゆるり流し雛     長谷川佳子
流し雛川辺に集ふ笑ひ声      原田 妙子
きらきらと川面ひかりて雛流る   檜高美佐緒
水の影連れて揺れたり流し雛    真野 麻紀
流し雛手向けの花のこぼれたり   山口 和恵



令和6年6月号掲載 句会報

栃木県白魚火総会及び俳句会

奈良部 美幸

令和6年6月号へ 

 令和六年度の栃木県白魚火総会、俳句会が四月七日(日)宇都宮市中央生涯学習センターにおいて二十三名出席のもと開催されました。柴山要作会長の挨拶に続き、役員より昨年度の行事報告、決算報告、監査報告、令和六年度行事予定案、予算案、役員・支部構成案等の審議承認があり、俳句会に移りました。
俳句会は五句投句、十句選(うち特選二句)で行われ、表彰及び賞品は一位から五位の入賞者に送られ、参加者は満開の桜の中、それぞれの家路に着きました。役員の特選句は次の通りです。

 柴山要作 選
被災地に少年の声風光る       五十嵐藤重
春ショール母の背筋のぴんと伸ぶ   中村 早苗
 星田一草 選
伎芸天の目線にをりぬ花の風     江連 江女
しやぼん玉追ふ子に路地をゆづりけり 松本 光子
 中村國司 選
堰の鯉一匹になり水温む       杉山 和美
残照の中の一陣春の鴨        本倉 裕子
 加茂都紀女 選
万雷の拍手のごとく白木蓮      熊倉 一彦
紫陽花の芽吹きのきょふ朝かな     星田 一草
 齋藤都 選
言の葉に出来ぬことありさくらの夜  奈良部美幸
朝寒やはしり書きして旅に出る    阿部 晴江
 星揚子 選
残照の中の一陣春の鴨        本倉 裕子
マネキンのつんと澄まして春スーツ  齋藤  都
 熊倉一彦 選
日のあふる万朶の桜影もたず     星田 一草
被災地に少年の声風光る       五十嵐藤重
 本倉裕子 選
しやぼん玉風の軽きになりて飛ぶ   星田 一草
石垢に食ひ付く稚鮎波起こす     秋葉 咲女
 秋葉咲女 選
頼まれて断り切れぬ四月馬鹿     中田 敏子
日のあふる万朶の桜影もたず     星田 一草
 阿部晴江 選
啓蟄や潜る柱の東大寺        熊倉 一彦
被災地に少年の声風光る       五十嵐藤重
 江連江女 選
観音の天蓋なせる八重桜       谷田部シツイ
しやぼん玉追ふ子に路地をゆづりけり 松本 光子
 渡辺加代 選
啓蟄の古墳菰解く子らの声      柴山 要作
つぎつぎに鯉のあぎとふ飛花落花   松本 光子
 杉山和美 選
春ショール母の背筋のぴんと伸ぶ   中村 早苗
マネキンのつんと澄まして春スーツ  齋藤  都
 松本光子 選
万雷の拍手のごとく白木蓮      熊倉 一彦
日のあふる万朶の桜影もたず     星田 一草

 当日の一句(五十音順)
銀色しろがねに光る光魚の美しき背      秋葉 咲女
朝寒やはしり書きして旅に出る    阿部 晴江
絹夾のさ緑眩し解体夫        五十嵐藤重
祠立つ春野の古墳遠筑波つくば山      石岡ヒロ子
鳥帰る湖の形のもどりけり      江連 江女
直売のたたき売り買ふ春野菜     加茂都紀女
花桃の源平咲きに姉偲ぶ       菊池 まゆ
白鳥引く飛沫を強く引き摺つて    熊倉 一彦
鳥帰る路面電車の混み合うて     齋藤 英子
庭石もかくれしすみれ誕生日     齋藤  都
驀進のSL「大樹」山笑ふ      柴山 要作
句会にて茶菓子でなごむ桜餅     杉山 和美
紙風船昔富山の薬売         鷹羽 克子
頼まれて断り切れぬ四月馬鹿     中田 敏子
北向きに南湖の春の鴨の陣      中村 國司
三匹の子猫顔出すみかん箱      中村 早苗
花疲れ乱るる裾を直しけり      奈良部美幸
春愁を埴輪に見透かされさうな    星  揚子
日のあふる万朶の桜影もたず     星田 一草
しやぼん玉追ふ子に路地をゆづりけり 松本 光子
父母と祖母ゐたころのさくらかな   本倉 裕子
菜の花や筑波るくば山は遠く雲の中     谷田部シツイ
春の雷動きさうなる埴輪どち     渡辺 加代



令和6年6月号掲載 句会報

坑道句会三月例会報 ― 出西織、鵠神社吟行 ―

山本 絹子

令和6年6月号へ 

 三月二十五日(月)、斐川町の出西織、鵠神社への吟行句会を行いました。
 当日の参加者は、十三名。九時三十分、集合場所の平田ショッピングセンターViVAの駐車場を出発、一路染と織りの工房へ向かいました。十時頃到着、工房の前で出迎えていただいた多々納昌子さん、娘の朋美さんから約一時間、織工房や藍染場で話をうかがい、藍染め、糸繰り、機織りを見させていただきました。

 この工房は、昌子さんの義母桂子さんが倉敷民藝館工藝研究所で修業された藍の本染手織の仕事を昭和三十年以来三代にわたり受け継いでおられるものです。畑で栽培された棉がテーブルクロスやマフラーなどの製品になるまでには、いくつもの工程があります。まず、収穫した綿を繰って種を取り除き、糸繰機(糸車)に掛けて糸を繰り、湯に通して汚れや油を取って染める前の糸にします。多々納工房では、現在使用する糸の多くは購入しておられるそうですが、家の畑で種から育てた自家製の糸も使用されていました。糸作りと並行して、藍の発酵建てをします。糸を繰り返し藍甕に浸し、絞っては糸を染め、乾かします。「小管」と呼ぶ篠竹の棒に模様を出すのに必要な濃さの異なる糸を何本も巻き、横糸の準備をします。一方で、織機に縦糸をセットします。真ん中に穴の開いた綜絖(そうこう)と呼ばれる長い針金の穴に一本一本糸を通すのですが、綜絖は布の幅により、百本程度から千本を超えるものまであり、四枚ある綜絖枠の綜絖に通す順番を間違えると織り柄が狂ってしまうのでとても神経を使うとのことです。これが終わると、いよいよ組織図通りに手と足を使って織っていきます。ここでも踏む順番を間違えると柄が狂ってしまうので、気を緩めることのできないとても根気のいるものだと思いました。

 機織について説明を聞いた後、糸染めの工程を見学させていただきました。染場には、土間に四つの藍甕が埋けてあり、藍が建てられていました。蓋を取って見せていただいた甕の中には「藍の華」が浮かんでいました。初めて見る藍の華に感動し、確かに藍は生きていると感じました。ここでの作業も大変で糸を藍に浸しては絞るという作業を望みの色が出るまで繰り返し行います。水分を含んだ糸の束は重く、中腰で体力のいる作業です。そして、最後に工房に引き入れた斐伊川の伏流水で洗い上げられます。伏流水は糸に優しいということでした。こうして染め上げられた糸が機に掛けられるということになります。
 藍染工房の見学を終え、次に向かったのは、求院八幡宮と摂社の鵠神社です。ここは、「日本書紀」の垂仁天皇の条に、成人しても言葉を発することができなかった誉津別皇子(ほむちわけのみこと)が言葉を発する元となった鵠(白鳥)が舞い降りた地として記されている由緒ある神社です。境内は広く、いくつもの祠や荒神様が祀られており、何本もの樟の大木が神域を覆い、杉、桜、椿などの大木も茂っていて、霊気を感じさせます。

 以上で、予定の吟行を終え、集合場所のJA会議室に帰り、句会を行いました。吟行で同じ体験をした皆さんが、どのようなところに感動し、句を作られたのか、また、春とは言え時折り小雨の降る肌寒い日の句には、どのような季語を選ばれたのか、とても興味がありました。また、屋内のことを詠むのにふさわしい季語についても知りたいと思いながら、句会に臨みました。
 出句はいつものとおり五句、選句は選者の先生方は、特選五句、並選十句、一般選は七句で行いました。これもいつものとおりです。
 当日の句会の結果は、以下のとおりです。

 安食 彰彦特選
 (順不同。以下同じ。)

藍色のつぶやきを聞く三月尽    原  和子
とんとんと機織るリズムあたたかし 原  和子
花冷や藍あざやかに機を織る    山本 絹子
リズム良き機織の音菜種梅雨    大菅たか子
春雨や出西織の藍深し       井原 栄子
 三原 白鴉特選
春時雨持参の傘の間に合うて    安食 彰彦
賽銭のことりと一つ花ふふむ    山本 絹子
藍甕の藍のつぶやき木の芽雨    原  和子
春昼の藍の香充つる染工房     牧野 邦子
白き糸に染み入る藍や春の雨    原  和子
 久家 希世特選
糸紡ぐ一色づつの春の色      福間 弘子
春霖や墨の字かすむ寄進札     三原 白鴉
藍甕の藍のつぶやき木の芽雨    原  和子
花冷や藍あざやかに機を織る    山本 絹子
トンカラリ紡ぐ工房雪柳      樋野美保子
 生馬 明子特選
新校舎進む工事に山笑ふ      樋野美保子
藍甕の藍のつぶやき木の芽雨    原  和子
囀や瘤隆々と樟大樹        三原 白鴉
菜の花の真只中を一輌車      井原 栄子
藍を建て機織る母子木の芽張る   原  和子
 牧野 邦子特選
清明や甕に息づく藍の華      三原 白鴉
囀や瘤隆々と樟大樹        三原 白鴉
とんとんと機織るリズムあたたかし 原  和子
春霖や墨の字かすむ寄進札     三原 白鴉
春の雨松美しき村社        安食 彰彦

当日の高得点句
 十一点
藍を建て機織る母子木の芽張る   原  和子
 九点
春霖や墨の字かすむ寄進札     三原 白鴉
藍甕の藍のつぶやき木の芽雨    原  和子
 八点
糸紡ぐ一色づつの春の色      福間 弘子
 七点
とんとんと機織るリズムあたたかし 原  和子

当日の一句抄 (氏名五十音順)
淡き色好みの色や老いの春     安食 彰彦
旅さそふ特急電車山笑ふ      生馬 明子
つばくらめ斐川の空を掠めをり   井原 栄子
リズム良き機織の音菜種梅雨    大菅たか子
風ゆする万の蕾の桜かな      久家 希世
斐川野に機織の音つくしんぼ    小澤 哲世
とんとんと機織るリズムあたたかし 原  和子
新校舎進む工事に山笑ふ      樋野美保子
糸紡ぐ一色づつの春の色      福間 弘子
春昼の藍の香充つる染工房     牧野 邦子
春寒や甕に咲きたる藍の華     松村れい子
春落葉踏んで染場へ辿りけり    三原 白鴉
花冷や藍あざやかに機を織る    山本 絹子



令和6年6月号掲載 句会報

東広島白魚火水曜俳句会 御建みたて神社吟行

佐々木 智枝子

令和6年6月号へ 

 今年は、春の雪、菜種梅雨と天候不順が続く三月であったが、三月二十七日(水)、吟行の日は、からりと朝から晴れていた。吟行を行う御建神社は、西条駅のすぐ北側にあり歴史的にも古い神社で、参道を上った階段の前に十時に集合した。

 広島の標準木、広島市縮景園の桜の開花宣言はされたが、御建神社の桜はまだ蕾だ。祈願に来た人や神社の公園で遊ぶ親子連れも見られた。境内には、狛犬の種類が多く、球を持つ親子の狛犬、威嚇するような狛犬などがある。
 社殿には西条の蔵元が奉納した酒樽が積まれ、絵馬は春風に揺れていた。神楽殿は、のどかな景色を柱越しに見せているが、戦勝祈願の額絵も残している。枝垂桜の花が数輪咲き始めている。

 神社の杜には、高い木が茂り、囀が響いてくる。神社の横は御建球場になっていて、少年たちが練習や試合をする場にもなっている。ぐるりと散策することができ、桜並木は花見の名所でもある。
 神社周辺を散策した後は、揃って西条酒蔵通りにある広場へと移動した。ここには、酒都西條ゆかりの俳人の俳句も掲示されている。
 寒庭に白砂敷きつめ酒づくり 山口 誓子

 ここでめいめい昼食タイムとした。広場のベンチに腰掛け、おにぎりを食べながら、掲示されている俳句の鑑賞を行ったり、俳句を作る時間に当てたりした。そして、句会場の「くらら」に移動して四時まで句会を行った。
 数日後には、桜は満開となった。

 当日の一句
僧房のありし辺りやすみれ咲く 渡邊 春枝
あたたかや鳩の来てゐる滑り台 奥田  積
大桜空の青さをまた言ひて   挾間 敏子
奉納の菰樽積みて糸桜     石原 幸子
木の芽風どしりと高き石の門  大江 孝子
集合は石段あたり花菜風    佐々木智枝子
風光る歴史漂ふ御建かな    城川 周二
参道を抜けて馬場跡花の頃   徳永 敏子
初桜緑青美しき高やしろ    森田 陽子
春昼の球児ほほばる塩むすび  門前 峯子
参道を宮司の下る浅き春    山口 和恵
四方より春の日射して神楽殿  上野由起子



令和6年7月号掲載 句会報

群馬白魚火会総会、句会報

遠坂 耕筰

令和6年7月号へ 

 桜も散った四月二十二日、肌寒い雨模様の中之条町に於いて今年度の群馬白魚火会総会および句会が行われました。高齢化のため参加者は年々減少し、今回は一八名の参加となりました。
 総会は、篠原庄治会長の挨拶に続き、各役員より昨年度の事業報告、会計報告、今年度の事業計画・予算案の発表、そして一部役員の改選案が出され賛同を得、その他意見交換ののち終了しました。
 続いて三句出句、五句選の句会が行われ、成績上位に賞品が授与されました。今回総合得点一位の天野萌尖さんには、いつも群馬白魚火会のために尽力しておられ、参加者一同から熱い祝福がおくられました。

当日の高得点句
 七点
天と地を繫ぐ古刹の糸桜     仙田美奈代
 六点
花筏隙間に鯉の背鰭浮く     町田 志郎
 五点
廃校に別れを告ぐる花の雨    天野 萌尖
水棹を差し風は船頭花筏     天野 萌尖
言の葉のこぼるる葉書うららけし 鈴木百合子

 当日の一句(氏名五十音順)
水棹を差し風は船頭花筏     天野 萌尖
白狐舞ふ桜吹雪の神楽殿     遠坂 耕筰
さへずりの促すけふの目覚めかな 荻原 富江
百ぴきの御山を登る鯉のぼり   唐沢 清治
ひつそりと芽吹明りの里曲かな  篠原 庄治
菜の花や牛舎に並ぶ牛の顔    清水 春代
幼子を負と抱つこ花疲      鈴木 利枝
言の葉のこぼるる葉書うららけし 鈴木百合子
湖渡る薫風をこぐカヌーかな   関  定由
待ちきれずSUP乗り出す花の湖 関 仙治郎
花桃をゆらせる風の絶え間なし  関本都留子
新しい靴のスキップ黄水仙    仙田美名代
たんぽぽや錆しつるはし庭の隅  高橋 見城
見送れば花の雨降る葬の家    富沢 幸子
春愁や手を取り取られ老いの坂  福嶋ふさ子
花筏隙間に鯉の背鰭浮く     町田 志郎
春うらら調子はづれの歌が行く  町田由美子
迷信に少しの真亀鳴けり     山口 悦夫



令和6年8月号掲載 句会報

実桜句会総会・吟行報告

(札幌)成田 哲子

令和6年8月号へ 

 実桜句会は四十周年を迎え、今年は札幌近郊の小金湯温泉で五月二十日から二十一日に句会総会・吟行が行われました。
 今年から地域担当制ではなく、代表と事務局が準備を進め、札幌、苫小牧、北見、旭川の参加者全員で役割分担を行いました。総勢十八名で充実した二日間となりました。
 総会は、二月に亡くなられた旭川の坂本タカ女さんへの黙禱から始まり、自己紹介、今後の抱負、会計報告など和やかに意見交換されました。四十周年記念の合同句集第三集を九月に発刊する予定で、その経過報告もありました。来年四月より、代表は坂口悦子さん、事務局は佐藤やす美さんに決まり、五十周年に向けての新しいスタートとなりました。

五月二十日句会 (湯元小金湯温泉)
 金田野歩女 特選

蟬鳴くやある時風と息合はす  野浪いずみ
輪を描いて鳶の消えゆく若葉山 西田美木子
 浅野 数方 特選
若葉山山はやさしく膨らんで  高田 喜代
深閑の森の空より蟬時雨    小杉 好恵
 三浦香都子 特選
輪を描いて鳶の消えゆく若葉山 西田美木子
新緑の湯宿のランチねばねば丼 市川 節子
 奥野津矢子 特選
銘板のアイヌ語併記蝮草    金田野歩女
緑さす紙垂翻る桂の木     佐藤やす美
 西田美木子 特選
蟬鳴くやある時風と息合はす  野浪いずみ
緑さす紙垂翻る桂の木     佐藤やす美
 高得点句
弾み咲く野の花蝦夷の五月来る 三浦香都子
山裾に風の生まるる新樹光   西田美木子
緑さす紙垂翻る桂の木     佐藤やす美
深閑の森の空より蟬時雨    小杉 好恵
鳶の舞ふ渓の流れの風涼し   高田 喜代
蟬鳴くやある時風と息合はす  野浪いずみ

五月二十一日句会(アイヌ文化センターサッポロピリカコタン)
 金田野歩女 特選

青時雨カムイの森の木々の声   三浦 紗和
置き傘の忙しき湯宿走り梅雨   奥野津矢子
 浅野 数方 特選
青葉吹く桂不動の瘤にこぶ    坂口 悦子
蝮草米つき小屋の傍らに     平野 健子
 三浦香都子 特選
一山を巻き込んでゆく夏の霧   斉藤 妙子
青葉吹く桂不動の瘤にこぶ    坂口 悦子
 奥野津矢子 特選
一山を巻き込んでゆく夏の霧   斉藤 妙子
夏霧の山渡りゆく鳥の声     服部 若葉
 西田美木子 特選
とぎれては狂ほしきまで蟬時雨  浅野 数方
小満や魔法の水の湧く所     斉藤 妙子
 高得点句
一山を巻き込んでゆく夏の霧   斉藤 妙子
夏霧の山渡りゆく鳥の声     服部 若葉
青葉吹く桂不動の瘤にこぶ    坂口 悦子
青時雨カムイの森の木々の声   三浦 紗和
深く濃く雨後の新樹となりにけり 奥野津矢子

 参加者の一句 (五十音順)
青空を仰ぎつづけて桜実に    浅野 数方
風纏ひ歩く湯元の青葉かな    市川 節子
初蟬のコタンの森を揺さ振りぬ  今泉 早知
初蟬の声に涙の湧く日かな    奥野津矢子
花楓再開の声裏返る       金田野歩女
万緑の闇に包まる露天の湯    小杉 好恵
桂の木霊気の宿る若葉かな    斉藤 妙子
短夜やをんな集へばなほのこと  坂口 悦子
天辺より揺るる大木緑濃し    佐藤 琴美
しづかなるコタンの森の緑雨かな 佐藤やす美
裏山の迫る露天湯若葉雨     高田 喜代
桂大木希望つなぎて清和の天   成田 哲子
笹の子に瀬の子守唄響きをり   西田美木子
靄去りてゆるり万緑足下へ    野浪いずみ
緑なす峡を流るる瀬のしぶき   服部 若葉
カムイコタン青葉若葉の中にあり 平野 健子
ぱらぱらとめくる歳時記揚羽とぶ 三浦香都子
夏の沼余白に写す白き雲     三浦 紗和

 爽やかな若葉風の中で、樹齢七百年以上の湯宿の守り神のような桂の大木、再現されているアイヌのチセ(家屋)やコタン(集落)などを吟行して句作しました。充実した句会となり感謝の二日間でした。



令和6年8月号掲載 句会報

令和六年度栃木県白魚火第一回鍛錬吟行会

本倉 裕子

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 六月二日(日)、宇都宮市に於いて第一回目の鍛錬吟行会が行われた。当日は雨の予報だったが、幸い晴れ間が出た。参加者は二十二名。句会場近くの松が峰教会、宇都宮城址公園、釜川周辺を三々五々吟行をし、午後は宇都宮市中央生涯学習センターに集合、会長の挨拶の後句会となった。句会は七句出句、十句(特選二句)選で行われた。

 役員特選句
 柴山 要作 選
弥撒席の膝に鎮まる夏帽子    中村 國司
水中のしゃちほこを蹴るあめんぼう    星  揚子
 星田 一草 選
風薫る背表紙擦れし聖歌本    星  揚子
矢狭間を覗けば蜘蛛の垂れゐたる 星  揚子
 中村 國司 選
六月の空へ広ごるミサの鐘    中村 早苗
青芝に道うつすらとある城址   本倉 裕子
 加茂都紀女 選
七月の戦禍の記憶大いちやう   奈良部美幸
塔二つよぎる一閃つばくらめ   菊池 まゆ
 星  揚子 選
弥撒席の膝に鎮まる夏帽子    中村 國司
コスプレの厚底靴や街薄暑    本倉 裕子
 熊倉 一彦 選
水中の鯱を蹴るあめんぼう    星  揚子
どくだみの絣織り成す神の域   松本 光子
 本倉 裕子 選
風薫る背表紙擦れし聖歌本    星  揚子
おほり橋わたり青芝ひろびろと  谷田部シツイ
 秋葉 咲女 選
健やかに老いたし朝の青き踏む  加茂都紀女
城址公園子の声響く捕虫網    石岡ヒロ子
 江連 江女 選
風薫る背表紙擦れし聖歌本    星  揚子
みどりさすマリアの細き足の指  星  揚子
 渡辺 加代 選
塔二つよぎる一閃つばくらめ   菊池 まゆ
万緑や鳩の回旋一の宮      江連 江女
 杉山 和美 選
風薫る背表紙擦れし聖歌本    星  揚子
生徒等を吐き出す駅舎街薄暑   鷹羽 克子
 松本 光子 選
六月の空へ広ごるミサの鐘    中村 早苗
みどりさすマリアの細き足の指  星  揚子

 当日の一句 (五十音順)
梅雨の町覗く天守の槍狭間    秋葉 咲女
遠き日の吊天井や青梅落つ    五十嵐藤重
城址公園子の声響く捕虫網    石岡ヒロ子
六月や小暗がりなる懺悔室    江連 江女
若葉纏ふ四百年の大銀杏     加茂都紀女
紋白の飛んで本丸梅雨ぐもり   菊池 まゆ
しなやかに風を受け入れ川蜻蛉  熊倉 一彦
お堀に映る隅櫓緑さす      齋藤 英子
釜川の水面に揺るる濃あぢさゐ  佐藤 淑子
教会の固き木椅子や走り梅雨   柴山 要作
若葉風ミサの歌声高らかに    杉山 和美
生徒等を吐き出す駅舎街薄暑   鷹羽 克子
釜川に英語飛び交ふ涼しさよ   中田 敏子
公孫樹ともゴジラとも見え大夏木 中村 國司
六月の空へ広ごるミサの鐘    中村 早苗
七月の戦禍の記憶大いちやう   奈良部美幸
風薫る背表紙擦れし聖歌本    星  揚子
大谷石造りの茶店濃紫陽花    星田 一草
濃あぢさゐ雨脚重くなりにけり  松本 光子
青芝に道うつすらとある城址   本倉 裕子
新緑やキリスト拝し献金す    谷田部シツイ
清明台風さはやかに夏のれん   渡辺 加代



令和6年8月号掲載 句会報

静岡白魚火総会記

辻 すみよ

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 一番茶の摘み取りも一段落した五月十二日(日)、令和六年度静岡白魚火総会と俳句大会を榛原文化センターで行いました。会員十八名と副主宰で特別顧問の檜林弘一様のご出席を頂きました。

一 総会
 はじめに小村会長から、鈴木先生亡きあと、会員の皆さんの協力で一年を乗り越えることができたこと、そして檜林先生のご指導により会員が好成績を得ることができたことへのお礼がありました。またこれからの活動について、「自分の体の具合と自然との折合いをみて吟行に励みましょう」という鈴木先生の教えに沿って、吟行をし作句を頑張りましょう、との挨拶がありました。
続いて、令和五年度事業報告、会計報告、監査報告、令和六年度予算案、事業計画案がありすべて承認されました。そのほか役員の一部交替、全国大会について大勢の参加をお願いしたい旨の話がありました。

二 俳句大会
 会員二十五名に、一人三句を事前募集し、互選、代表選が行われました。
 檜林弘一副主宰作品
名を知らぬ鳥の声聞く花御堂
父母の亡き世を歩む葱坊主
桜蕊降らす風立つテラス席
 檜林弘一副主宰 特選五句
人肌の風は海から彼岸明く     藤田 光代
のどけしやブックカバーは包装紙  大石美千代
白木蓮色を零さぬやうに咲く    大石 益江
街中が背伸びしてゐる立夏かな   横田じゅんこ
躑躅山日当たる道の続きけり    横田じゅんこ
 鳥雲同人 特選三句
 小村絹子選

蝌蚪と生れて生きる楽しさ溢れをり 坂下 昇子
缶けつて春の光の音を聴く     落合 勝子
三椏の枝三本を全うす       大石美千代
 辻すみよ選
一振りの土の軽さを耕しぬ     大石 益江
蝌蚪の紐命の鼓動ひびきけり    坂下 昇子
青き踏むアンパンマンの靴履いて  大塚 澄江
 横田じゅんこ選
初蝶に風のやさしくなりにけり   相澤よし子
ひとときの雛の間ことに華やげる  藤田 光代
退屈なふらここ風が押してをり   大塚 澄江
 大塚澄江選
溢れ咲くミモザの空となりにけり  相澤よし子
啼きやめば一直線に落つ雲雀    大石登美恵
灯のともり桜の影の柔らかき    坂下 昇子
 本杉郁代選
一片の雲を被きて山笑ふ      辻 すみよ
防風に屈めば潮の音の遠く     小村 絹子
残る鴨心繫ぎて陣を成す      柴田まさ江
 坂下昇子選
三都夫先生もうすぐ桜咲きますよ  藤田 光代
剪定の仕上げたしかむ一巡り    冨田 松江
今し方去りしか猪のぬた場跡    冨田 松江
 田部井いつ子選
残る鴨心繫ぎて陣を成す      柴田まさ江
破れ傘破れしままの傘開く     大石登美恵
一片の雲を被きて山笑ふ      辻 すみよ
 互選高得点句
 七点

どの子にも高き夢あり卒業す    大石 益江
 六点
退屈なふらここ風が押してをり   大塚 澄江
 五点
剪定の仕上げ確かむ一巡り     冨田 松江
まだ誰も踏まぬ風紋防風摘む    小村 絹子

 檜林弘一副主宰の特選句には御染筆の短冊が授与され、鳥雲同人の特選句と互選高得点句にはささやかな賞品が授与されました。続いて副主宰より、丁寧な選評をいただきました。その中で、白岩主宰の『少人数になっても俳句の質は落とさないように』と言われていることを伺いました。このことは肝に銘じる所です。
 十二日は母の日でもあり、壇上に飾ってあった人数分の大小色とりどりのカーネーションを、それぞれいただき閉会となりました。



令和6年8月号掲載 句会報

浜松白魚火会第二十六回総会及び俳句大会

清水 京子

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 令和六年四月二十八日、ホテルクラウンパレス四階「芙蓉の間」に於いて、会員七十余名参加にて標記総会及び俳句大会が開催されました。
 阿部芙美子会長の挨拶に始まり、東部俳句会を立ち上げたことなどが紹介されました。その後議事に入り、令和五年度の活動報告及び決算報告、令和六年度の活動計画案及び予算案が満場の拍手で議決されました。
 役員改選にあたり、次のとおり新役員が承認されました。
相談役 村上 尚子 渥美 絹代
    弓場 忠義 塩野 昌治
会 長 阿部芙美子
副会長 山田 眞二 林  浩世
    古橋 清隆
幹事長 砂間 達也
幹 事 大村 泰子 佐藤 升子
会 計 齋藤 文子
会計補佐 坂田 吉康
会計監査 鈴木 利久 磯野 陽子
支部役員 花輪 宏子 鈴木  誠
     宇於崎桂子 武村 光隆
     鈴木 竜川 清水 京子
     渥美 尚作 金原 恵子
     小杉 黄琢 渡辺  強
     村上千柄子 前田 里美
     弓場忠義(兼) 砂間達也(兼)

 続いて、新鋭賞、みづうみ賞の表彰式が行なわれました。
新鋭賞
 前川幹子
みづうみ賞
秀作賞

 宇於崎桂子 山田惠子 山田眞二
奨励賞
 大澄滋世 塩野昌治 松山記代美
 新鋭賞の前川幹子さん、みづうみ賞秀作賞の宇於崎桂子さん、山田惠子さん、山田眞二さんに花束が贈呈され、受賞者を代表して前川幹子さんが謝辞を述べられました。
 句会は、司会山田眞二さん、披講古橋清隆さん、齋藤文子さん、代返林浩世さん、点盛砂間達也さんにより進められました。前回同様、行事部の方々の手際よい進行により、スクリーンに俳句が投影されて行なわれました。
 事前投句の九十三名、百八十六句より互選は二句、各選者には特選五句、入選十句を選句していただき、特選句、高得点句には賞品が授与されました。
 当日の選者の特選句は、次のとおりです。(一位から順に掲載)
 村上 尚子 選
春昼の骨董市に鳴る喇叭      大村 泰子
春の月山羊の子藁に眠りをり    塩野 昌治
潮まねき太平洋を手繰り寄す    弓場 忠義
デパ地下の試食のはしご万愚節   坂田 吉康
遠足来ナウマン象の展示室     青木いくよ
 渥美 絹代 選
春昼の骨董市に鳴る喇叭      大村 泰子
花冷や棚に猫ゐる古本屋      鈴木 竜川
病む足に春の光をあててみる    山本 狸庵
さへづりに扉を開く二月堂     村上 尚子
青きもの食うて紋白蝶生る     青木いくよ
 弓場 忠義 選
水音の真中に芹を摘んでをり    林  浩世
山峡に余る夕日や初ざくら     村上  修
海鼠腸を父の指より啜りたり    鈴木 敦子
投函の切手を選ぶ春の昼      磯野 陽子
両腕は私の翼風光る        林  浩世
 渥美 尚作 選
逆上がり出来る子となり卒業す   坂田 吉康
春昼の骨董市に鳴る喇叭      大村 泰子
春の雨売り子に赤き片襷      武村 光隆
句碑の辺に寄れば師の声あたたかし 村上 尚子
ブーメラン飛ばす少年冬木の芽   岡部 章子
 互選高得点句
 十点句
春の月山羊の子藁に眠りをり    塩野 昌治
 八点句
春光に吊る制服の一揃ひ      浅井 勝子
 六点句
缶蹴りの鬼いつまでも春夕焼    鈴木  誠
春愁やけふは太めに眉をひく    古橋 清隆

 総会及び俳句大会終了後、同日、午後五時から「芙蓉の間」に於いて懇親会が催されました。
 幹事長砂間達也さんの司会のもと、阿部芙美子会長の挨拶と乾杯の音頭により開宴となりました。それぞれのテーブルでは、なごやかに歓談が交されました。
 そして、昨年に続き、古橋千佳子様、寺田千恵子様による二胡の演奏が行なわれ、優雅な調べにしばし時を忘れて皆聞き入りました。続いて、会員の岳心流師範川上征夫様による詩吟「勧進帳」の独演がありました。明るく気さくなお人柄で、吟詠の最後に、方広寺の石碑に刻まれている仁尾先生の句、
  衣手を押へ灌佛し給へり
が、披露されました。皆、亡き師を懐かしんで聞き入っておられました。
 なごやかな雰囲気の中、村上尚子先生の、三三七拍子の中締めにより懇親会のお開きとなりました。



令和6年8月号掲載 句会報

令和六年度浜松白魚火会吟行記

武村 光隆

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 五月二十五日(土)、浜松白魚火会では恒例の吟行会を開催した。今回の吟行地は三重県桑名市でメインは六華苑。六華苑は桑名の実業家諸戸清六氏の邸宅で大正二年に竣工し、その設計は鹿鳴館も設計したジョサイア・コンドルによるものである。
 当日は村上尚子先生、渥美絹代先生にもご参加いただき総勢五十五名が二台のバスに分かれて出発。出発時の天候は曇り、一部の人からは天候を不安がる話もでたが、なにせ晴れ男の私(?)の「大丈夫晴れる」との宣言のもといざ出発して、東名高速浜松西インターを九時前に通過。バスは東名高速での休憩後豊田ジャンクションから伊勢湾岸道路へ。その頃には天候は晴れてきて宣言通りとなってきた。途中の濃尾平野では綺麗な麦畑が広がりまさに麦秋の雰囲気。絶好の吟行日和である。

 十時半ころ湾岸長島インターで高速道路を降り、ナガシマスパーランドを対岸に見て最初の吟行地の九華公園に向かう。ここは本多忠勝の居城であった桑名城の跡に作られた公園で、周囲には堀が残っている。公園内で持参したお弁当を食べ、堀にいるたくさんの亀など俳句の材料を見つけ出すのは吟行の良くある風景である。昼食後は揖斐川沿いの堤防を六華苑まで徒歩で移動。広い川幅をゆったりと流れるのを見ながら途中の七里の渡し跡にある、伊勢への第一の鳥居にも立ち寄った。その後はメインの六華苑である。

 六華苑は最初に書いた通り大正時代の建物であり、洋館と和館からなっていて贅を尽くした造りである。洋館には曲面ガラスを用いた塔屋があり、また併設された和館は広々とした和室が多く配置され、二代目諸戸清六氏の財力の大きさが窺い知れる。また大きな池を設えた庭園と合わせて優雅な雰囲気を醸し出している。今回は六華苑の南側にある初代諸戸清六氏の庭園をたまたま見学することもできたことは幸運であった。ここは江戸時代から引き継がれた名勝庭園で、巧みに配置された花菖蒲池、来賓接待用の大きな屋敷があり見ごたえたっぷりの場所である。個人的にはこのような初代諸戸清六氏の本邸ならびに六華苑が、大隈重信など政府要人をもてなすのに使用されていたことに納得させられた。

 今回の吟行地は浜松から少し距離もあり移動に時間もかかることから句会はせずに、桑名への小旅行の趣であったが十分楽しい時間を過ごすことができた。帰路のバスの中で投句していただいたものを先生方に選句していただいた結果は以下のとおりである。

 村上 尚子 特選
伊勢国一の鳥居を夏つばめ   青木いく代
揖斐川の河口五月の風抜くる  武村 光隆
洋行のトランクに傷麦の秋   林  浩世
 渥美 絹代 特選
薫風や四方正目の床柱     大村 泰子
小魚の跳ぬる運河や青楓    大村 泰子
花菖蒲一番蔵に鍵二つ     宇於崎桂子
 弓場 忠義 特選
揺り椅子に大正ロマン夏屋敷  坂田 吉康
砲台の筒麦秋の空を向く    塩野 昌治
寺多き桑名城下の薄暑かな   古橋 清隆
 塩野 昌治 特選
薫風や四方正目の床柱     大村 泰子
渡し舟艫に干したる汗拭ひ   植田 喜好
揖斐川の風を捉ふるあやめぐさ 村上 尚子



令和6年8月号掲載 句会報

坑道句会五月例会
― 出雲大社・稲佐の浜吟行句会 ―

久家 希世

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 坑道句会の五月定例句会が、五月二十七日(月)十三名の参加で行われました。小雨が時々降るあいにくの天候の中でしたが、それもまた風情があって良しと車に分乗して出かけました。出雲大社神苑横の駐車場に待ち構えていた地元大社町在住の渡部美知子さんと合流、渡部さんの案内で先ずは出雲大社へ。出雲大社は、「いずもたいしゃ」とほとんどの人が呼びますが、「いづもおおやしろ」が正式の呼び名で国譲りの神話で名高い大国主命が主祭神となっています。
 その出雲大社は、勅使を迎えて行われる大祭礼の行事も終わり、雨の月曜日ということもあっていつもより人も少なく静かな雰囲気の中、一時間半程かけて神苑、北島國造館、命主社の樹齢千年の大椋などを巡りました。神苑の樗の大樹は、花が一番の見頃で、はんなりと薄紫に彼方此方に咲いているのがとてもきれいでした。また、淨の池にはまだ花菖蒲が咲いていて、池の周りを囲む紫陽花も色づき始めており、老鶯、時鳥、十一などの鳥もしきりに鳴いて、人出の少ない小雨の天候に感謝しました。

 出雲大社参拝・吟行の後、大社漁港と国譲りの神話、神迎の神事で有名な稲佐の浜へと向かいました。大社漁港は、稲佐の浜のある大社湾の奥にあり、県内有数の漁場を控え、一本釣り漁業や小型底びき網漁業、定置網漁業を主とする五十~六十隻の漁船が本拠とする漁港で、今年の白魚火誌の表紙絵の場所でもあります。白魚火誌を手にしながらみんなで絵と合致する場所を探し、記念写真を撮りました。三艘の漁船も船を引っ張り上げているウィンチも全く絵と同じで、みな感激しました。港周辺でしばらく吟行した後、最後の稲佐の浜に向かいましたが、悪天候をもたらした低気圧の影響で、稲佐の浜は風と波が高く、浜へ降りることは諦めて、駐車場から浜を眺めて句作、その後句会場である大社コミュニティセンターへと向かいました。同センターは、昭和十一年大社高等家政女学校校舎として建築され、後に大社中学校校舎として使用され、同中学校が移転後、平成十八年からコミュニティセンターとして使用されているとのことで、木造二階建てでかつての学校の姿をそのまま留め、板張りの廊下を進んだ句会場の研修室は黒板もそのまま残り、生徒に還ったような気持ちで句会を行いました。

 句会では、皆さんの力作に目を見張るものがありました。当日発表された句に加え、この日吟行された感動、心に刻まれた景を元に各自作句、推敲を行われ、後日きっとさらに多くの佳句が生まれることでしょう。
 句会が終わり外に出ると、山も海も街も雨霧にすっぽり包まれていて、神々しさを感じながら、それぞれ帰路に着きました。
 当日の句会の結果は、以下のとおりです。

 渡部美知子 特選
雨降つて水音太き神の滝      三原 白鴉
神木に龍の注連縄梅雨湿り     原  和子
夏霧や藁の大蛇の朱の眼      山本 絹子
襲ふかに大漁船にごめの群れ    山本 絹子
枇杷の実の熟れてしたしき匂ひかな 荒木千都江
 三原 白鴉 特選
雨降れば雨の底とぶ夏つばめ    荒木千都江
水すまし走りて水を傷つけず    荒木千都江
待ち合はす五月の海の波高し    荒木千都江
神々の峰をとざせる夏の霧     牧野 邦子
国譲り神話の浜の緑雨かな     松村れい子
 荒木千都江 特選
万葉の出雲社の若葉風       福間 弘子
雨降つて水音太き神の滝      三原 白鴉
新緑や柏手響く大社        井原 栄子
緋袴の裾を濡らせる若葉雨     原  和子
神の杜透けゆく風の涼しさよ    福間 弘子
 久家 希世 特選
檜皮葺をしづかに濡らす若葉雨   原  和子
「白魚火」を飾る一景緑さす    渡部美知子
夏落葉鯉の尾鰭の揺らしゆく    原  和子
夏燕飛んで藤間の勅使門      三原 白鴉
五線塀の奥より滝の音立つる    井原 栄子
 生馬 明子 特選
神々の峰をとざせる夏の霧     牧野 邦子
夏落葉鯉の尾鰭の揺らしゆく    原  和子
天を突く千木高々と三光鳥     井原 栄子
あめんぼう神の池の面ほしいまま  牧野 邦子
襲ふかに大漁船にごめの群れ    山本 絹子

 当日の高得点句
 八点

神々の峰をとざせる夏の霧     牧野 邦子
 七点
五線塀の奥より滝の音立つる    井原 栄子
夏落葉鯉の尾鰭の揺らしゆく    原  和子
雨降つて水音太き神の滝      三原 白鴉
「白魚火」を飾る一景緑さす    渡部美知子

 当日の一句抄(氏名五十音順)
水すまし走りて水を傷つけず    荒木千都江
いくたびも深呼吸する夏の浜    生馬 明子
五線塀の奥より滝の音立つる    井原 栄子
ゆうらりと鯉の遊ぶや花菖蒲    大菅たか子
神苑の水辺に深き五月闇      久家 希世
花菖蒲雨の水輪の重なりて     原  和子
波の穂の寄せくる浜や五月雨    樋野美保子
万葉の出雲社の若葉風       福間 弘子
あめんぼう神の池の面ほしいまま  牧野 邦子
国譲り神話の浜の緑雨かな     松村れい子
雨降つて水音太き神の滝      三原 白鴉
襲ふかに大漁船にごめの群れ    山本 絹子
「白魚火」を飾る一景緑さす    渡部美知子



令和6年9月号掲載 句会報

きじひき高原・八郎沼吟行会

函館白魚火会 内山 実知世

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六月二十九日(土)句会単独では初めての吟行会を実施しました。天候に恵まれ、九名が亀田交流プラザ前に集合。二台のタクシーに分乗して、北斗市のきじひき高原へと出発。緑したたる山並、道の駅なないろ・ななえを過ぎ、大野平野の青田、新幹線の函館北斗駅を経由し高原へは一本道です。「きじひき」の由来は、その昔、春先に切り出した丸太を雪解け水とともに滑り落した事が由来で、木地挽山に。平和観音を祀るパノラマ展望台は標高五六〇m。休憩所のある展望広場からの眺望は圧巻でした。
 北方に駒ヶ岳・大沼・小沼。東前面は横津連山。南側には大野平野、函館山そして津軽海峡も。四十分の雄大な景を満喫後八郎沼へ移動。ここは元々牛の水場として造られた人工の沼です。今では整備されて市民の憩いの場所に。水蓮が咲き誇り、耳を欹てると牛蛙が鳴いています。句友に教えてもらい牛蛙の鳴き声を知りました。沼を巡り、藻の花の名を教わったり、有意義な吟行会でした。句友から楽しかったと言ってもらい、無事終了できたことを喜びました。 (イベント担当)

 吟行会の一句(五十音順)
夏の日や展望広場で写真撮る 内山実知世
駒ヶ岳剣の迫力夏の雲    沢中キヨヱ
深々と八郎沼の夏木立    多田 トシ
風渡る白き藻の花さ揺らせて 富田 倫代
風薫る句友と弁当広げたり  根川 文子
睡蓮や切株ありて坐りをり  広川 くら
一望の大野平野や青田波   広瀬むつき
睡蓮や赤い欄干良く似合ひ  堀口 もと
三山のひとつ指差し夏霞   松田独楽子



令和6年10月号掲載 句会報

坑道句会七月例会
― 十六島町若宮神社吟行句会 ―

小澤 哲世

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 坑道句会の七月例会が、七月二十二日(月)開催されました。句会会場である元JA北浜店に午前十時に集合、参加者は十二名でした。当日のメインの吟行場所は、句会場から九〇〇m程の出雲市十六島町多井地区にある若宮神社。猛暑の中、車に分乗して出かけました。
 若宮神社は、十六島町多井の六十戸余りの漁村集落の氏神様です。祭神は、大国主神の子の建御名方之神(たけみなかたのかみ)で、建御雷神(たけみかづちのかみ)との国譲りの力比べの後、信州諏訪大社の祭神となられ、後にこの地に勧請されたものです。地元の集落から、真っ直ぐ伸びる急な百の石段を登り切って、拝殿の前から眺めると、眼下に河下港、十六島湾、北山の眺望が広がります。そこから三㎞程岬の方へ行きますと、日本有数の発電規模を誇る二十六基の大風車群を見ることもできます。
 当日は大暑の日に当たっていましたが、雄大な光景と神域の木々の間を吹き来る心地よい風に、麓の駐車場から急な石段を昇ってきた苦しさも暑さもすっかり忘れ、みんなしばらく句作に集中しました。

 本殿、拝殿、摂社をはじめ神域全体が氏子の皆さんによって行き届いた管理がされていて、深く崇敬されていることが伝わり、清々しく気持ちの良い吟行となりました。私も今回、隣村の氏神様をはじめてお参りすることになりましたが、想像以上に高い石段、大きい拝殿、大小の狛犬の数の多さ、急峻な地へ重機のない時代にと往時の人々の苦労と信仰への熱意を偲びました。
 帰りはゆるやかな脇道の木陰の中を下りながら、季節が変わればまた来てみようと思いました。
 この後、北浜漁港へ吟行の足を伸ばした方もありましたが、熱波に諦め真っ直ぐ句会場に戻り、句を考える方もありました。
 昼食を挟み、午後一時より句会がはじまり、皆さん暑さをものともしない佳句が沢山出句され、楽しく勉強になる時間を過ごさせていただきました。

 当日の句会の結果は、以下のとおりです。

 渡部美知子 特選
青銀杏涼しき影を落としけり   三原 白鴉
木下闇抜けて磯への白き道    荒木千都江
発電の風車炎暑の風を切る    牧野 邦子
夏燕軒を押し合ふ浦の路地    三原 白鴉
いつまでも眺めてゐたき夏の海  大菅たか子

 三原 白鴉 特選
蟬しぐれ鳥居の傍の告知板    山本 絹子
発電の風車炎暑の風を切る    牧野 邦子
蟬の音を置いて下界へ戻りけり  渡部美知子
木下闇抜けて磯への白き道    荒木千都江
梅雨明の浜辺は子等を待ちにけり 安食登志子

 荒木千都江 特選
夏盛り湾の鼓動を胸に聴く    久家 希世
大樹揺れ木の影揺るる大暑かな  小澤 哲世
水平線すつきり晴るる青岬    久家 希世
塩地蔵万緑を背に海見つむ    久家 希世
磯の香を浴び深呼吸夏の浜    大菅たか子

 久家 希世 特選
波の引く如く舟虫走りけり    三原 白鴉
磴半ばここ涼風の一等地     渡部美知子
狛犬の尻を自在に蟻二匹     渡部美知子
風蘭の香を育てをり蜑の路地   牧野 邦子
大南風に傘とられたり十六島   原  和子

 牧野 邦子 特選
荒神を祀る一隅夏木蔭      原  和子
磴半ばここ涼風の一等地     渡部美知子
夏燕軒を押し合ふ浦の路地    三原 白鴉
青嵐村人の守る露兵墓      久家 希世
梅雨明の浜辺は子等を待ちにけり 安食登志子

 当日の高得点句
七点

青銀杏涼しき影を落としけり   三原 白鴉
狛犬の尻を自在に蟻二匹     渡部美知子
六点
発電の風車炎暑の風を切る    牧野 邦子
夏燕軒を押し合ふ浦の路地    三原 白鴉
五点
木下闇抜けて磯への白き道    荒木千都江
いつまでも眺めてゐたき夏の海  大菅たか子
水平線すつきり晴るる青岬    久家 希世

 当日の一句抄(氏名五十音順)
木立ぬけ涼風頰に参拝す     安食登志子
夏雲の映ろふ影や海の上     荒木千都江
いつまでも眺めてゐたき夏の海  大菅たか子
青嵐村人の守る露兵墓      久家 希世
炎昼や竜神固く扉閉づ      小澤 哲世
大暑かな身じろぎもせぬ岬山   原  和子
風の来てふらりと飛んで夏帽子  樋野美保子
木下闇縫うて一句を拾ひけり   福間 弘子
発電の風車炎暑の風を切る    牧野 邦子
夏燕軒を押し合ふ浦の路地    三原 白鴉
蟬しぐれ鳥居の傍の告知板    山本 絹子
孝洋の句に風蘭の香の添へり   渡部美知子



令和6年12月号掲載 句会報

令和六年度栃木県白魚火会第二回鍛錬吟行会

齋藤 英子

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 九月二十九日(日)、鹿沼市に於いて第二回目の鍛錬吟行会が行われた。当日は秋まつりが間近に迫る薄日さす日で吟行日和に恵まれた。参加者は十八名。屋台のまち中央公園掬翠園集合、彫刻屋台展示館で説明を聞き、薬師堂、今宮神社、光太寺等を三々五々吟行した。午後は句会場のまちなか交流プラザに於いて会長の挨拶の後句会となった。句会は七句出句、十句(特選二句)選で行われた。

役員特選句
柴山 要作 選

秋の声芭蕉の句碑のほのぐらく  杉山 和美
さやけしや木の香ほんのり芭蕉像 松本 光子
 中村 國司 選
秋風や斜め右向く芭蕉像     熊倉 一彦
芭蕉像のめくぼに宿る秋の影   秋葉 咲女
 加茂都紀女 選
秋澄むや杜の中なる芭蕉句碑   佐藤 淑子
秋まつり地区に自慢の屋台あり  杉山 和美
 星  揚子 選
和菓子屋の多き町なり秋まつり  杉山 和美
秋まつり地区に自慢の屋台あり  杉山 和美
 熊倉 一彦 選
昨夜の雨蕊に玉なす曼珠沙華   柴山 要作
飛石は和装の歩幅虫時雨     加茂都紀女
 本倉 裕子 選
秋祭控ふる街の静かさよ     中村 早苗
しろがねに光る龍の眼秋灯    松本 光子
 秋葉 咲女 選
街中にかすかに匂ふ銀木犀    石岡ヒロ子
まちの駅どれも買ひたき秋野菜  柴山 要作
 杉山 和美 選
拝観の柏手二つ秋澄めり     齋藤 英子
曼珠沙華八頭身の立ち姿     奈良部美幸
 松本 光子 選
露けしや途中まで読む書簡の碑  星  揚子
立ち尽くす芭蕉の草鞋露の玉   秋葉 咲女

 当日の一句(五十音順)
芭蕉像のめくぼに宿る秋の影   秋葉 咲女
奉納の金文字浮かぶ秋曇     鮎沢 百恵
吟行のこんにやく茶屋の秋の膳  石岡ヒロ子
歩けとの先師の訓へ草紅葉    加茂都紀女
曼珠沙華母に抱かれ宮参り    熊倉 一彦
秋光や彫り跡著き芭蕉像     齋藤 英子
秋澄むや杜の中なる芭蕉句碑   佐藤 淑子
出番待つ彫刻屋台秋澄めり    柴山 要作
掬翠園の木々のさざなみ初紅葉  杉山 和美
藪蘭の花穂の紫清らかに     鷹羽 克子
冷やかに鹿沼銀座のシャッター街 中田 敏子
無雑作に咲いて真白し曼珠沙華  中村 國司
秋祭控ふる街の静かさよ     中村 早苗
返り花数輪で良し生きてをり   奈良部美幸
飛石を譲り譲られ爽やかに    星  揚子
さやけしや木の香ほんのり芭蕉像 松本 光子
黄菊咲く一枚板に龍彫られ    本倉 裕子
神楽殿の板戸絵の松さやけしや  谷田部シツイ


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