最終更新日(update) 2019.12.01
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平成三十年度栃木白魚火 第二回鍛錬吟行句会 平成31年1月号掲載
旭川白魚火 「見本林」吟行会 平成31年1月号掲載
坑道句会 十一月例会 平成31年2月号掲載
群馬白魚火会 平成31年2月号掲載
白岩主宰を招き一泊忘年吟行句会
広島白魚火俳句会
平成31年2月号掲載
旭川白魚火「忘年句会」
平成31年3月号掲載
平成三十年栃木白魚火忘年句会報
平成31年3月号掲載
栃木白魚火新春俳句大会
平成31年3月号掲載
いわた俳句大会
令和元年5月号掲載
坑道句会 三月例会 古川句碑を訪ねて
令和元年5月号掲載
白魚火坑道句会 一月例会 宍道湖グリーンパーク
吟行句会報
令和元年6月号掲載
平成三十一年度 栃木県白魚火会総会 令和元年7月号掲載
計田美保さん白魚火賞 祝賀吟行記 令和元年7月号掲載
群馬白魚火会総会・俳句会 令和元年7月号掲載
浜松白魚火会 第二十一回総会・俳句会 令和元年7月号掲載
主宰、村上選者、弓場先生をお迎えしての
雲南合同吟行句会を終えて
令和元年7月号掲載
坑道句会四月例会報 令和元年7月号掲載
第三十八回柳まつり 全国俳句大会報告 令和元年8月号掲載
静岡白魚火会総会記 令和元年8月号掲載
函館白魚火会 新鋭賞受賞祝賀会 令和元年8月号掲載
令和元年度浜松白魚火会 吟行記 令和元年8月号掲載
坑道句会六月例会報 令和元年8月号掲載
第七回栃木・東京白魚火 合同句会 令和元年8月号掲載
実桜吟行会 令和元年9月号掲載
令和元年栃木白魚火会 第一回鍛錬吟行会 令和元年10月号掲載
坑道句会八月例会報 令和元年10月号掲載
東京&栃木合同吟行会 令和元年12月号掲載
今井星女先生感謝の会 令和元年12月号掲載
群馬白魚火会小幡吟行記 令和元年12月号掲載

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平成31年1月号掲載 句会報

平成三十年度栃木白魚火 第二回鍛錬吟行句会

星  揚子

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 十一月十一日(日)、栃木白魚火第二回鍛錬吟行句会が参加者十八名のもとに、陶器の街として知られる栃木県益子町で行われた。
 貸切バスで向かった最初の吟行地は、寛政年間創業の日下田藍染工房で、作業場には七十二の藍染め用の甕が並んでいた。そこで、藍染めの工程を聞き、砧で布を打つ様子や布を染めて伸子張りで干す作業を見せてもらった。また、貴重な明治時代の型紙と、段階的に染められた藍染めの布を、私達のためにわざわざ出して説明してくれた。十六段階の藍染めの色にはそれぞれ名前が付いていた。
 その後、かつて益子城があった城内坂通りを散策しながら、益子焼窯元共販センターへ向かった。丁度地元の人達のマラソン大会があり、沿道は賑わっていたが、秋の陶器市が終わったばかりなので、町全体は思いの外静かだった。
 最後の吟行地は益子参考館。ここには陶芸家濱田庄司が蒐集した作品を自邸の一部に展示してあり、濱田庄司の世界観を味わうことができた。さらに、工房や登り窯を見学。登り窯は益子の地形をうまく生かしていることがわかった。真っ赤な紅葉が茅葺きの濱田邸によく映え、近くで落葉を焚く煙と匂いが辺りを優しく包んでいた。
 句会場は益子駅駅舎の二階多目的ホール。昼食後、十句出句、十五句(うち特選二句)選で行われた。今年度の鍛錬吟行句会からこの形式で実施してきているが、慣れてきたこともあってか、順調に終えることができた。
 自然豊かな益子町での鍛錬吟行句会は心も満たされ、充実したものとなった。

 星田 一草 特選
小春日や朝の靄解く加波筑波     加茂都紀女
山茶花やゆるき坂なる陶の街     江連 江女
  加茂都紀女 特選
濃紺の似合ふ藍師の冬のシャツ    秋葉 咲女
伸子張りに冬の蠅来る紺屋裏     江連 江女
  柴山 要作 特選
砧打ち見せ仕る藍匠         中村 國司
蓼藍の茎のくれなゐ末枯るる     星  揚子
  松本 光子 特選
冬の日を吸ひ込んでゐる埴輪かな   星  揚子
手轆轤を回し冬日を回しけり     星  揚子
  秋葉 咲女 特選
日当たれば日当たる色に冬紅葉    大野 静枝
まんまるの埴輪の眼鼻小六月     松本 光子
  阿部 晴江 特選
まんまるの埴輪の眼鼻小六月     松本 光子
実紫火の色見張る窯の穴       熊倉 一彦
  大野 静枝 特選
陶片の貼らるる壁に冬陽射す     上松 陽子
明り障子外す紺屋の作業場      中村 早苗
  中村 國司 特選
プードルのやうな綿の実干しにけり  熊倉 一彦
小春日や陶のたぬきの臍は×     江連 江女
  星 揚子 特選
秋の蝶くの字に飛んですぐ消える   星田 一草
益子回廊紺屋軒端に綿を干す     中村 國司
藍甕場の灯影古りたる砧かな     柴山 要作

 一句抄
秋日和ほうと埴輪の口開く      星田 一草
小春日や朝の靄解く加波筑波     加茂都紀女
藍甕場の灯影古りたる砧かな     柴山 要作
藍甕を覗く山茶花明りかな      松本 光子
濃紺の似合ふ藍師の冬のシャツ    秋葉 咲女
百年の藍甕を守る土間寒し      阿部 晴江
日当たれば日当たる色に冬紅葉    大野 静枝
砧打ち見せ仕る藍匠         中村 國司
実石榴や紺屋の庭の伸子張り     上松 陽子
藍甕の藍黒々と白障子        江連 江女
プードルのやうな綿の実干しにけり  熊倉 一彦
木の実落つでんと居座る上り窯    杉山 和美
十一月十一日の浜田邸        髙島 文江
伸子張る紺屋の庭の花八ツ手     鷹羽 克子
静謐にたたずむ白磁秋深し      田所 ハル
ジャパンブルー歴史の深き藍の色   中村 早苗
百年の梁のうねりや石蕗の花     渡辺 加代
藍甕の闇の深きや冬日射す      星  揚子



平成31年1月号掲載 句会報
   旭川白魚火 「見本林」吟行会
淺井ゆうこ

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 十月十三日、旭川白魚火会の吟行が開催された。外国樹種見本林(市民からは、「見本林」と呼ばれることが多い)は、旭川駅からほど近い場所にあり、三浦綾子の小説「氷点」の舞台となったことでも知られている。見本林入口には三浦綾子記念文学館がある。本館の隣に今年新たにオープンした分館の内部には、三浦綾子氏が夫光世氏とともに執筆活動を行っていた書斎がそのまま再現されている。館内を一通り覗き、大小様々な木の葉の散り敷いている見本林の小径をタカ女先生とともに歩いて行くと、リスに穀物のような餌を与えている方がいらした。リスは冬に備えてうんと食べておきたいらしく、私達一行がそばへ行っても逃げる気配がない。餌を頬張っては茂みに隠れ、また戻っては食べ、やがてお腹がいっぱいになったのであろう、森の奥へと走り去って行った。背の高い黒々とした針葉樹の上に秋の青空が広がり、美瑛川の川面の漣が日差しを散らして光っていた。
 神楽岡公園へ移動し散策。紅葉の鮮やかな中、こちらにも樹上にリスがいる。隣接する上川神社には晴着の子どもさんの家族連れの車が数台停まっていた。十一月に降雪のある北海道では、ひと月前倒しで十月の半ばに七五三のお詣りが行われる。
 神楽岡公園から、おかだ紅雪庭へ移動し、昼食と句会。舞茸の天ぷら、胡麻豆腐、新蕎麦など季節の料理を賞味し、めいめい句帳を開く。一人五句出句。

 一句抄
待合はすもみぢがくれの媼かな    平間 純一
裸木となりし孤独のプラタナス    坂本タカ女
身に覚えなき原罪や月夜茸      萩原 峯子
先駆けて桜紅葉の散りをりぬ     今泉 早知
靴底を払うて入る黄落期       石川 純子
蔦紅葉空の蒼さに応へけり      沼澤 敏美
宿罪の消ゆることなき秋の風     中村 公春
秋澄むや刺身しやうゆの丸き皿    淺井ゆうこ
薄もみぢ濃もみぢ燃えてゐるもみぢ  小林布佐子

 句会後、障子や窓の誂えの美しい館内を見学。玄関で、ひときわ甘い花の匂いがした。翌日にこちらで結婚式があるということで、仲居さんが花を活けているところであった。



平成31年1月号掲載 句会報

平成三十年度栃木白魚火 第二回鍛錬吟行句会

星  揚子

平成31年1月号へ 

 十一月十一日(日)、栃木白魚火第二回鍛錬吟行句会が参加者十八名のもとに、陶器の街として知られる栃木県益子町で行われた。
 貸切バスで向かった最初の吟行地は、寛政年間創業の日下田藍染工房で、作業場には七十二の藍染め用の甕が並んでいた。そこで、藍染めの工程を聞き、砧で布を打つ様子や布を染めて伸子張りで干す作業を見せてもらった。また、貴重な明治時代の型紙と、段階的に染められた藍染めの布を、私達のためにわざわざ出して説明してくれた。十六段階の藍染めの色にはそれぞれ名前が付いていた。
 その後、かつて益子城があった城内坂通りを散策しながら、益子焼窯元共販センターへ向かった。丁度地元の人達のマラソン大会があり、沿道は賑わっていたが、秋の陶器市が終わったばかりなので、町全体は思いの外静かだった。
 最後の吟行地は益子参考館。ここには陶芸家濱田庄司が蒐集した作品を自邸の一部に展示してあり、濱田庄司の世界観を味わうことができた。さらに、工房や登り窯を見学。登り窯は益子の地形をうまく生かしていることがわかった。真っ赤な紅葉が茅葺きの濱田邸によく映え、近くで落葉を焚く煙と匂いが辺りを優しく包んでいた。
 句会場は益子駅駅舎の二階多目的ホール。昼食後、十句出句、十五句(うち特選二句)選で行われた。今年度の鍛錬吟行句会からこの形式で実施してきているが、慣れてきたこともあってか、順調に終えることができた。
 自然豊かな益子町での鍛錬吟行句会は心も満たされ、充実したものとなった。

 星田 一草 特選
小春日や朝の靄解く加波筑波     加茂都紀女
山茶花やゆるき坂なる陶の街     江連 江女
  加茂都紀女 特選
濃紺の似合ふ藍師の冬のシャツ    秋葉 咲女
伸子張りに冬の蠅来る紺屋裏     江連 江女
  柴山 要作 特選
砧打ち見せ仕る藍匠         中村 國司
蓼藍の茎のくれなゐ末枯るる     星  揚子
  松本 光子 特選
冬の日を吸ひ込んでゐる埴輪かな   星  揚子
手轆轤を回し冬日を回しけり     星  揚子
  秋葉 咲女 特選
日当たれば日当たる色に冬紅葉    大野 静枝
まんまるの埴輪の眼鼻小六月     松本 光子
  阿部 晴江 特選
まんまるの埴輪の眼鼻小六月     松本 光子
実紫火の色見張る窯の穴       熊倉 一彦
  大野 静枝 特選
陶片の貼らるる壁に冬陽射す     上松 陽子
明り障子外す紺屋の作業場      中村 早苗
  中村 國司 特選
プードルのやうな綿の実干しにけり  熊倉 一彦
小春日や陶のたぬきの臍は×     江連 江女
  星 揚子 特選
秋の蝶くの字に飛んですぐ消える   星田 一草
益子回廊紺屋軒端に綿を干す     中村 國司
藍甕場の灯影古りたる砧かな     柴山 要作

 一句抄
秋日和ほうと埴輪の口開く      星田 一草
小春日や朝の靄解く加波筑波     加茂都紀女
藍甕場の灯影古りたる砧かな     柴山 要作
藍甕を覗く山茶花明りかな      松本 光子
濃紺の似合ふ藍師の冬のシャツ    秋葉 咲女
百年の藍甕を守る土間寒し      阿部 晴江
日当たれば日当たる色に冬紅葉    大野 静枝
砧打ち見せ仕る藍匠         中村 國司
実石榴や紺屋の庭の伸子張り     上松 陽子
藍甕の藍黒々と白障子        江連 江女
プードルのやうな綿の実干しにけり  熊倉 一彦
木の実落つでんと居座る上り窯    杉山 和美
十一月十一日の浜田邸        髙島 文江
伸子張る紺屋の庭の花八ツ手     鷹羽 克子
静謐にたたずむ白磁秋深し      田所 ハル
ジャパンブルー歴史の深き藍の色   中村 早苗
百年の梁のうねりや石蕗の花     渡辺 加代
藍甕の闇の深きや冬日射す      星  揚子



平成31年2月号掲載 句会報

     坑道句会 十一月例会

渡部 幸子

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 十一月二十六日(月)、新装なったJA北浜支店集会室を会場に坑道句会が開催されました。土足の儘入ることの出来る会場で、とても便利でした。
 神還る日も近く、出雲地方では「神等去出(からさで)さん荒れ」と言って、昔から海は大時化になることが多くとても心配しましたが、幸いにも絶好の日和を授かり、地元北浜のほか遠くは松江から五名、そして大社、斐川、平田からの参加がありました。事前に知らせてあった鰐淵寺、昭和鉱山跡、北浜等を各自吟行の後、十一時三十分佳句をふところに二十七名の参加者全員の笑顔が会場に揃いました。
 幹事代表の原和子さんの挨拶の後、坑道句会合同句集作成への参加のお願いがあり、句集の概要を記した紙が配られました。合同句集の作成と句会開会にあたり安食副主宰より、坑道句会は白魚火の元祖、いつまでも継続していかなければならない旨と坑道句会の歴史についてお話があり、十二時出句、昼食、続いて句会へと移りました。
 この日の選者は、安食副主宰、三島玉絵、荒木千都江、久家希世、渡部美知子、渡辺幸子の六氏、披講は、生馬明子、渡辺美知子の両氏で、緊張の中にも和気藹々の和やかな内に進行しました。
 安食副主宰の特選句には、蔵書の中から選んで持参された著名俳人の句集が褒美に渡され、その内の三名が地元北浜句会会員であったことに、泉下の小林梨花先生もさぞかしお喜びのことと会場は拍手の渦に包まれました。
 今回初参加の二名を得、坑道句会の益々の発展を誓い合い、次回を約して閉会となりました。

 安食 彰彦特選
冬帽子釣果確かめ過ぎ行けり     渡部美知子
日当たりて路傍に寂し帰り花     渡部 清子
湖岸打つ波も尖りて冬に入る     今津  保
落葉道からからからと追ひ抜かれ   荒木 悦子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
   入選
一湾の波のうねりも雁の頃      三島 玉絵
銀杏散る海抜十メートルの寺     原  和子
紅葉狩今日の歩数は六千歩      杉原 栄子
こはごはと下る山路藪柑子      牧野 邦子
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子
笹子鳴く廃坑あとを振り仰ぐ     樋野久美子
僧坊の名残の礎石冬桜        牧野 邦子
一湾の波おだやかに野水仙      船木 淑子
青木の実色付く先の獣道       竹元 抽彩
俯きて咲く茶の花に薄日差す     今津  保

 三島 玉絵特選
賓頭慮尊者なでて冷たきつむりかな  原  和子
山眠る田ごとに深き轍かな      船木 淑子
神等去出の風車一基も回らざり    原  和子
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子
僧坊の名残の礎石冬桜        牧野 邦子
   入選
艫綱の微かな軋み小春凪       三原 白鴉
冬帽子釣果確かめ過ぎ行けり     渡部美知子
紅葉まつり鈴の音ひびく山の寺    小澤 哲世
海風に桜紅葉の散り残る       樋野タカ子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
一湾の波おだやかに野水仙      船木 淑子
借景に日本海置く冬木の芽      渡部美知子
小魚のひからびてゐし冬の波止    安食 彰彦
山深き古刹の道は秋深し       松﨑 吉江
仁王門潜れば紅葉明かりかな     松崎  勝

 荒木千都江特選
遠投の竿の冬日を弾きけり      三原 白鴉
裸木の中に際立つ冬紅葉       荒木 悦子
さざ波の小躍りしたる小春かな    渡部美知子
霜月の木立の影の尖りけり      三原 白鴉
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子
   入選
銀杏散るはらはらと散る古刹かな   今津  保
推古寺の落つる木の実のひとしきり  福間 弘子
逞しき冬芽の育つ桜土手       三島 玉絵
銀杏散る宙にあそびてはなやぎて   渡部 幸子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
借景に日本海置く冬木の芽      渡部美知子
初冬や入江に映す舟の影       杉原 栄子
花八ツ手再会の手を握り合ふ     荒木 悦子
湖岸打つ波も尖りて冬に入る     今津  保
冬凪やぎゆうと一湾引き締むる    久家 希世

 久家 希世特選
遠投の竿の冬日を弾きけり      三原 白鴉
僧坊の名残の礎石冬桜        牧野 邦子
小春凪竿一本の父子かな       福間 弘子
花八ツ手再会の手を握り合ふ     荒木 悦子
泊船へ波ひたひたと小六月      樋野久美子
   入選
仁王門潜れば紅葉明かりかな     松崎  勝
揚げ舟を繋ぐ電柱神の旅       三島 玉絵
紅葉狩今日の歩数は六千歩      杉原 栄子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
からからと落葉転がる浦の路地    樋野 洋子
学校を保育所を閉ぢ山眠る      大菅たか子
谷川の瀬音すがしき紅葉かな     小林 永雄
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子
塩飴を口にころがし秋惜しむ     樋野タカ子
せせらぎの幽かな音や谷紅葉     杉原 栄子

 渡部美知子特選
冬日和一湾小さき舟一つ       小澤 哲世
小春凪竿一本の父子かな       福間 弘子
鰐山をすつぽりつつみ山眠る     安食 彰彦
青木の実色付く先の獣道       竹元 抽彩
せせらぎの幽かな音や谷紅葉     杉原 栄子
   入選
うすもののやうなる冬の日ざしかな  荒木千都江
回りさうで回らぬ風車冬紅葉     大菅たか子
冬帽をつまんで会釈する男      安食 彰彦
揚げ網の山の並びし冬の浜      樋野 洋子
茶店ひとつ置かぬ紅葉の古刹かな   生馬 明子
こはごはと下る山路藪柑子      牧野 邦子
銀杏散る海抜十メートルの寺     原  和子
仁王門潜れば紅葉明かりかな     松崎  勝
境内は紅葉一面散り敷ける      松﨑 吉江
水鳥とぶ銀の糸ひつ張りて      渡部 幸子

 渡部 幸子特選
石蕗咲くや氏神様のふところに    樋野タカ子
一舟に初冬の光あつめけり      荒木千都江
間歩跡に恩師の声や竜の玉      福間 弘子
冬凪やぎゆうと一湾引き締むる    久家 希世
艫綱の微かな軋み小春凪       三原 白鴉
   入選
鰐山をすつぽりつつみ山眠る     安食 彰彦
海の風息止めてをり返り花      三島 玉絵
泊船へ波ひたひたと小六月      樋野久美子
引き起こす残菊の黄に汚れなし    牧野 邦子
裸木の中に際立つ冬紅葉       荒木 悦子
釣人の寄つては離る冬日和      渡部美知子
小春凪竿一本の父子かな       福間 弘子
落葉道からからからと追ひ抜かれ   荒木 悦子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子

当日の高得点句
  九点
借景に日本海置く冬木の芽      渡部美知子
  八点
師の墓所を抱き岬の山眠る      船木 淑子

 七点
鰐山をすつぽりつつみ山眠る     安食 彰彦
伝統の神楽舞ひ切り閉校す      樋野 洋子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子

  一句抄(氏名五十音順)
鰐山をすつぽりつつみ山眠る     安食 彰彦
落葉道からからからと追ひ抜かれ   荒木 悦子
一舟の初冬の光あつめけり      荒木千都江
茶店ひとつ置かぬ紅葉の古刹かな   生馬 明子
湖岸打つ波も尖りて冬に入る     今津  保
学校を保育所を閉ぢ山眠る      大菅たか子
冬晴れやねこ一匹の昼下り      小澤 哲世
茶の花のびつしり咲きて刈られをり  落合 武子
鰐山の深山眠りに入らむとす     久家 希世
谷川の瀬音すがしき紅葉かな     小林 永雄
紅葉狩今日の歩数は六千歩      杉原 栄子
青木の実色付く先の獣道       竹元 抽彩
賓頭慮尊者なでて冷たきつむりかな  原  和子
峡十戸友禅模様の冬紅葉       樋野久美子
石蕗咲くや氏神様の懐に       樋野タカ子
からからと落葉転がる浦の路地    樋野 洋子
間歩跡に恩師の声や竜の玉      福間 弘子
一湾の波おだやかに野水仙      船木 淑子
一湾をとんびの巡る小春かな     牧野 邦子
せせらぎの飛石五つや濡れ落葉    松崎  勝
山肌の緑の羊朶は紅葉乗せ      松﨑 吉江
一湾の波のうねりも雁の頃      三島 玉絵
霜月の木立の影の尖りけり      三原 白鴉
寄り添ひて心安らぐ浮寝鳥      山根 恒子
日当たりて路傍に寂し返り花     渡部 清子
冬天の朝月白し紅葉岳        渡部 幸子
冬帽子釣果確かめ過ぎ行けり     渡部美知子



平成31年2月号掲載 句会報
        群馬白魚火会
遠坂 耕筰

平成31年2月号へ 

 十一月二十日、定宿となった渋川市小野上温泉に於いて、平成最後となる祝賀句会及び忘年会が開催された。今年は特に暖かい小春日である。参加は二十二名。かつての賑やかさはここ数年なく、ちょっと寂しい。会員増は毎年の課題である。
 祝賀会は、このたび鳥雲集同人となった飯塚比呂子さん、白魚火同人となった関登志子さん、みづうみ賞奨励賞を獲得した竹内芳子さんのお三方が紹介された。竹内さんはたびたびみづうみ賞受賞者一覧に名を連ねている。私も以前は出したが、遠く及ばず。勉強してまた挑戦しようとここへ来るたびに思うのだが。お三方の挨拶、会長挨拶に続き句会となった。選句、披講の後、得点上位七位までに賞品、特選句には短冊が贈呈された。最後に篠原会長が講評を述べて句会を終了した。
 小野上温泉は美人の湯といわれる温泉以外何もない。外を散策することもなく、温泉ですべすべになった身体を浴衣に包み、宴席となる。群馬白魚火の面々、特に男性は酒豪が多く、夜の更けるまで杯を重ねて行った。

 篠原 庄治 特選
ささやきの聞こゆ落葉の吹き溜り   福嶋ふさ子
  関口都亦絵 特選
平成の名残の落穂手に余し      福嶋ふさ子
  奥木 温子 特選
右足を重ねてみたる朴落葉      鈴木百合子
  荒井 孝子 特選
平成の名残の落穂手に余し      福嶋ふさ子
  鈴木百合子 特選
虫すだく峡の月夜は水色に      奥木 温子
  飯塚比呂子 特選
湖といふ大きな鏡山眠る       奥木 温子
  竹内 芳子 特選
貴婦人と呼ぶ白樺を霧が抱く     荒井 孝子
  関 登志子 特選
古民家の土瓶湯気立て音をたて    八下田善水
  自選の句
貴婦人と呼ぶ白樺を霧が抱く     荒井 孝子
をさなの手すうつと離れ雪螢     飯塚比呂子
袴着のもう女湯に入らぬと      遠坂 耕筰
吊し柿揺るる一番ホームかな     荻原 富江
虫すだく峡の月夜は水色に      奥木 温子
白菊や薄き紅引き友の逝く      篠﨑吾都美
一ト朝に銀杏落葉の堆し       篠原 庄治
過ぐる日のあまりに早し石蕗の花   清水 春代
綿虫や母すぐそこにゐるやうな    鈴木百合子
一年の手塩にかけし菊花展      関  定由
柿たわわワクワク伸ばす竹の竿    関 仙治郎
凛として終の一花の冬薔薇      関 登志子
堂守の浅間押し説く榾明り      関口都亦絵
稲架の上鳶のひと声澄み渡る     関本都留子
紅葉狩喜寿も傘寿もお洒落して    仙田美名代
冬うらら姿見えねど鳶の声      竹内 芳子
ふしくれの指や勤労感謝の日     竹渕 秋生
平成の名残の落穂手に余し      福嶋ふさ子
秋うらら一度したかもこの話     町田由美子
流木のオブジェ際立つ石蕗の花    八下田善水



平成31年2月号掲載 句会報

   白岩主宰を招き一泊忘年吟行句会
       広島白魚火俳句会

溝西 澄恵

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 小春日和の十一月二十日。マイクロバスにて西条を出発。新山口駅にて白岩敏秀主宰、三原白鴉編集長補佐をお迎えして総勢二十七名。西の京山口から吟行を開始。
 室町時代、西国一の栄華を誇った大内家。その菩提の弔いに建立したという国宝瑠璃光寺五重塔。池には塔とともに色鮮やかな冬紅葉が映えていた。ふぐ雑炊の昼食で温もり、五重塔を遠見の雲谷庵(雪舟アトリエ跡)を訪ねる。その後、常栄寺雪舟庭園へ。本堂を挟み北側の庭園は広大で、雪舟の山水画そのままの景。南側は南瞑庭という枯山水様式の庭園。鑑賞後は、山口ふるさと伝承センターに移動して句会。

 白岩主宰 特選
返り花きらりと人をふり向かす   藤尾千代子
  三原 白鴉 特選
石庭の山茶花散らすほどの風    吉田 美鈴
  渡邉 春枝 特選
彫り深き木魚の鱗冬日濃し     溝西 澄恵

 句会終了後、主宰より「吟行の際には吟行地は詠まず、吟行地で起こったこと、見たこと、感じたこと等を詠むように」との指導を受ける。
  宿泊の場所は湯田温泉「かんぽの宿湯田」。
  忘年会は「渡邉さんを慰労する会」として、長年広島白魚火の代表を務めてくださった渡邉さんに、感謝の一句を寄せ書きにした色紙の贈呈で開始。新代表の奥田積さんの、この地に種を播かれ、今日の広島白魚火に育てあげられた功績、ご苦労を感謝され、今後の変わらぬ指導を願われる開会の挨拶。主宰と三原さんからの、広島での二回にわたる全国大会開催の成功、多数の人材輩出への謝意と労い、変わらぬご活躍への期待のお言葉。渡邉さんの心に残る思い出のお話に続いて、軽妙な中村義一さんの進行で恒例の全員一分間スピーチ。各々俳句との出会い、渡邉さんへの感謝の気持ち等を話す。出口廣志さんからはブラジルの誌友金本靜麿さんが、初任校での教え子であったこと、原田妙子さんは七月の集中豪雨で被災の際、とっさの荷に句帳と歳時記を入れていたことなどのスピーチがあり、吉田美鈴さんのハーモニカ伴奏で合唱。中村義一さんの「音戸の舟歌」を締めに、和気藹々の忘年会を閉じた。
  翌日は、大内氏邸宅跡、山頭火生家跡と巡り、防府天満宮では芳松庵で薄茶を頂き、山頭火ふるさと館に移動して午後句会。三原さんは列車の都合で投句されて帰
途につかれた。

 白岩主宰 特選
へうへうとして霜月の水を飲む  三原 白鴉
  渡邉 春枝 特選
鉄鉢のからの重さや初しぐれ   若林いわみ
  奥田  積 特選
へうへうとして霜月の水を飲む  三原 白鴉

 主宰より「句作を休むと五七五の感覚が鈍るので、毎日休まず句作に心がけるように」と指導を受けた。
  句会終了後、主宰を防府駅にお送りし、一路西条へ。予定どおり十八時に西条へ無事帰着した。

 一句抄
山茶花の散つて遠見の五重塔     白岩 敏秀
音のなき世界となりて紅葉散る    三原 白鴉
ボールペン拾つてもらふ石蕗咲けり  秋穂 幸恵
にぎやかに着ぶくれ車内狭うする   石原 幸子
瑠璃光寺水に映して冬はじめ     大江 孝子
蔵壁に朝の光や枇杷の花       奥田  積
冬ぬくし古塔は阿弥陀仏蔵し     大隈ひろみ
軒深き古塔は五重紅葉散る      樫本 恭子
朝寒の歳時記地図の旅支度      加藤三恵子
石組の竃の遺構枇杷の花       神田 弘子
からからと砂紋を走る枯葉かな    出口サツエ
端正に冬天を突く古塔かな      出口 廣志
冬日和拍手返す石畳         中村 義一
風鐸の揺るるに足らぬ小春風     挾間 敏子
色葉散る五重塔の屋根の反り     原田 妙子
皆で食ぶふぐ雑炊の旨さかな     廣川 惠子
七五三子をあやしつつ泣かせをり   福光  栄
冬紅葉相知らずして相親し      藤尾千代子
風鐸の緑青冴ゆる瑠璃光寺      古家美智子
雲低き空押し上げて冬木の芽     溝西 澄恵
声出して牧水の歌読む小春      源  伸枝
山茶花や画僧の庵の自在鉤      森田 陽子
神無月うぐひす張りの石畳      門前 峯子
石段の提灯いくつ七五三       吉田 博子
語り部の長州ことば冬日差      吉田 美鈴
石庭の波に音なし石蕗の花      若林いわみ
山頭火現はれさうな冬館       渡邉 春枝



平成31年3月号掲載 句会報
      旭川白魚火「忘年句会」
下吉まこと

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 十二月九日、旭川白魚火忘年句会が開催された。今冬の旭川は初雪が遅く、十二月の初旬にも雨がぱらつくことがあったが、忘年句会の前日からはぐっと冷え込んで最低気温がマイナス十度。本来の冬の厳しさを取り戻したようであった。
 この日の私は、坂本タカ女先生をお迎えにあがる役目を仰せつかった。タカ女先生は、この秋から有料老人ホームに入られている。冬晴れのプラタナス並木を通り抜けるタクシーの中で、料理や買い物をしなくなったこと、足腰が弱り散歩にもあまり行けず、外出は句会くらい、それによって俳句が作りにくくなった事等を話してくださった。三十三歳になったばかりの私には、ただただ相槌を打つことしか出来なかった。
 忘年句会は、この日マイナス十八度を記録した北見より金田野歩女先生、函館より山羽法子さん(転勤により士別市在住)、札幌からみづうみ賞受賞の奥野津矢子さん、西田美木子さん、小杉好恵さんの三名、鷹栖から藤原翠峯さんら四名、そして旭川から十一名、総勢二十人が集まった。私が参加した句会としてはこれほどの人数が集まったのは初めてで、身の置き所に困ってしまった。
 各自五句の出句であったがなぜか投句総数は一〇一句。一般選五句特選二句。読むだけでも大変な分量だが力作ぞろいで、選句にも力が入る。初登場の山羽法子さんの「粕汁の中の魚の目魚の口」が十一票を獲得、まさに圧巻であった。次いで藤原翠峯さんの「北風荒ぶ裸婦像しかと児を抱きて」に八票。選ばれなかった句についての作者の話を聞くのが私はとても好きなのだが人数の関係もあり、その時間が取れなかったのが心残りであった。同じく時間の都合で選評は懇親会へ持ち越された。
 懇親会では、恒例となったくじ引きで、敏美さんから山菜、銀杏、旭川近郊の雄大な自然の写真が贈られた。ほどよくお酒も入り、皆選評に気持ちよく聴き入っていた。時が経つのを忘れるほどの楽しい忘年句会となった。

 一句抄
北塞ぐにはか大工の印刷工      平間 純一
つつかえてあかぬ引出し年つまる   坂本タカ女
電飾の街並みを消す雪襖       金田野歩女
枕辺のティラノサウルス風邪寝の子  萩原 峯子
年忘れ筋書きのなき余生かな     吉川 紀子
ご無沙汰を詫びる厚着の身を縮め   小林さつき
落葉松の影の伸びゆく冬夕焼     沼澤 敏美
目に余る愚行に喝や冬の雷      望月よし生
寒昴裏返したき心地かな       下吉まこと
実柘榴のうれひを土へ放ちけり    淺井ゆうこ
風を呼びつづけポプラは裸木に    三浦香都子
マフラーに顔をうづめて海を聴く   小林布佐子
青春の古書にゆきあう冬籠り     藤原 翠峯
あかがねの蒸発皿や冬支度      山田 敬子
根付野菜整理となるやのつぺい汁   伝法谷恭子
石焼芋ふうふうはあふほをふほふ   畑山 禮子
木道の修復現場十二月        西田美木子
水もまた冬めく堰の細流れ      奥野津矢子
聖夜劇園児の馴れぬ蝶ネクタイ    小杉 好恵
雪しまき深夜ラジオのビートルズ   山羽 法子



平成31年3月号掲載 句会報

   平成三十年栃木白魚火忘年句会報

中村 國司

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 十二月二日(日曜日)宇都宮市民活動センターにて、星田一草栃木白魚火会長の瓢瓢としたご挨拶を頂戴しながら、二十五名による賑やかな忘年句会が催行されました。
 今年は、新たに参加された宇都宮支部の女性の皆さんによる句会運営を目指して、事前に周到な打ち合わせ会を持った上で進行されましたが、さすがに「人生の手練れ」とも言うべき皆さんの気配りの届いた運営は、参加者のこころを和ませて見事でした。
 栃木白魚火は、柴山要作幹事長の采配のもとで、年初の新年句会、春の総会、二回にわたる鍛錬会と、会員諸氏の技量の向上と親睦を図りつつ、年間計画を恙なく取り進めて参りました。その集大成としての忘年俳句会は、佳句はもとより、凄い句や、問題提起型の俳句も交えた百二十五句から、十句厳選の真剣勝負の場となりました。その成果は、無鑑査同人特選句とともに「今日の一句」として左に別記しましたのでご覧ください。
 さて、忘年会懇親会は場所を変えて「ホテル丸治」で二十名が参加して、一年の垢を落とすというより、これからどうするかとの話題を中心に和やかにとり行われました。
 栃木白魚火で酒を交えての会合は年間を通して忘年会しかありません。その采配を任されている筆者は果報者。方針として、忘年会の酒は「純米酒」に限り、それを好きなだけ飲んで欲しいと願っています。しかし羽目を外す人はなく、ほぼ予算内で収まってしまうのが残念と言えば残念なところでした。

無鑑査同人特選句
  星田一草 特選
つやつやと葱洗いあぐ外流し     田原桂子
  加茂都紀女 特選
ジャズの音のひびく街角赤い羽根   齋藤 都
  柴山要作 特選
落葉掃く無心のうしろ側通る     中村國司
  宇賀神尚男 特選
風神の心のままに銀杏散る      渡辺加代
  齋藤 都 特選
冬に入る動かぬ水に枝の影      星田一草
  星 揚子 特選
大根の煮汁の色に透けにけり     本倉裕子
  松本光子 特選
掃き終へしところよく散る紅葉かな  星 揚子

 「今日の一句」(五十音順)
素焼干す障子明かりの轆轤土間     秋葉 咲女
医学部の日溜り赤く冬木の芽      五十嵐藤重
柿照りて奈良悠久の石舞台       今井 佳子
水門の閉づるダム湖や浮寝鳥      上松 陽子
冬ぬくし猫が住み居り空家かな     宇賀神尚雄
伸子張るははの影ゆれ冬日ゆれ     江連 江女
冬の池一鏡面に凪ぎわたり       大野 静枝
単線の電車去りゆく冬景色       加茂都紀女
蜜柑食み「み」の文字を書く異国の児  菊池 まゆ
やはらかく綿虫包む手をひらく     熊倉 一彦
冬空へはしる梵天幟かな        小林 久子
近づけば灯る門灯暮早し        齋藤  都
大き口開けて小春の神の鯉       柴山 要作
踏切の皆背の丸む冬の朝        杉山 和美
スーパーに研ぎ屋来てをり年の暮    高島 文江
黎明の月を切り裂く鴉かな       田所 ハル
つやつやと葱洗いあぐ外流し      田原 桂子
冬に入る皇帝ダリア反り返り      中村 國司
皺の手の母に勤労感謝の日       中村 早苗
掃き終へしところよく散る紅葉かな   星  揚子
山眠る木喰仏に錠固く         星田 一草
土踏まずほぐす勤労感謝の日      松本 光子
大根の煮汁の色に透けにけり      本倉 裕子
隣家より程良き味の菊膾        谷田部シツイ
冬萌えや母はときどき幼子に      渡辺 加代



平成31年3月号掲載 句会報
     栃木白魚火新春俳句大会
高橋 裕子

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 栃木白魚火新春俳句大会が、街に成人式の晴着姿が見受けられる平成三十一年一月十三日(日)、宇都宮市中央生涯学習センターに於いて盛大に開催されました。
 新春の華やいだ雰囲気の中、星田一草会長より御挨拶をいただき、記念撮影の後、句会が始まりました。
 今大会の出句は五句。選句は会員七句(うち特選一句)、役員、鳥雲同人は十句(うち特選二句)で行われました。出席者二十九名、総数一四五句の秀句揃いの中からの選句には、なかなか絞り切れず皆様の苦悩が窺えました。約一時間の後、中村國司さん、松本光子さんによる披講が行われ、披講される一句一句に耳を澄ませ各自確認をしておりました。成績発表は集計係の渡辺加代さん、熊倉一彦さんにより行われ、表彰式となりました。表彰は、総合成績上位者と飛び賞並びに各役員の特選に賞品が授与されました。
 表彰後は星田一草会長、宇賀神尚雄、加茂都紀女副会長から、選評をいただき新春俳句大会が閉会となりました。

 当日の特選句並びに当日の一句
 星田一草 特選
おんおんと平成の世の除夜の鐘     加茂都紀女
日を零しこゑを零して寒雀       松本 光子
 宇賀神尚雄 特選
ほつこりと土盛り上げて福寿草     渡辺 加代
大霜や白き布めく草の原        佐藤 淑子
 加茂都紀女 特選
厳冬や棒のごとくの息を吐く      星田 一草
追羽子の音の重さを返しけり      星  揚子
 柴山要作 特選
四世代女系の囲む屠蘇の膳       秋葉 咲女
ジーンズの膝に大穴あく春着      中村 國司
 齋藤 都 特選
初空へ恙なき日々願ひけり       高橋 裕子
寒晴や翼大きく鳶の舞ふ        田原 桂子
 星 揚子 特選
若水を豊かに仕込む絹豆腐       秋葉 咲女
冬至湯の柚子の浮力を楽しめり     星田 一草
 松本光子 特選
回転ドアするり抜けたる去年今年    高橋 裕子
参道を真つ直ぐ射抜く初日かな     熊倉 一彦
 秋葉咲女 特選
薺粥母は赤子のごと吸ひぬ       江連 江女
初空へ恙なき日々願ひけり       高橋 裕子
 阿部晴江 特選
まつ新な白のおくるみ春を待つ     高橋 裕子
読み返す句帳に歴史年歩む       中村 早苗
 大野静枝 特選
畦道の馬力神にも飾り餅        渡辺 加代
見えてゐて遠き夜道や火事見舞     秋葉 咲女
 田原桂子 特選
果ててなほ舞台の余韻初神楽      西山 弓子
胸いつぱい榾火の温みもらひけり    星田 一草
 中村國司 特選
賀状来るこの樹何の樹ハワイの樹    菊池 まゆ
「どんど焼あついとだるまさん言つた」 西山 弓子

 当日の一句
胸いつぱい榾火の温みもらひけり    星田 一草
道一つ貫く田畑初景色         宇賀神尚雄
おんおんと平成の世の除夜の鐘     加茂都紀女
胸に日を向けて鈴成り初雀       柴山 要作
薄ら日に子を呼ぶ声や寒鴉       齋藤  都
追羽子の音の重さを返しけり      星  揚子
日を零しこゑを零して寒雀       松本 光子
若水を豊かに仕込む絹豆腐       秋葉 咲女
八溝嶺の稜線一気に初日射す      阿部 晴江
買初の亥年の小さき根付かな      大野 静枝
寒晴や翼大きく鳶の舞ふ        田原 桂子
老ふらりふらり初旅ムンク展      中村 國司
地の乾き天も乾きて寒九かな      今井 佳子
二重橋映すお濠の淑気かな       上松 陽子
元日や野州隈なく上天気        江連 江女
求肥透く花弁餅の紅仄か        菊池 まゆ
栃の木の天を目指せる冬芽かな     佐藤 淑子
白米の真中に宝珠寒卵         杉山 和美
とりどりの生きる道見ゆ初句会     田所 ハル
余白とは心の遊び雪見酒        中村 早苗
にぎやかに表札ふたつ実万両      谷田部シツイ
初詣長蛇の列の遅々として       和田伊都美
六〇年不器用に生き七日粥       熊倉 一彦
肩の荷を一つ捨て去り年迎ふ      高内 尚子
ひと口の白湯甘かりし寒日和      髙島 文江
「どんど焼あついとだるまさん言つた」 西山 弓子
二日目の風呂に浮く柚子沈む柚子    本倉 裕子
ほつこりと土盛り上げて福寿草     渡辺 加代
回転ドアするり抜けたる去年今年    高橋 裕子



令和元年5月号掲載 句会報

       いわた俳句大会

林  浩世

令和元年5月号へ 

 二月九日(日)磐田市にて、「第四回いわた俳句大会」が開催されました。選者は、宇多喜代子先生、片山由美子先生、髙柳克弘先生の三名です。
 第一部の事前投句では、宇多秀逸に鈴木敬子さん、片山秀逸に宇於崎桂子さん、髙柳秀逸に林他七名の白魚火の方が入選されました。
 第二部の選者と学生によるパネルディスカッション「俳句未来塾」では、各選者と共に、地元の高校生と白魚火の若手の安藤翔さん、竹中健人さん達が句会をされました。事前に兼題の「浅き春・学校・白い犬」より二句を投句していただき、作者を知らない中での選句、講評をして頂きました。学生も高校生も臆することなく選句理由を語り、自句を語る姿に感心いたしました。そして先生方の生き生きとした俳句談義を直接伺うことができ、大変刺激を受けました。
 第三部では、当日句の選と選評が行われ、宇多特選に鈴木敬子さん、片山特選に村上尚子さん、髙柳秀逸に竹中健人さん、さらに五名の方が入選されました。
 無事に俳句大会を終えることができてほっととするともに、次回はもっと沢山の方に投句、ご出席していただきたいと願っています。
 パネルディスカッションに快くご出場してくださった皆さま、ありがとうございました。



令和元年5月号掲載 句会報
  坑道句会 三月例会 古川句碑を訪ねて
大菅たか子

令和元年5月号へ 

 三月二十五日(月)、坑道句会三月例会が松江、斐川、大社、平田方面よりの二十九名の参加を得て、古川句碑、愛宕山公園、本陣記念館を吟行地として行われました。
 句碑の辺りは白木蓮が早や散り始め、桜の開花を待つばかりの吟行日和でした。平成もあと一か月余りで終わろうとしている三月の終り。古川句碑での吟行もこれが平成最後と思うと何かしら感慨深く感じられて、皆しみじみと碑に刻まれた「晩じる」の文字を見つめていました。
 坑道句会では一年に一回か二回、古川句碑辺りで吟行が行われています。同じ場所であっても、いつも違う作品に出合うことができ、新鮮に感じることができます。
 句会は、十二時四十分より湯谷川のほとりの会場で行われました。会場の都合により駆け足での句会となりましたが、三時頃までに無事終わりました。その後原和子、生馬明子、福間弘子三幹事で計画された来年度の坑道句会の予定が発表され、年間予定表、句会に必要な用紙、吟行地案内等の入った袋が全員に配られました。来年度は、河下町、出雲大社、出西窯、古川句碑、宍道湖グリーンパーク、十六島町が予定されています。
 年間吟行地の決定、マップの準備等スタッフの皆さんのお世話により、来年度の句会が今から楽しみです。
 安食 彰彦特選
花馬酔木こぼるや猫の通ひ径       牧野 邦子
春泥に鋭き四つ足の蹄跡         三原 白鴉
草踏めば足裏やさしき春の土       大菅たか子
風光る醤の町屋なまこ壁         井原 栄子
つくしんぼ地蔵の笑みのそのままに    久家 希世

 荒木千都江特選
芽吹かんと声あげけぶる雑木山      西村 松子
木蓮に剥きだしの空ありにけり      三原 白鴉
草踏めば足裏やさしき春の土       大菅たか子
山峡の川の流れも春の音         杉原 栄子
腰下ろす石探しつつ青き踏む       渡部 清子

 久家 希世特選
柳絮とぶ湖上に淡き昼の月        土江 比露
蔵町の杉玉匂ふ春の昼          福間 弘子
昨日より今日の温もり初音聞く      樋野タカ子
棟上げの音に跳ねたる桜鯛        渡部千栄子
こだまする馬の嘶き山笑ふ        山本 絹子

 渡部美知子特選
「ばんじる」の句碑へ木洩れ日木の芽風  木村 以佐
春泥に鋭き四つ足の蹄跡         三原 白鴉
池心へとさざ波に乗る春の鴨       樋野美保子
蒼天へ飛び立つ気配花辛夷        榎並 妙子
こだまする馬の嘶き山笑ふ        山本 絹子
  西村 松子特選
師の句碑へ道は真つ直ぐ白木蓮      榎並 妙子
蒼天へ飛び立つ気配花辛夷        榎並 妙子
初花や風やはらかき句碑の辺に      牧野 邦子
春愁俯くろばのまつ毛かな        樋野久美子
太陽へ一直線に麦青む          荒木千都江

 三原 白鴉特選
紙折りて発句書きとむる桜陰       土江 比露
昨日より今日の温もり初音聞く      樋野タカ子
芽吹かんと声あげけぶる雑木山      西村 松子
棟上げの音に跳ねたる桜鯛        渡部千栄子
柳絮とぶ湖上に淡き昼の月        土江 比露

当日の高得点句
  九点
柳絮とぶ湖上に淡き昼の月        土江 比露
芽吹かんと声あげけぶる雑木山      西村 松子
  八点
風光る醤の町屋なまこ壁         井原 栄子
蒼天へ飛び立つ気配花辛夷        榎並 妙子
「ばんじる」の句碑へ木洩れ日木の芽風  木村 以佐

 当日の一句抄(氏名五十音順)
みいくさに召されしひとの墓に花     安食 彰彦
太陽へ一直線に麦青む          荒木千都江
捨畑に負籠ひとつ名草の芽        生馬 明子
風光る醤の町屋なまこ壁         井原 栄子
蒼天へ飛び立つ気配花辛夷        榎並 妙子
草踏めば足裏やさしき春の土       大菅たか子
白木蓮のつぼみ天指す句碑公園      川谷 文江
「ばんじる」の句碑へ木洩れ日木の芽風  木村 以佐
聞き馴れし声の句碑へと花三分      久家 希世
大展望の平田城址や桜咲く        小林 永雄
山峡の川の流れも春の音         杉原 栄子
句帳もて佐保姫集ふ愛宕山        竹元 抽彩
柳絮とぶ湖上に淡き昼の月        土江 比露
師の句碑に触るる焼野の端を来て     西村 松子
公園の木々のざわめき桜東風       原  和子
流れゆく雲のはやさや竹の秋       樋野久美子
昨日より今日の温もり初音聞く      樋野タカ子
池心へとさざ波に乗る春の鴨       樋野美保子
ひたひたと波と白鳥春の池        樋野 洋子
里ことばの句碑の背や松の芯       福間 弘子
花馬酔木こぼるや猫の通ひ径       牧野 邦子
木蓮に囲まれ鎮もる古川句碑       松﨑 吉江
平べたき平田の家並み春の雲       三原 白鴉
東屋の破れ天井春の空          持田 伸恵
ばんじるの言葉なつかし春の風      山根 恒子
こだまする馬の嘶き山笑ふ        山本 絹子
腰下ろす石探しつつ青き踏む       渡部 清子
棟上げの音に跳ねたる桜鯛        渡部千栄子
晩じるの句碑の奥より百千鳥       渡部美知子



令和元年6月号掲載 句会報

白魚火坑道句会 一月例会
宍道湖グリーンパーク
吟行句会報

小林 永雄

令和元年6月号へ 

 一月二十八日(月)今年初めての坑道句会が、宍道湖が一望できる宍道湖西岸の出雲市園町にある野鳥観察舎「宍道湖グリーンパーク」を吟行地に開催された。
 吟行地の近くには、出雲縁結び空港があり、東京、大阪、名古屋、静岡、仙台、福岡、隠岐へ就航しており、北海道へは夏季限定で就航している。そして、グリーンパークの隣には、県立宍道湖自然館ゴビウスがあり、湖や川の生物を飼育展示しており、なかには宍道湖七珍の「しらうお」が泳いでいる展示水槽もある。
 また、湖の沖では、宍道湖特産の蜆をとる漁舟の漁師が長い棹の鋤簾を自在に操っていた。
 グリーンパークの野鳥観察舎は、現在全面改修工事中で、完成は今年の四月中旬の予定とのこと。新しい観察舎は二階建てとなり、二階が野鳥観察コーナーになって、大山をはるかに望む宍道湖のすばらしい景色と、すぐ近くでは白鳥や鴨などが泳いでいる楽しい野鳥観察ができるとのことなので、完成したらさっそく観察舎を訪れてみたいと思っている。
 午前十時、観察舎に隣り合うホシザキ野生生物研究所の実習室に集合、さっそく参加者全員に双眼鏡が貸与され、担当の男性研究員から野鳥観察の基本と双眼鏡の使い方を教えていただきながら、北山や田んぼの白鳥の親子などにピントを合わせる練習をした。そして、全員双眼鏡を首に掛け、句帳を片手に野外での野鳥観察を開始した。研究所の三脚付望遠鏡(倍率三十倍)二台も持ち出していただき、白鳥や鴨の群れにピントを合わせてもらい、全員交代で望遠鏡をのぞき、野鳥や水鳥が餌を啄ばんだり、水に潜ったりする様子をじっくり観察した。
 また、鳥の飛び方についても説明してもらい、白鳥は首を伸ばして飛び、鷺は首をちぢめて飛ぶということなど教えていただいた。野鳥や鳥の鳴き声、白鳥や鴨についての質問にも丁寧に答えていただき、参加者全員俳句作りの参考になった。
 十一時すぎ吟行終了。お世話になった二名の研究員の方に、お礼と感謝の言葉を述べてグリーンパークを後にした。
 五キロほど西へ移動して、出雲市平田町湯谷川畔の句会場味彩さかもとに移り、投句(五句)を終えた後ゆっくりと美味しい昼食をいただき、会場の二階の窓から川面を泳ぐ水鳥や「白魚火」が発行される平田の街の落ち着いた家並みを眺めた。
 昼食を終え、午後〇時四十分から句会が開催された。当日の参加者は二十三名であり、吟行の成果である素晴らしい句が沢山提出され、充実した句会となった。
 当日の選者は、安食彰彦、荒木千都江、久家希世、渡部美知子、生馬明子、三原白鴉の六氏、披講は、渡部美知子、生馬明子両氏で、選者選は、特選五句、入選十句、一般選十句で行われた。一般選の披講に続き、各選者から特選、入選句の発表があり、安食副主宰の特選句には、蔵書の中から持参された句集が賞品として渡された。
 句会の後、幹事代表の原和子さんから、この六月に発行予定の坑道句会合同句集について、原稿締切日、原稿の書き方等について具体的な説明があり、最後にみんなで三月以降の吟行地について熱心な話し合いがされ、午後三時半句会を終了した。
 当日の選者特選句、高得点句及び参加者の当日の一句は、以下のとおりである。

 安食 彰彦特選
ねぢを巻くおもちやのやうに鴨泳ぐ   生馬 明子
双眼鏡に飛びこんでくる大枯木     渡部美知子
羽ばたける水鳥に早や帰心あり     渡部美知子
大寒の水滴らせ鋤簾上ぐ        三原 白鴉
風癖のつきて枯葦立ちつくす      生馬 明子

 入選
麦の芽の畝の延ぶるや伯耆富士     久家 希世
蜆舟湖上にしかと腰すゑて       榎並 妙子
寒雲を洩れくる光漁舟         原  和子
鴫の声薄墨色の空に聞き        杉原 栄子
ピント合はす手袋の指双眼鏡      原  和子
ひかわ野の風まだ硬き麦青む      大菅たか子
近道は畦道なりし仏の座        渡部千栄子
寒釣の小舟一艘波のまま        木村 以佐
朝月を水面に引きて鴨翔てり      荒木千都江
木洩れ日や一樹に集ふ寒雀       福間 弘子

 荒木千都江特選
南へ崩れてゆける鴨の陣        渡部美知子
「白魚火」の生まれし街や冬の川    小林 永雄
鈍色の空一月の川の波         土江 比露
羽ばたける水鳥に早や帰心あり     渡部美知子
一筋の川に沿ふ町日脚伸ぶ       渡部 清子

 入選
首上げて家族守りし小白鳥       持田 伸恵
眼の前にわつと沸き立つ寒雀      山本 絹子
双眼鏡に飛びこんでくる大枯木     渡部美知子
一羽発ち二羽たち鴨の陣崩る      三原 白鴉
耀うて湖北の空へ小白鳥        福間 弘子
落葉踏む公園の路地柔らかし      木村 以佐
小白鳥双眼鏡の先にをり        井原 栄子
冬木の芽かすかな息吹さやさやと    榎並 妙子
鴫の声薄墨色の空に聞き        杉原 栄子
草枯のいろ一色に斐伊河口       木村 以佐

 久家 希世特選
旅鳥の声とや芦の枯れし間に      牧野 邦子
春近し縁結びとふ一輌車        樋野久美子
双眼鏡に飛びこんでくる大枯木     渡部美知子
寒の風纏ひて覗く双眼鏡        大菅たか子
大寒の水滴らせ鋤簾上ぐ        三原 白鴉

  入選
一羽発ち二羽たち鴨の陣崩る      三原 白鴉
冬たんぽぽ踏まじと歩む湖岸かな    福間 弘子
虫寄せの菰巻きし幹覗きをり      木村 以佐
公園へ入れば寒禽声降らす       木村 以佐
近道は畦道なりし仏の座        渡部千栄子
冬萌の人工島や鳥の声         大菅たか子
たゆたひてぶつかりもせず浮寝鳥    樋野久美子
寝釈迦山うつすら寒の蜆漁       原  和子
ねぢを巻くおもちやのやうに鴨泳ぐ   生馬 明子
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦

 渡部美知子特選
逸るるや右往左往の鴨一羽       福間 弘子
蜆舟手を振り合ひてすれ違ひ      杉原 栄子
枯蘆の雲掃くごとく揺れゐたり     原  和子
寒の風纏ひて覗く双眼鏡        大菅たか子
大寒の水滴らせ鋤簾上ぐ        三原 白鴉

 入選
ねぢを巻くおもちやのやうに鴨泳ぐ   生馬 明子
一羽発ち二羽たち鴨の陣崩る      三原 白鴉
寒雲を洩れくる光漁舟         原  和子
浮寝鳥飛び立ち漁の舟かへる      土江 比露
からつ風引つ張りながら鴨二列     荒木千都江
鴫の声薄墨色の空に聞き        杉原 栄子
水鳥の一声聞こゆ今朝の湖       小林 永雄
冬嶺の鳶とらへたり遠眼鏡       生馬 明子
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦
水鳥の五羽一陣の浮寝かな       荒木千都江

 生馬明子特選
一筋の川に沿ふ町日脚伸ぶ       渡部 清子
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦
冬の雲三人乗りたる電車行く      杉原 栄子
鴫の声薄墨色の空に聞き        杉原 栄子
枯芦やここより川は湖に        牧野 邦子

 入選
手を上げて別れゆきけり蜆舟      三原 白鴉
枯葦の雲掃くごとく揺れゐたり     原  和子
近道は畦道なりし仏の座        渡部千栄子
寒林や鳥が鳥追ふ鳴きながら      牧野 邦子
風花の流るるごとく地にとどく     安食 彰彦
庭に来ていち瞥もせぬ寒鴉       安食 彰彦
一羽発ち二羽たち鴨の陣崩る      三原 白鴉
白鳥の一家へ望遠鏡しぼる       渡部美知子
首上げて家族守りし小白鳥       持田 伸恵
紅梅の色濃くなりて雨兆す       荒木千都江

 三原 白鴉特選
枯葦の雲掃くごとく揺れゐたり     原  和子
寒風の鳴るや句心攫はるる       渡部美知子
蜆舟湖上にしかと腰すゑて       榎並 妙子
鈍色の空一月の川の波         土江 比露
ねぢを巻くおもちやのやうに鴨泳ぐ   生馬 明子

 入選
紅梅の色濃くなりて雨兆す       荒木千都江
冬の雲三人乗りたる電車行く      杉原 栄子
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦
羽ばたける水鳥に早や帰心あり     渡部美知子
庭に来ていち瞥もせぬ寒鴉       安食 彰彦
枯芦やここより川は湖に        牧野 邦子
一筋の川に沿ふ町日脚伸ぶ       渡部 清子
白鳥の一家へ望遠鏡しぼる       渡部美知子
寒の風纏ひて覗く双眼鏡        大菅たか子
風癖のつきて枯葦立ちつくす      生馬 明子

当日の高得点句
 十一点
大寒の水滴らせ鋤簾上ぐ        三原 白鴉
 九点
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦
 八点
羽ばたける水鳥に早や帰心あり     渡部美知子
 七点
ひかわ野の風まだ硬き麦青む      大菅たか子
枯芦やここより川は湖に        牧野 邦子
一羽発ち二羽たち鴨の陣崩る      三原 白鴉

当日の一句抄(氏名五十音順)
五郎助の鳴いて藁屋の深眠り      安食 彰彦
朝月を水面に引きて鴨翔てり      荒木千都江
白鳥百羽けふも田んぼへ出張中     生馬 明子
枯葦に見え隠れする小鳥かな      井原 栄子
蜆舟湖上にしかと腰すゑて       榎並 妙子
ひかわ野の風まだ硬き麦青む      大菅たか子
寒釣の小舟一艘波のまま        木村 以佐
麦の芽の畝の延ぶるや伯耆富士     久家 希世
「白魚火」の生まれし街や冬の川    小林 永雄
鴫の声薄墨色の空に聞き        杉原 栄子
鈍色の空一月の川の波         土江 比露
枯葦の雲掃くごとく揺れゐたり     原  和子
枯色の園に明るき姫つばき       樋野久美子
句の縁寒中見舞くれし友        樋野 洋子
逸るるや右往左往の鴨一羽       福間 弘子
枯芦やここより川は湖に        牧野 邦子
俘虜のごと並ぶ冬木の桜かな      三原 白鴉
首上げて家族守りし小白鳥       持田 伸恵
水鳥の遊び尽きない大宍道湖      山根 恒子
眼の前にわつと沸き立つ寒雀      山本 絹子
曇天の湖の静けさ冬かもめ       渡部 清子
近道は畦道なりし仏の座        渡部千栄子
寒風の鳴るや句心攫はるる       渡部美知子



令和元年7月号掲載 句会報
平成三十一年度 栃木県白魚火会総会
大野 静枝

令和元年7月号へ 

 栃木県白魚火会では、四月十四日支部総会を開催した。行事表で周知されていても、何かと理由があって欠席者があり、参加者は二十二名であった。
 日本列島に雪を降らせた寒波は通り過ぎ、平年より低い気温ながら、晴れて暖かい日に恵まれました。
 行事報告など前年の事項は不可なく通過、本年度の予算・行事等の審議も全員の拍手で賛同された。
 特に念入りに周知された事項の一つは、名古屋での白魚火俳句全国大会への多数の参加の呼びかけであった。大勢が参加されることと思う。
 恒例の記念写真の撮影も済み句会へと移った。

 星田 一草特選
梅活けて古き座敷を守りけり       今井 佳子
甘茶仏の指より太き雫かな        星  揚子

 加茂都紀女特選
花万朶ときに火を噴く熱気球       松本 光子
満開の花見ながらの投票所        石岡ヒロ子

 齋藤  都特選
天心に白き月影揚雲雀          鷹羽 克子
花衣今日といふ日をいとほしむ      鷹羽 克子

 柴山 要作特選
甘茶仏の指より太き雫かな        星  揚子
少年の背丈一気や山笑ふ         齋藤  都

 星  揚子特選
花衣今日といふ日をいとほしむ      鷹羽 克子
花万朶溶け入るごとく暮れ泥む      鷹羽 克子

 松本 光子特選
花の塵千の胡蝶となりて飛ぶ       星田 一草
チューリップ花のいろいろ揃ひけり    星田 一草

 秋葉 咲女特選
夕桜やはらかく梳く母の髪        高内 尚子
春灯や遺作置かれし友の部屋       阿部 晴江

 阿部 晴江特選
菜の花や弾む真つ赤なランドセル     加茂都紀女
味噌汁の煮え立つ陽気や朝桜       大野 静枝

 大野 静枝特選
ふる里へ転居の知らせ春の雲       齋藤  都
平成の最後の年や春の雪         石岡ヒロ子

 中村 國司特選
うららかやあひるの長き羽繕ひ      上松 陽子
堅物の父は百歳桜餅           柴山 要作

 今日の一句 五十音順

緩やかな木橋の反りや柳の芽       秋葉 咲女
春灯や遺作置かれし友の部屋       阿部 晴江
平成の最後の年や春の雪         石岡ヒロ子
梅活けて古き座敷を守りけり       今井 佳子
春北風や片脚立ちの檻の鶴        上松 陽子
別れ霜外燈一つ消え残る         大野 静枝
菜の花や弾む真つ赤なランドセル     加茂都紀女
風のまま結ひては解く糸桜        菊池 まゆ
乾電池の違ふ入れ方目借時        熊倉 一彦
春休み一升炊きの出番かな        佐藤 淑子
少年の背丈一気や山笑ふ         齋藤  都
堅物の父は百歳桜餅           柴山 要作
夕桜やはらかく梳く母の髪        高内 尚子
浮かべけり散りし一花紅椿        田所 ハル
花衣今日といふ日をいとほしむ      鷹羽 克子
亀鳴くや主語なき会話ひもすがら     中村 早苗
まだ散らぬまだまだ散らぬ花の冷え    中村 國司
花の塵千の胡蝶となりて飛ぶ       星田 一草
甘茶仏の指より太き雫かな        星  揚子
花万朶ときに火を噴く熱気球       松本 光子
たんぽぽや手を上げ渡る子の笑顔     谷田部シツイ
今来たと腹を返して初燕         渡辺 加代



令和元年7月号掲載 句会報

計田美保さん白魚火賞 祝賀吟行記

原田 妙子

令和元年7月号へ

 広島白魚火では、令和元年五月十三日に計田美保さんの白魚火賞を祝う祝賀会を無形民俗文化財に指定されている福山市の鞆の浦の鯛網吟行で行った。白岩主宰、三原白鴉先生をお迎えし総勢二十五名。平成いろは丸で仙酔島へ。浜では大漁節で迎えられ、法被姿の踊り、樽太鼓、弁天龍宮の舞を弁財天の使いという「乙姫」が艶やかに舞う。思わぬ餅撒きもあり、私も一個ゲット。ついで観覧船に乗り、船団六隻の漕出式に従う。大漁旗をなびかせ沖に進む船団を追う。網を入れ、鯛を追い込む様はまさに時代絵巻をみるよう。以下は参加者の俳句から想像をしていただきたい。
 昼食は国民宿舎仙酔島で鯛の兜煮。鞆の浦に戻り、福禅寺対潮楼で「日東第一景勝」といわれる景観や坂本龍馬ゆかりの展示物などを見て、句会場の鞆公民館へ。計田美保さんの祝賀会では、代表の奥田さん、渡邉さんから人柄と指導力を称えられての挨拶、白岩主宰から「まるで天女の舞のよう」とのお話、三原先生からも句を注目し、参考にしている旨のお話。計田美保さんからは俳縁は崇高なもの、これからも自らに叱咤激励しながら頑張りたいと謝辞があり句会に入った

 白岩主宰 特選
潮待ちの港に揚がる桜鯛        渡邉 春枝
綱手繰る腰蓑を垂れ青葉潮       溝西 澄恵
バス降るるより匂ひくる青葉潮     挟間 敏子

 三原白鴉 特選
鯛網の反りたる鯛をしめにけり     山口 和恵
鯛網船水脈を大きく曲がりけり     白岩 敏秀
遠青嶺声をひとつに網しぼる      溝西 澄恵

 渡邉春枝 特選
鯛網漁見むと右舷へ左舷へと      計田 美保
日焼けして鞆の漁師の男ぶり      出口サツエ
腰みのにはぬる銀鱗鯛網漁       計田 美保

 一人一句抄(右記特選者を除く)
白き縁みせて海月の裏がへる      三原 白鴉
鯛網や野太き声で引き寄する      浅津 弘美
風薫る船に大漁の歌響く        有川 光法
桜鯛兄にみやげと買ふ夫        有川 幸子
餅まきの天に向く手や五月晴      石原 幸子
夏潮や大漁祈願舞ひ納む        大隈ひろみ
むろの木の沖や鯛網引きしぼる     奥田  積
心地よくゆれて鯛網漁の船       加藤三恵子
腰蓑を濡らし鯛網漁師かな       神田 弘子
網を引く掛け声渡る夏の浦       久保 徹郎
初夏や大漁節の響く浜         佐々木智枝子
網曳けば数多湧く鯛青葉潮       出口 廣志
鯛網の金鱗まぶし空広し        原田 妙子
靴底にまぎれし砂や薄暑光       古家美智子
いつの句も教師の姿風薫る       廣川 惠子
手早く網引く漁師夏の海        仲島 伸枝
汐風や筆の涼しき堂に座し       森田 陽子
鯛網の浜に踊るや先生も        若林いわみ

最後に主宰より「汐風」は夕方の風、「潮風」は朝方吹く風。「青葉潮」は黒潮のことだが、瀬戸内海にも繋がっているし、句の広がりが出て口調もよいので使ってよいこと。「餅まき」の名詞はない。「餅をまく」にするとよいとの指導を受けた。



令和元年7月号掲載 句会報
群馬白魚火会総会・俳句会
竹内 芳子

令和元年7月号へ 

 平成最後の四月三十日、中之条町のツインプラザに於て、二十一名の会員の出席により、今年度の総会並びに俳句会が行われました。
 荒井孝子副会長の司会により会が進行され、篠原庄治会長より挨拶がなされました。
 続いて、前年度の行事報告、会計報告がなされました。次に、今年度の吟行地について協議されて、総会が無事に終了しました。
 引き続き、副会長の進行により俳句会が開催されました。
 三句投句、五句選で行われ、代表者選は、篠原庄治会長、鳥雲同人の金井秀穂さん、関口都亦絵さん、荒井孝子さん、鈴木百合子さん、飯塚比呂子さんの方々に、特選一位を選出していただきました。
披講は、遠坂耕筰さんにより行なわれました。

  特選句
 篠原 庄治選

ランドセル馴じんで来たる葱坊主     飯塚比呂子

 関口都亦絵選
畦道に欠くる石仏春田打つ        高橋 見城

 金井 秀穂選
ランドセル馴じんで来たる葱坊主     飯塚比呂子

 奥木 温子選
藤咲きしと風ささやいて通りけり     飯塚比呂子

 荒井 孝子選
千本の桜一本見て足るる         福嶋ふさ子

 鈴木百合子選
月光の零れを掬ふ紫木蓮         奥木 温子

 飯塚比呂子選
登校の列を掠めてつばくらめ       竹内 芳子

 自選(五十音順)
大川や岸を行き交ふ花見舟        天野 幸尖
暮の鐘落花の中を流れけり        荒井 孝子
貸馬のたてがみを梳く若葉風       飯塚比呂子
針穴に手元定まらぬ花曇         岩﨑 昌子
砂浴びの砂に埋もれて雀の子       遠坂 耕筰
燕来る救急病院非常口          奥木 温子
幌なべて南へ傾ぐ座禅草         金井 秀穂
朝寝して幼き頃の母に会ひ        剱持 妙子
天皇の退位を偲び春惜しむ        清水 孝を
新しき御代へ咲き継ぐ八重桜       清水 春代
採れたての野菜市立つ花の下       篠原 庄治
藤棚を抜け藤色の風となる        鈴木百合子
瑠璃色の湖にとけ合ふ藤の花       関  定由
敷き詰めて艶やか極む落椿        関 仙治郎
耕の鍬胼胝失せし白寿の手        関口都亦絵
平成の殿まるき八重桜          仙田美名代
畦道に欠くる石仏春田打つ        高橋 見城
千本の桜一本見て足るる         福嶋ふさ子
石に座す母子に落花しきりなる      町田由美子
春の雨平成送る川となる         森田 竹男
消しゴムのどこかに紛れ春炬燵      竹内 芳子



令和元年7月号掲載 句会報

浜松白魚火会 第二十一回総会・俳句会

大澄 滋世

令和元年7月号へ

 四月二十七日(土)十三時より、浜松楽器博物館六階研修室に於て「浜松白魚火会第二十一回総会・俳句会」が出席者八十名と来賓に、浜松白魚火会特別顧問の黒崎治夫氏、福田勇氏を迎えて開催された。
 開会に先立ち、昨年亡くなられた会員鈴木喜久栄氏のご冥福をお祈りし、黙祷を捧げた。
 総会は、弓場忠義会長の挨拶に続き、特別顧問黒崎治夫先生の挨拶を頂いた。弓場会長からは、「平成最後の総会で感慨深い。五月には令和元年を迎える。新しい歴史を作り上げるために会員の強い結束を呼び掛けたい。」と、黒崎先生からは、「仁尾先生の句集「晴朗」を手元に置き、仁尾先生のことを熟知してほしい。また、浜松白魚火会員を百五十人体制にしたい。そして、調和のとれた温かい責任ある会を作り上げてほしい」と激励の言葉を頂いた。
 その後、議事に入り、平成三十年度活動及び決算報告、平成三十一年度活動計画及び予算案が満場の拍手で議決された。役員改選は、改選案により次の通り新役員が承認された。顧問・黒崎治夫、福田勇、上村均、野沢建代、会長・弓場忠義、副会長・塩野昌治、阿部芙美子、幹事長・大庭成友、副幹事長・林浩世、会計・齋藤文子、会計補佐・坂田吉康、会計監査・鈴木利久、安澤啓子、支部役員・鈴木誠、花輪宏子、髙部宗夫、宇於崎桂子、高井弘子、金原恵子、山下勝康、渥美尚作、清水京子、太田朋子、富田育子、徳増眞由美、渡辺強、青木幸代
 続いて、各賞の受賞者の紹介と表彰式が行われ、みづうみ賞秀作賞に斎藤文子さん、鳥雲同人に昇格の林浩世さんに花束が贈呈され、受賞者を代表して斎藤文子さんから謝辞が述べられた。
 句会は、披講者阿部芙美子さん、代返者林浩世さんにより進められ、事前に投句された百四名の二百八句より、互選は二句、五名の選者には入選十五句、特選五句を選句して頂き、特選句には賞品が授与された。
 懇親会は、会場をオークラアクトシティホテル浜松に移し、鈴木誠さんと大村泰子さんの司会のもと、テーブル毎の歓談やカラオケの披露があり、和やかななかにも有意義なひとときを過ごした。最後は塩野幹事長の中締めでお開きとなった。
 当日の選者の特選句は、次のとおりである。(一位から順に掲載)

 弓場 忠義選
千坪の天地返しや揚雲雀        中村 文子
ポップスの流るる牛舎風光る      田中 明子
山羊の仔のよく跳ね蝶の生まれたり   渥美 絹代
制服に手縫ひのあとや卒業す      塩野 昌治
晴朗忌まんさく風にほぐれけり     村上 尚子

 野沢 建代選
鯛網の反りたる鯛をしめにけり     山口 和恵
鯛網船水脈を大きく曲がりけり     白岩 敏秀
遠青嶺声をひとつに網しぼる      溝西 澄恵

 渡邉春枝 特選
衣手の句碑の背中のあたたかし     安澤 啓子
高く漕ぐ鞦韆海の見ゆるまで      織田美智子
昨日とは違ふ日差しやつくしんぼ    坂田 吉康
蛇穴を出づ田の中の井伊家井戸     高井 弘子
リハビリの出だしの一歩風光る     曽布川允男

 渥美 絹代選
春の日のさやに正文亡き山河      早川 俊久
春昼や刃物に残るレモンの香      大村 泰子
晴朗忌まんさく風にほぐれけり     村上 尚子
満開の花の中なる駐在所        岡部 章子
雨粒の残る縁側雉鳴けり        森  志保

 村上 尚子選
灯台の螺旋階段鳥雲に         渥美 尚作
「正文さん」と声かけ春の夢覚むる   黒崎 治夫
水菜採る日は中空にありにけり     大庭 成友
雉鳩のいつもつがひや木の芽風     岡田眞理子
亡き父の大工道具や金盞花       武村 光隆

 黒崎 治夫選
山羊の仔のよく跳ね蝶の生まれたり   渥美 絹代
晴朗忌まんさく風にほぐれけり     村上 尚子
灯台の螺旋階段鳥雲に         渥美 尚作
残雪の衣笠山を眺めをり        溝口 正泰
高く漕ぐ鞦韆海の見ゆるまで      織田美智子


静岡新聞 二〇一九年五月三日付記事


令和元年7月号掲載 句会報
主宰、村上選者、弓場先生をお迎えしての
雲南合同吟行句会を終えて
中林 延子

令和元年7月号へ 

 平成も余すところ五日間となった四月二十五日(木)、雲南市に白岩主宰、白光集選者の村上先生、行事部長の弓場先生、編集部の五名の先生方をお迎えし、「笹百合句会」と「りんどう句会」の初めての合同吟行句会を、大東地域交流センターで開催しました。
 吟行地は、沢山のご案内したい場所はあったのですが、先生方のお帰りになる時刻、句会での先生方のお話、ご指導をいただく時間をなるべくたくさん確保したいとの思いで次のようにしました。
 最初に、古事記に記載されている「須我神社」、そしてその近くの「神楽の宿」、最後に日本棚田百選に選ばれている「山王寺棚田」と三ヵ所を午前中吟行しました。
 当日はあいにくの小雨の中を総勢二十三名が貸切バスで出発し、先ず須我神社で記念撮影の後、思い思いに吟行しました。神社と神楽の宿を三十分間で吟行。次は棚田へ向かいました。棚田への九十九折を上る時は、小雨と霧で先が見えず大変心配しましたが、到着するとにわかに霧が晴れてきて、棚田や近くの山が幻想的に浮き上がってきて、鳥や蛙の鳴き声も聞くことができてほっとしました。句を作るには、快晴の棚田より却ってよかったようで、句会ではたくさんの佳句が披露されました。
 会場に帰って直ちに出句。改めて開会のご挨拶の後、昼食休憩をとりました。その間に清記係が清記し、印刷して作品集を作り、句会に間に合わせました。
 今回の出句は三句。選句は一般は七句、主宰は特選五句と入選は任意数。村上先生と弓場先生は特選三句と入選十句としていただきました。披講は各自でやり、賞は無しということで行いました。
 慌しい日程ではあったものの、皆様のご協力のお蔭で、主宰や村上先生に選評やご指導を頂く時間が思いの外ゆっくり取れ、実りの多い句会ができたことを有難く思いました。また、この句会は白魚火社同人会、編集部のご支援により開くことが出来たことを感謝しています。
 選者の先生方、編集部の先生方に厚くお礼を申しあげます。

当日の特選、入選句並びに「今日の一句」
白岩 敏秀選
 特選

百の田に万の水輪の代田かな       山根 弘子
棚田見し靴にわづかな春の土       中林 延子
雉鳴くや棚田一枚づつに空        村上 尚子
一対の神杉の立ち囀れる         弓場 忠義
須佐之男の恋の宮居も若葉雨       佐藤 愛子

 入選
棚田守ること生甲斐に春田打つ      原  みさ
向つ嶺に響く漢の春田打         妹尾 福子
神木の肌の湿りや春惜しむ        渡部美知子
雀の子追い掛け合つて野原かな      森山 啓子
八重雲を突きさし松の芯立てり      三原 白鴉
神の庭仏の庭も葉桜に          荒木千都江
天水を頼りの棚田畦を塗る        川本すみ江
八雲立つ出雲の棚田春惜しむ       森脇 あき
春愁や雨の匂ひを懐に          森山 啓子
棚田へと残花の道を辿りけり       三原 白鴉
春の雨藁葺屋根の神楽宿         細田 益子
一山を神と崇むる里若葉         弓場 忠義
山桜散りて棚田の田拵へ         山根比呂子
草刈つて棚田千枚景正す         陶山 京子
龍天に登る棚田の半ばより        村上 尚子

村上 尚子選
 特選

棚田へと残花の道を辿りけり       三原 白鴉
棚田見る展望台に雉の声         中林 延子
神杉に瘤あり空に鳥の恋         原  和子

 入選
八重雲を突きさし松の芯立てり      三原 白鴉
神の庭仏の庭も葉桜に          荒木千都江
天水を頼りの棚田畦を塗る        川本すみ江
神杉の腰に神籤や苔の花         原  和子
八重霞棚田は光放ちをり         山本 絹子
累代の守りし棚田風光る         朝日 幸子
須佐之男の恋の宮居も若葉雨       佐藤 愛子
一村の囲む棚田や遠蛙          朝日 幸子
日の本の神話の里や花の雨        妹尾 福子
木の芽雨句碑の太文字濡らしけり     藤原 益世

弓場 忠義選
 特選

神木の肌の湿りや春惜しむ        渡部美知子
花は葉にでんと座れる神の歌碑      中林 延子
角振つて殻の幼きかたつむり       白岩 敏秀

 入選
軽やかな機械の音や棚霞         細田 益子
累代の守りし棚田風光る         朝日 幸子
春愁や雨の匂ひを懐に          森山 啓子
遠蛙ゆるゆる景を広げゆく        渡部美知子
八雲立つ出雲は春の只中に        村上 尚子
棚田来て田ごとの蛙聞きにけり      三原 白鴉
日の本の神話の里や花の雨        妹尾 福子
棚田見る展望台に雉の声         中林 延子
草刈つて棚田千枚景正す         陶山 京子
龍天に登る棚田の半ばより        村上 尚子

 「今日の一句」
角振つて殻の幼きかたつむり       白岩 敏秀
雉鳴くや棚田一枚づつに空        村上 尚子
一対の神杉の立ち囀れる         弓場 忠義
累代の守りし棚田風光る         朝日 幸子
神の庭仏の庭も葉桜に          荒木千都江
若葉もゆ伝統守る神楽宿         落合志津江
天水を頼りの棚田畦を塗る        川本すみ江
須佐之男の恋の宮居も若葉雨       佐藤 愛子
草刈つて棚田千枚景正す         陶山 京子
日の本の神話の里や花の雨        妹尾 福子
棚田見し靴にわづかな春の土       中林 延子
神杉に瘤あり空に鳥の恋         原  和子
棚田守ること生甲斐に春田打つ      原  みさ
木の芽雨句碑の太文字濡らしけり     藤原 益世
春の雨藁葺屋根の神楽宿         細田 益子
棚田へと残花の道を辿りけり       三原 白鴉
八雲立つ出雲の棚田春惜しむ       森脇 あき
春愁や雨の匂ひを懐に          森山 啓子
百の田に万の水輪の代田かな       山根 弘子
山桜散りて棚田の田拵へ         山根比呂子
八重霞棚田は光放ちをり         山本 絹子
棚田より見ゆる八雲嶺遠霞        米田千代子
神木の肌の湿りや春惜しむ        渡部美知子



令和元年7月号掲載 句会報

坑道句会四月例会報

樋野久美子

令和元年7月号へ

 平成から令和への御代替りの足音が日毎高まる四月二十二日(月)、坑道句会四月例会が開催されました。
 風もなく良く晴れ渡り、初夏を思わすような暑さを感じる当日朝、私達北浜句会が当番として、鏡のような日本海を眼下に見渡すことのできる句会場の河下港民宿中屋へ集合、準備を整え、皆様のお出掛けをお待ちしました。
 やがて、十一時ごろには河下港一帯から旅伏嶺の隣鼻高山中にある武蔵坊弁慶も修行したと言われる天台宗の古刹鰐淵寺周辺までを各々吟行した二十四名の方が、次々と句会場の中屋に到着され、出句締切時間までには全員お揃いになりました。久し振りに参加した方もあり、投句を済ませた後の昼食のひと時はそこここに四方山話が溢れ、和やかな雰囲気に包まれました。
昼食の後、午後一時から句会が開始され、手早く清記のうえ、選者は、特選五句及び入選十句、一般は、入選十句と定められ選句に入りました。
 そして、披講に移り、西村松子さんから入選、特選句が読み上げられ、名乗りが挙げられるたび、会場が沸く和気藹々の句会となりました。最後に、幹事から前年度決算報告、皆勤賞の発表とささやかな賞品が手渡され、次回参加を約しながら閉会となりました。
当日の選者特選句、高得点句、参加者の当日の一句は次のとおりです。

 安食 彰彦特選
行く春や浜辺で拾ふ波の音       大菅たか子
春潮のざわと寄せてはさわと引く    荒木千都江
なで仏なでて念ずる目借時       井原 栄子
花の屑未だただよふ舟溜り       木村 以佐
漁網乾す波止の匂ひや夏近し      三原 白鴉

 西村 松子特選
春潮に投ぐる一本釣の糸        安食 彰彦
新緑の蒼茫として鰐淵寺        山根 恒子
綿津見の蒼さ増したり浜大根      三原 白鴉
賽受けの瓦に春日差してをり      井原 栄子
春風や旅伏の山の膨よかに       木村 以佐

 荒木千都江特選
海境の真一文字やつばくらめ      樋野久美子
春光を集むる浮標波に揺れ       生馬 明子
春潮を目掛け釣人竿を振る       三原 白鴉
寄せ返す波の韻律春惜しむ       今津  保
惜春や紺青の海音持たず        西村 松子

 久家 希世特選
海境の真一文字やつばくらめ      樋野久美子
磯馴松海に影おく若緑         竹元 抽彩
それぞれに膨らむ山の笑ひけり     渡部 幸子
唐川郷つい口遊む茶摘み歌       山根 恒子
平成に名残り十日の竹の秋       竹元 抽彩

 三原 白鴉特選
田水張り千の漣走らする        西村 松子
行く春や浜辺で拾ふ波の音       大菅たか子
ガラス吹く若き夫婦や風薫る      渡部千栄子
廃校の校舎へ息吹き蔦若葉       木村 以佐
寄せ返す波の韻律春惜しむ       今津  保

 渡部 幸子特選
新緑の蒼茫として鰐淵寺        山根 恒子
岬山の樹々の力や夏近し        西村 松子
句帳手に見上ぐる空や揚雲雀      福間 弘子
海境の真一文字やつばくらめ      樋野久美子
磯釣りの黙して垂らす春うらら     樋野美保子

当日の高得点句
 十点

行く春や浜辺で拾ふ波の音       大菅たか子

 八点
葉桜を透かして宙の青さかな      今津  保

当日の一句抄(氏名五十音順)
初燕留守らし浜の駐在所        安食 彰彦
朝日差し日毎に変はる芽吹山      荒木 悦子
春潮のざわと寄せてはさわと引く    荒木千都江
チューリップ咲かせ九人の二年生    生馬 明子
なで仏なでて念ずる目借時       井原 栄子
葉桜を透かして宙の青さかな      今津  保
行く春や浜辺で拾ふ波の音       大菅たか子
流れ藻に乗りて漂ふ春鴎        川谷 文江
廃校の校舎へ息吹き蔦若葉       木村 以佐
鶯や名残の間歩の石の橋        久家 希世
磯馴松海に影おく若緑         竹元 抽彩
惜春や紺青の海音持たず        西村 松子
風紋の浜のびやかに桜貝        原  和子
海境の真一文字やつばくらめ      樋野久美子
校庭は山に囲まれ花は葉に       樋野タカ子
磯釣りの黙して垂らす春うらら     樋野美保子
若楓明るくしたる法の道        福間 弘子
囀や頭陀袋かけ撫で仏         船木 淑子
一湾の波光り風光りけり        三島 玉絵
窓開けて入るる浜風夏近し       三原 白鴉
新緑の蒼茫として鰐淵寺        山根 恒子
一湾の鏡のやうな春港         渡部 清子
それぞれに膨らむ山の笑ひけり     渡部 q幸子
蒲公英や色塗り変へし滑り台      渡部千栄子



令和元年8月号掲載 句会報
第三十八回柳まつり 全国俳句大会報告
柴山 要作

令和元年8月号へ 

 第三十八回柳まつり全国俳句大会が六月二日(日)、栃木県那須町芦野基幹集落センターにおいて開催された。
 参加者は九十七名で、白魚火からは十二名が出席した。
 開会に先立ち西行や芭蕉も訪れた遊行柳の近くの水田において、昔ながらの田植唄に合わせた早乙女らによる田植えが行なわれ、これを見学した。

 俳句会は開会式の直後、事前に投句されていた自由題句の選評と表彰が行なわれた。自由題句の応募総数は七百五十四句。このうち白魚火からの投句は八十句(県内五十二句、県外二十八句)で、特選に二句、入選に十七句が選ばれた。
 星田一草特選
日脚伸ぶパート帰りの喫茶店 谷田部シツイ
啓蟄や焦げ目のパンの飛び出せり 篠原 凉子
 地元の皆さん手作りの赤飯と豚汁の昼食をとった後、席題句の選句(互選)とそれに基づく選評、表彰が行なわれた。なお、席題は「蝸牛」と嘱目各一句であった。
 白魚火関係者の選者特選、総合成績は次のとおり。

速水峰邨特選
ででむしや母の忌日の餡こ餅       谷田部シツイ

総合成績では三名が七位、九位、十一位の上位に入り、白魚火の力量を示すことが出来た。
 上位入賞者の句は次のとおり。
人生の旅はゆつくりかたつむり      鮎瀬  汀
ででむしや母の忌日の餡こ餡       谷田部シツイ
水口の水音高し田植唄          星田 一草

以上本大会の状況について記してきたが、本年度は投句総数が百四十句増え、白魚火からの投句も増加した。
 柳まつり全国俳句大会は、白魚火との関係が大変深く、故仁尾前主宰、鈴木前同人会長が長く選者を務められ、今年度から星田一草栃木県白魚火会会長が選者を務めている。
 今後とも本大会の運営に全面的に協力し、柳まつり全国俳句大会をさらに盛り上げていきたいと考えている。来年度は県内はもとより全国の誌友の皆さんからの今年度以上の投句、ご参加を心から願っている。どうぞよろしくお願いいたします。



令和元年8月号掲載 句会報

静岡白魚火会総会記

相澤よし子

令和元年8月号へ

 初夏の光が若葉に輝き、例年より少し遅れた一番茶の収穫作業も終え、茶農家の人たちの一段落した五月十九日、令和元年度静岡白魚火会総会及び俳句大会が開催されました。鳥雲同人で顧問の檜林弘一氏をお迎えし、三十一名の出席のもとに行なわれました。

一 総 会

㈠ 平成三十年度事業報告及び会計報告
㈡ 令和元年度予算案、行事計画案
  以上については承認されました。
㈢ 誌友の増加運動について
  本部から送付された誌友勧誘のパンフレットの取り扱いについて、鈴木名誉会長より報告があり、役員会で検討された以下の内容を会員のみなさんの諒承により実行することとなりました。
 ① 会員に一枚ずつ配布して活用する。
 ② 近在の文化センター、集会所等五箇所に置いて、多くの人に見ていただき入会の手助けとする。

二 俳句大会

事前投句百十五句の中から、鈴木名誉会長選、檜林弘一選、鳥雲同人選、互選のそれぞれ優秀作品が選出されました。

鈴木三都夫名誉会長 作品三句
 咲きそめて日々を見頃の桜かな
 貫禄を蕾に見せし牡丹かな
 茶の芽吹く五風十雨を恵みとし

檜林弘一氏 作品三句
 壁紙のめくれの少し春の雷
 日の中に春大根の土ぬぐふ
 夕永し明日も晴れたりくもつたり

鈴木名誉会長選 特選五句
 身に覚えありて加はる茶摘かな     梶山 憲子
 励ましの肩叩かれて卒業す       古川 松枝
 降ろされて息を抜きけり鯉幟      大石 益江
 夫になき月日幾年鳥雲に        本杉 郁代
 しだれたる先に風ある桜かな      坂下 昇子

檜林弘一選 特選五句
 ささら波集まるところ蘆の角      大川原よし子
 いつしかに初夏紺碧の駿河湾      藤田 光代
 啓蟄や茶原に人の動き初む       大塚 澄江
 花菜風一人を拾ふ昼のバス       山本 康恵
 鶯の午後は無口となりにけり      藤浦三枝子

鳥雲同人選
  坂下昇子選 特選三句
 夫になき月日幾年鳥雲に        本杉 郁代
 くれなゐといふ重さもて椿落つ     横田じゅんこ
 花菜風一人を拾ふ昼のバス       山本 康恵

  辻すみよ選 特選三句
 子の描く花は簡単チューリップ     梶山 憲子
 くれなゐといふ重さもて椿落つ     横田じゅんこ
 夫になき月日幾年鳥雲に        本杉 郁代

横田じゅんこ選 特選三句
 母の日の男勝りの母達者        大石 益江
 墓の子としばしを過ごす彼岸かな    鈴木琑都子
 巣離れの鮒を乗込む春の川       大石伊佐子

本杉郁代選 特選三句
 釣糸の湿りてゐたり浦島草       小村 絹子
 ふくよかな手に乗るほどの甘茶仏    辻 すみよ
 降ろされて息を抜きけり鯉幟      大石 益江

小村絹子選 特選三句
 くれなゐといふ重さもて椿落つ     横田じゅんこ
 啓蟄や茶原に人の動き初む       大塚 澄江
 夫になき月日幾年鳥雲に        本杉 郁代

互選高得点句 三句
 花菜風一人を拾ふ昼のバス       山本 康恵
 ふるさとの茶山の芽吹き見てあかず   辻 すみよ
 不本意な名を持たされて蝮草      柴田まさ江

名誉会長の特選五句には色紙が、檜林弘一氏の特選五句には短冊が授与されました。
また鳥雲同人の特選三句と互選高得点三句には賞品が渡されました。

鈴木名誉会長の講評と講話
 特選句を一句ずつ丁寧に解説していただき、そのあと、高浜虚子の「明易や花鳥諷詠南無阿弥陀」の句を紹介しながらの「虚子と花鳥諷詠」についての講話をいただきました。

  • 「花鳥」とは人間も含めた大自然全体が対象であること。
  • 「諷詠」とは十七音の調べに乗せて、具体的に、判り易く、読後心に残るものがあるような詠みであり、虚子はその信条を「南無阿弥陀」の経文と同じだと言った。僧侶が日々「南無阿弥陀」と唱えるように、自分も俳句は「花鳥諷詠」だと日々唱えよう。それは又夏の夜の明けてゆくかのような心境でもある。
この「虚子と花鳥諷詠」についてのご講話をいただき、最後に記念撮影をし、滞りなく閉会いたしました。



令和元年8月号掲載 句会報
函館白魚火会 新鋭賞受賞祝賀会
広瀬 むつき

令和元年8月号へ 

 風薫る五月十一日、平成三十一年度の新鋭賞を受賞された山羽法子さんの祝賀会を、出席者十五名により湯の川温泉にて開催致しました。
 今回は、ご自身の体調を考慮され四月一杯で函館白魚火会の代表を辞任され顧問の立場になられた今井星女先生への感謝の気持ちと、新代表になられた森淳子さんに「よろしくお願いします」との気持も込められた会でもありました。
 午前は士別から駆け付けた山羽さんをしっかり句会で歓待、午後は盛大な祝賀会となりました。
 祝賀会では星女先生から「法子さんの今後に益々期待しています」という励ましの言葉と共に自筆の色紙が贈られ、最高齢の佐久間ちよのさんからは会を代表して花束が贈られました。山羽さんからは、士別での勤務は五年目を迎えているが、俳句は函館で育ててもらった(もらっている)という感謝の言葉がありました。
 会の中で皆さんが多く話されたのは、山羽さんの句の「北海道らしさ」でした。北海道の生活や大自然を骨太にしかも細やかに捉えた句が目を引き、自分達も改めて北海道を見直すきっかけになったというものでした。
 又、新代表の森淳子さんからは、富安風生、西本一都、仁尾正文、白岩敏秀とつながる師系の話もあり内容の濃い会となりました。
 宴の終りは、國田修司さんのアコーディオン伴奏により懐しの歌の数々を楽しく歌い、西川玲子さんからの全国大会参加へのお誘いが声高らかにあり、橋本喜久子さんの爽やかな乾杯の言葉で御開きとなりました。
 今回は白魚火会員だけでなく誌友の方も参加下さり、大変嬉しい祝賀会となりました。  当日の会員の一句です。
(不在投句三名)

一の橋二の橋渡り花を見る       今井 星女
遥かなる師系をいまに風生忌      森  淳子
「令和」へと変はる朝の新茶かな    赤城 節子
「雨宿」の花下にたたずみ母想ふ    内山実知世
豪華船埠頭に着きて夏来る       國田 修司
堡塁の俯瞰の桜もも色に        佐久間ちよの
厳つ気な男も愛づる姫すみれ      富田 倫代
風を受けタワーに泳ぐ鯉のぼり     西川 玲子
天窓にジャズの熱気や復活祭      橋本喜久子
昭和の日明治の父の忌を修す      広瀬むつき
平成を曳く連翹の黄色かな       山越ケイ子
囀のほかに音なき昼下がり       山田 千華
猩々を見上ぐる人間夏帽子       山羽 法子
陣屋跡古木の目立つ桜かな       𠮷田 智子
(不在投句)
春光や畑の土を潤せる         広川 くら
花に酔ひ人にも酔ひし一日かな     堀口 もと
満開の桜に降りし春の雪        安川 理恵



令和元年8月号掲載 句会報

令和元年度浜松白魚火会 吟行記

大庭 成友

令和元年8月号へ

発達した低気圧の通過により、強風を伴った大雨も明け方には回復した六月十六日(日)、六十九人の参加を得て浜松白魚火会恒例の吟行句会を開催しました。
 大型バス二台を貸し切って、舘山寺の浜名湖フラワーパーク港から、遊覧船での浜名湖の遊覧と、その後浜名湖周遊のバスツアー。
 当日の浜名湖は、河川から流れ出た濁流により湖面は茶褐色に濁り、強風は湖面一面白波を立たせ、いつもは動いている舘山寺遊園地のロープウエイや観覧車も停止しているなど、心配された場面もありました。
 ところで、浜名湖は江戸時代漁船と新居の渡し船以外の航行は禁じられていたそうです。それは明治になってから解かれ、水上交通として利用されるようになり、定期航路が始まったのは明治の終わりころだったそうです。
 明応七年(一九四八年)の大地震によって、浜名湖は海とつながり汽水湖となり、それにより、淡水魚だけでなく海の魚介類も多く生息するようになったのです。
 さて、当日一号車は浜松駅近くのアクトタワーを午前八時四十五分出発、二号車は三方原墓苑を午前八時三十分に出発し、遊覧船乗り場まで直行しました。遊覧船出発は午前九時二十分と時間的にゆとりがあり、皆さま浜名湖の風景を楽しみながら作句に余念のない様子でした。
 遊覧船は出発地の舘山寺港で多くの観光客を乗船させており、外国人観光客も大勢乗っておりました。三十分の遊覧を終え、バスは二台そろって新居関所へ。関所でトイレ休憩を終え午前十時十五分出発、目的地の引佐多目的研修センターへ。
 今回の吟行句会はクリエート句会が幹事を仰せつかり、句会のメンバーも大張り切り。
 投句締切りは午後零時三十分。二句出句、句稿作りは三箇班設定し、句稿作り、コピーなど順調に推移しました。句会は午後一時三十分から。二句の互選、休憩をはさんで参加者全員の互選句の披講、選者選の特選句・入選句の披講、講評、高得点句及び特選句の表彰と進み午後三時五十分句会を終了しました。
 吟行場所の設定・句会場の選定・事前の実査・句稿づくり・バスの手配・参加者の集計・会計などクリエート句会の会員皆初めての経験でしたが、いつも句会でご指導いただいている弓場忠義会長、渥美絹代先生には一からご指導をいただきました。
 特に、初生句会の皆様には、当日一緒になってご指導いただき本当に感謝しております。  梅雨のさ中、天候が心配されましたが、何とか無事終えることができ、皆様には本当に感謝です。

(顧問)黒崎治夫先生選 特選五句
 南吹く遊覧船に日章旗         村上 尚子
 黒南風の湖掻き混ぜてゆきにけり    太田 朋子
 雲はやく過ぐ父の日の観覧車      村上 尚子
 潮合の弁天橋やながし吹く       大澄 滋世
 みづうみを傾けてゐる夏つばめ     青木いく代

村上尚子先生選 特選三句
梅雨の湖荒れてデツキの波被る      徳増眞由美
マリーナに寄する男波や五月晴      花輪 宏子
夏帽子の鐔をつかみて乗船す       大村 泰子

渥美絹代先生選 特選三句
雲はやく過ぐ父の日の観覧車       村上 尚子
大南風の艫に日の丸翻り         大庭 成友
父の日や荒波を蹴る遊覧船        山本 狸庵

野沢建代先生選 特選三句
晴朗なれど波高き船遊び         黒崎 治夫
葦茂る新居関所の舟着場         福田  勇
異国語の溢るるキヤビンアロハシヤツ   古橋 清隆

阿部芙美子先生選 特選三句
みづうみを傾けてゐる夏つばめ      青木いく代
雲はやく過ぐ父の日の観覧車       村上 尚子
マリーナに寄する男波や五月晴れ     花輪 宏子

互選高得点句 六句
みづうみを傾けてゐる夏つばめ      青木いく代
南吹く遊覧船に日章旗          村上 尚子
浜名湖の深き入江や麦の秋        藤井 倶子
大南風湖上見守る観世音         髙田 絹子
大揺れの遊船ネツクレス光る       渥美 絹代
鯵刺や繋留の船軋み合ふ         鈴木 利久


浜松市立引佐多目的研修センター


令和元年8月号掲載 句会報
坑道句会六月例会報
松崎  勝

令和元年8月号へ 

 六月十七日(月)、坑道句会六月例会が、縁結びの神、福の神として名高い出雲大社周辺を吟行地として開催された。
 当日は、梅雨晴間の絶好の吟行日和。一畑電鉄秋鹿町駅から句友と電車で終点出雲大社前駅を目指す。一畑口駅を過ぎると宍道湖とも別れ、植田が広がる斐川野をゆく。電車に揺られること五十分、出雲大社前駅に降り立つ。夏日が駅舎のステンドグラスを射る。
 神門通りは、月曜にもかかわらず多くの観光客、特に若い女性で賑わいを見せている。通りには甘味処、カフェ、土産品店が連なっており、女性客の足が向く。帰りに句友とこの通りでぜんざいを食べることになる。疲れた脳には何よりのカンフル剤で、甘みと塩加減が程よく絶品であった。
 大鳥居で一礼し、下り参道を進むと東側に小さな池がある。花菖蒲、紫陽花が見頃、鑑賞しながらあずまやで小休止。約八十畳あるという大国旗の翻る下で句友と落ち合い、大社にお詣りし日々のお蔭に感謝した。神楽殿手前のさざれ石に賽銭を打ち、御朱印を求める列を横目に吟行する。最後に句会場でもある県立古代歴史博物館へと移動する。「古墳文化の珠玉」展を全員で見学し、句会場である館併設の講義室へと移った。
 投句締切りは午後〇時三十分。当日の参加者は、二十三名。選者は、安食彰彦、荒木千都江、久家希世、竹元抽彩、渡辺幸子の五名。選者特選句、当日の高得点句、参加者の当日の一句は、以下のとおりである。

安食 彰彦特選
 勾玉のやどす若葉の光かな     生馬 明子
 本殿のそびら三山滴れり      生馬 明子
 勾玉は胎児の形緑さす       福間 弘子
 いにしへの玉の涼しく輝けり    牧野 邦子
 慈悲心鳥の声ふりそそぐ勅使道   牧野 邦子

荒木千都江特選
 青葉風に押されてくぐる四脚門   渡部美知子
 万緑や千木ゆるぎなき大社     原  和子
 水無月や神代の息吹したたかに   渡部 幸子
 堰落つる水音涼しき神の池     大菅たか子
 老鶯鳴く神苑の昼深かりし     土江 比露

久家 希世特選
 夏椿たかがきこぼるる社家通り   土江 比露
 勾玉は胎児の形緑さす       福間 弘子
 百薬にまさる滝風身にまとふ    渡部 幸子
 茅花流し真名井の水の迸る     福間 弘子
 熊野川とふ神域の遠河鹿      竹元 抽彩

竹元 抽彩特選
 緑風や足早に消ゆ緋の袴      渡部 幸子
 神苑のゆかしき色に花菖蒲     牧野 邦子
 鴉の子とんとん過る社家通り    木村 以佐
 利休鼠の神泉をとぶあめんばう   土江 比露
 万緑や千木ゆるぎなき大社     原  和子

渡部 幸子特選
 やはらかに風を躱して花菖蒲    荒木千都江
 青葉風に押されてくぐる四脚門   渡部美知子
 勾玉は胎児の形緑さす       福間 弘子
 本殿のそびら三山滴れり      生馬 明子
 湧水の絶えぬ真名井や青田風    川谷 文江

当日の高得点句
 十三点
勾玉は胎児の形緑さす        福間 弘子
 十一点
勾玉のやどす若葉の光かな      生馬 明子
 九点
本殿のそびら三山滴れり       生馬 明子
 八点
慈悲心鳥の声ふりそそぐ勅使道    牧野 邦子

当日の一句抄(氏名五十音順)
 緑さす瑪瑙水晶切子玉       安食 彰彦
 紫陽花の色動き出す雨あがり    荒木千都江
 水濁る浄めの池や額の花      生馬 明子
 バス待てる親子の会話ねぢり花   榎並 妙子
 堰落つる水音涼しき神の池     大菅たか子
 天碧しあめんぼ喜々と神の池    金築暮尼子
 湧水の絶えぬ真名井や青田風    川谷 文江
 旧道は昭和の家並あやめ咲く    木村 以佐
 緑陰や異国語はづむ四脚門     久家 希世
 神の池の朝のしづけさ通し鴨    小林 永雄
 奉祝の令和の旗や枇杷実る     杉原 栄子
 参道の松籟涼し大社        竹元 抽彩
 夏椿たかがきこぼるる社家通り   土江 比露
 これよりは下り参道十一鳴く    原  和子
 神官の祝詞を上ぐる朝涼し     樋野美保子
 勾玉は胎児の形緑さす       福間 弘子
 いにしへの玉の涼しく輝けり    牧野 邦子
 降車駅の絵硝子に透く夏日かな   松崎  勝
 四拍手聞こえ来る音青楓      持田 伸恵
 薫風や真名井の水面空映す     山根 恒子
 あめんぼの影のリズムや池の底   山本 絹子
 水無月や神代の息吹したたかに   渡部 幸子
 神の滝こよなき音をとどろかせ   渡部美知子


出雲大社本殿


令和元年8月号掲載 句会報

第七回栃木・東京白魚火 合同句会

萩原 一志

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 第七回栃木・東京白魚火合同句会が令和元年夏祓の六月三十日(日)に、東京都墨田区にある都立向島百花園で行われた。東京での開催は平成二十八年の第一回巣鴨銀座、第三回府中市郷土の森博物館、第五回神代植物園以来四回目の開催である。浜松から村上尚子白光集選者、出雲より三原白鴉白魚火編集長補佐をお迎えし、栃木より十五名、東京より十三名、合計三十名の参加であった。
 心配された雨であったが、吟行中はほとんど傘をさすこともなく、又、それほど暑くもない梅雨曇りの一日となった。午前十時前に浅草駅に集合し、吾妻橋→隅田公園→牛嶋神社→三囲神社→見番通り→弘福寺→長命寺→向島百花園と四キロほどの道を巡った。朝方は足の部分しか見えなかったスカイツリーも昼前から顔を出すようになった。隅田公園内にある本所総鎮守の牛嶋神社では、幸運なことに、神前で結婚式を挙げる六月の花嫁を間近で見ることができた。又、さほど広くない三囲神社の境内には五十基ほどの句碑や歌碑があるが、それらの中に芭蕉の門人である宝井其角の「夕立や田を見めぐりの神ならば」を見つけた。これは雨乞いをしている農民を詠んだ句であるが、吟行中の私たちは梅雨の晴れ間を期待した。道すがら、長命寺の桜餅や言問団子などを食べながら吟行を続けた。
 梅の名所である向島百花園の名称は、一説では「梅は百花に先駆けて咲く」と言う意味から命名されたと伝えられている名園である。万葉集や詩経の中にある植物を集めた百花園は四季を通して花の絶えることがない。雨上がりの緑豊かな庭園では紫陽花、のうぜんかずら、青瓢箪、青萩などが特に目を引いた。又、園内には芭蕉をはじめ多くの句碑や歌碑があるが、大場白水郎の「蟇這ひいづる黙阿弥の碑の陰に」は百花園の景を見事に言い当てている一句と言えよう。園内の「御成座敷」での句会(十三時~十六時時三十分)は、一人五句投句、七句選句で行われ、限られた時間の中ではあったが大いに盛り上がった。
閉会後は、東向島駅近くのイタリアンレストランで懇親会(十七時~十九時)を行い、親睦を深めた。そこは、永井荷風の「墨東綺譚」の舞台である東向島の「玉の井」のあった近くと言われている。

村上尚子選(○は特選)
○ 百花園の揃はぬ百花梅雨曇      萩原 一志
 下闇の深きをおそるおそる踏む    阿部 晴江
 百花園の靑瓢箪の器量好し      加茂都紀女
 青萩のトンネル瑞の日を零す     加茂都紀女
 芭蕉句碑を都紀女となぞる蝸牛    中村 國司
 青萩に雨粒あまた宿りをり      萩原みどり
 古井戸の蓋にこぼるる黐の花     谷田部シツイ

三原白鴉選(○は特選)
○ 夏萩やトンネルは風抜けやすく    寺田佳代子
 花梔子集合の声響きをり       熊倉 一彦
 舟板に団子屋の文字夏のれん     小嶋都志子
 病葉の浮きてとどまる隅田川     寺澤 朝子
 大川の風にふくらむ夏衣       寺田佳代子
 句碑の字の凹みを宿に蝸牛      星  揚子
 万緑の中や小さな魚釣り場      星  揚子

寺澤朝子選(○は特選)
○ 梔子の錆ゆく白の香りけり      三原 白鴉
 立ち止まればそこが史跡や梅雨の路地 柴山 要作
 青瓢大きく育つ百花園        鷹羽 克子
 大川の風にふくらむ夏衣       寺田佳代子
 桟橋を離るる船や梅雨の川      寺田佳代子
 夏萩の軽やかに伸ぶ百花園      原 美香子
 青しぐれ木の香に仰ぐ大鳥居     松本 光子

星田一草選(○は特選)
○ 蕺草も百花のひとつ園の隅      上松 陽子
 岩の上亀動かずに梅雨曇       上松 陽子
 糸雨にのうぜんかづら撓りをり    植松 信一
 水琴窟涼しき音の地中より      寺澤 朝子
 でで虫に碑の文字深くありにけり   三原 白鴉
 夏帽子かぶりなほして待ち合はす   村上 尚子
 古井戸の蓋にこぼるる黐の花     谷田部シツイ

一句抄
 夏帽子かぶりなほして待ち合はす   村上 尚子
 東京のビルの谷底梅雨深し      三原 白鴉
 神の名は知らず柏手夏祓       星田 一草
 下闇の深きをおそるおそる踏む    阿部 晴江
 蕺草も百花のひとつ園の隅      上松 陽子
 百花園の靑瓢箪の器量好し      加茂都紀女
 夏の霧スカイツリーのかくれんぼ   熊倉 一彦
 青瓢大きく育つ百花園        鷹羽 克子
 立ち止まればそこが史跡や梅雨の路地 柴山 要作
 青梅雨や庭園の道ひかりをり     杉山 和美
 疲れ目に金魚あざやか長命寺     中村 國司
 屋敷址トトロいさうな夏木立     中村 早苗
 句碑の字の凹みを宿に蝸牛      星  揚子
 散るとなく古井に零れ黐の花     松本 光子
 あづま屋に分け合ふ飯や青瓠     本倉 裕子
 古井戸の蓋にこぼるる黐の花     谷田部シツイ
 神燈の洩れくる社木下闇       渡辺 加代
 青葉雨百花しづくを零しけり     寺澤 朝子
 梅雨湿り浅草隅田向島        岩井 秀明
 句碑巡る梅雨もまたよし百花園    植松 信一
 三囲社詣づる雀梅雨晴間       大嶋恵美子
 茅の輪より天の雫を頬に受く     河島 美苑
 青葉雨ひしめき合ひて文人碑     小嶋都志子
 大川の風にふくらむ夏衣       寺田佳代子
 桔梗の雨を含みて凛と立つ      富岡のり子
 百花園の揃はぬ百花梅雨曇      萩原 一志
 青萩に雨粒あまた宿りをり      萩原みどり
 一列に文机並ぶ夏座敷        橋本 晶子
 夏萩の軽やかに伸ぶ百花園      原 美香子
 家苞の長命寺もち梅雨晴間      鎗田さやか


向島百花園入口

「御成座敷」での句会風景

向島百花園「御成座敷」にて


令和元年9月号掲載 句会報
実桜吟行会
根本 敦子

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 北海道に大荒れの予報が出た六月十六日、白岩主宰、三原白鴉さんをお迎えして、サロマ湖で実桜吟行会が行われました。
 吟行が行われたワッカ原生花園はサロマ湖とオホーツク海を分かつ砂洲の中にあり、この時期にはハマナス、エゾスカシユリ、ヒオウギアヤメなどが咲き乱れ、鳥声も賑やかで散策にはもってこいの場所です。
 しかし、当日は雨こそ止んだのですが、暴風とも言える強風で歩くのもままならぬほどでした。それでも、皆さんは句材を求め、決死の覚悟で散策しました。
 句会は五句投句、五句選。先生方は特選三句、普通選十句です。

 白岩敏秀特選
六月や北見は薄荷色の風      三原 白鴉
図書館と繋がる駅舎夏燕      石田 千穂
かたまつてぶつかる風や浜豌豆   高田 喜代

 三原白鴉特選
かたまつてぶつかる風や浜豌豆   高田 喜代
オホーツクを丸ごと洗ふ緑雨かな  根本 敦子
夏炉焚くワッカは風の湧くところ  奥野津矢子

 当日一句抄
佐呂間湖の風のふところ丹生の花  浅野 数方
二方の白馬の騎士や山桜桃     市川 節子
漁師町カーリングの町夏の霧    今泉 早知
玫瑰の紅のひとひら吹かれけり   大村キヌ子
吟行の青野や帽子飛びさうな    金田野歩女
放牧の黒牛光る青時雨       小杉 好恵
夏霧の奔り色なきオンネトー    白岩 敏秀
海風に裏白かへす夏蓬       田島みつい
開墾のパッチワークよ梅雨湿り   成田 哲子
海風に句帳の湿り透百合      西田美木子
踏み入れぬ原始の園や透かし百合  服部 若葉
上着一枚鞄に足して初夏の旅    平野 健子
鳴き声の風にまぎれし夏雲雀    平間 純一
オホーツクの海風加へ蝦夷に梅雨  吉川 紀子
奥山の夏霧淡く流れけり      吉野すみれ
塩でよし正油もうまし帆立貝    三浦 紗和

翌日は、宿周辺を散策する予定でしたが、風雨が激しく、わずかの間しか外に出ることができず、ほとんどの人が宿で作句に励みました。夏炉の焚かれた山の宿でしたので、宿や食事に関する俳句もたくさんできました。
 北見市内に戻って第二回の句会です。今回は三句投句、五句選。先生方は特選一句、普通選十句です。

 白岩敏秀特選
荒梅雨や山ぢゆうの木が騒ぎだす  根本 敦子
 三原白鴉特選
梅雨じめり手櫛で直すうねり髪   小杉 好恵
 浅野数方特選
夏炉燃ゆ一刀彫りの熊五頭     石田 千穂
 金田野歩女特選
荒梅雨や山ぢゆうの木が騒ぎだす  根本 敦子
 花木研二特選
梅雨じめり手櫛で直すうねり髪   小杉 好恵
 平間純一特選
夏嵐木立の精の舞ひ騒ぎ      平野 健子

 当日一句抄
もてなしの夏炉に背中あづけみる  浅野 数方
虎が雨降り続けたるオホーツク   市川 節子
ハマナスを踏みさうになる砂丘かな 今泉 早知
夏炉に手かざし小雨の朝餉かな   大村キヌ子
蚊遣焚く壺に納まるかりんとう   奥野津矢子
青駒の音立てて呑む夏の水     金田野歩女
筒鳥の短く鳴いて森深し      白岩 敏秀
最果ての一夜荒れたり明易き    高田 喜代
夏霧に抱かれ目覚むる旅の宿    田島みつい
万緑や雨を喜ぶ畑の物       成田 哲子
サロマ湖は夏霧の中風の中     西田美木子
裾捲り分け入る林道青時雨     服部 若葉
六月の隙間なきまで雲混んで    花木 研二
明易しワッカの森は風を生み    平間 純一
浜防風海に向きたる宿の下駄    三浦 沙和
季寄繰る北見の宿や明易し     三原 白鴉
夏料理紙燭のやさし湖の宿     吉川 紀子
新樹雨強風止まぬオホーツク    吉野すみれ

お天気には恵まれませんでしたが、一年に一度の実桜吟行会は、直接白岩主宰の御指導を仰ぐことができ、また皆さんと和気あいあいと楽しく過ごすことができました。皆様の御協力心より感謝申し上げます。そして、今度はぜひ晴天のワッカ原生花園に来ていただきたいと思います。



令和元年10月号掲載 句会報

令和元年栃木白魚火会 第一回鍛錬吟行会

松本 光子

令和元年10月号へ

 梅雨寒の小雨の中、令和元年七月十四日、栃木白魚火会恒例の鍛錬吟行会が、十九名の参加のもと那須町・那須塩原市にて開催された。
 最初に、鳥羽院の寵姫玉藻の前に化けた妖狐が殺され、石と化したものと伝えられている「殺生石」を吟行。附近には硫黄の匂いに包まれた賽の河原が広がっており、芭蕉も「石の香や夏草赤く露あつし」の発句を詠んでいる。そして、すぐ近くにある那須与一が屋島の戦いで扇を射落す際に祈願したと伝えられている那須温泉神社を訪れた。
 次に安積疏水、琵琶湖疏水と並ぶ日本三大疏水のひとつとされ、広大な那須野が原の灌漑を目的に作られた旧取水施設を見学。
 最後に外務大臣、独公使等を歴任し、那須野が原を開墾し、青木農場を創設した青木周蔵の旧別邸を見学。邸内には当時の調度品等が展示されており、那須野が原における明治貴族の別荘文化の一端に触れることが出来た。
 昼食後の句会は、十句出句、十五句選、内特選二句で行われ、小雨の中での吟行句会ではあったが、それも又良い機会となった。

星田一草 特選
石あれば石積む河原梅雨曇       星  揚子
遠くより水落つる音青胡桃       星  揚子

柴山要作 特選
梅雨しとど千体地蔵に拝まれて     熊倉 一彦
歳時記の梅雨の重みを持ち歩く     松本 光子

星 揚子 特選
ワイパーに透ける明るき梅雨の空    秋葉 咲女
籐椅子の一つ和室の中ほどに      谷田部シツイ

秋葉咲女 特選
毒気吐く山を背に梅雨の宮       江連 江女
青梅雨やサッカー場は地区予選     杉山 和美

阿部晴江 特選
万緑の白亜の館ドイツの香       菊池 まゆ
青くるみひとりが指して皆仰ぐ     松本 光子

大野静枝 特選
芭蕉句碑に残る墨痕梅雨深し      柴山 要作
夏鶯賽の河原に来て鳴けり       中村 早苗

中村國司 特選
歳時記の梅雨の重みを持ち歩く     松本 光子 「生きる」てふ水楢に這ふ梅雨菌    熊倉 一彦

松本光子 特選
五月雨や硫黄に噎ぶ出湯橋       熊倉 一彦 疏水へと続く道の辺青胡桃       佐藤 淑子

一句抄
ワイパーに透ける明るき梅雨の空    秋葉 咲女
妖狐守る千体地蔵苔青し        阿部 晴江
俯瞰する賽の河原に夏の雨       上松 陽子
殺生石の注連の緩びや梅の雨      江連 江女
三光鳥八百余年の御神木        大野 静枝
送り梅雨盲蛇遺贈の湯花畑       菊池 まゆ
梅雨しとど千体地蔵に拝まれて     熊倉 一彦
疏水へと続く道の辺青胡桃       佐藤 淑子
芭蕉句碑に残る墨痕梅雨深し      柴山 要作
夏木立那須街道の菓子処        杉山 和美
蕩々と梅雨の川飲む那須疏水      鷹羽 克子
赤帽子の地蔵にふはり糸蜻蛉      田所 ハル
熔岩坂の地蔵地獄の青芒        中村 國司
夏鶯賽の河原に来て鳴けり       中村 早苗
石あれば石積む河原梅雨曇       星  揚子
梅雨深し湯の花畑の朽ち莚       星田 一草
籐椅子の一つ和室の中ほどに      谷田部シツイ
蛇行する那珂川をまく夏の霧      渡辺 加代
歳時記の梅雨の重みを持ち歩く     松本 光子



令和元年10月号掲載 句会報
坑道句会八月例会報
牧野 邦子

令和元年10月号へ 

 今秋一番の爽やかな晴天に恵まれた八月二十六日(月)、坑道句会八月例会は、二十一名が参加して出雲市斐川町の出西窯周辺の吟行句会を行いました。
 宍道湖をぐるりと囲むように出雲地方に四つある神奈備山の一つ仏経山(三六六米)を背に広がる斐川平野の西の地域は、「出雲國出雲郡出雲郷」の西の地「出西(しゅっさい)」と称されていて、出雲國風土記に記された神社が数多く残っており、また、多くの仏閣も点在する歴史とロマン溢れる地です。
 吟行は、先ず境内に樹齢四百年を越す大杉の聳える栖雲寺、そして、その真隣の素盞嗚尊を祀る久武神社に参拝した後、出西窯へ移動しました。
 出西窯は、昭和二十二年に地元の五人の若者が始めた陶芸活動が始まりで、河井寛次郎、柳宗悦、バーナード・リーチなどの薫陶を受け研鑽を重ねた実用の陶器で、今では若い世代に継承され、全国各地の民芸店でもその店頭の一角を占めている人気の焼きものとなっています。陶房、窯場などでは二十数名の若者達が黙々と轆轤を回したり釉薬の調合等にいそしむ様子を見学させていただきました。
 ここでは様々な器が作られていて、特に藍色の釉薬の透明感は出西焼を代表するものとなっており、安食彰彦先生の特選の一句「秋澄むや八寸皿は海の色」(弘子)の「海の色」そのものであります。
 今回の句会は、年一回の親睦会も兼ねており、句会場では各三句の出句の後、会席の膳に着き、ゆっくり歓談した後句会に移りました。
 句会では、選者六名の方々は、特選三句、並選五句を、一般参加者は七句を選句し、安食先生の特選三句には先生の短冊が渡されました。
 選者特選句、当日の高得点句及び参加者の当日の一句は以下のとおりです。

 安食彰彦特選
登り窯の暗き火口や昼の虫     三原 白鴉
秋ともし轆轤座に置く小座布団   原  和子
秋澄むや八寸皿は海の色      福間 弘子

 久家希世特選
秋の轆轤の速し土の活く      山本 絹子
秋晴や陶工の声皆やさし      小林 永雄
釉薬の大甕並べ残る蟬       原  和子

 竹元抽彩特選
秋日濃し地に展げ干す素地の皿   牧野 邦子
秋ともし轆轤座に置く小座布団   原  和子
奥宮へのほの暗き磴秋涼し     木村 以佐

 西村松子特選
秋澄むや八寸皿は海の色      福間 弘子
さやけしや令和の注連を仰ぐとき  渡部 幸子
陶工の顎髭さやか釉匂ふ      生馬 明子

 渡部幸子特選
陶工の指より皿の生れて秋     西村 松子
煤けたる陶房の窓秋日さす     三原 白鴉
窯を焚く陶工の黙残暑なほ     竹元 抽彩

 三原白鴉特選
秋日濃し地に展げ干す素地の皿   牧野 邦子
窯を焚く陶工の黙残暑なほ     竹元 抽彩
早稲の香や遠山は雲湧き立たす   西村 松子

 当日の高得点句
 十一点
窯を焚く陶工の黙残暑なほ     竹元 抽彩
 十点
秋澄むや八寸皿は海の色      福間 弘子
 八点
秋日濃し地に展げ干す素地の皿   牧野 邦子

 当日の一句抄(氏名五十音順)
秋暑し黒ネクタイをゆるく締め   安食 彰彦
竹箒堂裏にかけて涼新た      生馬 明子
声高に静寂を破る秋の蟬      井原 栄子
くさぎの実古刹の森を揺らしけり  榎並 妙子
窯元のとなりはパン屋小鳥来る   大菅たか子
爽やかや藍の大皿店頭に      川谷 文江
窯場より昇る白煙秋の空      木村 以佐
新秋や光る大皿紺深し       久家 希世
秋晴や陶工の声皆やさし      小林 永雄
窯を焚く陶工の黙残暑なほ     竹元 抽彩
秋風の枝折戸叩く寺の留守     土江 比露
陶工の指より皿の生れて秋     西村 松子
秋ともし轆轤座に置く小座布団   原  和子
山門に立てば晩夏の風匂ふ     樋野美保子
秋澄むや八寸皿は海の色      福間 弘子
秋日濃し地に展げ干す素地の皿   牧野 邦子
秋の日や庭に干しある生地の皿   三原 白鴉
隣また空き家となりしほたる草   持田 伸恵
久武神社渡る水路の水澄めり    山根 恒子
初秋の轆轤の速し土の活く     山本 絹子
まつさらの風のかぐはし稲の花   渡部 幸子


栖 雲 寺

出 西 窯


令和元年12月号掲載 句会報
東京&栃木合同吟行会
中村 國司

令和元年12月号へ 

 十月六日、第八回目の合同吟行会を栃木市で催した。登録は二十四名だが、最終的に二十三名が吟行句会に参加した。  近くて遠い「蔵の街とちぎ」だが、行ってみると意外によく整備され、コンパクトな散策コースがいくつも用意されている。町の中心を貫く例幣使街道沿いには、「小江戸」と称されるにふさわしい古風な町屋が並び、その中に山車会館、蔵の街美術館が屹立している。
 その市街地を貫くように流れる巴波川(うずまがわ)のほとりには、江戸・明治期に躍動した蔵壁が今なお残り、郷愁を誘う。
 山本有三などの文化人も多く輩出した栃木市だが、その真の顔は商人町なのだとわかる。

 巴波川はその商人たちの物資集散活動を支え、当地に多くの富をもたらしたのだが、今は観光客のために遊船を仕立て、船頭に物語りをさせ、舟歌を唄わせて新たな姿を見せている。
 今回はそんな「蔵の街」と「巴波川」をメーンに吟行した。参加者の「今日の一句」と合わせて「蔵の街とちぎ」をお楽しみください。

余波の雨

 台風は遠く去ったが、余波の雨がいつまでも残り、予想とは異なる吟行地の貌である。
 栃木駅に集合した一番乗りは八時五十分。全員が揃ったのは九時五十分。その間ずっと雨と睨めっこだったのは遊船に乗りたいからだが、結局現地まで行って、総意で舟に乗らないと決めた。以下の五句は恨めしい雨の句だが、それを明るく詠んでいるところが白魚火流なのであろう。

秋の雨しづかに歩く蔵の街 石岡ヒロ子
秋驟雨通り抜けたる蔵通り 大嶋惠美子
小江戸とちぎ明るき雨の百日紅 加茂都紀女
秋霖の革靴おもくふくれけり 中村 國司
秋の雨止みて家具屋のオルゴール 富岡のり子

巴波川界隈

 自分たちは乗らなかったが、舟は何艘か出ていて、その勇気ある観光客を見物する。十数人の舟の客はみな傘をさし、窮屈そうに肩を寄せ合っている。岸から声をかけると笑顔で応答してくれるが、いささか辛そうにも見えた。
 ささ濁りの川面に鯉の背鰭がのぞき、なぜか秋草が流れてくる。橋がいくつも架かり、幸來橋など粋な名がつけられていて、風情がよい。
 荷舟を両岸から綱で上流に引き上げる、その人足達の足場となるのが綱手道で、今も残る。巴波川とは、野州の産物を江戸に卸して財を成した商人たちの、巨大ツールなのだと、それを見て気づく。

秋霖に黒塀似合ふ巴波川 増田 尚三
分水に孤高のさぎの秋思かな 田所 ハル
船頭の笠に沁み入る秋の雨 上松 陽子
佳き名の橋連ね巴波は水の秋 柴山 要作
竜淵に潜む欄干の鯉天見据う 熊倉 一彦
式部の実疾き流れの巴波川 橋本 晶子
えのこ草水に揺れゐる綱手道 星田 一草
秋深し橋の袂の写真館 原 美香子

荒物屋(横山郷土館)

 野州の山間地は麻の産地。その流通で財を成した横山家が文化庁登録の有形文化財となり、今に遺る。盛期は個人銀行を経営するなど一世を風靡したが、今はその遺物が展示されてあるのみだ。
 現代の麻の需要といえば、天皇家や神社の祭祀、大相撲の横綱に供されるくらいと聞く。その麻苧束が横山郷土館の上がり框の奥に鎮座している。資料としての陳列だが、高齢の俳人たちには見覚えがあるようだ。
 ほかに明治大正期の事務用機器、ゴム判セット、金庫の鍵なども個人銀行の名残りとして展示されており、なかなかの見応えである。

秋湿り畳に麻苧積み上げて 寺田佳代子
店先の長き苧舟や残る虫 秋葉 咲女
麻蔵に大正小窓後の雛 五十嵐藤重
色変へぬ松や小江戸の麻問屋 萩原 一志
身に入むや麻苧問屋の鍵の数 松本 光子
冷まじやいろは金庫の重重し 谷田部シツイ

文豪の墓碑

 栃木の文豪として名高いのは山本有三。名作「路傍の石」は戦前に一度、戦後に三度映画化されたという。筆者が小学生の時、鹿沼市立中央小学校にロケ班が来たことがあり、畳ほどもある銀色の反射板を、さしず通りに位置を変え、掲げ続けた若者の働きを鮮明に記憶している。
 山本有三の生家は、栃木市中心街に「山本有三ふるさと記念館」として遺る。その裏手の「近龍寺」には、丸々とした自然石の墓碑が手厚く守られて在り、この文豪が栃木市民に広く親しまれているのだとわかる。
 生まれは新潟だが、栃木に住んで高等女学校を卒業し、後に小説家として大成した吉屋信子もまた、栃木の生んだ文豪と言えよう。その記念碑が巴波川畔に立つ。

山本有三の墓に合掌秋さびし 中村 早苗
椿の実吉屋信子の碑のもとに 河島 美苑
文豪の言葉身に沁む文字優し 菊池 まゆ
ペンネームのままの戒名秋あはれ 星 揚子

 今回は諸事情により写真を撮ることができなかった。よってカットは下見のときに写したものです。



令和元年12月号掲載 句会報
今井星女先生感謝の会
𠮷田 智子

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 猛暑の続く九月七日、今井星女先生感謝の会を湯の川温泉ホテルKKRにて開催しました。五月より函館白魚火代表が今井星女先生から森淳子さんに替わられ、長い間代表として会員の指導にあたられた先生への感謝の気持をこめた会で、十一時より九月の例会を行い、その後会食へと移り、広瀬むつきさんの司会により先ず会員を代表して内山実知世さんが感謝の言葉を述べられました。平成七年よりの星女先生との長い俳句での付き合いのこと、句会での指導のみならずいろいろな面で勉強になったこと、毎年の全国大会での思い出などが話されました。赤城節子さんの記念品贈呈、そして函館白魚火で新鋭賞受賞の快挙を成しとげられている西川玲子さん、富田倫代さん、山羽法子さん三名による花束の贈呈と続きました。
 食事と会話を楽しみながら一人一言ずつ星女先生への感謝の気持を伝えました。それぞれの言葉は違っても各自先生への深い感謝の念が伝わるものでした。赤城節子さんの歌、喉の調子が悪いとのことでしたが、流石の美声でした。そして山越ケイ子さんの詩吟へと続き、星女先生も感激の面持ちで聞きいっておられました。
 星女先生の挨拶では、長く俳句とかかわってきたが、かつては多趣味で色々な事に関わっていて、結局俳句一本で今日にいたったこと、俳句のおかげで多くの人と知り合い、良い出合いに恵まれ、八十八才になったが今後も続けてゆくと決意を述べられました。
 新代表の森淳子さんは、阿部慧月先生、荒木古川先生、西本一都先生、そして鈴木三都夫先生との思い出話をされ、星女先生は包容力、指導力に優れ函館白魚火を引っぱってこられたが、今後は「皆仲良く続けてゆきましょう」と締められました。
 会の終りは例によって「函館賛歌」の大合唱、そして唯ひとりの男性会員の國田修司さんの乾杯の音頭で心あたたまる星女先生感謝の会も散会となりました。

 当日の会員の一句
秋空を鴉が一羽二羽三羽 今井 星女
新涼の句座に走りしペンの音 森  淳子
難聴の耳に優しき昼の虫 國田 修司
一休みするかに秋の蝶止まる 山田 千華
できうれば小さき木槿を竹篭に 内山実知世
朝露に靴先濡らしウオーキング 赤城 節子
口にして夏の暑さを楽しめり 広瀬むつき
緑蔭に集ふ帽子の白さかな 堀口 もと
空色の眼と合ふ刹那鬼やんま 富田 倫代
収穫と引き換へに刺す藪蚊かな 西川 玲子
師を囲む十五の帽子秋うらら 山羽 法子
コスモスの揺れて園児の鬼ごつこ 山越ケイ子
夏柳風の道筋なぞりゆく 澤田千賀子
ままごとめく御供への膳赤のまま 広川 くら
仕事着をつけて案山子の出番かな 𠮷田 智子
(不在投句)
翁舞ふ神前涼し大広間 佐久間ちよの
一日を大事に生きる木槿かな 安川 理江
虫の音が少し邪魔する読書かな 吉崎 ゆき



令和元年12月号掲載 句会報
群馬白魚火会小幡吟行記
天野 幸尖

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 去る六月二十五日(火)、群馬白魚火会十八名で小幡の楽山園ヘ吟行句会を行いました。当日は梅雨の合間の晴れに恵まれて歴史と風景を詠むことができました。
 小幡は群馬県西部、西毛地区に位置して、近くには世界遺産の富岡製糸場が有り近年脚光を浴びています。小幡は戦国武将、織田信長の次男信雄が徳川幕府より小幡藩二万石を与えられ、以降七代一五〇年間名君として治めました。信雄は戦国武将としては凡庸と言われていますが、文化人としては千利休、小堀遠州、古田織部と親しく交流を持ち文化人として名を馳せました。
 楽山園は、信雄が日本百名水に数えられている小幡の湧水と上州の山々を借景として二万石の小大名ながら天下の三名園にも引けを取らない大名庭園を造園しました。
 小さな城下町を、ゆっくりのんびり思い思いに吟行を楽しみました。

 当日の一句
若芝のやはきみどりやねぢの花 秀穂
野点傘吹きぬけてゆく梅雨に風 庄治
城下町つらぬく堰の濃紫陽花 都亦絵
風鐸の高みに沙羅の隠れ咲き 温子
夏燕すいとよぎれる野点傘 比呂子
緑さす水面の景を鯉崩す 百合子
夏萩や菩薩にすがる水子仏 春代
薫風や四方開けをく畳の間 ふさ子
野点傘日の斑のはづむ沙羅の花 富江
鯉跳ねて楽山園の梅雨晴間 美名代
万緑や人影に寄る鯉の群 幸子
夏椿御抹茶戴く漢かな 秋生
織田家なる栄枯の姿梅雨晴間 見城
城下町堰を色どる紫陽花 一誠
名園に宿痾忘るる梅雨晴間 仙治郎
青芝に日を遮ぎりし野点傘 志郎
借景は殿の目線や夏紅葉 幸尖


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