最終更新日(update) 2023.12.01
句会報(R5)
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令和四年栃木白魚火忘年俳句大会 令和5年2月号掲載
名古屋句会報「俳句講座」開催 令和5年2月号掲載
坑道句会十一月例会報 令和5年2月号掲載
ひひな会一泊吟行会 令和5年2月号掲載
旭川白魚火句会新年句会 令和5年3月号掲載
栃木県白魚火会新春俳句大会 令和5年3月号掲載
坑道句会 二月例会報 令和5年4月号掲載
令和五年度白魚火全国大会吟行地(札幌市)案内 令和5年5月号掲載
中村公春句集『菊の酒』上梓祝賀句会 令和5年5月号掲載
内田景子さんおめでとう会 令和5年5月号掲載
古刹峯寺を訪ねて 令和5年6月号掲載
栃木県白魚火総会俳句大会報告 令和5年7月号掲載
令和五年度群馬白魚火会総会及び句会 令和5年7月号掲載
浜松白魚火会第二十五回総会、俳句大会及び浜松白魚火会発足三十五周年記念祝賀会 令和5年7月号掲載
坑道句会四月例会報 令和5年7月号掲載
団栗の会 春の吟行 令和5年7月号掲載
東広島白魚火水曜句会吟行 令和5年7月号掲載
第五回白魚火俳句鍛錬会報告 令和5年8月号掲載
令和五年度栃木白魚火第一回鍛錬吟行会 令和5年8月号掲載
実桜句会総会・吟行報告 令和5年8月号掲載
静岡白魚火総会記 令和5年8月号掲載
令和五年度浜松白魚火会吟行記 令和5年8月号掲載
『忙中閑あり』の吟行句会 令和5年8月号掲載
群馬白魚火会村上鬼城記念館・洞窟観音・徳明園吟行 令和5年9月号掲載
自然と触れ合い歴史に思いを馳せる ― 坑道句会六月荒神谷吟行句会報 ― 令和5年9月号掲載
「石照庭園」吟行記 令和5年9月号掲載
二〇二三年夏の坑道句会報 令和5年11月号掲載
令和五年度栃木白魚火第二回鍛錬吟行会 令和5年12月号掲載

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令和5年2月号掲載 句会報

令和四年栃木白魚火忘年俳句大会

(宇都宮)田所 ハル

令和5年2月号へ 

 小春日和に恵まれ、コロナ感染症の憂さも忘れる良き日。令和四年十二月四日。栃木白魚火忘年俳句大会が、宇都宮市中央生涯学習センターを会場に開催されました。
 参加者は二十四名。当季雑詠五句出句、七句選(内特選一句選)として挙行。
 開会前にまず写真撮影。なごやかな笑顔を揃え無事終了。
 中村國司宇都宮支部長の司会。柴山要作会長のご挨拶。その後句会説明があり句会に入った。
 参加者の協力と運営スタッフの淀みない作業で清記・選句を終え、松本光子さん、五十嵐藤重さんの披講、中村國司さんの点盛結果発表と順調に進み、上位入賞一位から五位、飛び賞七位、十位、十五位、二十位、ブービー賞までと、行き届いた心遣いの賞品が授与された。
 最後に曙、鳥雲同人の方々の特選句についての講評を頂き、感慨深い思いの締め括りでした。
 令和五年白魚火新年俳句大会開催の案内、栃木県白魚火会年間合同句集(第四十三号)発行の通知書を頂き、笑顔と緊張の豊かな一日の忘年俳句大会となりました。そのことをお伝えして、大会報告といたします。
曙・鳥雲同人特選句
星田一草 特選
 北窓塞ぐ日光連山見えずなり   大野 静枝
柴山要作 特選
 七五三ひとつ日差しに祖父母居て 本倉 裕子
中村國司 特選 
 マフラーをとる時光るイヤリング 星  揚子
加茂都紀女 特選
 枯菊の日の温みごと束ねけり   松本 光子
齋藤 都 特選
 落葉踏む誰かと語り合うやうに  星田 一草
星 揚子 特選 
 七五三ひとつ日差しに祖父母居て 本倉 裕子
松本光子 特選
 裸木や句集に余白あるやうに   本倉 裕子

「今日の一句」(二十四名、五十音順)
 風邪の背を摩る小さな手に力   秋葉 咲女
 落鮎の吐息のやうな泡一つ    阿部 晴江
 ラム鍋に馬乳酒の夢大相撲    五十嵐藤重
 月命日庭の寒菊携へて      石岡ヒロ子
 菊白子朱塗りの椀のお吸物    上松 陽子
 霜柱のやうにビル立つ朝まだき  江連 江女
 苔もみぢ朽ちかけてをり開祖の碑 大野 静枝
 鐘を撞く僧ののけぞる冬の空   加茂都紀女
 鯛焼は先づかりかりの尻尾から  熊倉 一彦
 点滅の信号うるむ夕しぐれ    齋藤 英子
 しぐるるや病歴語る猫にまで   齋藤  都
 白菜のキムチ漬け込む姉妹    佐藤 淑子
 裾端折り磴百段を七五三     柴山 要作
 短日やまづ点したり厨の灯    鷹羽 克子
 三國峠上越出会ひの里神楽    田所 ハル
 煮凝のまだ四角なり五穀飯    中村 國司
 厨女の優しき味方ちやんちやんこ 中村 早苗
 顔なしの丸鶏すゑてクリスマス  奈良部美幸
 暮早し山に山影重なりて     星  揚子
 落葉踏む誰かと語り合うやうに  星田 一草
 枯菊の日の温みごと束ねけり   松本 光子
 裸木や句集に余白あるやうに   本倉 裕子
 山眠る砂利採る音の遠くして   谷田部シツイ
 咲き散りて初冬の庭の静かなり  渡辺 加代



令和5年2月号掲載 句会報

名古屋句会報「俳句講座」開催

伊藤 達雄

令和5年2月号へ 

 令和四年十一月二十日の名古屋句会は特別意義のある句会となりました。というのも第二回(平成二十八年)より句会場としている名古屋市中村生涯学習センターから、「俳句の講座を開催されては」とのお誘いにより、募集に応募された方を加えた講座句会としてはじめて開催したからです。私達も、会員を何とか増やそうと対策を模索していたこともあり、よいタイミングとなりました。檜垣会長はじめ全員で三回の講座の内容、進行、パンフレット等を検討し、今回の兼題「冬紅葉」と共にセンター内にポスターとして掲示しました。内容等は別掲のとおりです。
 参加登録は会員の熱心な呼びかけもあり、六名と想像以上でした。当日は浜松から鳥雲集選者の渥美絹代先生と渥美尚作さんも駆けつけてくださり、大変盛り上がりました。初参加の方々(一名は急な体調不良により欠席、一名は欠席投句)は人生経験に富まれ、とても素晴らしい句を出されました。渥美先生は一句一句に丁寧な評をなされ、辞書による語句の確認等選句を通じてご教授頂きました。初参加の方々も入選句、秀句、特選句等に選ばれ、名乗りを上げる度に感嘆の声が上がっていました。今回は初参加の方々の両隣に会員が座り、個々の不明な点に対応しました。
 銀杏並木の見事な黄葉を見つつ、第一回目の講座は楽しく成功裏に閉じました。初参加の方々からは「こんなに丁寧に教えていただけるとは想像していなかった」「俳句ってすごく楽しいですね」等の感想が寄せられました。渥美先生をはじめとして会員諸氏のご尽力に感謝すると共に、名古屋句会が益々発展していくことを願ってやみません。
  一句抄
笹鳴や的を大きくそれたる矢   渥美 絹代
蕎麦の花明治の二階建校舎    渥美 尚作
食パンで消すデッサンや冬雀   檜垣 扁理
ポケットに古きレシート冬はじめ 安藤 春芦
鳥の声聞きつつ竿に柿吊す    伊藤 妙子
冬紅葉賽銭箱にふはり落つ    伊藤 達雄
軒先の鋸の音聞く小春かな    大塚 知子
祖母と二人遠いあの日の日向ぼこ 兼松和加予
膝抱いて障子明かりに聴く法話  後藤 春子
父植ゑし蜜柑たわわに実りけり  白井 幸雄
沢音の幽かにとどく冬桜     野田 美子
仁和寺にまだ残りたる冬紅葉   前田 泰子
一生は五枚の戸籍冬紅葉     牧野 敏信
ふと拾ひ陽に翳したる冬紅葉   前野 砥水
バリトンの流るる窓辺冬紅葉   三宅 玲子
反応なき指紋認証文化の日    吉村 道子



令和5年2月号掲載 句会報

坑道句会十一月例会報

榎並 妙子

令和5年2月号へ 

 コロナ収束もままならない昨今ですが、十一月二十八日(月)に五か月ぶりの吟行句会が行われました。皆さんご都合もあり、今回は十三名の会員が集いました。小春の雲一つない青空の下、紅葉が一際映え、まさに吟行日和でした。
 参加者は、江戸時代からの面影を残す木綿街道と六百本の桜をはじめとするたくさんの樹木に囲まれ、動物広場、ちびっこ広場や展望台、スポーツ施設、古川句碑などのある平田市民の憩いの場所である愛宕山公園周辺をそれぞれに吟行しました。
 木綿街道は、渋塗りの壁や格子戸が冬日を浴びてきらきらと鮮やかでした。門ごとに竹筒に棉の木が飾られ、道行く人を歓迎しています。三百年続く生姜糖屋、酒屋、醤油屋などが並ぶ昔の風情ゆたかな街並をゆっくり歩きました。
 出雲地方の木綿は此処に集まり、船で松江など他の地方に運ばれたそうです。こうして話を聞きながら、熱心に吟行されている句友の瞳は輝いています。
 愛宕山公園には、世界一大きな兎がいて珍しく、ほかにカンガルーや驢馬、ポニー、山羊、鹿などの動物やいろんな鳥もいて、休日はちびっこを中心に賑わっています。池には鴨が戯れ、グラウンドゴルフの球の音も聞こえてきます。そして、四季折々の樹木の景が美しい句碑が丘は、沢山の人が足を運ばれ、俳句ができない時は、「古川句碑に行く」って良く耳にしました。
 吟行の後の句会は、JAしまね平田中央支店会議室。皆さんの素晴らしい作品が投句され、句会は盛り上がりました。残念ながら参加者数は少なかったのですが、熱気にあふれる、楽しい有意義な句会となりました。

 渡部美知子特選 
深秋の色を背にして古川句碑   荒木千都江
落葉踏み母校へ長き坂登る    三原 白鴉
一輪のもの言ひたげな返り花   荒木千都江
まろき腹つらね白鳥低く翔ぶ   牧野 邦子
山の池さざ波連れて白鳥来    杉原 栄子

 荒木千都江特選
晩じるの句碑へ落葉の散り止まず 三原 白鴉
船川のゆるりと流る小六月    井原 栄子
木綿街道川面に映す木守柿    久家 希世
樗の実声良き鳥の一羽来て    三原 白鴉
山眠る師の句碑いよよ鎮もれり  生馬 明子

 久家 希世特選
冬うらら園児の声や古川句碑   榎並 妙子
かけだしは昔の名残山眠る    大菅たか子
小春日の赤い格子戸町の蔵    生間 幸美
吟行はおにぎり二つ冬日和    生馬 明子
枇杷の花木綿街道倉の街     大菅たか子

 生馬 明子特選 
白壁の屋号のうすれ枇杷の花   原  和子
山の池冬空映し日矢映す     杉原 栄子
寒雀枝折れさうに固まりて    持田 伸恵
湖の傍過ぐれば晴るる冬の霧   牧野 邦子
まろき腹つらね白鳥低く翔ぶ   牧野 邦子

 牧野 邦子特選 
芽水仙すくと伸びたり古川句碑  原  和子
船川のゆるりと流る小六月    井原 栄子
奥津城を囲む石柵竜の玉     三原 白鴉
白鳥の首を自在に羽繕ひ     井原 栄子
白壁の屋号のうすれ枇杷の花   原  和子

 当日の高得点句
八点
船川のゆるりと流る小六月    井原 栄子
白壁の屋号のうすれ枇杷の花   原  和子
船川へ白を散らせり枇杷の花   渡部美知子
七点
晩じるの句碑へ落葉の散り止まず 三原 白鴉
樗の実声良き鳥の一羽来て    三原 白鴉
六点
かいつぶり潜る水輪と浮く水輪  荒木千都江
吟行はおにぎり二つ冬日和    生馬 明子
まろき腹つらね白鳥低く翔ぶ   牧野 邦子

 当日の一句抄(氏名五十音順)
深秋の色を背にして古川句碑   荒木千都江
一葉落つ追ひかくるごとまた一葉 生馬 明子
小春日の赤い格子戸町の蔵    生間 幸美
船川のゆるりと流る小六月    井原 栄子
青空につんと尖りて冬木の芽   榎並 妙子
枇杷の花木綿街道倉の街     大菅たか子
草の絮ふはりふはりと古川句碑  久家 希世
格子戸の木綿街道冬日差す    杉原 栄子
芽水仙すくと伸びたり古川句碑  原  和子
白魚火誌の表紙の街や新酒の香  福間 弘子
湖の傍過ぐれば晴るる冬の霧   牧野 邦子
晩じるの句碑へ落葉の散り止まず 三原 白鴉
寒雀枝折れさうに固まりて    持田 伸恵
船川へ白を散らせり枇杷の花   渡部美知子



令和5年2月号掲載 句会報

ひひな会一泊吟行会

田久保 峰香

令和5年2月号へ 

 九月二十三日に「西九州新幹線かもめ号」が開業したのを機に「ひひな会」は十月二十七日、二十八日の一泊吟行会を行った。武雄温泉駅から長崎駅までの日本一短い新幹線の旅となった。長崎は唐寺が多く、先ず竜宮城を思わせる朱の楼門の崇福寺と興福寺を訪ねた。境内には旧唐人屋敷門、極彩色の媽祖堂、朱塗の鐘鼓楼等、朱の建物の明るさと時代の重さを感じた。坂の多い寺町通りを後に、現存最古の眼鏡橋へ。小春日和を貪るように橋の多さを見ながらひと時を過ごした。中華街は車の中から見て孔子廟へ。ここは広大な敷地に、孔子の高弟七十二賢人の石像が並んでいて圧巻であり、まるで異国にいるような気分だった。ここまでで吟行を終え、佐賀の嬉野温泉泊となり、宿に着くや早速句会となった。句会の後はゆっくり食事会。お酒も入り楽しいひとときを過ごした。嬉野温泉の美肌の湯で一日の疲れを癒し、久々の一泊旅行となった。
  吟行句
梵鐘のかたき錠前枇杷の花 すみれ
唐寺のベンガラ格子紅椿
藤袴冬も咲かせて崇福寺  史都女
大釜の蓋も大きよかじけ猫
仏具店並ぶ寺町冬紅葉   みち女
唐寺の赤き楼門枯蓮
がまずみや寺町通り坂の町 千 波
狛犬の舌出す冬の竜宮門
寺町に多き仏具屋石蕗の花 ひろ女
禅寺の竹の結界冬椿
冬の薔薇オランダ坂の石畳 瑞 枝
大鍋の錆一色や冬の鵙
長崎は坂多き街柳散る   峰 香
茶の花や古井の蓋の真新し



令和5年3月号掲載 句会報

旭川白魚火句会新年句会

(旭川)吉川 紀子

令和5年3月号へ 

 去る一月十四日(土)、旭川白魚火会の新年句会が市内の「雪の美術館」近くにある「扇松園」において行われました。
 コロナ禍もあり、広いお部屋を用意してくださり、アンティークな雪見窓からはライトアップされた日本庭園が見られ、灯籠や庭石、木々達にこんもりと雪が積もった雪景色を見ながらの句会となり、まさに新年句会にふさわしい会場で、皆さん大喜び。この日は、九名の参加で、淺井まこと、ゆう子夫妻の子、文人君も参加してくれ、みんなに笑顔を振りまきながら、駆け回ったり、早知さんと一緒に遊んでくれたり、時々、ママのおっぱいを吸いに来たりと、自由に楽しんでくれました。
 句会は、五句出句で、作品は新年らしい句が勢揃い、中でも峯子さんの「初湯の子爪の先までさくら色」が断トツで、まさにこの日の文人君を思わせる句で大盛り上がりでした。
 句会後、男性陣はお風呂に入り、女性陣は、おしゃべりタイム。全員揃ったところで、記念写真をとり、宴会に入りました。次々に運ばれる美味しいお料理に舌鼓をうち、和気あいあいの楽しいひと時を過ごしました。最後に平間代表から、今年の札幌大会への参加の呼びかけなどがあり、改めて気の引き締まる新年句会となりました。

平間純一代表 特選
初湯の子爪の先までさくら色    萩原 峯子
褻も晴れも常の身なりや初雀    萩原 峯子
穴釣や湖底に眠る人柱       沼澤 敏美

吉川紀子 特選
化粧塩光らせてゐる睨み鯛     小林さつき
初湯の子爪の先までさくら色    萩原 峯子
元朝や呼吸の音だけ聞こえ来る   淺井まこと

当日の一句(五十音順)
誰も皆子どもであつた初御空    淺井まこと
人日や魚のやうに父子眠る     淺井ゆう子
茶室いま声の弾みし初稽古     今泉 早知
読初のその一冊を選びかね     小林さつき
愛づるもの雪に埋もれてしまひけり 沼澤 敏美
年取や百まで生くるつもりなり   萩原 峯子
一喜一憂箱根駅伝雪籠       平間 純一
明の春稚の主張のトーキック    望月よしよし
連山の雪を染めゆく初茜      吉川 紀子



令和5年3月号掲載 句会報

栃木県白魚火会新春俳句大会

上松 陽子

令和5年3月号へ 

 正月飾りがちらほらと残る一月八日(日)、宇都宮市中央生涯学習センターで開催された。今回は、句集「膝抱いて」を上梓された星揚子氏の祝賀の時が設けられた。花束、記念品の贈呈後、星田一草、柴山要作、齋藤都各氏から祝辞と星氏の三十七年間にわたる作句活動のエピソードなどが披露された。星氏の謝辞でセレモニーを終了。句会は、二十四名の参加、五句出句、百二十句から十句選(うち二句特選)とし、成績上位者と特選には、賞品が授与された。
 役員の特選句と今日の一句は以下の通り。
星田一草 特選
白菜を洗ふ豊かな水の音     秋葉 咲女
少年のピアノの調べ二日かな   齋藤 英子
柴山要作 特選
乳母車押して一家の御慶かな   上松 楊子
年の酒三年分の話して      本倉 裕子
加茂都紀女 特選
初日さす手入れ届きし庭深く   大野 静枝
足音の追ひ越し際の白き息    星  揚子
齋藤 都 特選
連山の白銀光る初景色      齋藤 英子
叶ふまで変はらぬ誓ひ初日の出  中村 早苗
星 揚子 特選
「膝抱いて」の句集を膝に読始  江連 江女
着水の水脈ながながと小白鳥   谷田部シツイ
熊倉一彦 特選
片耳の少しくづれて雪兎     菊池 まゆ
乳母車押して一家の御慶かな   上松 陽子
本倉裕子 特選
嫁求む絵馬うらがへる若日かな  菊池 まゆ
大根を切干にする風を待つ    齋藤  都
秋葉咲女 特選
輪飾のひとつは夫の杖に掛く   江連 江女
足音の追ひ越し際の白き息    星  揚子
阿部晴江 特選
凧揚のびゆんと音立て向き変はる 星  揚子
神殿の崩れのごとき霜柱     中村 國司
大野静枝 特選
元日やいつもの犬の通り過ぐ   本倉 裕子
白菜を洗ふ豊かな水の音     秋葉 咲女
渡辺加代 特選
蒼穹へほのと紅差す冬木の芽   星田 一草
大らかに羽撃の音や初鴉     秋葉 咲女
中村國司 特選
やあやあと名乗り上げたる初鴉  星  揚子
大根を切干にする風を待つ    齋藤  都
松本光子 特選
凧揚のびゆんと音立て向き変はる 星  揚子
近づきて見慣れぬ形初筑波    本倉 裕子

当日の一句(五十音順)
白菜を洗ふ豊かな水の音     秋葉 咲女
面取れば朝日差し入る初神楽   阿部 晴江
若水の含む一口甘さあり     石岡ヒロ子
乳母車押して一家の御慶かな   上松 陽子
輪飾のひとつは夫の杖に掛く   江連 江女
七草のさだかならねど七日粥   大野 静枝
真青なる空賜りし初詣      加茂都紀女
嫁求む絵馬うらがへる若日かな  菊池 まゆ
どかどかと子らの足音福寿草   熊倉 一彦
数へ日の子は滑り台きりもなし  齋藤 英子
小鋏に鈴つけ直す寒の入     齋藤  都
氏神の鳥居に磴に淑気満つ    佐藤 淑子
白鳥とふ無垢なる百花遠筑波   柴山 要作
冬夕焼バックミラーの枠の中   杉山 和美
故郷の山河あまねく初明り    鷹羽 克子
年用意済んで一献そばの膳    田所 ハル
円仁の見し白鳥の嬥歌かな    中村 國司
叶ふまで変はらぬ誓ひ初日の出  中村 早苗
凧揚のびゆんと音立て向き変はる 星  揚子
蒼穹へほのと紅差す冬木の芽   星田 一草
神牛のおん身つややか初日影   松本 光子
近づきて見慣れぬ形初筑波    本倉 裕子
着水の水脈ながながと小白鳥   谷田部シツイ
淑気満つ天狗の里の大鳥居    渡辺 加代



令和5年4月号掲載 句会報

坑道句会 二月例会報

三原 白鴉

令和5年4月号へ 

 令和五年二月二十七日(月)、出雲市十六島町、北浜町周辺を吟行する坑道句会二月例会を開催しました。
 島根半島は、「出雲國風土記」において、 「紫菜(のり)が生える。紫菜は楯縫郡が最も優れている。」とあるように、奈良時代から海苔の産地として知られており、なかでも楯縫郡(旧平田市の辺り)の海苔、就中「十六島海苔」は品質が高く、古くから朝廷、幕府にも献上され、茶人大名として有名な松江藩七代藩主松平不昧は、十六島海苔で作った裃を着けて江戸城に登城し、それを千切って居並ぶ大名にふるまい驚かせたり、また出雲大社の御師が御札と共に十六島海苔を配り、信仰普及に当たったことなどから、全国的に名が通った産物となり、歳時記にも「十六島海苔」が季語として載っています。


崖下の岩場に作られた海苔島

今回の吟行は、白魚火同人であり、十六島海苔の生産者である樋野美保子さん、峯夫さんご夫妻の海苔加工場を訪れ、見学しながら峯夫さんから海苔の採取や加工についてお話を伺いました。峯夫さんは代々海苔島を所有する「島持ち」で、「島子しまご」と呼ばれる海苔搔人を何人も抱え、海苔の採取、加工、販売を行っている方です。


海苔について説明する樋野峯夫さん

 十六島海苔の採取期は、十二月初旬から二月末頃までで、海苔島と呼ばれる海崖下の波食棚の岩場を平らに整備した場所に波が運んでくる海苔の胞子が付着し、成長したものを手で搔き取って、簀に薄く広げて干し、製品にされます。海苔採取の初期に採れる海苔は、繊維が女性の髪のように長く、「かもじ海苔」と呼ばれる高級品で、峯夫さんによれば、不昧の裃も何枚もの海苔を貼り合わせて作ったものではなく、岩から剝ぎ取った一枚の大きなかもじ海苔から作られたとのことです。
 当日は風もなく海も穏やかで絶好の採取日和ではありましたが、海苔採取期間の最末期ではるか岬の先端部だけで摘み取りが行われており、残念ながら採取の光景は身近に見学できませんでした。
 加工場では、海苔島で摘まれたばかりの海苔、かもじ海苔加工用の九十センチ×六十センチ大の大きい巻簀や採取期後半に加工するA四を一回り大きくした大きさの漉簀と漉き桁、簀に貼った海苔を乾燥させるための竹幹の棚、乾燥途中の海苔簀などを峯夫さんの説明を聞きながらじっくりと見学することができました。


海苔簀に干される海苔

 樋野さんの加工場を辞したあと、十六島漁港での大敷漁の水揚げや湾の光景、北浦集落の佇まいなどを各自吟行しながら、午後からの句会の会場であるJAしまね出雲北浜店会議室へと移動し、句をまとめつつ昼食を取り、午後零時半出句締切り、一時から句会となりました。
 当日の句会参加者は、荒天による日程変更の影響などもあって、十二名と前回に続き少人数となってしまったものの、加工場に立てかけられた海苔簀に乾きゆく海苔の様子や漁港の水揚げの様子などを描いた佳句が沢山発表され、熱気に溢れた充実した句会となりました。
 最後に、幹事の原和子さんから、この三年はコロナウイルスのため、満足に開催できない状況が続いたが、ようやくコロナウイルス感染状況も落ち着きを見せ、感染症法上の取り扱いも五月から第五類となり、活動しやすくなるので、新年度からは以前のように定期的に開催していきたい旨が述べられ、句会を終わりました。

選者特選句
 荒木 千都江特選
潮風に干さるる海苔簀香を放つ   井原 栄子
水平線丸く膨らむ春の海      井原 栄子
漉き紙の如く干さるる海苔簀かな  福間 弘子
海苔小屋を抜くる潮風十六島    原  和子
身を反らし海風に海苔乾きけり   三原 白鴉

 久家 希世特選
浦人の竹筒に汲む春の潮      三原 白鴉
沖船のしきりに光る春の海     荒木千都江
春潮にゆらぐ磯菜のあをあをと   牧野 邦子
漉き紙の如く干さるる海苔簀かな  福間 弘子
東風吹くや帰る漁船の招き旗    榎並 妙子

 生馬 明子特選
宝石のやうな玻璃片磯遊      三原 白鴉
海風のやさしき音や木の芽晴    榎並 妙子
海見ゆる畑を小さく耕せる     牧野 邦子
一湾を吹き来る風や海苔乾く    牧野 邦子
水平線丸く膨らむ春の海      井原 栄子

 三原 白鴉特選
立て掛けて海苔簀百枚透きとほる  原  和子
一湾を吹き来る風や海苔乾く    牧野 邦子
海光のとどく学舎木々芽吹く    原  和子
海透けてさゆらぐ若布見えにけり  井原 栄子
海苔の岩打ちては湾の波あそぶ   荒木千都江

 牧野 邦子特選
立て掛けて海苔簀百枚透きとほる  原  和子
ひたすらに海を眺めて二月尽    榎並 妙子
宝石のやうな玻璃片磯遊      三原 白鴉
海光のとどく学舎木々芽吹く    原  和子
早春の海風に身を晒しけり     荒木千都江

 当日の高得点句
十点
立て掛けて海苔簀百枚透きとほる  原  和子
八点
水平線丸く膨らむ春の海      井原 栄子
漉き紙の如く干さるる海苔簀かな  福間 弘子
六点
早春の海風に身を晒しけり     荒木千都江
潮風に干さるる海苔簀香を放つ   井原 栄子
ひたすらに海を眺めて二月尽    榎並 妙子
海風のやさしき音や木の芽晴    榎並 妙子
海光のとどく学舎木々芽吹く    原  和子
河下港を透かしてのぞむ海苔簀かな 山本 絹子

当日の一句抄(氏名五十音順)
早春の海風に身を晒しけり     荒木千都江
春の潮テトラポッドを歌はせて   生馬 明子
水平線丸く膨らむ春の海      井原 栄子
海風のやさしき音や木の芽晴    榎並 妙子
海苔摘みも今日で終りと惜しむ声  大菅たか子
澪標流れ和布の光りけり      久家 希世
海底の砂にひかりの届き春     小澤 哲世
トロ箱に並ぶ津走つばすの海の色     原  和子
漉き紙の如く干さるる海苔簀かな  福間 弘子
一湾を吹き来る風や海苔乾く    牧野 邦子
海に裾落とし岬の山笑ふ      三原 白鴉
海苔掛くる竹の節々なめらかに   山本 絹子



令和5年5月号掲載 句会報

令和五年度白魚火全国大会吟行地(札幌市)案内

(札幌) 高田 喜代

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○大通公園
 交通 地下鉄南北線・東西線・東豊線 大通駅下車

 大通公園は東西に約一・五キロメートル、テレビ塔がある西一丁目から西十二丁目まで続いています。石川啄木や吉井勇の歌碑、有島武郎文学碑など探して歩く楽しみもあります。


大通公園

 西十三丁目には「札幌資料館」があります。ここは、札幌控訴院として建てられたもので、現存する控訴院は、ここ札幌と名古屋だけだそうです。
 内部は復元された法廷の他、おおば比呂司記念室、ミニギャラリー室等があり、ステンドグラスの窓など見所があります。


札幌資料館
月曜日休館。無料

○時計台 旧札幌農学校演武場
 国指定重要文化財
 観覧料 大人二百円

 明治十一年クラーク博士の構想に基づき演武場として建設、三年後に時計塔が付設されて以来、時計台と呼ばれています。日本最古の機械式時計で、百三十年以上にわたり時を刻み続けています。
 二十年近くメンテナンスを担当している技術者が、毎朝九時十五分から時計台の重りの巻き上げの実演、時計の仕組み、時計台の構造などについて解説をしています。


時計台(旧札幌農学校演武場)

○北海道庁旧本庁舎(赤レンガ庁舎)
 国指定重要文化財

 米国マサチューセッツ州議事堂をモデルに明治二十一年建設、赤レンガ庁舎と呼ばれ親しまれています。残念ながらリニューアル工事中で、内部は見学ができないですが、前庭の見学は可能です。また、工事中の庁舎を覆う素屋根三面に赤レンガ庁舎の外観を印刷した転写シートが張り巡らされる予定で一見の価値ありです。


赤レンガ庁舎

 また、道庁の西側に国内最初の近代植物園として明治十九年開園の「北大植物園」があります。敷地は約十三ヘクタール、原生林、灌木園、季節の草木や花、博物館などがあり、園内散策ルートとして四十五分と九十分のコースが園内マップに載っています。


北大植物園博物館本館
入園料 四百二十円 月曜日休園

○北大キャンパス
 札幌駅から北へ徒歩十分程に北海道大学があります。明治九年に札幌農学校として誕生、東京ドーム三十八個分の広大なキャンパスは「エルムの森」と呼ばれ、初代教頭クラーク博士の銅像が迎えてくれます。
 北大のシンボル的存在であるポプラ並木は二つあり、南北に伸びる「北大ポプラ並木」と第一農場に隣接した東西に伸びる「平成ポプラ並木」があります。また、北十三条通りと呼ばれる三八〇メートルの道路にある約七十本の銀杏並木の黄葉も圧巻です。
 構内の北端には重要文化財の札幌農学校第二牧場があり、北海道最初の畜産経営の実践農場として明治十年に開設されました。
 ここから徒歩十分で地下鉄南北線北十八条駅があり札幌駅に戻ることが出来ます。

○中島公園
 交通 地下鉄南北線 中島公園駅下車

 都心部の緑の空間で、入口から五分程で小堀遠州ゆかりの茶室「八窓庵」があります。
 また、明治十三年北海道開拓使直営の洋風ホテルとして建設され、皇族や政府高官が宿泊した「豊平館」があります。柱や窓枠にウルトラマリンブルーを使用した白と群青の鮮やかな外観、館内は漆喰を盛り付ける伝統的技術で作られた天井中心飾、シャンデリア、赤い絨毯の階段など高級感溢れる造りです。


中島公園豊平館

 中島公園の紅葉は十月中旬~下旬が見頃で、特に公園入口の銀杏黄葉は一見の価値ありです。園内には「菖蒲池」があり、紅葉と池、まさに句材の宝庫です。

○北海道神宮
 交通 地下鉄東西線 円山公園駅下車

 三番出口より西へ徒歩五分の円山公園入口より八分程で神宮拝殿に到着します。
 明治二年「開拓民の心の拠り所に」として明治天皇の勅旨により開拓判官島義男が円山に、神社としては珍しい北面の建て方で建立されました。豊かな森の四季の中、花見、七五三、初詣など道民の暮しを見守ってくれています。手つかずの原生林が残る円山の麓にあって野鳥も多く、リスや北キツネといった野生動物の姿も見掛けられます。
 緩やかな道を登ると十五分程で「円山動物園」に到着します。

○さっぽろ羊ケ丘展望台
 交通 地下鉄東豊線 福住駅下車、
 バス「福84羊ケ丘線」約十二分
 福住駅からタクシーがおすすめ
 入場料 大人五百三十円

 クラーク博士の立像で有名な、さっぽろ羊ケ丘展望台は、札幌市街地や石狩平野を一望出来る緩やかな丘の上にあります。


羊ケ丘展望台クラーク像

 羊が牧草を食む牧歌的風景の中、クラーク博士の像と一緒のポーズで記念撮影はいかがですか。


羊ケ丘展望台の羊の群

○狸小路商店街・札幌二条市場
 交通 地下鉄南北線すすきの駅 徒歩三分
    市電 狸小路駅 徒歩一分

 南二条西一丁目から七丁目にかけての約九百メートルの全蓋アーケードに約二千軒の商店が犇めくのが狸小路で、一丁目側に隣接する十五軒ほどの鮮魚店などが二条市場です。
 両方とも明治初期から約百五十年もの歴史があり、近年だいぶ新しくなったとは言え、句材には事欠かないと思います。


狸小路商店街

 以上、札幌市内を中心にご紹介をしました。何といっても観光名所盛りだくさんの北海道。
 時間にゆとりのある方は少し足を伸ばして小樽観光、あるいはまた、ゆっくり温泉に入りながら紅葉見学の定山渓もおすすめです。
 冬を間近に美しく彩られた景色に浸って下さい。ただ寒くなりますのでコート、マフラー、手袋等防寒対策をお願いします。



令和5年5月号掲載 句会報

中村公春句集『菊の酒』上梓祝賀句会

小林 さつき

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 令和五年一月、公春さんの句集『菊の酒』が上梓されました。旭川白魚火一同でこれをお祝いをしようと、三月十一日祝賀句会を開催しました。会場は、公春さんが幼い頃からお世話になったという旅館扇松園。

 祝賀会の前にまずは祝賀句会です。みなさんやはりお祝いの句が目立ちました。

参加者の一句
桜まじ妻と言祝ぐ『菊の酒』     純 一
亀鳴くや内緒ないしよと聞こえくる  紀 子
雑事すて独りなりたく雪を搔く    公 春
みちのくの恋女房と春を酌む     布佐子
ハミングをしつつ木々の芽ふくらみぬ 香都子
春昼や束の間なれどうとうとと    早 知
子育ても看取りも終へて朝寝かな   峯 子
雪解けの大河のやうな句集かな    さつき
約束をひとつ増やして卒業す     敏 美
生まれきたことに拍手す春の星    まこと
ものの芽や学ぶよろこびある暮らし  ゆうこ

 句会が終わり、祝賀会となりました。句会からお祝いの花籠を贈呈し、記念撮影。そして、句集『菊の酒』の中から一人一句ずつ選んで感想を述べ合うことに。聞いている公春さんは面はゆいようでしたが、もうみんな言いたいことがたくさんあって、付箋だらけの句集を片手に大盛り上がりでした。

 以下は、出席各人の一句鑑賞要約です。

句集『菊の酒』より一句鑑賞

○平間 純一
 一升瓶転がる部屋の四日かな
 十六歳も年上の奥さんの認知症もだいぶ進み、毎日のおさんどんや掃除なども熟達する作者だが、たまには酒を食らって休みたくもなる。男の矜持を自負する作者にとっては、決して恋女房には当たりたくない。
 蝦夷ぐらしふるさと恋しさくらんぼ
 奥さんの故郷は山形庄内。北海道へ連れ戻った男の意地もあったのだろう。
○吉川 紀子
 道すがら妻の土産に土筆摘む
 愛妻に土筆を摘んで帰るなんて、やさしい少年のような、瑞々しい初々しいお二人の関係、羨ましい限り!長野に吟行旅行した折、四葉のクローバーを一心に背をかがめて探す姿、まさに少年の心を失わない公春さんの姿が目に焼き付いています。
○三浦香都子
 わが手見て触れて勤労感謝の日
 何事にも一途な日々を過ごされてきた作者。この日は久しぶりにゆっくり自分の歩んで来た道を振り返る事が出来た。「わが手見て触れて」と季語との取合せに作者の万感の思いが込められている。
○小林布佐子
 我が姓も同じなかむら草田男忌
 上質な俳諧味があり、深く惹かれました。ゆったりと詠む等身大の公春さんが感じられました。
○今泉 早知
 妻は書を吾は句作の良夜かな
 秋の清々しい良夜に、奥様は書を、公春さんは句作されている…。ほんのりと心温まる句だな、と思いました。
○萩原 峯子
 夫婦円満なり人肌の温め酒
 「夫婦円満なり」とはっきり宣言して気持ちが良い。夫婦も歳を重ねると熱々の若夫婦とは違い、穏やかな関係になっていく。「人肌の温め酒」がその様子を表していると思う。温め酒を酌み交わしお互いの無病を願う、穏やかで優しい円満の様子が伝わって来る。十九音の破調の句だが違和感がない。
○沼澤 敏美
 車座に廻す薬缶の温め酒
 公春さんの句は酒に始まり酒に終わると言っても過言ではない。私も酒飲みであるから「酒」の句に感銘を受ける。掲句は飯場暮らしの一コマを切り取った句だ。私も五十年前頃に現場で仕事をしたことを思い出す。薬缶に二升の酒を放り込みガスで燗つけをするが、熱いと怒られた。春先に成吉思汗とアイヌ葱を食したことを昨日のように思い出す。
○望月 吉々
 駄句といへいとしきものよ春の月
 世界一短いポエムに盛り込みきれなかったり、気の利いた言い回しを思いつかなかったり、なかなか思うように作句できないですね。でも、愚句だ駄句だと言われても、作った句には愛着がわくものです。掲句はそれを素直に詠んでおり、共感しました。
○淺井まこと
 夢を追ひ夢で終はりぬ四月馬鹿
 年度替わりの四月に昔の夢を思い出している。「夢」の句は多くあるが、その「夢」を「四月馬鹿」と笑い飛ばし、今を否定せず受け入れている。夢で終わっていなかったら、今はきっとなかったのだろう。自分に起こったこと全てを受け入れている深い度量を感じる句だ。
○淺井ゆうこ
 雪解風純と言はれて古希を過ぐ
 この句が出来るまでに三つの関門があるように思う。まず、ひとから「純」と言われる男かどうか。次に、そう言われたことを認められるかどうか。そして「純と言われたんだけど、どうなんだろうね」と、あっけらかんとひとに言えるかどうか。きっとどこかで、飾ったり照れたりしてしまう。或いは誤魔化してしまうかもしれない。公春さんの、こだわらない、こせこせしない、駘蕩たる男らしさがとてもよく出ている、さっぱりと明るい句である。
○平  春奈
 ポインセチア抱へて男バスの中
 公春さんの句には物語があるというか、自分では体験し得ないストーリーを見られるのが好きです。この男がどんな気持ちでいるのか気になります。
○小林さつき
 男とは死ぬまで男冬芒
 『菊の酒』の中には確かにお酒の句が多い。それとともに「男」という言葉もまた目につく。それから浮かび上がるのは「冬芒」のように、北風に耐え雪に耐えて立っている姿。折々感じる公春さんの男気、それが凝縮された一句と思う。

 祝賀会の頃には最年少参加者の文人君もおしゃべりしたり歌ったりして参加してくれ、公春さんは幼馴染の扇松園の女将さんとも思い出話が尽きないようで、楽しい、うれしい会になったことを本当に喜んでいます。



令和5年5月号掲載 句会報

内田景子さんおめでとう会

篠原 凉子

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 内田景子さんの白魚火賞受賞のお祝いに日本の滝百選に選ばれた、唐津市相知町の見帰りの滝近くの河津桜など滝周辺へ吟行しました。河津桜は、満開で身も心も引き込まれそうな美しさでした。又はらはらと舞う花びらのなんとも言えない風情に心癒されました。水面を流れる花筏にも見入りました。
 見帰りの滝は落差百米、この落差は九州一を誇り、男滝、女滝の二つの流れが途中屈折しながら滝壺に落ちていて、お互いの話声も聞こえません。滝周辺には、滝不動、鯉供養塔等があり、瀬戸布川氏の「萬綠に白一筋の滝遠さ」、の句碑が建立されていました。
 滝茶屋に、投句箱がありましたので、皆それぞれに投句もし、夕日を見ながら、滝を後にして、内田景子さんの、白魚火賞受賞、祝賀会場に向かいました。まず史都女先生のお祝の言葉に続いて、景子さんのご挨拶、花束贈呈、句会があり、おいしい御馳走に舌鼓、和気あいあいと楽しい一時を過ごしました。私達の句会より受賞された内田景子さんを、誇りに思います。おめでとうございます。
 心よりお喜び申し上げます。

 吟行句
つくしん坊昔もいまも大家族    景 子
夕桜ふたりの距離の縮まりぬ
蒼天を河津桜のそめてをり     凉 子
夕映えて男滝女滝のいきほひぬ
白木蓮の咲き満ちはやも散りはじむ 絵美子
残春のひととき滝を見上げたる
花人となりて小さき橋わたる    史都女
猫柳かなり老いても猫柳
茎立の夕日を浴びて茎伸ばす    幸 子
滝水を手にのせ自撮りする少女
花の宴グラスワインに少し酔ふ   春 苑
花筏組みなほしては川下る



令和5年6月号掲載 句会報

古刹峯寺を訪ねて

大東笹百合句会 原 みさ

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 今年は桜の開花宣言が殊の外早く、ここ雲南の名所が桜一色に染まったのを機に三年振りに吟行句会を計画した。
 四月一日十時、JR出雲大東駅に集合。折しも一日から始まった奥出雲トロッコ列車「おろち号」がホームに到着し、近隣の撮り鉄や親子など鉄道フアンで賑わっていた。
 しかし私達の目指すのは雲南市三刀屋町にある古刹の峯寺である。総勢八名の句友は用意されたジャンボタクシーに乗り込み、さくら名所百選の木次の町を素通りして一路三刀屋町へ直行した。
 目的地峯寺は、三刀屋町の山腹にあり、西暦六五八年役小角開創と伝わる真言宗の札所寺である。木洩れ日の九十九折の急坂を峯寺の山門までタクシーで登って行くと、仁王像が勇猛威嚇の形相で私達を迎えてくれた。
 境内には満開の桜が数十本。本堂、鐘楼、献灯台、水子地蔵、慈母観音、護摩堂、丸ポスト、御手洗、池等々が吟行場所に相応しく点在していた。
 句会場の「峯寺遊山荘」まで五百メートルの寺領をそぞろ歩きしながら散策。途中は鬱蒼とした杉の小径であったが、山々の木々が芽吹き、私達は囀りを聴き、藪椿、木蓮、みつばつつじ、連翹、雪柳、木瓜、山桜等々沢山の植物に魅了され、春の息吹を感じながらの楽しい吟行となった。
 予定通り十一時三十分山荘に到着。山荘周辺には、雑草の中に一人静や翁草等の山野草が自生しており、感動の連続であった。山荘での昼食は山菜料理。楤の芽、筍、蓬、芹等の食材は定番であるが、椿の花の天婦羅はみんな初めてであり、女性ばかりの句会に相応しく料理談義もまた楽しい雰囲気であった。
 一時より句会を始め三時終了。窓外の櫟に設置された巣箱も珍しく、自然満喫の一日はあっという間に終わった。

 当日の作品
花の寺呵々大笑の布袋像   佐藤 愛子
山荘の視界に望む花の町
千年の堂宇を包む春の森   藤原 益世
槙の木の高きに傾ぐ巣箱かな
木の椅子に七つ八つの落椿  岩間 澄子
見はるかす町一望の春霞
参道の百の地蔵や山つつじ  朝日 幸子
木瓜の花ひときは映ゆる庫裡の庭
駅舎いま憩ふ場となり花万朶 山根 弘子
花吹雪トロッコ列車に子等の声
初蝶の不意に現はる仁王門  森脇 あき
春落葉古刹の庭へ吹き溜り
点々とみつばつつじの札所寺 米田千代子
吟行の神話の森や百千鳥
本堂の玻璃に映るや花の雲  原  みさ
紫木蓮遊山荘への道しるべ



令和5年7月号掲載 句会報

栃木県白魚火総会 俳句大会報告

渡辺 加代

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 令和五年度の栃木県白魚火総会、俳句大会が四月九日(日)宇都宮西生涯学習センターにおいて二十四名出席のもと開催されました。まず、総会に先立ち、髙島文江さんが令和五年三月二十八日にお亡くなりになりましたので、全員で黙禱を致しました。その後、柴山会長より挨拶があり、会員を増やしていきたい旨の話がありました。続いて令和四年度行事報告、決算報告・監査報告、令和五年度行事予定案、予算案、役員・支部構成案等の審議承認があり、俳句大会に移りました。
 俳句大会は五句投句、十句選(うち特選二句)で行われました。力作揃いで選句は大変でした。表彰は一位から五位、飛賞二名の七名です。賞品も用意され、受賞者の笑顔は弾けるようでした。役員の特選句は次の通りです。

 星田一草 選
一鍬に返す土の香地虫出づ     阿部 晴江
欲しいものあるやも知れぬ植木市  齋藤  都
 柴山要作 選
蟻穴を出づオートバイ突つ走る   松本 光子
純真な心のままに散る桜      奈良部美幸
 加茂都紀女 選
櫂持たず岸を離るる花筏      奈良部美幸
両脚の色くつきりと春の虹     中田 敏子
 齋藤 都 選
塔の影ゆるりと伸びて遅日かな   江連 江女
坪庭の斜め半分春日入る      杉山 和美
 星 揚子 選
調教の馬の蚫足だくあし風光る       松本 光子
花の宴スーツのままに正座して   熊倉 一彦
 熊倉一彦 選
駅繋ぐ花菜明りの母の郷      秋葉 咲女
残雪の富士に棚引く雲一朶     中村 早苗
 本倉裕子 選
思ひ出はときどき途切れ花筏    星田 一草
花屑が先客となるベンチかな    熊倉 一彦
 秋葉咲女 選
落椿掃くを日課として老いり    星田 一草
童謡の響く公園つくしんぼ     石岡ヒロ子
 阿部晴江 選
草の芽の一気に生ふる大地かな   佐藤 淑子
一念を貫く生や藍微塵       鷹羽 克子
 江連江女 選
つちふるや書棚に古りし西遊記   菊池 まゆ
春愁や小さく畳む薬包紙      菊池 まゆ
 渡辺加代 選
蟻穴を出づオートバイ突つ走る   松本 光子
春耕や大地の目覚め促しぬ     中村 早苗
 中村國司 選
「恋ですか」空飛びさうな芽吹き山 本倉 裕子
茶髪の子ビシッと決めて入学す   渡辺 加代
 松本光子 選
真新な制服落花浴びてをり     田所 ハル
花の宴スーツのままに正座して   熊倉 一彦
 当日の一句
水口に色を広げし仏の座      秋葉 咲女
一鍬に返す土の香地虫出づ     阿部 晴江
桜散る召さるる友は句帳抱き    石岡ヒロ子
塔の影ゆるりと伸びて遅日かな   江連 江女
満開のさくらまとうて逝き給ふ   加茂都紀女
泣きべその児の眼に笑みや万愚節  菊池 まゆ
花屑が先客となるベンチかな    熊倉 一彦
初蝶の行方を追へばまたも来て   齋藤 英子
やはらかき草の座さがす花の昼   齋藤  都
草の芽の一気に生ふる大地かな   佐藤 淑子
花吹雪八十路のわれに惜しみなく  柴山 要作
鬼怒堤の何も邪魔なし百千鳥    杉山 和美
花吹雪の中を出てゆく柩かな    鷹羽 克子
御衣黄桜花芯に収むる紅ひそか   田所 ハル
両脚の色くつきりと春の虹     中田 敏子
あたらしき青空ぱつと紫木蓮    中村 國司
残雪の富士に棚引く雲一朶     中村 早苗
純真な心のままに散る桜      奈良部美幸
頭より光流るる甘茶仏       星  揚子
思ひ出はときどき途切れ花筏    星田 一草
蟻穴を出づオートバイ突つ走る   松本 光子
「恋ですか」空飛びさうな芽吹き山 本倉 裕子
感謝こめ柩の姉へフリージア    谷田部シツイ
連山の空一閃の初燕        渡辺 加代



令和5年7月号掲載 句会報

令和五年度群馬白魚火会総会及び句会

遠坂 耕筰

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 令和五年四月二十七日、中之条町に於いて今年度の総会および句会が行われました。群馬白魚火会四五名のうち一九名の参加です。
 総会は、篠原庄治会長の挨拶に続き、役員より昨年度の事業報告、会計報告、今年度の事業計画案が発表され、特に異論無く終了しました。今回は群馬白魚火会の会則について言及し、群馬白魚火会会員は全国誌『白魚火』の誌友をもって構成すること、会員の親睦、友愛をはかること等基本的な内容の再確認がなされました。また、会の長老格である清水孝をさんより特別に談話をいただき、組織というものについて、組織人としての在り方について、ひいては人としての心の在り方、『和を以て貴しとなす』等貴重な指針をいただきました。
 句会は当季雑詠、ひとり三句投句の五七句から五句選句で競われました。披講は私が務めさせていただきましたが、読み上げに打てば響くような名乗りは句会の醍醐味です。ここでも笛木峨堂先生を彷彿とさせるような孝をさんの力強い名乗りが幾たびも聞かれました。

 当日の高得点句
 七点
小流れにそつと押しやる花筏  遠坂 耕筰
 六点
春愁や我が意にそはぬ膝頭   清水 春代
飛花落花砥石も並べ刃物市   鈴木百合子
 当日の一句 (氏名五十音順)
糸桜黒塀越しの武家屋敷    天野 萌尖
ゆつたりと昼餉の時を花吹雪  一場 歳子
父母の眠れる墓地に聞く初音  伊能 芳子
小流れにそつと押しやる花筏  遠坂 耕筰
背に余るランドセル行く新学期 唐沢芙美子
石一つ廻りつながる蜷の道   篠原 庄治
山は余花人は余生となりにけり 清水 孝を
春愁や我が意にそはぬ膝頭   清水 春代
甌穴の渦飛び越えて蝶いづこ  鈴木 利枝
飛花落花砥石を並べ刃物市   鈴木百合子
春霞榛名の山を遠くせり    関  定由
朝靄の晴れゆく中の芽立ちかな 関 仙治郎
藤棚に集ひて俳句談義かな   仙田美名代
その上の旅籠の庭に姥桜    高橋 見城
新緑やまあるく削る十二色   富沢 幸子
桜果て古刹の門に風わたる   樋田ヨシ子
一服の甘茶濃ゆめに仏生会   福嶋ふさ子
鶏のひねもす動き日永かな   町田 志郎
夫癒えて口達者なり花は葉に  町田由美子



令和5年7月号掲載 句会報

浜松白魚火会第二十五回総会、俳句大会及び
浜松白魚火会発足三十五周年記念祝賀会

大澄 滋世

令和5年7月号へ 

 令和五年四月二十三日(日)、ホテルクラウンパレス四階「芙蓉の間」に於いて、会員七十余名と来賓に白魚火主宰白岩敏秀先生、白魚火編集長補佐三原白鴉先生、浜松白魚火会顧問黒崎治夫先生をお迎えして、浜松白魚火会第二十五回総会、俳句大会及び浜松白魚火会発足三十五周年記念祝賀会が開催されました。
 開会に先立ち、昨年亡くなられた会員のご冥福をお祈りし、全員で黙禱を捧げました。
 総会は、午後一時より開催され、阿部会長の挨拶に続き、来賓の先生方からご挨拶を頂きました。
 白岩主宰からは、浜松白魚火会は百名を超す大きな会、これは皆さんの努力の賜物、今後の益々の発展を期待すると、励ましのお言葉を頂きました。
 三原編集長補佐からは、白魚火社に限らず高齢等による会員の減少と高齢化に直面しているが、浜松白魚火会にあっては、若い方も含む百名を超える会員で充実した活動を行われており、白魚火社としても活力をいただきたい旨の挨拶がありました。
 黒崎治夫顧問からは、高齢等により俳人人口が減少傾向にある。短歌も同様に減少している。どちらも歴史ある文学。会員の勧誘を積極的に行なってほしいというお言葉を頂きました。
 その後、議事に入り、令和四年度活動報告及び決算報告、令和五年度活動計画案及び予算案が満場の拍手で議決されました。役員改選は、改選案により次のとおり新役員が承認されました。
相 談 役 村上尚子、渥美絹代、弓場忠義、塩野昌治
会  長 阿部芙美子
副 会 長 山田眞二、林浩世
幹 事 長 髙部宗夫
副幹事長 古橋清隆
会  計 齋藤文子
会計補佐 坂田吉康
会計監査 鈴木利久、高井弘子
支部役員 花輪宏子、鈴木誠、宇於崎桂子、武村光隆、鈴木竜川、清水京子、砂間達也、
     渥美尚作、金原恵子、小杉黄琢、渡辺強、村上千柄子、大村泰子、弓場忠義

 続いて、各賞の受賞者の紹介と表彰式が行われ、みづうみ賞の浅井勝子さん、同秀作賞の山田眞二さん、同奨励賞の青木いく代さん、大澄滋世さん、鳥雲同人に昇格の渥美尚作さん、坂田吉康さんに花束が贈呈され、受賞者等を代表して浅井勝子さんから謝辞が述べられました。
 また、多年浜松白魚火会発展に寄与されてきた黒崎治夫先生、野沢建代先生に浜松白魚火会会長から感謝状が贈られました。
 句会は、司会山田眞二さん、披講古橋清隆さん、齋藤文子さん、代返林浩世さん、点盛砂間達也さんにより進められ、事前投句の九十六名、百九十二句より、互選は二句、七名の選者には特選五句、入選十五句を選句して頂き、特選句、高点句には賞品が授与されました。
 当日の選者の特選句は、次のとおりです。(一位から順に掲載)

 主宰 白岩 敏秀 選
春愁や平となりし屋敷跡     岡部 章子
起きがけの寒気が背筋走りけり  山下 勝康
梅白し仁尾正文の忌なりけり   渥美 尚作
どつかりと主婦の座にあり豆の花 山田 惠子
堰越ゆるとき生き生きと春の水  三原 白鴉
 三原 白鴉 選
流し雛しばらくみづを追ひにけり 弓場 忠義
風花や透かして選ぶ手漉和紙   白岩 敏秀
父の背に負はれし記憶桃の花   前田 里美
卒業の証書たひらに戴きぬ    浅井 勝子
新任の教師にあだ名燕来る    坂田 吉康
 黒崎 治夫 選
海境はいつもおほらか晴朗忌   林  浩世
均されて客土の匂ふ春の雪    村上 尚子
流し雛しばらくみづを追ひにけり 弓場 忠義
裸婦像に水の光や春の風     高橋とし子
薄氷の片寄る水の昏さかな    佐藤 升子
 村上 尚子 選
鋤き返す一畝春の土となる    三原 白鴉
海境はいつもおほらか晴朗忌   林  浩世
早春へ扉を開く二月堂      白岩 敏秀
蘖や少年の声空を馳せ      田中 明子
梅白し仁尾正文の忌なりけり   渥美 尚作
 渥美 絹代 選
春の雷飾り金具の鋲に錆     長田 弘子
風花や透かして選ぶ手漉和紙   白岩 敏秀
酒蔵の前を流るる芹の水     大村 泰子
回廊に木の香の手すり牡丹の芽  塩野 昌治
あたたかや洗濯物に鳥の糞    田渕たま子
 弓場 忠義 選
人並といふ安けさや蜆汁     浅井 勝子
春の野や兄に貰ひしハーモニカ  榛葉 君江
春風に色あり双眼鏡のぞく    齋藤 文子
水温むエイトの声の揃ひけり   細井 芳弘
札幌へ行くを約して春の雪    山田 眞二
 坂田 吉康 選
梅白し仁尾正文の忌なりけり   渥美 尚作
父の背に負はれし記憶桃の花   前田 里美
囀の止みて水車の回る音     鈴木  誠
団子焼くにほひただよふ植木市  森  志保
風花や透かして選ぶ手漉和紙   白岩 敏秀

 総会及び俳句大会に引き続き、同日午後五時から同ホテル四階「芙蓉の間」に於いて、浜松白魚火会発足三十五周年記念祝賀会が開催されました。
 支部役員砂間達也さん司会のもと、阿部芙美子会長の挨拶及び白岩敏秀主宰から祝辞をいただき、黒崎治夫顧問の乾杯の音頭により開宴となりました。テーブル毎の歓談は和気あいあいに過ぎました。また、アトラクンョンとして、二胡奏者による二胡独奏がありました。初めて聞く二胡の調べは柔らかく、みな舞台に惹きつけられ、アンコールの声が止みませんでした。
  柔らかな二胡の調べや春の月 滋世
 二胡演奏の余韻の冷めやらぬ中相談役弓場忠義さんの中締めにより祝賀会のお開きとなりました。



令和5年7月号掲載 句会報

坑道句会四月例会報

井原 栄子

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 令和五年四月二十三日(日)、出雲市小境町にある一畑薬師を吟行する坑道句会四月例会が開催されました。
 一畑薬師(醫王山一畑寺)は、出雲神話の国引きの舞台を一望できる島根半島の中心部、標高二〇〇メートルの一畑山上にあります。
 平安時代の寛平六年(八九四年)、一畑山の麓の日本海赤浦海中から、漁師の余市が引き上げた薬師如来をご本尊としておまつりしたのが始まりで、余市の母親の目の病が治ったり、戦国の世に小さな幼児が助かったことから、「目のお薬師様」「子供の無事成長の仏さま」として広く全国から信仰されています。また、千三百段余りの石段(参道)でも有名です。
 当日は、句会場である島根県立青少年の家「サンレイク」に集合し、そこからマイクロバスに乗り、吟行地である一畑薬師へと向かいました。少し風がありましたが、程よい天候に恵まれ、吟行日和になりました。到着すると、皆思い思いに広さ八万坪という広い境内を吟行しました。喧騒を離れ、天空の寺を満喫しました。
 吟行を終えて句会場へ戻り、昼食を頂きましたが、サンレイクの食堂は宍道湖に面しており、東は大山から西は佐比売山(三瓶山)までの眺望が開け、空港より宍道湖へと飛び立つ飛行機を眺めつつ、目の前の若葉を見ての食事は格別でした。食事のあと研修室に移動をし、句会となりました。
 幹事の原和子さんより、この会場を何度も申し込み、コロナ禍の為、その都度キャンセルをし、今日ようやく実現しましたとのご挨拶がありました。今回は十一名と少人数の参加ではありましたが、一畑寺の参道や境内の様子を詠んだ佳句が生まれ、実りのある句会となりました。

 渡部美知子 特選
天空の寺へ新緑縫うてゆく        原  和子
山寺へ若葉わかばの七曲り        久家 希世
見下ろすも仰ぐも風の若葉かな      荒木千都江
 荒木千都江 特選
薬師寺の風鐸ゆらす若葉風        渡部美知子
住職の読経の響き若葉風         樋野美保子
若葉風香煙絶えぬ一畑寺         樋野美保子
 久家 希世 特選
うららかやのんのんばあとしげる君    大菅たか子
百千鳥の谷から谷へ一畑寺        福間 弘子
ラフカディオハーンの飲みしお茶湯風光る 生馬 明子
 生馬 明子 特選
天空の寺へ新緑縫うてゆく        原  和子
山寺へ若葉わかばの七曲り        久家 希世
目の祈願桜若葉に結ふ親子        久家 希世

 当日の高得点句
 十点
山寺へ若葉わかばの七曲り        久家 希世
 七点
木の芽風おんころころの流れくる     生馬 明子
 六点
うららかやのんのんばあとしげる君    大菅たか子
天空の寺へ新緑縫うてゆく        原  和子
 五点
緑立つ「め」の字の光る願ひ札      福間 弘子
 四点
若葉風日の斑の踊る石畳         荒木千都江
目薬師に目玉おやぢや山笑ふ       井原 栄子
春深し山に響ける経の声         杉原 栄子
山若葉ゆつくりさするなでぼとけ     山本 絹子
薬師寺の風鐸ゆらす若葉風        渡部美知子
 当日の一句抄(氏名五十音順)
若葉風日の斑の踊る石畳         荒木千都江
目薬師のゆるき石段のどけしや      生馬 明子
新緑のけちえんの道吟行す        井原 栄子
白藤の出迎へ受くるサンレイク      大菅たか子
絶景や湖に遠野の麦の秋         久家 希世
父母の供養を祈る磴獻堂         杉原 栄子
木洩れ日やさへづり止まぬ目の薬師    原  和子
青葉風千の石段無言坂          樋野美保子
百千鳥の谷から谷へ一畑寺        福間 弘子
山若葉ゆつくりさするなでぼとけ     山本 絹子
春日まとふ悟空尊者と目の合ひぬ     渡部美知子



令和5年7月号掲載 句会報

団栗の会 春の吟行

大隈ひろみ

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 令和五年四月六日、団栗の会春の吟行句会を行いました。吟行場所は江田島市沖美町です。美しいビーチがいくつもある、大変風光明媚な沖美町ですが、明治時代に築造された砲台が三か所残っている地域でもあります。
 この日の天候は曇、ぱらぱらと雨、時折り青空という忙しい天気でしたが、それぞれ蛸壺の並ぶ漁港を歩き、浜近くの恵比須社に参り、魚魂碑の碑文を読むなど思い思いに吟行しました。
 昼食はこの町に明治から続くという料亭で久しぶりの会食となりました。翌四月七日は出口廣志さんの満九十歳のお誕生日ということで、会は卒寿のお祝いの乾杯から始まり、次々に運ばれる新鮮な海、山の幸にみなで舌鼓を打ちました。
 その後の句会では短い吟行時間だったにも関わらず、多くの佳句が披講され充実した句会となりました。
 この日、料亭の庭の百年近い桜は満開で、折からの強い風に何度も盛大な花吹雪を舞い上がらせた光景は参加者の目の奥に長く残ることでしょう。

 一句抄 (十名 五十音順)
九十路ここのそぢ祝ふグラスや松の花   大隈ひろみ
浜に寄する波のしぶきや浜大根 神田 弘子
舞ふたびに子らの歓声花吹雪  久保久美子
春の潮焚場たでばの朽木洗ひをり   久保 徹郎
花吹雪白く装ふ苔灯籠     品川美保子
一湾に臨む魚魂碑鳥曇     高橋 茂子
散りてなほ人喜ばす桜かな   出口サツエ
散る桜愛でつつ囲む句座の宴  出口 廣志
魚魂碑に波音届き春時雨    殿村 礼子
花吹雪しきりに卒寿祝ふ席   三浦マリ子



令和5年7月号掲載 句会報

東広島白魚火水曜句会吟行

吉田 美鈴

令和5年7月号へ 

 コロナ禍が大分下火になって来たため長い間中止していた吟行を四月二十六日に行った。
 場所は例会会場にほど近い安芸国分寺およびその周辺である。
 奈良時代の中期、人びとの平穏を祈るため全国の六十か国に国分寺が設置されたが、安芸国分寺は全国で最も早く建てられたものの一つである。
 現在は基壇などの遺構を復元し安芸国分寺歴史公園として機能している。
前日の大雨は止み当日はよく晴れて新緑の中、広大な遺跡を巡ることが出来た。

 渡邉春枝 選
春日傘畳みて潜る仁王門    吉田 美鈴
山藤の講堂跡に咲き満つる   佐々木智枝子
天平の塔の基壇や藤の房    大江 孝子
 奥田 積 選
堂塔の礎石に座して春惜しむ  吉田 美鈴
子雀の声を四方に国分寺    渡邉 春枝
四月尽安芸に出土の墨書土器  大江 孝子
 挾間敏子 選
国分寺を濡らして春の雨上がる 渡邉 春枝
句の友を広野に散らし若葉山  森田 陽子
鶯の声を消しゆく選挙カー   徳永 敏子
 吉田美鈴 選
天平の塔の基壇や藤の房    大江 孝子
仁王像の腹に罅割れ春闌くる  奥田  積
仁王門に掛かる草鞋へ若葉風  佐々木智恵子

 当日の一句(五十音順)
仁王像にかかる草鞋の緑立つ  石原 幸子
天平の塔の基壇や藤の房    大江 孝子
仁王像の腹に罅割れ春闌くる  奥田  積
山藤の講堂跡に咲き満つる   佐々木智枝子
藤の花安芸国分寺を染めにけり 城川 周二
鶯の声を消しゆく選挙カー   徳永 敏子
春水の鳴りて隔つる寺と里   挾間 敏子
踏めば水ふくむ若芝伽藍跡   森田 陽子
春の風絵馬の駿馬の飛び出して 門前 峯子
高きより山藤の房揺れにけり  山口 和恵
堂塔の礎石に座して春惜しむ  吉田 美鈴
国分寺を濡らして春の雨上がる 渡邉 春枝



令和5年8月号掲載 句会報

第五回白魚火俳句鍛錬会報告

幹事 中村國司、檜林弘一

令和5年8月号へ 

 本札幌鍛錬会の企画は、コロナ禍により丸三年間のブランクを余儀なくされたが、ようやく再開することができた。言わばリベンジ開催である。今回の参加者は三年前の道内応募者を対象としたので、会誌での公募はしなかったことをご了解願いたい。初夏を迎えた札幌にて、参加者皆さんの活気が溢れ、まさに夏めく札幌の鍛錬会となった。

一 開催概要
・日程  五月二十五日 正午受付~二十六日 午後四時半解散
・場所  札幌市内 研修会議室
・参加者 白岩敏秀主宰、檜林弘一副主宰、中村國司同人会長を含む二十八名
     (参加者名は、一人一句抄を参照)
・内容  句会三回、対話の会一回、吟行会一回及び懇親会等。

二 目的
 作品のレベルアップはもちろん、よい俳句を生み出す句会のあり方、それを支える結社のあり方等につき参加者全員で深耕し、もって白魚火の将来の発展に寄与すること。


参加者一同(札幌市内会場)

三 句会・吟行会
 句会は三班に分かれ、一回約二時間、全句漏れなく合評を行い、上下関係のないフラットな句座を実施。
・一回目 当季雑詠三句
・二回目 兼題五句 (初夏、青嵐、更衣、飛魚、若葉より選択)
・三回目 当日席題一句(昆布干す)及び吟行嘱目四句
・吟行会は二日目の午前中、会場近くの永山邸一帯で行った。


班別の句会風景

一人一句抄 (主宰以下は地区別順)
飛魚の波に触れつつ波を越ゆ    白岩 敏秀
初夏の北の大地を踏みしむる    森  淳子
夏蝶を追ひてエルムの森深し    広瀬むつき
少女らのドロップハンドル夏きざす 山羽 法子
時計台の四角の空やリラの花    高山 京子
白樺の青葉涼しき時計台      内山実知世
小満の空や札幌大通り       奥野津矢子
せせらぎに影流さるる夏柳     西田美木子
昆布干し終へて朝風呂混みにけり  佐藤やす美
永山邸開拓本庁柳絮飛ぶ      成田 哲子
朝夕に時計台の音聖五月      高田 喜代
更衣老舗旅館の若女将       小杉 好恵
木漏日の揺るる縁側更衣      石田 千穂
トロ箱の飛魚終の羽根畳む     佐藤 琴美
前浜へ縦縞に置く昆布干し     三浦 紗和
あめんぼの雲上すいと泳ぎをり   平野 健子
新樹光書院の障子開け放つ     浅野 数方
若楓嬰の寝顔の百面相       坂口 悦子
柳絮飛ぶ都会の空の一所      斉藤 妙子
晴れ渡る空の青さや更衣      市川 節子
湿原に籠る風あり青芒       服部 若葉
若葉風抱へて帰る三輪車      野浪いずみ
のぞき見る噴水にある不思議かな  平間 純一
緑さす札幌の街北のまち      吉川 紀子
テレビ塔入れて写真の夏帽子    萩原 峯子
薪を組みチセの夏炉の火入れかな  今泉 早知
羊蹄山浮かべて蝦夷地夏霞     中村 國司
断捨離をして飛魚となりにけり   檜林 弘一

四 対話の会
 鍛錬会では毎回〝対話の会〟を催している。句会をサラサラとやってサヨナラでは、せっかく集合して行う鍛錬会としては物足りないものがある。そこで、各人の抱えている課題等につきグループ別のワークショップを開催している。この企画は、ちょっと固めの句会の場を活性化する効果があり、メンバー間の人の繋がりを作ることにも役立っている。今回も活発な対話をしていただき、班別の発表内容には多種多様の気づきがあった。今回は各班共通テーマ「句作上の課題、ハードルを越えるには」とした。各班総括内容は以下のとおり。

・A班 発表者 吉川紀子
 課題は多々あり。助詞のうまい使い方、説明ぽい句柄・季語の説明からの脱出、ポエムが希薄、句会のマンネリ化等々の問題・課題が挙げられた。今後の解決の方向としては、自分で超えるべきハードルを明確にすること。俳句で遊ぶ意識を持つ、自分の得意技(分野)を伸ばすことなどの意見あり。アクションとしては多くの吟行に出かける、句会を増やす、新たなリモート句会の発足等、前向きのアイテムが並んだ。


対話の会・・・班別の発表風景

・B班 発表者 平間純一
 北海道地区の課題は二つ。一つ目は本州との季節感のずれ、白魚火が全国区であるがゆえの悩みがある。作句の際の歳時記と現実とのズレが悩ましい。一都先生はこの辺の許容範囲が広かった。実際には目の前の季語を歳時記にとらわれず自然体で詠めばいいのではないか。ただし、誌上へ投句するときは季語の並び順には気を遣うことが大切。
 二番目の課題として、指導者の数が減ってきていることがある。高齢化が進む時代において大きな課題。そこで、次期指導者を育成しなくてはならないが、包容力のある指導者をタイムリーに育てていくにはどうしたらよいか。難しい課題である。

・C班 発表者 佐藤やす美
 よい俳句、新しい俳句を作るためにはどんな方策があるだろうか?自分らしさ(未知の領域)へのチャレンジが必要、そのためにはリスクを負う気概を持つことも。他人にはやさしく、自己には厳しくという切口もある。佳句を生み出すには、選句の目も必要である。多くの俳句を読み、自分なりの客観的な俳句眼を養うことがよい。また、作った俳句を寝かせること。その際にはうまく整理しておく(季語別、ランク付けなど)のがよい。
 なぜ俳句を続けるのか?白魚火巻頭や結社賞を得るという目標もあるが、自分の心を育て、人生の糧にすることが最も大切であるのではないか。

(対話の会の総括)
 班別に多種多様の課題や、前向きな思いを語り合い、参加者全員でその共有を図った。まずは思いを持ち、それを口に出すことが第一歩。対話のなかに行動のヒントが生まれ、行動に移していく。その先に結果は必ずついてくることを期待したいと思う。

五 参加者からのレポート
<楽しかった鍛錬会>
苫小牧 市川節子
 「鍛錬」という言葉だけで参加したのではありませんでした。毎月白魚火に投句するだけで鍛錬だからです。
 しかし今回は北海道で行われると言うことで、ドキドキしながら参加する事にしました。日本は小さいですが、北海道は大きいです。北海道白魚火の仲間とは年に一度位しか会う機会がありませんでしたので、旭川や函館の方々とご一緒できたことは嬉しかったです。また白岩敏秀主宰、檜林副主宰、中村同人会長の句会での話とアドバイスが勉強になり感謝しかありません。
 恐る恐るの鍛錬会が楽しいね~楽しかったね~に変わりました。
 また会える日を楽しみにしています。

<鍛錬会に参加して>
札幌 小杉好恵
 「鍛錬」の言葉が重く伸しかかったまま当日を迎えました。合わせて三回の句会があり、初回は雑詠三句、二回目は兼題五句、三回目は席題一句と当日の吟行句四句です。
 三回目の句会で初めて主宰と同じグループになりました。選句の時間が足りなく一分伸ばしてもらった私が特選句の選評で「もう少し時間があったら他の句を選んでいたかも・・」と話したら主宰が笑顔で名乗を上げられました。びっくり仰天、本当に失礼な発言だったと反省しています。準備不足と浅学の私にとっては苦しい句会になると思っていましたが、思いの外楽しく充実した二日間となりました。最後に今回の最大の収穫は主宰、檜林副主宰、中村同人会長に直接具体的に温かいご指導を受けた事です。心よりお礼申し上げます。実桜句会の札幌参加者全員が確実に意識が変わり、新たな一歩を踏み出しています。

<鍛錬会>
札幌 西田美木子
 白岩主宰、檜林副主宰、中村同人会長遠路札幌までのご足労にお礼申し上げます。ライラックが満開、若葉の季節で地元の我々にも一番嬉しい時期、潑溂とした句が沢山でした。「鍛錬会」との事でどんなに厳しい句会かと少々腰が引けていた面々も、終了後には、「楽しかった」「お三方の助言・句評等が懇切丁寧で嬉しかった」と。今回は北海道だけの参加で、顔馴染ということもあったと思いますが・・・。
 三回の句会の内二回目の兼題五句(初夏・青嵐・更衣・飛魚・若葉)、自由に選んで良いと言われても、北海道ではほぼ見かけない魚「飛魚」は作句される方が少なく、でも挑戦者も。私の班の特選に入った句を。
 二点
飛魚の飛び出しさうなまなこかな 美木子
 四点
飛魚に夢の翼のありにけり    津矢子
 八点
飛魚の波に触れつつ波を越ゆ   敏 秀

流石の主宰に脱帽、挑戦者バンザイ!

●その他(参加者アンケートより)
・二日間、学びが多くあった。
・すごく緊張したが、肩の凝らない鍛錬会で有意義だった。
・対話の会は率直にできてよかった。
・対話の会のテーマが一つに絞られていたので、全員が共有できた。
・次は主宰の講義を聞きたい。最近の白魚火の句風、文法のポイント等。
・予算があればもっと広い会場を。
・これが鍛錬会であるということを感じさせてもらった。 等々

六 今回の振返りと今後の方向性
 北海道の参加者個々の熱意により、二日間でトータル三二〇句の作品を生み出し鍛錬会は終了した。おりしも、今年の十月には白魚火全国大会が札幌にて開催される。来る大会も盛り上げていくことを皆で誓い合った。俳人の高齢化などで結社の進む道には、これから何本もハードルが待ち構えている。俳句の質を落とさないこと、全国に散らばっている会員の繋がりを強化していくこと、この二つがこのイベントに課された大きな課題であると思う。この活動の成果が白魚火九〇〇号達成に繋がっていくことを期待したい。また、今年度からは会員の少ない地域も視野に入れ、なるべく多くの地域のみなさんとお会いできるよう活動していきたいと考えている。



令和5年8月号掲載 句会報

令和五年度栃木白魚火第一回鍛錬吟行会

星 揚子

令和5年8月号へ 

 六月十一日(日)、栃木市、いわゆる「蔵の街栃木」の鍛錬吟行会が行われた。昨年、夏季俳句大会吟行会が二年七か月振りに実施されたが、今年度は以前のように名称を「吟行会」に戻し、出句数も鍛錬に見合った内容の五句から七句に変更した。参加者は十七名で昨年より若干少なかったが、当初の申し込みは二十一名だったので、ほぼ例年通り。
 栃木市は江戸時代、例幣使街道の交通の要地として、また巴波川舟運で栄えたまちで、重厚な見世蔵や白壁の土蔵群が残っていて「小江戸栃木」と称されている。一八七三年から一八八四年まで県庁があり、その県庁舎は洋風建築(国登録)で、令和四年、栃木市立文学館として開館したのだった。
 関東地方は六月八日に梅雨入りしたので雨が心配されたが、小雨で気温も高くなく、吟行にはまずまずの天気だった。今回の吟行は、栃木県白魚火会会員が栃木市を一度は訪れていることから、それぞれに吟行して句会場の栃木市市民交流センター(キョクトウとちぎ蔵の街楽習館)第一会議室に集合、という形式で行った。
 十二時から受付、十三時出句(七句)締め切り、十句(うち特選二句)選で句会が進められ、披講終了後、表彰。続いて加茂都紀女副会長、中村國司曙集同人、柴山要作会長、星田一草顧問の選評をいただいた。午後四時、予定通りの終了。

 役員の特選句
星田一草 選

紫陽花や何処に咲きても雨を呼ぶ   齋藤 英子
巴波川あぢさゐ数多色あまた     佐藤 淑子
 柴山要作 選
河骨のわかめのやうな沈水葉     中村 早苗
のんびりと夏鴨のゐる蔵の街     奈良部美幸
 加茂都紀女 選
五月雨に濡れて沈もる蔵の街     本倉 裕子
飛石の一つ石臼梅雨の庭       星  揚子
 星 揚子 選
ガス燈の幸来橋に夏の雨       星田 一草
教会の梅雨を灯してミサの鐘     加茂都紀女
 熊倉一彦 選
川水は濁りに濁る桜桃忌       佐藤 淑子
五月雨に濡れて沈もる蔵の街     本倉 裕子
 本倉裕子 選
句を記すさみだれ傘を傾げつつ    松本 光子
朝の雨散らして白し沙羅の花     星田 一草
 秋葉咲女 選
黒塀の濡れてしづかな梅雨入かな   本倉 裕子
羽織るもの決めかねてゐる梅雨入かな 松本 光子
 渡辺加代 選
朝の雨散らして白し沙羅の花     星田 一草
教会の梅雨を灯してミサの鐘     加茂都紀女
 中村國司 選
麻問屋上布一着店頭に        加茂都紀女
夏柳口数多き自転車屋        熊倉 一彦
 松本光子 選
見世蔵の美しき甍や五月雨      柴山 要作
あぢさゐの鞠ぷつくりと小糠雨    菊池 まゆ

 当日の一句
見世蔵の二階に窓や燕来る    秋葉 咲女
濃紫陽花有三の碑に寄り添ひて  石岡ヒロ子
麻問屋上布一着店頭に      加茂都紀女
夏つばめ飛んでかがやく蔵の街  菊池 まゆ
梅雨しとど待ち惚け食ふ滑り台  熊倉 一彦
十薬に天狗の鼻のあるやうな   齋藤 英子
五月雨るる県庁堀の鯉太し    佐藤 淑子
見世蔵の美しき甍や五月雨    柴山 要作
濃紫陽花濡れじとぬるる街しるべ 中村 國司
咲き初めし紫陽花雨の重さ受く  中村 早苗
のんびりと夏鴨のゐる蔵の街   奈良部美幸
朝の雨散らして白し沙羅の花   星田 一草
橋渡る泰山木の香に触れて    松本 光子
黒塀の濡れてしづかな梅雨入かな 本倉 裕子
麻問屋前の瓦斯灯夏柳      谷田部シツイ
静かなる巴波川の岸辺夏柳    渡辺 加代
青梅雨の水琴窟のよき間合    星  揚子



令和5年8月号掲載 句会報

実桜句会総会・吟行報告

(札幌)佐藤 琴美

令和5年8月号へ 

 リラ冷えの六月四日~五日昨年同様札幌北二条クラブに於いて実桜句会総会・吟行会が行われました。
 今年の担当は札幌です。北見、旭川、苫小牧、札幌の他に今回会員になられた山羽法子さんが参加され、総勢二十一名の一泊二日で行われました。
 総会は昨年八月に亡くなられた石川純子さんを悼み黙禱から始まり、自己紹介、今後の抱負、各地の活動報告、会計報告、白魚火全国大会について等活発な意見交換が和やかに進められました。
 総会は各地持回りをやめて、今後苫小牧と札幌が中心になり行うこと、来年は実桜句会四十周年の記念すべき年で新しい会員も増えたことから実桜句会の第三合同句集を出す事が決まりました。

 六月四日句会
 金田野歩女 特選

鈴蘭の鈴の密かに鳴つてをり   西田美木子
風鐸の高さに日の斑青楓     浅野 数方
紅花のとちの木清き出入口    佐藤 琴美
 三浦香都子 特選
緑蔭の一等席を譲り合ふ     小杉 好恵
開け放つ窓に薔薇の香スタイ縫ふ 佐藤やす美
丹生の花虎杖の花山の駅     小林布佐子
 浅野数方 特選
チセ燻す夏炉にイナウ新しく   今泉 早知
山法師大きな文字の開拓碑    今泉 早知
時の日の体に宿す腹時計     斉藤 妙子
 西田美木子 特選
六月の雨に楽しき集ひかな    坂口 悦子
噴水の音に風のせ光のせ     斉藤 妙子
時の日の体に宿す腹時計     斉藤 妙子
 奥野津矢子 特選
ルピナスの蝦夷地を制覇する如し 金田野歩女
山法師大きな文字の開拓碑    今泉 早知
丹生の花虎杖の花山の駅     小林布佐子
 小林布佐子 特選
鍔広の鍔折り上げて夏帽子    西田美木子
青春やボートとオール服も白   三浦香都子
時計台かつて図書館さくらの実  高田 喜代
 高得点句
逆上がり教へ合ふ子ら若葉風   佐藤やす美
山法師大きな文字の開拓碑    今泉 早知
緑蔭の一等席を譲り合ふ     小杉 好恵

 二日目の吟行会は朝八時から接木の栃の花通りを散策しながら西本願寺へ。道なりに沢山の草花に出会い、昨年より一ヶ月早い総会で全く違う景色を堪能してクラブへ戻りました。
 金田野歩女 特選
園児らの指のリレーや蝸牛    野浪いずみ
本堂に畏まり脱ぐ夏帽子     西田美木子
 三浦香都子 特選
煩悩を救ふ法灯半夏生      奥野津矢子
旅の夜の青葉の闇に浸りけり   浅野 数方
 浅野数方 特選
塔頭の飛び跳ねさうな夏の空   佐藤 琴美
栃の花十七音の旅続く      小杉 好恵
 西田美木子 特選
マロニエの花の零るる朝の径   坂口 悦子
煩悩を救ふ法灯半夏生      奥野津矢子
 奥野津矢子 特選
明易や宿のトーストかがやいて  小林布佐子
マロニエの花奔放に天仰ぐ    西田美木子
 小林布佐子 特選
園児らの指のリレーや蝸牛    野浪いずみ
境内は通学路なり杏の実     佐藤やす美
 高得点句
煩悩を救ふ法灯半夏生      奥野津矢子
マロニエの花の零るる朝の径   坂口 悦子
静けさの満つる本堂灯の涼し   三浦香都子
水無月の塵ひとつなき阿弥陀堂  小林布佐子
 参加者の一句
勤行の住持の背筋薄衣      石田 千穂
親鸞の青銅の錆木下闇      市川 節子
河骨の開花促す鯉の鰭      服部 若葉
アマリリス三輪咲いてあと一輪  平野 健子
肖像に明治の気魄朴の花     三浦 紗和
赤毛のアン夢みし大人夏日向   成田 哲子
傘の子の雨祝ぐ歌や花水木    山羽 法子

 仕事の都合で一日の参加や介護の為不在投句だけの方も居ましたが、各地から集い句会を開ける事に感謝しました。
 万歳三唱で心の財産を土産に散会。



令和5年8月号掲載 句会報

静岡白魚火総会記

大石 初代

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 夏も近づく八十八夜、茶処の牧之原台地では一番茶の刈り取りも終わり、里では田植が始まっています。五月十四日(日)令和五年度静岡白魚火総会、俳句大会が開催されました。当日は、あいにくの雨にも拘わらず二十二名の参加をいただきました。
 鈴木三都夫名誉会長はじめ、顧問で副主宰である檜林弘一氏には、コロナ禍より四年ぶりにお越し頂き、ご参加いただきました。
 開会に先立ち、先に逝去された檜林弘一氏のお母様である桧林ひろこ様と、鈴木ヒサ様の御冥福を祈り黙禱を捧げ総会に入りました。
 初めに、会長挨拶では、今年白寿を迎えられる三都夫先生には日々お元気に過ごされ、是非来年には、百歳のお祝いをさせてください、と言葉がありました。
 続いて令和四年度の会計報告、事業報告、監査報告に続き、令和五年度の予算案、事業計画案が提案され、承認されました。
 また、全国大会について行事部よりお話があり、最後に三都夫先生よりこれからの句会の運営についてのお話がありました。
 続いて俳句大会に入りました。
 三十名の事前募集句より互選、代表選が行われました。

 鈴木三都夫名誉会長作品
揚雲雀羽撃きながら墜ちにけり
幼児に踏青の靴履かせけり
寿いのちなが散華と浴びし花吹雪
 檜林弘一副主宰作品
ひこばえや待ち合はせゐる大銀杏
春宵の時計を置かぬ酒肆に酌む
日の中に春大根の土落とす
 鈴木三都夫名誉会長選 特選
かたくりの精一杯の花の反り    柴田まさ江
苞弾き色の溢るる躑躅かな     山田ヨシコ
風光る揺るるヨットの波しぶき   小長谷 慶
白木蓮の嘘のつけない白さかな   柴田まさ江
朧月おぼろのままに昇りけり    大石登美恵
 檜林弘一副主宰選 特選
囀れる村一番の大樹かな      山田ヨシコ
白木蓮の嘘のつけない白さかな   柴田まさ江
朧月おぼろのままに昇りけり    大石登美恵
早春や店から履いて赤い靴     横田じゅんこ
日捲りを二枚破りて山笑ふ     大石美千代

鳥雲同人特選
 本杉郁代 特選

「ありがとう」を花束にして卒業す 大石美千代
知らぬ間に夫も来てをり花月夜   坂下 昇子
白木蓮の嘘のつけない白さかな   柴田まさ江
 小村絹子 特選
朧月おぼろのままに昇りけり    大石登美恵
緩急の流れ躱して花筏       藤田 光代
蒲公英や今も心は高鳴りし     田部井いつ子
 坂下昇子 特選
早春や店から履いて赤い靴     横田じゅんこ
はしやぐ声すぐに泣き声春の泥   冨田 松江
菜の花や犬に見つかるかくれんぼ  大塚 澄江
 辻 すみよ 特選
早春や店から履いて赤い靴     横田じゅんこ
桐高く咲いて矜持のゆるぎなし   大塚 澄江
マラソンの一人抜け出す春疾風   落合 勝子
 横田じゅんこ 特選
春耕や昔は全て鍬ひとつ      大石 益江
春泥の道なつかしき在所かな    大石登美恵
朧月おぼろのままに昇りけり    大石登美恵
 大塚澄江 特選
白椿落ちて孤高の色拡ぐ      藤田 光代
緩急の流れ躱して花筏       藤田 光代
城跡の虎口渡りし桜東風      滝口 初枝
 田部井いつ子 特選
せせらぎの音に解きし雪柳     大石 益江
囀れる村一番の大樹かな      山田ヨシコ
初蝶に出合ひてよりの歩幅かな   落合 勝子

 互選高得点句
桐高く咲いて矜持のゆるぎなし   大塚 澄江
晩年といふ日々大事青き踏む    本杉 郁代
柔らかに色の目覚めしさ茶山かな  大石 弘子

 鈴木三都夫名誉会長の特選には、御染筆の短冊が授与されました。
 また、檜林弘一副主宰の特選には、御染筆の短冊とプレゼントが贈られました。
 鳥雲同人の特選には俳句手帳が贈られました。
 続いて鈴木三都夫名誉会長特選句、檜林弘一副主宰特選句には、それぞれご丁寧な御講評をいただきました。大変分かりやすく、今後の俳句作りの参考にして行きたいと思います。
 総会、俳句大会終了後 翆山荘に席を移して、コロナ禍により四年ぶりの懇親会が行われました。美味しいお料理に舌鼓を打ちました。一時俳句のことは忘れ、和気あいあいと、とても楽しいひと時を過ごしました。とは言ってもやっぱり最後には三六五句のマーチを合唱し、今後の俳句作りに意欲を高めました。
 そして檜林弘一副主宰による万歳三唱にて閉会となりました。
 (鈴木三都夫氏急逝前にあった投稿をそのまま掲載しています。(編集部))



令和5年8月号掲載 句会報

令和五年度浜松白魚火会吟行記

佐藤 升子

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 五月二十七日(土)、浜松白魚火会では恒例の吟行会を開催しました。今年の吟行地は牧之原市の大鐘家、静岡空港、石雲院です。参加者は五十九名。浜松市内の二箇所で集合、二台の貸切りバスにて第一の吟行地である大鐘家へ向け、七時三十分に出発しました。
 大鐘家は、江戸初期には旗本の格式を持ち、後に大庄屋となり当家を築きました(大鐘家パンフレットより)。現在、母屋と長屋門が国の重要文化財に指定されており、長屋門の茅葺屋根の九つの千木が格式を物語っています。母屋に全員が集合しますと大鐘家の方より屋敷と由来や歴史について丁寧な説明がありました。母屋の柱や梁は黒松や桜に手斧削り、特に天井の太い梁は縦横に組んで迫力がありました。へっつい、鴨居のゲベール銃、長持、つるし飾り他の展示、渡辺崋山や谷文晁の軸他宝物を展示する史料館、小堀遠州作の庭があり、裏山の見晴らし台では駿河湾が眺望できました。あじさい祭(五月下旬から七月上旬迄)の大鐘家を十分に堪能しました。

 次の吟行地、静岡空港にはバスが横付けされ、ここからは自由行動になります。飛行場を眺望するには二箇所。一つは空港ターミナルビル三階の展望デッキ、ここで今日初めての富士山を見ることができました。もう一つは石雲院展望デッキ、ここは滑走路に最も近い施設で飛行機の離発着を間近に見る事ができます。石雲院へはここから山道を徒歩で数分、総けやきの八脚門の山門に出ます。山門、総門、参道の丁石、本堂の龍門の滝の彫刻が見所で市の指定文化財になっている曹洞宗の古刹です。
 思い思いに作句して集合時間、バス乗車時には一人二句の短冊が集められ句会場の掛川市生涯学習センターへと向かいます。
 句会場では、句稿の作成とコピー、参加者互選句の披講、選者選入選十句と特選五句の披講と特選句の講評、高点句と特選句の表彰へと進み、句会は参加者方々の協力のもと予定どおり無事定刻に終了しました。天候に恵まれた有意義な一日でした。

 村上 尚子 特選
長屋門くぐれば実梅ひとつ落つ 渥美 絹代
万緑に埋るる寺に手をすすぐ  齋藤 文子
長屋門の笠木九本麦の秋    野沢 建代
梅の実や三百年の長屋門    富田 育子
富士山を掠むる機影麦の秋   大村 泰子
 渥美 絹代 特選
飛行機のとび立つ茅花流しかな 村上 尚子
虫喰ひの上がり框や竹の秋   浅井 勝子
空港に近づく茅花流しかな   塩野 昌治
富士山を掠むる機影麦の秋   大村 泰子
梅の実や三百年の長屋門    富田 育子
 弓場 忠義 特選
明易の灯して作る握り飯    高井 弘子
門前を田沼街道枇杷熟るる   渥美 絹代
網元の蜘蛛の糸張る棹秤    金原 恵子
老鶯の声透き通る長屋門    山本 狸庵
虫喰ひの上がり框や竹の秋   浅井 勝子
 齋藤 文子 特選
門前を田沼街道枇杷熟るる   渥美 絹代
長屋門くぐれば実梅ひとつ落つ 渥美 絹代
富士山を掠むる機影麦の秋   大村 泰子
虫喰ひの上がり框や竹の秋   浅井 勝子
若葉風舌にとどまる生姜糖   前田 里美



令和5年8月号掲載 句会報

『忙中閑あり』の吟行句会

(北見)金田野歩女

令和5年8月号へ 

 新型コロナウイルス禍により、二回延期になっている白魚火全国俳句大会札幌大会が十月に開かれる運びとなり、去る五月二十二日午後、行事部の皆さんと地元会員の打ち合わせが行われました。地元からは、札幌十名、苫小牧三名、旭川・北見各一名が札幌に集いました。行事部からの説明を受け、それぞれの担当が決まっていくと、愈々との想いも高まり、全国の皆様を温かくお迎えしようと心を一つに致しました。
 当日午前中の空いた時間にそのうちの九名で北大構内の吟行句会に出かけ、正に忙中閑ありの意義あるひと時を過ごしました。北大構内は、かつて故仁尾正文前主宰、安食彰彦副主宰をお迎えして散策し、先生方も楽しまれた懐かしい所です。
 札幌市内の中心部にあって広いキャンパスに自然豊かな光景が広がっています。(「白魚火」五月号の吟行案内も参照してください。)真鴨や鴛鴦の番、蝦夷栗鼠が駆け抜け、ライラックの数種は花盛り、黒船躑躅に溢れる若葉と句材をふんだんに提供してくれました。また、市民の憩いの場でもあり、散策中の人と言葉を交わしたり、小さな男の子に声を掛けたりと心が解きほぐされていく想いでした。
 句会は、「桜の実」の席題を含む二句投句、五句選とし、短い時間ではありましたが和気藹々楽しい句会でした。


北大構内のライラック

吟行句会参加者当日の一句
キャンパスに思惑の池や桜実に 平間 純一
足る日々を重ねをりけり桜の実 浅野 数方
見上ぐれば空の青さと桜の実  市川 節子
直角の木道さくら実となんぬ  奥野津矢子
実桜の落つる小川の父子連れ  佐藤やす美
池の面の只々静か蝸牛     西田美木子
あめんぼの雲上すいと泳ぎをり 平野 健子
森の池杉菜の雫七色に     三浦 紗和
池の面に縮緬の波桜実に    金田野歩女

 おって、この前日の二十一日、俳人協会北海道支部第十五回俳句大会が開催され、白魚火の会員が次のとおり活躍しましたので、併せて報告いたします。

俳人協会北海道支部第十五回俳句大会
北海道議会議長賞

真つ先に改札出づる捕虫網   金田野歩女
札幌市教育長賞
産着干す五月の空の真ん中に  花木 研二

俳人協会北海道支部賞
身に沁むや骨董市に鉄兜    高田 喜代

選者特選賞
市川節子、金田野歩女、佐藤やす美、西川玲子、花木研二、森淳子



令和5年9月号掲載 句会報

群馬白魚火会村上鬼城記念館・洞窟観音・徳明園吟行

天野 萌尖

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 令和五年六月二十三日、高崎市村上鬼城記念館、洞窟観音、徳明園へ吟行句会を行いました。前日までの梅雨空も梅雨晴れとなり、十二名にて吟行を楽しみました。
 洞窟観音、徳明園は、明治に新潟柏崎出身で高崎にて精米商、呉服商として財を成した山田徳蔵氏が人々と共に楽しめる観光参拝場の建設を決意、私財を投じて五十年洞窟を掘り、作ったものです。三十九観音を祭った霊場と観音山の渓流を引き入れて、池泉回遊、枯山水、苔庭、石庭の四つのエリアからなる日本庭園徳明園を完成させました。
 四百メートルの洞窟観音は夏でも涼しく、清水が滴り、三十九体の観音像が一体一体、喜怒哀楽の表情豊かに安置されています。
 六千坪の徳明園は初夏の紫陽花と秋の紅葉が特に名高く、今回の吟行に合わせたように斜面に咲き盛る紫陽花と渓流を引き入れた池が綺麗でした。
 二時間程の吟行時間を設定しましたが見どころが観音様、紫陽花、石庭と満載で、手帳を走らせるペンも休むことなく、時間が足りないのが残念でした。
 村上鬼城記念館は、鳥取出身で高崎に居を構えた村上鬼城氏が昭和三年より七十四歳で生涯を終えた昭和十三年まで俳句、俳画に過ごした住居を高崎市管理のもと、鬼城草庵として、また別館を資料館として公開しています。
 正岡子規を敬愛していた鬼城は、子規に弟子入りの願いと俳句を送りました。子規から弟子入りが許され、俳句の選評が送られて来、以来子規が亡くなるまで師事しました。その後高浜虚子の指導を受け、高崎を中心に群馬県内の多くの俳人が鬼城のもとに集まり、鬼城草庵にて句会を開催しました。現在も句会『五日会』として活動されています。
 草庵、記念館を見学して鬼城の俳句、俳画に接した後、記念館句会室をお借りして句会を行いました。

村上鬼城代表作
元旦や赤城榛名の峰明かり
冬蜂の死にどころなく歩きけり

当日の高得点句
 十三点
石仏のなべて微笑む花かへで  篠原吾都美
 八点
端正な鬼城の館青葉風     篠原 庄治
 七点
石庭に寄する細波青楓     遠坂 耕筰

当日の一句
梅雨の灯のぽつりと洞窟観音像 篠原 庄治
花擬宝珠鬼城旧居に匂ひけり  福嶋ふさ子
観音の性別問はれ梅雨ふかし  鈴木百合子
梅雨晴や岩に憩へる番鴨    仙田美名代
七変化一輪活けし鬼城の間   篠原吾都美
怪しげな色を放つや夕牡丹   八下田善水
曲水を辿れば岩へ滴りへ    遠坂 耕筰
洞窟に並ぶ観音滴れり     高橋 見城
洞窟や明かりたよりに緑風   青柳 一誠
あぢさゐの池に映りて観音堂  関  定由
洞窟に仄かの風や梅雨晴間   町田 志郎
風の道時計回りに鬼蜻蜓    天野 萌尖



令和5年9月号掲載 句会報

自然と触れ合い歴史に思いを馳せる
― 坑道句会六月荒神谷吟行句会報 ―

生馬 明子

令和5年9月号へ 

 令和五年六月二十六日(月)降りしきる雨の中、安食彰彦先生ご出席の下、出雲市斐川町神庭の荒神谷史跡公園への吟行句会を行いました。雨の影響もあって参加者は十四名に止まりましたが、一番の見頃を迎えた古代蓮や睡蓮、沙羅、紫陽花などの花が咲き、赤米の植えられた棚田、そして出土した三百五十八本の銅剣、十六本の銅矛、六個の銅鐸のレプリカが発掘時そのままに置かれた史跡などを巡りました。
 荒神谷史跡は、一九八三年、広域農道建設に伴う遺跡分析調査で、調査員が田んぼの畔で一片の土器を拾ったことがきっかけで、大量の銅剣、銅矛、銅鐸が発見されました。現在、これらは国宝として、島根県立歴史博物館に展示されています。
そして、一九九五年五月、古くから神々の庭「神庭かんば」と呼ばれていたこの地に、「荒神谷史跡公園」がオープンしました。「三宝荒神」が祀られていたこの谷を地元では「荒神谷」とよんでいたことから、「荒神谷史跡公園」と命名されました。
 公園には、

  1. 弥生時代の青銅器三百八十点が出土した遺跡を再現した「荒神谷遺跡」
  2. 「国宝・荒神谷遺跡出土青銅器」「出土状況ジオラマ」の展示。「発掘ドキュメント」の上映などをする「荒神谷博物館」
  3. 古の世界へと誘う、三千年の時を経た「古代ハス」とその池
  4. 季節を象徴する「辛夷」「紫陽花」「紅葉」「椿」の他、二十七・五ヘクタールの公園内には、古くから日本に自生していた木々や草花たち約五百種が分布し、
  5. 古代の農業を現代に蘇らせた「古代農耕地」で現在は黒米・赤米を栽培などがあります。

 観光、吟行地として多くの人が集うのは「蓮の花が咲く頃」ですが、余り人の訪れない真夏や真冬に一人で訪れるのも一興と思います。
 吟行を終えた後の句会場は、出雲市平田町のJAしまね平田中央支店会議室、午後零時半出句締切り、午後一時から句会となりました。
 当日の選者特選、高得点句、参加者の当日の一句は以下のとおりです。

 安食 彰彦 特選 順不同(以下同)
睡蓮の白さや谷を引き締むる    久家 希世
銅剣の鎮もる谷や大賀はす     山本 絹子
枇杷の実の熟れてしたしき匂ひかな 荒木千都江
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子
まだ青き色をとどめて夏落葉    三原 白鴉

 渡部美知子 特選
風にゆれ雨に錆びたる沙羅の花   原  和子
蓮の葉の添水の如く雨零す     三原 白鴉
青葉雨課外授業の傘の列      原  和子
咲ききつて力解きたる蓮華かな   三原 白鴉
青田風赤米しかと根を張れり    原  和子

 三原 白鴉 特選
青葉雨課外授業の傘の列      原  和子
蓮咲いて風あたらしき朝かな    原  和子
青田風赤米しかと根を張れり    原  和子
森深き一隅を出ず黒揚羽      渡部美知子
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子

 荒木千都江 特選
雨音にささやき返す蓮青葉     渡部美知子
青田風赤米しかと根を張れり    原  和子
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子
白き影曳きて零るる沙羅の花    三原 白鴉
紅蓮のつぼみふつくら天を指す   安食 彰彦

 久家 希世 特選
青田風赤米しかと根を張れり    原  和子
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子
歴史あり二千年蓮の令和なり    生間 幸美
あめんぼの水輪に雨の輪を重ね   渡部美知子
牛蛙鳴けばふるへる池の面     原  和子

 生馬 明子 特選
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子
まだ青き色をとどめて夏落葉    三原 白鴉
風にゆれ雨に錆びたる沙羅の花   原  和子
夏薊雨の明るく降りにけり     三原 白鴉
睡蓮のじわりじわりと広ぐ池    大菅たか子

当日の高得点句
 十五点
野仏の片頰濡らす青時雨      渡部美知子
 十一点
風にゆれ雨に錆びたる沙羅の花   原  和子
 十点
青田風赤米しかと根を張れり    原  和子
 九点
あめんぼの水輪に雨の輪を重ね   渡部美知子
 七点
白き影曳きて零るる沙羅の花    三原 白鴉
まだ青き色をとどめて夏落葉    三原 白鴉

当日の一句抄(氏名五十音順)
古代蓮ふと考ふる吾の余命     安食 彰彦
ひと雨によりほどけゆく古代蓮   荒木千都江
銅鐸の鐘の音わたる蓮の池     生馬 明子
遺跡まで上り下りの青時雨     生間 幸美
ポーズしてカメラ目線の蓮の花   大菅たか子
睡蓮の白さや谷を引き締むる    久家 希世
蓮の葉に水玉浮かべ空うつす    杉原 栄子
青葉雨課外授業の傘の列      原  和子
野仏にあぢさゐの花風和む     樋野美保子
神宿る蓮の浮葉の玉の水      福間 弘子
父と子にざりがに釣りの昼下り   牧野 邦子
まだ青き色をとどめて夏落葉    三原 白鴉
銅剣の鎮もる谷や大賀はす     山本 絹子
遺跡野を低く遊べる糸とんぼ    渡部美知子



令和5年9月号掲載 句会報

「石照庭園」吟行記

りんどう句会 妹尾 福子

令和5年9月号へ 

 六月三日(土)、雲南市木次町平田にある「石照庭園」を訪れ、吟行句会を行いました。
 当日は雲ひとつない青天の〝吟行日和〟となりました。久々に路線バスに乗り、三刀屋から新緑の山間を縫ってゆったりとしたバスの旅を楽しみつつ「石」というバス停に到着。降りると眼の前に「石照庭園」と書かれた巨大な岩(五十屯)が威風堂々たる姿で私達七名を迎えてくれました。
 「石照庭園」は、広島空港「三景園」や東京「椿山荘庭園」など数々の日本庭園を手がけた巨匠伊藤邦衛先生が設計された〝廻遊式庭園〟です。総面積二ヘクタールの園内には、山肌に巨岩を組み上げて作られた滝や土橋(反り橋)、メルヘンチックな椅子が置かれた東屋、水車などがあり、錦鯉が悠々と泳ぐ池には歩いて渡れる小島もあり、随所に趣向が凝らされていて、四季折々の景色を堪能できます。
 六月に訪れた私達を待っていたのは四百種もの花菖蒲です。見頃は中旬とのことで、まだ少し早く点々と咲いている状態でしたが、蕾も美しく、各々に名札が付けられていて、大切に管理されていることが窺え、花にも況して感動しました。
 池畔を行くと、池の面すれすれにモリアオガエルの大きな卵を発見!木の枝が折れそうな程に沢山ぶら下がっていて圧巻でした。苔庭には芍薬の花びらが散って風情があり、ヒペリカムの黄色い花も新緑の中に彩りを添えて可憐な姿を見せてくれていました。
 自然の花々を鑑賞しながら石段を上っていくと、石照寺(札所)があり、「良い句ができますように!」と皆で参拝しました。途中、東屋で休憩したり、岩肌を伝う糸滝や水車のしぶきにマイナスイオンを浴びたり、大自然を満喫して、句会の席へ。
 園内にあるお休み処「古地上(こちかみ)」の二階で、美味しい昼食を戴き、一人八句ずつ投句し、午後一時半からの句会となりました。「石照庭園」の景色は元より職員の皆様の温かいお心遣いが有り難く、居心地の良さに四時までゆっくり寛がせていただき、充実した吟行句会となりました。

当日の作品(各二句)
出迎への園丁若し花菖蒲    梅木 英子
苔むせる池畔森青蛙かな
青葉騒高みにおはす観世音   陶山 京子
若楓陽に輝うて真くれなゐ
菖蒲園おとぎの国のやうな椅子 中林 延子
きほひよく回る水車の呼ぶ涼気
青苔や巨岩短き影をもつ    原  文子
階下より拝む札所や梅は実に
再会の園主元気よ夏帽子    森山 啓子
新緑の風がみちづれ札所寺
石王山今を盛りの山法師    山根比呂子
ジャンプする緋鯉の音に振り向きぬ
野仏に蛍袋の凭れ咲く     妹尾 福子
札所への高き石段花うばら



令和5年11月号掲載 句会報

二〇二三年夏の坑道句会報

荒木 千都江

令和5年11月号へ 

 八月二十八日(月)隔月に実施している坑道句会を行いました。当日は、全国的な猛暑日だったのですが、出雲でも熱中症警戒アラートが発令され、外出はなるべく避ける、こまめに水分を補給するなど報道がなされていました。その中で、今回は句会場に予定していたJAしまね北浜店会議室が使えなくなり、急遽平田中央支店会議室に変更になったこともあって、計画していた十六島方面への吟行が難しい方が出てきたため、自由吟行に変更となり、猛暑も考慮して無理のないよう持ち出し句も可とすることとなりました。
 当日は朝からほんとうに暑い日差しがいっぱいでしたが、とりあえず私は、山本絹子さんと北浜、十六島方面へ出かけ、車の中から吟行しようということにしました。暑い暑いと言っているものの、港まで来ると日本海はちょっと秋めいてきたように感じられ、風が心地よく感じられました。
 小津の岸壁で、一足先に来ていた美知子さん、和子さん、白鴉さんなどと落ち合い、しばし港周辺を歩きました。釣り具を持ったお兄さんに出会い、今は何が釣れるかと聞いたら、〝烏賊〟だと・・・。でも、すぐに姿が見えなくなってしまい、実際に烏賊を釣り上げる様子を見ることはできませんでした。
 その後、発電用の大風車が立ち並ぶ十六島風車公園まで登ったあと、十六島を後にし、句会場近くの平田愛宕山公園の古川句碑に寄りました。句碑の周りはきれいに草刈りがしてあり、ちょっと秋めいた風を感じるようでした。
 各自それぞれに朝の涼しいうちに吟行をされたようで、午後零時三十分の投句締切り、一時からの句会では参加者十五名の沢山の佳句が並びました。
 当日の句会の結果は、以下のとおりです。

 安食 彰彦特選 順不同(以下同じ)
一湾の朝おだやかに秋の鳶     原  和子
雨の音に気付かぬ宵や虫集く    持田 伸恵
岬鼻に寄する白波鳥渡る      三原 白鴉
空蟬のひとつころがる雨のあと   荒木千都江
寄するより引く波音にある晩夏   荒木千都江

 渡部美知子特選
ウインチの錆びつく浜や海猫帰る  三原 白鴉
せみしぐれ風の抜けゆく古川句碑  樋野美保子
沓脱ぎの下駄の鼻緒に秋茜     持田 伸恵
磴二百上れば近し秋の空      三原 白鴉
秋気澄む濤の中なる高堤      安食 彰彦

 三原 白鴉特選
潮の目の濃き帯をひく秋の波    福間 弘子
寄するより引く波音にある晩夏   荒木千都江
一湾へ深く入り来る素風かな    渡部美知子
打ち寄する嵐の名残り秋の浜    牧野 邦子
その中に鉦叩ゐる庭の闇      牧野 邦子

 荒木千都江特選
潮の目の濃き帯をひく秋の波    福間 弘子
秋気澄む濤の中なる高堤      安食 彰彦
ぶつかりし潮の目消ゆる秋の海   大菅たか子
一湾へ深く入り来る素風かな    渡部美知子
山門を潜れば萩の風に会ふ     福間 弘子

 久家 希世特選
一湾へ深く入り来る素風かな    渡部美知子
一人来て浦曲に拾ふ秋のこゑ    渡部美知子
海見ゆる高さに社椿の実      牧野 邦子
峠越え新涼の海見に行かむ     生馬 明子
山門を潜れば萩の風に会ふ     福間 弘子

 生馬 明子 特選
一人来て浦曲に拾ふ秋のこゑ    渡部美知子
さざ波へ散らす月光金の帯     小澤 哲世
寄するより引く波音にある晩夏   荒木千都江
暮るるまで波と遊びし八月よ    小澤 哲世
山寺の風に径あり夏木立      樋野美保子

 当日の高得点句
十一点

寄するより引く波音にある晩夏   荒木千都江
九点
一湾へ深く入り来る素風かな    渡部美知子
八点
山寺の風に径あり夏木立      樋野美保子
潮の目の濃き帯をひく秋の波    福間 弘子
山門を潜れば萩の風に会ふ     福間 弘子

 当日の一句抄(氏名五十音順)
空澄めば驚く波濤十六島      安食 彰彦
寄するより引く波音にある晩夏   荒木千都江
磯松は浜のシンボル秋の声     生馬 明子
海の家素足の子らの白い足     生間 幸美
つくつくししきりに鳴けり古川句碑 井原 栄子
新藁の匂ほのかに今日の風     大菅たか子
潮騒の句帳を覗く夏の果      久家 希世
秋の夜へ浮かぶ漁火またひとつ   小澤 哲世
みんみんの声まだ降れる岬山    原  和子
山寺の風に径あり夏木立      樋野美保子
潮の目の濃き帯をひく秋の波    福間 弘子
海見ゆる高さに社椿の実      牧野 邦子
磴二百上れば近し秋の空      三原 白鴉
沓脱ぎの下駄の鼻緒に秋茜     持田 伸恵
一人来て浦曲に拾ふ秋のこゑ    渡部美知子



令和5年12月号掲載 句会報

令和五年度栃木白魚火第二回鍛錬吟行会

松本 光子

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 十月一日(日)さくら市に於いて二回目の鍛錬吟行会が行われた。当日は小雨の中二十名が奥州街道の氏家宿(現さくら市)の西導寺に集合。
 氏家氏の菩提寺西導寺、青銅造不動明王坐像の安置されている光明寺、そして鎌倉時代作の蔦地蔵(定家地蔵)等を吟行。
 句会は七句出句、十句(特選二句)選で行われた。

役員の特選句
星田 一草 選
色変へぬ松や地蔵の手に水子  本倉 裕子
秋思ふと目鼻つるんと蔦地蔵  本倉 裕子
柴山 要作 選
うそ寒や定家地蔵の薄き耳   星  揚子
バス停を横切つて行く草の絮  齋藤 英子
加茂都紀女 選
氏家や秋日晴れたり時雨たり  佐藤 淑子
こぼれ萩踏む人踏まぬ人のゐて 齋藤 英子
中村 國司 選
寄せ仏けふ藤の実に手を伸ばす 齋藤 英子
粒ごとに雨零しけり式部の実  江連 江女
星  揚子 選
秋陰の堂書きたての板塔婆   中村 國司
榧の実を踏むや寺領の風立てり 五十嵐藤重
熊倉 一彦 選
秋思ふと目鼻つるんと蔦地蔵  本倉 裕子
色変へぬ松不動明王空に立つ  星田 一草
本倉 裕子 選
方丈の裏廻廊に萩の風     加茂都紀女
敗荷の水瓶に影折りにけり   星  揚子
秋葉 咲女 選
新米を山積みにして氏家駅   石岡ヒロ子
蓮の実の飛んで寺領の静もれり 松本 光子
江連 江女 選
秋思ふと目鼻つるんと蔦地蔵  本倉 裕子
藤は実に十指に余る寄せ仏   松本 光子
渡辺 加代 選
秋霖の滲む手帳や乱れ書き   秋葉 咲女
榧大樹末枯れし身をどつしりと 鷹羽 克子
松本 光子 選
痘痕めく地蔵のお顔小鳥来る  星  揚子
粒ごとに雨零しけり式部の実  江連 江女

  一句抄
鐘楼の袴腰より虫の声     秋葉 咲女
明王の見晴せる町秋澄めり   五十嵐藤重
不動明王睨む境内小鳥来る   石岡ヒロ子
粒ごとに雨零しけり式部の実  江連 江女
秋明菊の白の浮きたつ不動尊  加茂都紀女
竜淵に潜み明王岩に坐す    菊池 まゆ
吟行の昼は新米塩むすび    熊倉 一彦
バス停を横切つて行く草の絮  齋藤 英子
手に冷ゆる感満石の丸さかな  佐藤 淑子
町名に宿場の名残り水の秋   柴山 要作
朝寒や見上ぐる駅舎さくらの絵 杉山 和美
榧大樹末枯れし身をどつしりと 鷹羽 克子
秋陰の堂書きたての板塔婆   中村 國司
五輪塔の裾に群れ咲く曼珠沙華 中村 早苗
敗荷の水瓶に影折りにけり   星  揚子
色変へぬ松不動明王空に立つ  星田 一草
蓮の実の飛んで寺領の静もれり 松本 光子
色変へぬ松や地蔵の手に水子  本倉 裕子
天蓋のまばゆきばかり施餓鬼寺 谷田部シツイ
露けしや遠くを見遣る仏の目  渡辺 加代

 最後に柴山会長より、小川軽舟著書『俳句入門』の中から「吟行は終ってから始まる」という一条を紹介していただき句会を終了。
 地元の秋葉咲女さんには、会場の準備、手造りのおいしい秋茄子の漬物等をいただき大変お世話になりました。


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