最終更新日(Update)'24.03.01

白魚火 令和6年3月号 抜粋

 
(通巻第823号)
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3月号目次
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季節の一句  小嶋 都志子
砂つぶて (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集 (巻頭10句のみ掲載) 安食 彰彦ほか
白光集 (村上尚子選) (巻頭句のみ掲載)
  福本 國愛、山田 眞二
白光秀句  村上 尚子
旭川白魚火新年句会 吉川 紀子
令和六年栃木県白魚火会新春俳句大会 中村 早苗
名古屋白魚火句会五周年記念感謝の会と句会 伊藤 妙子
白魚火集(白岩敏秀選) (巻頭句のみ掲載)
  高橋 茂子、鈴木 誠
白魚火秀句 白岩 敏秀


季節の一句

(日野)小嶋 都志子

身じろがず春告鳥の声を待つ  田口 耕
          (令和五年六月号鳥雲集より)
 「鳥に出会いたければ木になりなさい」と教えられたことがある。作者は鳴くはずの春告鳥を日差しのやわらかくなってきた戸外でじっと待っているのかも知れない。「身じろがず」「待つ」その時間を楽しんでいるように感じられた。豊かな自然との語らいの時が流れている春の句、春告鳥の声がもうすぐ聞こえて来そう。

逆上がりひとつして去る卒業生  野田 美子
          (令和五年六月号白魚火集より)
 「ひとつして去る」から、作者はたぶん一人の卒業生を少し離れた所から見ているのだろう。卒業生がけじめをつけるように逆上がりをして立ち去った姿を頼もしく思ったのかも知れない。巣立つ子を見守る優しい作者の眼差が心に残った。

富士山が遠くに晴れてさくら咲く  山西 悦子
          (令和五年六月号白魚火集より)
 富士山とさくらが揃えば、それだけで嬉しい。北国で育った私には、富士はずっとあこがれの山である。
 「遠くに晴れて」とあるから、富士の見える町に住んで居られるのだろう。生活の一部のような富士山への親しみと、開花の喜びに満ちあふれている春の句、「晴れて」が喜びを膨らませている。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 湯豆腐 (出雲)安食 彰彦
大谷選手嗚呼湯豆腐に箸止めて
燗熱し一千億に酔ひにけり
朋友と語り燗酒追加せり
冬ぬくしろくろの土の立ちあがる
冬ぬくし餌をとる二羽のこふのとり
焼鳥の晩酌でよしまたけふも
死ぬまではたたかふこころ牡丹鍋
俳諧のことではなくて牡丹鍋

 春着選る (浜松)村上 尚子
自画像にすこし手ごころ冬ぬくし
新しき足袋をよろこぶ足の裏
白鳥にみづうみの空あけて待つ
洗ひたての蕪の白さを積み上ぐる
歳晩の波に漂ふうつせ貝
年忘大きな猪口を手渡さる
歳時記の付箋ひらひら年明くる
春着選る鏡を出たり入つたり

 炭火 (浜松)渥美 絹代
のみの市落葉の上に茣蓙を敷く
鳥鳴けば露店の炭火よく爆ずる
磨き込む板の間の艶十二月
均したる畑に師走の雨きたる
白菜の太る瀬音のよく響き
駅前に鳥の好きな木冬夕焼
冬籠好きな絵二枚壁に掛け
糸かけしままのミシンや雪催

 アンコール (唐津)小浜 史都女
書き遺すごとき日記や冬至の夜
線香でわが身占ふ年の暮
年用意母の使ひし鍋を出し
縁日のやうな通りや初詣
アンコールもていま一度土竜打
雪の音聞かむと灯落としけり
栞紐真つ赤朝から雪雪雪
飛行機のビルすれすれに寒牡丹

 冬深し (名張)檜林 弘一
短日の文机の向き変へにけり
新聞の端の日向の冬の蠅
目玉まで新巻鮭の塩まみれ
注文は煙越しなる焼鳥屋
冬深し京北山の杉襖
窯裏に陶器の屑の冬ざるる
寒釣の道糸ぴんと張つてをり
年忘訛を飛ばす句座であり

 冬菊 (宇都宮)中村 國司
冬菊の雨上りたる静寂かな
豆腐屋の湯気に勾配山眠る
おなら放く閣下大笑冬日向
冬暖にいのち存ふ物のいろ
戦争をテレビ多弁に十二月
忘れ得ぬ交はりなりぬ年忘
星明り街の灯りや去年今年
物を見ることも体操寒夕焼 

 初日の出 (東広島)渡邉 春枝
目で追へば我に寄り来る冬の蝶
思ひ出を暖めてをり日向ぼこ
自分史のつもりの日記年つまる
月冴ゆる話のつづきねだる嬰
筆不精を今に引き摺る年の暮
遠山を染めて輝く初日の出
新春の巫女の立てたる箒の目
初春の夢のふくらむ子の便り

 柳葉魚 (北見)金田 野歩女
水鳥の水脈交差して幾何模様
刷毛で描くやうな白雲冬の朝
湾閑か小魚咥へ浮く秋沙
柳葉魚焼く匂ひ釧路を懐かしむ
戸車の躓く仏間古暦
大切な句稿を送る初便
具沢山の里の譲りの雑煮かな
記念写真詰めて納まる初句会

 嫁が君 (東京)寺澤 朝子
冬うらら皇居一周ランニング
しばらくは銀杏落葉の音の中
墓地といふ平穏冬日傾きぬ
垣つづく此処は古民家冬至梅
傘立にうつすら埃冬旱
星見えぬ空にも馴染み年暮るる
一統のみなすこやかに年迎ふ
さう言へば久しく会はぬ嫁が君

 冬帽子 (旭川)平間 純一
冬帽子夜汽車の窓にもう独り
雀らの木々に零れて雪こぼる
北溟へ特急宗谷雪けむり
鉄路守るとどまつ林雪催
すみえちやんと大根山の橇滑り
新庁舎の展望階へ岳は雪
眺望の山脈ひろぐ深雪晴
まづ煙突は親父の仕事煤払

 煤払 (宇都宮)星田 一草
男体山は真向ひにあり木守柿
山裾の小さなチャペル冬に入る
十二月八日ばら咲くその色に
大根を干して靜かに村老ゆる
人は人を残して逝きぬ冬の月
玄関に聖樹窓より子らの声
あを竹の秀のしなやかに煤払
蒼穹に冬満月の孤高かな

 初筑波 (栃木)柴山 要作
ゴルフ場は発電基地に山眠る
顔火照らせいよよ饒舌薬喰
天蓋は寒紅梅や屋敷神
八十路となり見えしものあり去年今年
ゆつたりと発電風車初御空
男峰をみね女峰裾めみねを豊かに初筑波
初詣磴を一気にサッカー部
読初は『山廬の四季』の春の章

 寒雀 (群馬)篠原 庄治
歳一つ足し大年の灯を落とす
産土の嶺々浮彫に初日の出
初明り障子を過る鳥の影
彩りに花麸を浮かす雑煮かな
氏神の真砂に弾む寒すずめ
霜解けの雫散華の大甍
小きざみに檜葉垣揺らし寒雀
仕上げには塩一振りの七日粥

 息白し (浜松)弓場 忠義
鋸の目立ての音や十二月
やまあひの師走の畑に烟立つ
一斉に宮の鳩立つ神迎
一椀の湯気に冬菜の薄みどり
焼芋を妻と分くれば湯気二つ
少年のやさしき嘘の息白し
枯木星仰ぐちちはは遠くして
裸木の傷痕に日の当たりけり

 年用意 (東広島)奥田 積
旧道の長き土塀や青木の実
冬菊や日は中天にやはらかし
夕さりの人恋しいか雪ばんば
漱石忌コラムに子規の逸話など
十二院ありし跡とふ花柊
山城に上る落葉を踏み分けて
忘れられぬことの一つや冬桜
孫の服仕立つる妻の年用意

 冬満月 (出雲)渡部 美知子
釣り人は点描のごと冬日和
冬晴や光に紛れゆく出船
一畳の神棚祀る冬座敷
冬ざれや竹百幹のうなり声
下総の雨を聞きつつ年用意
みどりごを胸に冬満月あふぐ
赤ん坊に小指をあづけ年の家
大歳や薬知らずを良しとせむ

 金箔酒 (出雲)三原 白鴉
硬き日へ万の拳や大冬木
書き入るる最後の予定古暦
輪飾や父の打ちたる古き釘
鳥声より明くる出雲の初山河
初春の振つて踊らす金箔酒
初春の墨痕太き寿の一字
深更の水餅白く沈みをり
闇丸く開けてとんどの遠明かり



鳥雲集

巻頭1位から10位のみ
渥美絹代選

 宝引 (藤枝)横田 じゅんこ
ころがれば拾ひたくなる木の実かな
立ちあがる椅子に冬日の集まりぬ
方丈の担いで運ぶ障子かな
北風や棒のごとくに人歩く
大霜の段々畑日が渡る
宝引の紐のもつれに一さわぎ

 浮桟橋 (浜松)佐藤 升子
冬うらら母の指貫はめてみる
開戦日駅まで風の通る道
絵馬吊つて風生まれけり冬木の芽
山に灯の点り初めたり薬喰
せり市の河豚ふくらんで水の中
極月の浮桟橋を波が打ち

 蘆原 (鳥取)西村 ゆうき
ぽつかりと一人の時間日向ぼこ
冬日向活字の上に眼鏡置く
朝靄を乱さず鴛鴦のさかのぼる
枯れきりし音の蘆原雀たつ
葱刻む音より朝の明けてくる
とつくりのセーターを顔抜けて朝

 初雪 (島根)田口 耕
妻帰る初雪の香を身につけて
炊出しの雑炊の湯気顔つつむ
寒林や小石積まるる塞の神
冬ざれやビルの高みに烏群れ
数へ日の一日過ぎゆく茜雲
のど飴を嚙んでしまひて雪起し

 薬喰 (多摩)寺田 佳代子
すみずみまで作務の箒目実万両
百までは数へてみたり浮寝鳥
薬喰大黒柱に深き傷
癒え初むる夫に霜夜の風呂熱く
門松立つる山門に日のまはりくる
額縁のゆがみを正す小晦日

 リカちやん (宇都宮)松本 光子
皇帝ダリア珈琲にカステイラ
小春日のリカちやんと乗る三輪車
山茶花の門曲がるまで手を振れり
つちふまずほぐす勤労感謝の日
居酒屋のあはき灯十二月八日
数へ日の味見し舌を焦がしけり

 水鳥 (出雲)荒木 千都江
万の穂に万の風あり芒原
静けさや水鳥水の音たてず
群れながら向きそれぞれに浮寝鳥
みづうみのざつと数ふる鴨の数
朝靄の中なる鴨の浮寝かな
水仙に風の集まる岬かな

 去年今年 (群馬)鈴木 百合子
傷のなき空十二月八日かな
漱石忌米粒ほどの活字追ふ
注連綯へる藁屑腋に小昼かな
小晦日瓶子逆さに干しにけり
去年今年手の付けやうのなき机上
神鈴に日の斑の踊る淑気かな

 朝の道 (呉)大隈 ひろみ
漢方の大き薬袋実南天
硝子戸に鳥の一閃風邪籠
牡蠣船の小橋渡れば灯の揺れて
丸善はビルの七階日記買ふ
残照の褪めて冬至の硝子窓
言の葉の白息となる朝の道

 地層 (札幌)奥野 津矢子
貝塚の地層こんがらかつて冬
冬ぬくし耳の小さきマンモス象
罅と言ふ埴輪の加齢冬の雷
幾重にも津波の地層冬ざるる
漆黒の把手冷たき船簞笥
赤々と枯れてゐるなり茨の実



白光集
〔同人作品〕 巻頭句
村上尚子選

 福本 國愛(鳥取)
着水の胸の煌めく小白鳥
焼藷を割つて熱き香分かちあふ
不揃ひの柚子の漂ふ新湯かな
学び舎の明かり師走の色となり
古暦「金婚式」と赤い文字

 山田 眞二(浜松)
臘月の防犯カメラ首振れり
干してある靴下に穴クリスマス
ふすま絵の龍が火を吹く冬座敷
裁判所に迷ひ込みたる冬の蜂
堀端に鳩の屯す寒日和



白光秀句
村上尚子

不揃ひの柚子の漂ふ新湯かな 福本 國愛(鳥取)

 冬至の日の風呂に柚子を入れると体が温まると共に、無病息災になると言われている。
 「不揃ひ」とは店で買ったものではなく、屋敷に植えられたものを必要に応じて採っているのだろう。惜しげもなく湯船に浮かべられた柚子を押し分けるようにして湯に浸っている。〝年寄に新湯は毒〟という俗説もあるが、きれいな湯はやはり気持が良い。
  古暦「金婚式」と赤い文字
 結婚に関する記念日で、最も分かりやすく定着しているのが金婚式と思われる。五十年という感慨は人それぞれかも知れないが、誰でも迎えられることではない。外そうと思っていた暦に書かれていた赤い文字に過ぎ去った年月をしみじみと嚙み締めている。

臘月の防犯カメラ首振れり 山田 眞二(浜松)

 かなり以前のことだが、街中に防犯カメラが設置されつつあるとき、プライバシーに関わるのではないかという声があったことを記憶している。事件はないに越したことはないが、防犯カメラにより多くの事件の解決につながったことも事実である。特に年末は事件が多い。このカメラはより広範囲の様子を捉えているのだろう。強い味方である。「臘月」は十二月の異称。他の季節では緊張感に欠ける。
 今や防犯カメラの存在に異議を唱える人はいないだろう。
  干してある靴下に穴クリスマス
サンタクロースから贈物をもらうための靴下というのは昔から聞いてきたが、今の子供たちはどうだろう。クリスマスと靴下はつき過ぎ・・・・と言えばその通りだが、「穴」の一語で救われた。今までにない視点により一句を成した。

寒波急固く閉ぢたる蜜の瓶 高橋 茂子(呉)

 蜂蜜かメープルシロップか、いずれにしても砂糖とは違う甘みととろりとしたところが特徴と言える。説明は一切不要の句だけに読者はそれぞれに思いをめぐらす。季語との微妙な兼合いにより二句一章は成り立つ。

ポインセチア抱へ上りの電車待つ 山田 惠子(磐田)

 ポインセチアと言えばクリスマスに欠かせないものとなっている。部屋に置けば一気にクリスマスモードに一変する。その鉢を抱えて電車を待っている。離れて住む家族の元へ行くのだろうか。ホームに吹く風も何のその。

病室に鼾の聞こえ冬ぬくし 伊藤 達雄(名古屋)

 病室にはそれなりのルールがあり、狭い部屋の中では我が身を持て余すこともある。しかし重篤ではないらしい。いつしか鼾が聞こえてきた。楽しい夢でも見ているのだろうか。部屋に差し込む日差しに安らぎが感じ取れる。

数へ日の数のそろはぬ乾電池 青木いく代(浜松)

 電源のない所でも乾電池さえあれば用が足りることがある。しかし用途に合った容量とその数が必要となる。「数のそろはぬ」では役に立たない。忙しさに加え作者の焦りが「数へ日」により一層拍車を掛ける。

子の眠る日溜りの墓地掃納 門前 峯子(東広島)

 掃納は大晦日に年の最後にする掃除をいう。墓地もその一つとして行うが、「子の眠る」にははっとする。「日溜り」の一言に少しだけ気持が安らぐ。心ゆくまできれいにされたことだろう。

耳澄ます雪降る夜の砂時計 高山 京子(函館)

 一般的に砂時計は見るもので音を聴くことはない。閉め切った部屋の中は外の音も遮断してしまう。雨とは違い雪の夜は一層静けさを増す。北国の冬を彷彿とさせる。

初写真吾を真ん中に家族寄る 山根比呂子(雲南)

 正月に家族一同が集まっての初写真。それぞれが日常とは違う気持で臨む。作者はとても長老と呼ばれるお年ではないが、一族の中では一番上らしい。我も我もと競ってそばに寄ってくる。日本の良き正月の風景。

自動ドア開け凩を連れてくる 森山真由美(出雲)

 その前に立てばひとりでに開く「自動ドア」。しかしいくら感度が良くても凩にまで反応することはないだろう。それをいかにも凩の仕業と見立てたところに詩がある。言われてみれば確かにそんな気がする。

着ぶくれて小銭の音を握りしむ 八下田善水(桐生)

 近くの氏神様へ参拝に行くのだろうか。外は〝上州のからつ風〟が吹いている。あまりの寒さにコートの衿を立てポケットに手を入れた。指先に触れたいくつかの小銭を思わず握りしめていた。


その他の感銘句

麦の芽のはや三寸のあをあをと
夕暮に降り出す雨や生姜酒
着ぶくれて足踏みをしてバスを待つ
年惜しむ便箋一つ買ひたして
年用意薬五錠を飲みてより
照焼の骨付きチキン雪催
夜咄や間伐材の紙コップ
地下鉄に乗る大年の背を押され
大山も三瓶山さんべも仰ぎ四日かな
湯気立てや駅員ひとり客ひとり
窯元は平家直孫山眠る
鍬の柄に残る夫の名冬ぬくし
是程のものに躓く寒さかな
薬飲むための三食風邪籠
きゆつと音立てて白菜漬けてをり

谷田部シツイ
鈴木 竜川
堀口 もと
前川 幹子
藤田 光代
菊池 まゆ
古橋 清隆
松山記代美
大菅たか子
山口 悦夫
長島 啓子
横田美佐子
山口 和恵
石田 千穂
佐々木智枝子



白魚火集
〔同人・会員作品〕  巻頭句
白岩敏秀選

 呉 高橋 茂子
音重き生家の引戸実南天
研ぐ米のこぼれを拾ふ霜夜かな
仏具拭く膝へ冬至の日差しかな
数へ日のメモ一枚の探しもの
膝に読む絵本のぬくみ室の花

 浜松 鈴木 誠
銃口の先に冬鳥遊びけり
遠吠えの吸ひ込まれ行く冬銀河
杖二つベンチに並ぶ日向ぼこ
編み直す母の匂の毛糸玉
薪一つ足して大根の炊き上がる



白魚火秀句
白岩敏秀

 研ぐ米のこぼれを拾ふ霜夜かな 高橋 茂子(呉)

 明日の食事のために米を研ぐ。カシャカシャと音を立てて洗い、とぎ水と一緒に零れた米粒の二三粒を拾ったという句意。主婦の日常の一こまのようであるが、背景には手を切るような水の冷たさ、斬り込むような夜気の冷たさがある。流しに零れた米粒の白さと霜の白さが二重の寒さを感じさせる。
 膝に読む絵本のぬくみ室の花
 膝に子を乗せて、絵本を読み聞かせているところか、膝の子が絵本を読んでいるところか。膝の子の温みが作者にほのぼのと伝わってくる。膝にいる人物を省略することによって、読み手のイメージを膨らませている。「室の花」が明るくて暖かい。

 銃口の先に冬鳥遊びけり 鈴木  誠(浜松)

 原石鼎に〈銃口や猪一茎の草による〉がある。猟師と猪の命を賭けた対峙。銃弾が当たれば猪は命を失い、弾が外れれば漁師は猪に襲われる。息詰まる一瞬である。銃口の狙う先には、撃たれることを露も知らない冬鳥が遊んでいる…。改めて突然に襲ってくる災害や死を考えさせられる作品である。
 薪一つ足して大根の炊き上がる
 板前の腕は大根で決まるとはよく聞く話である。それほど大根は単純で味付けが難しいということだろう。この句は丁度よい固さに大根が煮上がる火加減を決めるもので、その留めが薪を一つ足すこと。

 元日の小さき客待つ積木かな 山羽 法子(函館)

 正月に孫達が遊びに来るというので、朝から待ち遠しく思っている作者。小さなお客さんを待っているのは作者だけではない。炬燵の上の綺麗な色の積木も子ども達に遊ばれるのを待っている。やがて、玄関に元気な声がして、家中に明るい笑い声が満ちることだろう。

 救命衣つけて岩飛ぶ海苔摘女 安食 孝洋(出雲)

 海苔は一般に海苔篊や海苔粗朶に付着させ採取するが、十六島海苔は天然岩海苔である。十六島海苔は十二月から二月の日本海が荒れる厳寒期だけに取れる。荒波の打ち寄せる岩場での海苔摘みは命がけの作業。大波から身を躱すためには「飛ぶ」ことである。「跳ぶ」でないことに注目したい。

 大利根を二重に架けて冬の虹 天野 萌尖(群馬)

 ザッーと利根川を叩いて去って行った時雨の後にきれいな二重の虹が架かった。群馬県に源を持ち関東平野を貫流して太平洋に注ぐ利根川。「二重虹」と簡略をせず「二重に架け」と丁寧に詠みあげたところに坂東太郎と言われる大利根への畏敬の念が籠もり、ダイナミックな一句となった。

 仏具屋の窓に小さき聖樹の灯 石田 千穂(札幌)

 仏具屋とクリスマスのミスマッチのような句。きっと子どもは泣いて聖樹を頼み、親も学校で仲間外れにされることを心配したのだろう。だから親と子のギリギリの妥協が「小さき聖樹」。親はいつも子どもの涙に負けてしまう。

 新暦振り落としたる余震かな 大滝 久江(上越)

 今年は元旦から大きな地震に見舞われた。被災された方々に心からお見舞い申し上げます。
 このたびの上越市の震度は五強の強い揺れであった。その後、余震が何度も続いたことだろう。初めの強い揺れに耐えた暦も余震で振り落とされてしまった。度重なる余震に恐怖する心理を新暦に語らせている。

 渡す人できてマフラー編んでをり 鈴木けい子(浜松)

 まだ子どもだと思っていた娘が楽しそうにマフラーを編んでいる。見れば色も長さも男物らしい。どうも好きな人ができたらしい。成長した娘を喜ぶ一方でまだ早いと心配する母親の複雑な心理が「編んでをり…」にあるのではないか。

 「だんだん」で始まる話置炬燵 勝部アサ子(出雲)

 「だんだん」は「ありがとう」という意味の出雲を代表する言葉。「だんだんだんだん」と重ねることで感謝の気持ちが深まる明るい言葉である。古川先生にも〈晩じるといふ里ことば稲の花〉の出雲言葉を使った句がある。「晩じる」は「お晩です」という夕暮れ時のあいさつ。

 糊のきくエプロンつけて節料理 平野 健子(札幌)

 正月になると決まって節料理が食卓に並ぶ。節料理を用意するエプロンは洗濯したばかりでパリッと糊のきいたエプロン。新しい年を新しい気持ちで迎えようとする気持ちが身だしなみに現れた。


    その他触れたかった句     

少年の駆け抜けてゆく去年今年
寒柝の一打赤子の大欠伸
北風や握りこぶしを振り歩く
握手して手袋伝ふぬくみかな
一服の長き私の煤払
雪搔いて少女通れば風動く
冬瓜の途方に暮るる重さかな
歩きつつ結ぶエプロン年の暮
冬の湖一望にして一都句碑
綿虫の胸の高さに来て消ゆる
自在鉤の鯉黒々と薬喰
日の差して遠つ淡海の浮寝鳥
鴨遊ぶ小さき町の小さき川
街路樹に赤き実残る十二月
両手挙げ稚眠りゐる明の春
閉店の軒の氷柱の細く垂る
冬靄のかかりし今日の瀬戸の海

山田 眞二
原田 妙子
三島 信恵
友貞クニ子
内田 景子
山越ケイ子
大石 益江
品川美保子
福間 弘子
徳増眞由美
松崎  勝
有本 和子
谷口 泰子
三宅 玲子
中村美奈子
若井真知子
板木 啓子


禁無断転載