最終更新日(update) 2012.12.01
平成24年 仁尾正文 近詠
花八つ手 潮止り 木偶回し
寒明くる 鉋  屑 桜  鯛
緑立つ 苺  煮
初  心 夕化粧 新蕎麦
平成18年近詠へ 平成19年近詠へ 平成20年近詠へ
平成21年近詠へ 平成22年近詠へ 平成23年近詠へ

平成24年12月号抜粋の目次へ
平成24年12号に掲載

    
    新 蕎 麦

夏痩せといふを初めて虔しまむ
	
新蕎麦の味はひ笊に如くはなし

威し銃の間合熟知の稲雀

一筋の朱や朝寒の酔芙蓉

松手入渡せる板を撓めては

一盞は妻にも勧む温め酒

雁の群一羽落つればことごとく

申し訳ほどのお湿り大根蒔く

平成24年11月号抜粋の目次へ
平成24年9月号に掲載

    
      夕 化 粧

曙が最も佳かり夕化粧

水引草の精緻の一花一花かな	

秋出水遭難現場にて周忌	

秋扇緊と着付けし袴かな	

重陽の早暁生気漲れる	

ぐい飲に匠の名なし菊の酒	

夕映えの中雁は湖に戻る	

鳥獣のもはら戯る花芒き

平成24年10月号抜粋の目次へ
平成24年10号に掲載

    
      初 心

先師の書曝し初心の頃思ふ
	
朝顔や波郷いませば白寿なる	

夏の炉の鑵子しづかにたぎりゐる	

出稽古の三味の聞ゆる夏の萩	

七言絶句夏書きせる貌下かな	

緑蔭に目覚むや世代替りゐし	

大正のままの涼風山小屋に	

熊蝉の声沸騰の一樹かな

平成24年9月号抜粋の目次へ
平成24年9月号に掲載

    
      苺  煮

峰入りの行者梵天押し立てて
	
火の山の翡翠ちりばめ滝落つる	

胴回り丈余の夏木山門に	

時の日や吾を忘れゐし母見舞ふ	

満ちて溢れず乾杯の生ビール	

サングラス愁ひある顔隠さむと	

水神の怒りて雷雨落しけり	

もてなしに苺煮出たる海開き

平成24年8月号抜粋の目次へ
平成24年8号に掲載

    
        羅

時の日や働きづめの父なりし
	
勾玉の翡翠すずしく透けりけり	

戦前の看板残る薄暑かな	

迅雷や森蘭丸は城持てり	

山城の跡なかんづく椎若葉	

背屈めて暗渠を浚ふ梅雨入り前	

聖五月召され遠くに行きしかな	

羅を緊と着こなし喪主務む

平成24年7月号抜粋の目次へ
平成24年7月号に掲載

    
      緑 立 つ

緑立つ音戸の瀬戸の潮迅し
	
総身の毛を逆立てて恋の猫	

草競馬瀕浪の音ひもすがら	

駆引を尽し出走草競馬	

満天星の花八層に九層に	

茄子植うる一憂もたぬ者あらじ	

槙垣に差し挟みたる花うつぎ	

麦秋のこの郷愁はいづこより

平成24年6月号抜粋の目次へ
平成24年6号に掲載

    
        桜  鯛

茎立ちの葉牡丹矜恃失はず

大井川越え剪定の助の来し

挿木して三年咲くを許さざる

方言に細んまいといふ日の永し

一茎に十余りの花をヒヤシンス

南信に一歩を印す蕗の薹

万愚節最たる嘘はこの寒さ

迅潮の瀬戸の名うての桜鯛

平成24年5月号抜粋の目次へ
平成24年5月号に掲載

    
      鉋   屑

早春の百ミクロンの鉋屑
	
白魚火を点し立ち去る夕おぼろ	

臥雲院さま手作りの春キャベツ	

沼の主の鯰を沈め薄氷	

大籠を遠に蓬を摘んでをり	

絹糸の芽起しの雨小止みなく	

お返しの重に一枝の梅の花	

踏青や盟神探湯ありし庭に出づ

平成24年4月号抜粋の目次へ
平成24年4号に掲載

    
      寒 明 く る

予後の友を拍手で迎へ初句会
	
箱根駅伝走者はなべて鹿の脚	

侘助を活くる老妓の抜衣紋	

神楽組にも結ひがあり借りに来し	

開拓のつぶさ見てきし冬木立	

武士道は死ぬることなり冬菫	

寒明くる景はきのふと変らねど	

飛梅を左近に囲ひ貴べり

平成24年3月号抜粋の目次へ
平成24年3月号に掲載

    
     木偶回し

十二月八日未明の風の音
	
初風呂の湯を音たてて溢れしむ
	
箱根駅伝走者は鹿の肢をもつ
	
門付けの傀儡師の後追ひしこと
	
家褒めをゑびすに言はす木偶回し
	
湯神楽のへつつひの土生乾き
	
開拓のつぶさ見てきし冬木立
	
めぐり来る季に狂ひなし寒あやめ

平成24年2月号抜粋の目次へ
平成24年2号に掲載

    
      潮 止 り

冬田過ぐまた冬田過ぎ旅い行く
	
潮待の港海鼠を捌きをり	

冬がすみ灘は今しも潮止り	

かいつぶり汝も竜宮を見てきしか	

首塚に尼子の家紋水仙花	

冬椿水軍館はありとのみ	

鞆の津の地酒は薬酒神還る	

夜廻りは海士に最も重たき賦

平成24年1月号抜粋の目次へ
平成24年1月号に掲載

    
     花八つ手

蟄居してひたすら野分一過待つ

腰強のこの新米は古志より来

ぎんなんの翡翠の玉をたなごころ

燕尾服蝶ネクタイの石たたき

鴛鴦の餌の団栗届く何俵も

ハロウィンの南瓜一貫目は優に

校長の真白き手套明治節

花八つ手波郷は今も五十六

禁無断転載