最終更新日(update) 2010.11.30
仁尾正文 近詠
ななかまど 猟犬 積ん読
塩地蔵 春菊 花の雲
和三盆 矜持 水見舞
天の川 馴らし笛 別火
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平成22年12月号に掲載

 
     別火

  みづうみの小さな島の新松子
  
  豊年の黄金田広ぐ遠江

  いつしかに秋の帆湖心より消えて 
 
  遠くよりの会釈に応ふ曼殊沙華
  
  冬瓜の吊れる筋金入りの蔓
  
  まつさらな手帳のページ小鳥来る
  
  らんごくな梅のすはえや秋深し

  大役を貰ひて別火秋祭

平成22年11月号抜粋の目次へ


   馴らし笛 
  
  馴らし笛聞ゆるからす瓜の花

 葛咲いて罅一つなき廃れ窯

 名工のおだやかな声沢桔梗

 鈴花をまつすぐ立てて晩稲の田
       鈴花は稲の花、遠州の方言
  
 コスモスの十万株を見て回る

  十戸より減りしことなし青蜜柑

 箱入りのぐい飲み出せり菊の酒

 水引の一花も欠けず穂先まで

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     天の川

 腹緊りたる花火師の足袋脚絆
        いきれ
 白粉の香の熱には蝮ゐる
 
 大き盃出す酒中花を咲かさむと
 
 喜雨一過風が掠むるぼんのくぼ
    
 ゆつくりと白湯吹いてゐる夜の秋
 
 炉が一つのみ十畳の夏座敷
 
 ヒロシマの峰雲山にへばりつき
          
 仮の世に仮の名もらひ天の川

平成22年9月号抜粋の目次へ


   水見舞 
        ※   
 青田干し上げて分けつ促せり
 
 花茣蓙の錘りを化粧包みして
 
 深情とは怖きもの夏芝居
  
 草庵があり井戸があり夏木立
       
 萍に一分の隙もなかりけり
     
 麦飯で育ちて病知らぬなり

 短夜の愈うからの集ひきて
    
 唐津岐阜宇都宮にも水見舞
   ※ 分蘖 

平成22年8月号抜粋の目次へ

 
     矜持

 草庵に矗矗として茗荷竹
 
 夏の萩お茶の水の井深きかな
 
 緑陰の名うての茶屋の力蕎麦
 
 隠密は下士中の下士苔の花
    
 朴の花真上より見て奈良に入る
 
 青丹よし奈良の柿木鮨かをる
 
 ゆくりなく安土を訪へば信長忌
          
 夏草や廃れ窯にも矜持あり

平成22年7月号抜粋の目次へ


   和三盆 
           
 筍を掘るさはさはと風通り
 
 葉桜や人杖借りて男坂
 
 エンジンのをりをり息む草刈機
  
 かばかりの地に城ありし竹落葉
       
 青嵐一揆起して山動く
     
 生国に柏の木なし柏餅

 草刈りの賦役明日に持ち越せり
    
 遍路より届けり阿波の和三盆

平成22年6月号抜粋の目次へ

 
     花の雲

 山桜聳え立つ伊豆の一の宮
 
 流鏑馬の走路の果花の雲
 
 エイプリルフールがんがん煖炉焚く
 
 花冷えや半旗掲げて人悼む
    
 竜天に昇る列島掻き荒し
 
 人肌の燗よろしかりおぼろの夜
 
 東司にも様式があり養花天
         こせん 
 古茶を濃く淹れて古川の忌を修す

平成22年5月号抜粋の目次へ


   春菊 
           
 幽霊の屏風一双大寺に
 
 青軸の梅のにほへる問跡寺
 
 集結の北帰の雁の三万羽
  
 とよもせり帰雁飛び立つ羽の音
       つむじ
 畦焼く火旋風となりて走りけり
     
 水ぬるみたり流寓の永かりき
    
 三世代うたひ継ぎきし卒業歌
    
 春菊の三株もあれば足る暮し

平成22年4月号抜粋の目次へ


 
     塩地蔵

 笹子鳴く塩街道の塩地蔵
 
 自在鉤五徳十能火吹竹
 
 丁寧に埋火をして炉辺を辞す
 
 味噌玉によき黴のきて冬深し
    
 寝釈迦山遠望しつつ梅探る
 
 豆撒の役仕る五十年
 
 なやらひの篝の火先千切れ飛ぶ
 
 冬羽織井伊の井桁の紋所

平成22年3月号抜粋の目次へ


  積ん読 
           
 湯豆腐や地酒の銘は男山
 
 日向ぼこして左右の脳空にせり
 
 煤竹をまだ立てゐる年貢蔵
  
 開け放ちある正月のお出井の間
     
 土間の炉の片方に藁の砧石
     
 猪打ちの神事の呪文短かかり
    
 初句会寒に入りたる日なりけり
    
 積ん読の一書取り出す七日かな

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     猟 犬

 鹿啼いて一寸先も見えぬ闇
 
 神集ふくにに始まるわが俳句
 
 瘤多き十一月のプラタナス
 
 干し柿に粉のふく頃神還る
    
 冬耕の燻る煙を置き去りに
 
 お迎へのことを口癖十夜婆
 
 食扶持の葱白菜を一畝に
 
 猟犬の逸り逸るを野に放つ

平成22年1月号抜粋の目次へ


  秋惜しむ 
           
 ななかまどどの尖塔もクルス揚げ
 
 啄木の寓居の跡のおんこの実
 
 断崖に立つ秋風のあるばかり
  
 鱸船厠は人の身幅なる
     
 満を持しゐし晩稲田を刈り始む
     
 鹿除け戸御師の家にも町屋にも
    
 入館の券に浮世絵薄もみぢ
    
 連台の長柄の埃秋惜しむ

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