最終更新日(update) 2024.12.01
令和6年 白岩敏秀 作品
村十戸 ガスの音 砂つぶて
潮の香 弥生土器 牛の声
星座 結の手甲 東大寺
放物線 中座の席 旅終はる

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令和6年1月号に掲載

村十戸
桐の実の高きに鳴つて義民の碑
星つなぎ星座をつくる夜長かな
村十戸へこだまを返す威銃
橋の名は消えし町の名雁渡し
萩刈つてうすき香りを束ねけり
人柄のほどほど善くて温め酒
水切つて白さを切つて新豆腐
火は音を育てて風の蘆火かな

令和6年2月号抜粋の目次へ 
令和6年2月号に掲載

ガスの音
渡り鳥送電線は山越えて
石筍の今を伸びゐる神の留守
寒星やカチッと点火のガスの音
大根煮る一日を火に仕へゐて
冬の虫影を平らに跳びにけり
貫禄を枝振りにみせ枯木立
裸木となりて軽さを楽しめり
幸せの色を増やして石蕗の花

令和6年3月号抜粋の目次へ 
令和6年3月号に掲載

砂つぶて
山茶花の百花祭のごと咲けり
少年の最短距離となる冬田
砂つぶて受くる砂丘の冬木立
枯芝の温みに坐せば鳩の寄る
大根を透くるほど煮て一日終ふ
大冬木齢しづかに暮れゆけり
混沌のやがて透明葛湯とく
冬凪や舟小屋の灯の洩れてをり

令和6年4月号抜粋の目次へ 
令和6年4月号に掲載

潮の香
冬凪や進水式の金の斧
駅伝の冬日の襷繫ぎけり
虎落笛叩いて開くる壜の蓋
かたまつて花のごとくに成人祭
雪女忍び笑ひをして去れり
久女忌やミシンの音に路地暮るる
応援の群集となり悴める
砂丘吹く風に潮の香寒の明

令和6年5月号抜粋の目次へ 
令和6年5月号に掲載

弥生土器
観梅のその夜に雨となりにけり
下萌の地より掘りだす弥生土器
如月や声をぶつけて竹刀打つ
回覧板日永の話して戻る
友達のやうに近くて春の星
水の音雪間をつなぎゐたりけり
藍染の藍のしたたり木の芽風
あたたかや砂丘の砂の指こぼれ

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令和6年6月号に掲載

牛の声
双塔の影を正しく冴返る
水温む産み月となる牛の声
海峡を跨ぐ大橋朧なる
啓蟄や寄進瓦に書く名前
沈丁に朝の雨あり微震あり
菜の花や始発列車は一輌車
青き踏むつづきに砂丘踏みにけり
少年の眼の澄めり啄木忌

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令和6年7月号に掲載

星座
子の戻り家の春灯揃ひけり
つばくろや塔は日暮の影伸ばす
をんな来て沈丁の香の動きけり
水音の絶えざる漉場桃の花
遠足の山の子どもに波の音
風動き藤の動きて日暮来る
刃を入れて徹頭徹尾桜鯛
大空に星座のそろふ夏隣

令和6年8月号抜粋の目次へ 
令和6年8月号に掲載

結の手甲
教室の金魚覗かれつつ育つ
薄暑かな一番星のうるみ出て
更衣杜氏は土産買ひにけり
風動き光の動き柿若葉
田植終へ結の手甲を洗ひけり
紺深き砂丘の空を夏つばめ
湾曲の鉄骨に透く夏の雲
ホーホーと新緑の夜を鳴いてをり

令和6年9月号抜粋の目次へ 
令和6年9月号に掲載

東 大 寺
夏うぐひす田水ゆたかにゆき渡り
手の蛍ぽつと昔を照らしけり
短夜や電話で足りる用ひとつ
鎌にある鋼の匂ひ麦の秋
耳振つて子鹿近づく東大寺
噴水の思ひつめたるごと止まる
雨蛙棚田は星を映しそむ
梅雨雲の沖より湧いて因幡かな

令和6年10月号抜粋の目次へ 
令和6年10月号に掲載

放 物 線
道草の子らに親しく夏つばめ
鶏が庭を小走り合歓の花
漂ようて月の海月となりにけり
槍投げの放物線の灼けてゐる
水中花しあはせ色に開きけり
ばつさりと向日葵切つて影を消す
目礼をすれば涼しく返さるる
豆腐屋が喇叭を吹いて来て晩夏

令和6年11月号抜粋の目次へ 
令和6年11月号に掲載

中座の席
豆腐屋が喇叭を吹いて来て晩夏
前列の中座の席の秋扇
八月や磔刑のごと章魚干され
回しつつ探る西瓜の刃の入れ処
秋暑し塔を仰げば身の揺れて
みづうみの光の届く花木槿
新涼や紙が刃物となる光
よく晴れて帰燕の空となる砂丘

令和6年12月号抜粋の目次へ 
令和6年12月号に掲載

旅 終 は る
新涼や夜明けの空に星残り
遠方に火事のありたる厄日かな
秋燕に日暮の空の紺緊まる
鳴る時計教へてゐたる夜長かな
火を入れて三日目の窯小鳥来る
旅終はる木犀の香に荷を解き
石庭の砂の円相秋の声
投句なき人を思へり秋の暮

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