最終更新日(update) 2022.12.01
令和4年 白岩敏秀 作品
くぬぎ山 少年の息 四人の席
合掌 波を踏む 仕込み唄
幅跳び 白湯 ふるさと
夏つばめ 吹き矢 山の雨

令和4年1月号抜粋の目次へ 
令和4年1月号に掲載

くぬぎ山
起伏する砂丘に沿うて秋の風
暮れてゆく稲架に田川の水明り
温め酒夜の近づく波の音
音すれば音へ走りて椎拾ふ
猪罠に日の当たりたるくぬぎ山
朝寒の指の押しゐるプッシュホン
四五人の橋走りゆく秋時雨
空つぽの鳥籠の揺れ冬隣

令和4年2月号抜粋の目次へ 
令和4年2月号に掲載

少年の息
末枯を追ひつめてゐる風の音
りんりんと響く青空冬に入る
凩の止むしづけさに星光る
少年の息にくもりぬ冬林檎
ゆきずりに道問はれけり花八手
省略の極みに冬木立ちつくす
荒星の夜は砂丘の砂動く
船の水脈白鳥の水尾湖暮るる

令和4年3月号抜粋の目次へ 
令和4年3月号に掲載

四人の席
笹鳴や木地師の飛ばす木の香り
火の玉となるまで磨く冬林檎
精を出す畑仕事の冬帽子
渡船いま枯野の岸を離れたる
裸木や開拓村に開拓碑
湯豆腐や四人の席の一人欠け
隙間風はがねの強さもて過る
年の暮眼鏡ふたつを使ひ分け

令和4年4月号抜粋の目次へ 
令和4年4月号に掲載

合掌
末枯を追ひつめてゐる風の音
りんりんと響く青空冬に入る
凩の止むしづけさに星光る
少年の息にくもりぬ冬林檎
ゆきずりに道問はれけり花八手
省略の極みに冬木立ちつくす
荒星の夜は砂丘の砂動く
船の水脈白鳥の水尾湖暮るる

令和4年5月号抜粋の目次へ 
令和4年5月号に掲載

波を踏む
人来て連れ立ち帰る針供養
早春の空の高さに鳶の笛
文字となるインクの青さ余寒なほ
東風の坂竹しならせて担ぎ来る
春の水棚田一枚づつつなぐ
蕗のたう笑ふかたちに開きけり
海苔搔女岩一枚の波を踏む
双塔の影を映して水温む

令和4年6月号抜粋の目次へ 
令和4年6月号に掲載

仕込み唄
いつまでも灯りてゐたる雛の家
たんぽぽや転んで泣かぬ子に育つ
酒蔵に仕込み唄あり水温む
ひと許し人に許され木の根明く
天平の塔より雪解しづくかな
菜の花や波音届く小学校
人間に尻尾の名残山笑ふ
道草の土筆の土手を帰りゆく

令和4年7月号抜粋の目次へ 
令和4年7月号に掲載

幅跳び
切株を増やす音して春の山
返り点のやうに寝返りして朝寝
春灯や影紡ぐごと機織女
幅跳の助走に加速風光る
頰杖の腕に日永の影つくる
父の息次いで子の息風車
陽炎へ会ひに全力疾走す
コルク栓ぽんと飛ばして若葉風

令和4年8月号抜粋の目次へ 
令和4年8月号に掲載

白湯
麦の秋吹きくぼめたる朝の白湯
切株は椅子の高さに夏の月
火のつきしごとくに金魚争ひぬ
記念樹の大きく育ち新樹晴
朝市の粽に温みありにけり
悠然と大河は海へ青嵐
柿の花夕日のなかへ落ちにけり
青胡桃手のひらに雨確かむる

令和4年9月号抜粋の目次へ 
令和4年9月号に掲載

ふるさと
翼あるやうな軽さに更衣
買ふ鮎の重さを魚籠に加へけり
万緑や登山ルートの案内図
麦笛や娶らぬままに男老ゆ
六月の明るき花のカレンダー
植田澄む一村の結ひ終はりけり
飛魚の加速の翼張りにけり
ふるさとを箱詰にしてさくらんぼ

令和4年10月号抜粋の目次へ 
令和4年10月号に掲載

夏つばめ
夕立の砂丘の端を濡らしをり
緑蔭は定員一人蝶の来て
夕暮の影を増やして夏つばめ
涼しさや吹けば片寄る朝の粥
巌頭の茂みは滝を落としけり
喜雨来る飛ぶ矢のごとく水走り
定型に一音足らず青葡萄
蟬しぐれ山は暮色を深めたる

令和4年11月号抜粋の目次へ 
令和4年11月号に掲載

吹き矢
知らぬ子が鬼灯さげて通りけり
ちちろ鳴く延長戦の外野席
全身の力を抜いて桃を剝く
追憶の数ほど群るる赤とんぼ
天帝の吹き矢のごとく星飛べり
山彦を誘ひ出したる今日の月
賽の目に白増やしゆく新豆腐
とろろ汁明るき音に山の雨

令和4年12月号抜粋の目次へ 
令和4年12月号に掲載

山の雨
朝の風来て朝顔の紺ひらく
帰燕見る皆一斉に海へ向き
木犀の香りにバスを待つてをり
映るものどれも拒まず水澄めり
図書館へ露草の道選びけり
穴惑ちらりと海を振り返る
啄木鳥や幹の片側日の当たり
とろろ汁明るき音に山の雨

禁無断転載