最終更新日(update) 2023.12.01
令和5年 白岩敏秀 作品
七曜 青インク 俳誌
記念樹 残り火 小さき窓
草書 風の並木 潮ぐもり
鑿跡 日常 輪中村

令和5年1月号抜粋の目次へ 
令和5年1月号に掲載

七  曜
飛びたちしばつたの弾み手に残る
水澄みて映るものみな澄みにけり
草虱畳にひとつ落ちにけり
新米を磨ぐてのひらを熱くして
七曜の始まる朝を鵙鳴けり
振り返るたびに刈田の暮れてゐる
角切りし鹿に牝鹿の遠くをり
砂丘吹く風晩秋となりにけり

令和5年2月号抜粋の目次へ 
令和5年2月号に掲載

青インク
立冬の落ちきつてゐる砂時計
冬めくや山を下りくる牧の牛
神の旅砂丘の空は雲もたず
三つ編みのまだ短くて七五三
冬ぬくし文字となりゆく青インク
朝飯の旨し勤労感謝の日
いつまでも雫こぼして懸大根
寒昴いちごの味のチョコレート

令和5年3月号抜粋の目次へ 
令和5年3月号に掲載

俳   誌
どの川も名前を持ちて冬うらら
湯豆腐や夕暮近き南禅寺
麦の芽の風の冷たさ知る高さ
過去といふ月日揺れゐる古暦
囲むときいつも輪となる夕焚火
ポインセチアギリシャ神話に恋多し
十二冊俳誌を積みて年惜しむ
家中の時計を合はせ晦日蕎麦

令和5年4月号抜粋の目次へ 
令和5年4月号に掲載

記念樹
初明りして薔薇色の砂丘かな
買初や明るき声に礼言はれ
負独楽のくらりと色を戻しけり
どんど火を仰ぐ反り身に海の風
女正月花のかたちに麸の浮いて
白菜の幸せさうに太りをり
偉丈夫に育つ記念樹冬芽満つ
ライターの火の伸びきつて雪催

令和5年5月号抜粋の目次へ 
令和5年5月号に掲載

残 り 火
月光の森に梟ひびきけり
参道に霰たばしる実朝忌
ゆく水の春を捉へしひかりかな
日の落ちて風入れ替はる余寒かな
針供養夕暮近き空の色
大山の裾野つづきに蕗の薹
水飲みに帰つて来たる猫の恋
畦焼の残り火ぽつと立ちて消ゆ

令和5年6月号抜粋の目次へ 
令和5年6月号に掲載

小さき窓
春寒やきしきし磨く夜の皿
下萌に下ろせばすぐに子の走る
啓蟄や伸びきつてゐる亀の首
北窓開く封筒に小さき窓
雪解川風を味方にして速し
霾や砂丘に機首を向けて発つ
菜の花や湖に親しみ湖と住む
袋の絵信じ花種蒔きにけり

令和5年7月号抜粋の目次へ 
令和5年7月号に掲載

草   書
辛夷咲き棚田をつなぐ水の音
花びらの草書のやうに流れゆく
雑木山どこも日当り囀れり
チューリップ笑顔弾くるごと咲いて
紅のなき口ひき緊めて徒遍路
淋しさに集まつて来る残る鴨
みづうみの風の来てゐる藤の花
代搔いて夕日の水を均らしけり

令和5年8月号抜粋の目次へ 
令和5年8月号に掲載

風の並木
聡明な白さをもちて花林檎
プラタナス風の並木となつて夏
濁りなき朝の青空鯉幟
自転車をとばすセーラー服の初夏
そよぎつつ月光返す柿若葉
日曜の夕餉のはやし豆ご飯
草笛の上手な兄についてゆく
青萩や水は棚田に導かれ

令和5年9月号抜粋の目次へ 
令和5年9月号に掲載

潮ぐもり
仰がるることを忘れて花は葉に
むらさきの暮れてゐるなり花菖蒲
かたまつて日暮の水の余り苗
交差点海月のやうに白日傘
黒南風や波を割りゆく巡視船
曇天の重さ泰山木咲けり
木馬より子が手を振つて桜の実
玫瑰や砂丘の空の潮ぐもり

令和5年10月号抜粋の目次へ 
令和5年10月号に掲載

鑿   跡
転舵して漁船は沖へ雲の峰
鑿跡の深きを伝ひ滴れり
枇杷の種ころころ笑ふ女の子
涼しさを流して川の透きとほる
かぶと虫闘ふために飼はれをり
空蟬に星降る夜となりにけり
空の紺深めて夕立あがりけり
柵を越す騏驎の首の夕焼す

令和5年11月号抜粋の目次へ 
令和5年11月号に掲載

日   常
打水の全円となる光かな
日焼の子最前列に来て座る
宍道湖の紺を深めて秋隣
原爆忌八時十四分の日常
吊革のちぐはぐな揺れ秋暑し
秋蝶にジャングルジムの迷路かな
稲の花田より生まるる朝の風
青空をゆつくり離れ桐一葉

令和5年12月号抜粋の目次へ 
令和5年12月号に掲載

輪 中 村
鳳仙花夜風のなかに弾けけり
野分だつ灯の明々と輪中村
海辺までコスモス色をつなぎたる
子を産みし牛の貫禄秋日和
風離し暮れてゆくなり秋桜
鰡の跳ぶ音夕闇にまぎれけり
流れゆく音に加はる落し水
薄紅葉浮かべて川は村離る

禁無断転載