最終更新日(update) 2021.10.01
令和3年 白岩敏秀 作品
雨の奈良 赤絵具 水位計
羽衣 早春 海の色
切々と 日曜 田水
赤い実

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令和3年1月号に掲載

雨の奈良
夕暮の刈田斜めに農婦来る
沈黙の銀饒舌の金木犀
鹿の斑の汚れて走る雨の奈良
法隆寺の塔の影踏み秋惜しむ
朝顔の紺つなぎたく種を採る
紅葉狩座り心地のよき丸太
晩秋の海へ向きたる椅子固し
冬隣なにをするにも影連れて

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令和3年2月号に掲載

赤絵具
風音に勝る波音今朝の冬
息かけて眼鏡を拭いて見れば冬
握手する十一月の手の熱し
小春日や画布のはじめの赤絵具
日は海へ移りて沈む冬紅葉
石蕗咲いて雨のはげしき日曜日
ぴしぴしと月光の打つ枯木立
満ちてくる力静かに冬木の芽

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令和3年3月号に掲載

水位計
累々と切株残し山眠る
洗顔の鏡くもらす息白し
水鳥の浮沈に湖の夕日あり
飾売値引の指を立てにけり
明るさを箱詰めにして初蜜柑
大根洗ふ発光をする白さまで
短日の平らにつぶす段ボール
川涸れて全長となる水位計

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令和3年4月号に掲載

羽衣
手の温み幹に伝へて冬木の芽
寒禽や梲のあがる城下町
白鳥の湖に親しみ空忘る
初風呂や窓一枚の夕明り
親展の封書に小窓寒椿
冴ゆる夜の温泉玉子茹であがる
にはとりになる夢こはれ寒卵
羽衣のうすさに紙の漉きあがる

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令和3年5月号に掲載

早春
寒星をつなぎ神話へ入り込む
豆撒いて明るき部屋に戻り来る
畳屋の針きらめかす余寒かな
打つ波のしぶきを裾に海苔搔女
早春の声の散らばる砂丘かな
花辛夷突つけば破れさうな空
年取らぬ雛のさびしさ飾らるる
春障子繭のごとくに籠りをり

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令和3年6月号に掲載

海の色
満天の星に囲まれ山笑ふ
啓蟄やどこへも行かぬスニーカー
山峡の屋根に声ある雪解村
初蝶の胸の高さをよぎりけり
あたたかや画布に塗り足す海の色
土筆生ふ親子のやうに添ひ並び
沈丁や蔵の小窓に日の当たる
草若葉火の見梯子の地に触れず

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令和3年7月号に掲載

切々と
牧開き鳥の来てゐる水飲場
返さるる握手に力みづき咲く
遠霞近きものより昏れはじむ
切々と咲いて桜の散り急ぐ
遅桜奥行深き京の家
百千鳥大工ぴしりと墨を打つ
潮騒を近くに梨の咲きにけり
陽炎や連結音の貨物基地

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令和3年8月号に掲載

日曜
朝の日を透かせてみどり柿若葉
麦の秋笑へば嬰に歯の二本
日曜といふ安らぎに豆ごはん
吊り橋の揺れに見てゐる鮎の川
全長の滝となるまで後退る
天道虫切り株に翅たたみけり
燕子花板一枚を渡りけり
朝焼の中に声出す豆腐売り

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令和3年9月号に掲載

田水
まつさらな風来て海芋咲きにけり
青蘆の揺れの連鎖となる日暮
青葉木菟田水は夜を濃く匂ふ
ふるさとや麦笛の音澄みゆけり
洗ひたる青梅にある夜の冷え
滴りのしづけさを手に受けにけり
父の日のカレーに落とす生卵
酒蔵の煉瓦煙突雲の峰

令和3年10月号抜粋の目次へ 
令和3年10月号に掲載

赤い実
夜の秋便箋白きまま更くる
枇杷の熟る海の夕日の明るさに
茅舎忌の振つて絵筆の水を切る
大山の遠きかがやき雲の峰
暮れ切りし砂丘の沖へはたた神
夏椿落ちたる土の濡れてゐる
赤い実をひとつ沈めて泉湧く
手の砂を砂丘に戻す晩夏光

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