最終更新日(updated) 2006.02.21 
 
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仁尾正文 近詠
1月号 零余子 2月号 3月号 侘助
  4月号 ゆくりなく  5月号 牧童 6月号 閉校
7月号 聖岳     8月号 船箪笥 9月号 遺作
    10月号 男声    11月号 木曽馬 12月号 一成就
平成18年仁尾正文近詠 へ

平成17年12月号抜粋の目次へ

    一 成 就

 一成就越後の新酒届きけり
 
 猪除けを張る猪のこと知りつくし
 
 一目見て今日が真盛り曼珠沙華
 
 釣果聞くことも挨拶鯊日和
 
 終点の車庫にバスゐるそばの花
  
 三日目も来て三人の松手入
 
 ゴンドラの律儀に動く秋の雨
      
 箒草もみづる人を思ふとき


平成17年11月号抜粋の目次へ

    
    木 曽 馬
   
 秋の虹みんな見てをり眉ひろげ
    
  穂孕みの田の風そよろそよろかな
 
  北岳に真向き飛蝗の翔ぶ構へ
 
  木曽馬の毛並みよろしき萩の花
 
  新生姜噛んで吐く息熱くせる

  花芒開くすこしく湿りもて
 
  頬ふたつ新涼の風存分に

 枝川のまちまちに澄む秋出水
平成17年10月号抜粋の目次へ

    男 声

 夜の雷大事な一語誤植して
 
 頭脳にも暑気中りあり誤字脱字
 
 四柱はいます今宵のはたた神
 
 槿花には紫紺が適ふ夕間暮
 
 すつぱりと葉生姜の先切り揃へ
  
 腰折れの台風なれど余波強し
 
 昼間より独酌の父盆とんぼ
      
 盆唄のかくも高音の男声
 


平成17年9月号抜粋の目次へ

    
    遺 作
   
 猪除けのトタンを外し田を植うる
    松島不二夫氏を悼む
  古茶濃ゆく淹れて遺作を読み返す
 
  入植の記念樹の枇杷熟れ放し
 
  岳麓の黒ぼこ畑の夏大根
 
  冷奴水のきれいな奥大井

  形代を截る刃あをあを研ぎ上げし
 
  すずしかり身体髪膚祓はれて

 ビール党焼酎党も好き漢
平成17年8月号抜粋の目次へ

    船箪笥

 白魚の目にしろがねの縁のあり
 
 山焼の炎が呼べる旋風
 
 獄門の跡の畷の草青む
 
 逆時計廻りに降れる牡丹雪
          うれ
 木の芽まだ固けれど末色めける
     
 春嶺の方に離陸機向き変ふる
 
 はくれんに五日遅れて紫木蓮
      
 春雪のワイパー忍び手の形
 とぶひ
 烽山かすむ寝仏山もまた

 春場所の初日の大画面テレビ
 

 

 見はるかす菜の花畑の岬かな
 
 腰伸ばす度に山見え風光る
 
 窯元の三百年の藪椿

 春禽の綺羅の抜け羽を石の上

 燕くる廃煙突の赤煉瓦

 御一新前の青空囀れり

 石垣も舗道も陶や諸葛菜

 裏側にも人ゐて垣を繕へり

 遠足の一団と遭ふ土管坂

 春ふかき蔵に銭枡船箪笥


平成17年7月号抜粋の目次へ

    
    聖 岳

   
 聖岳四月の雪を輝やかす
 
  歯科内科はしごして日の永きかな
 
  閑中もよろし蛙に目を借られ
 
  結界に青竹置けり百千鳥
 
  思ひ切り朝寝す雨に安じて
 
  揚雲雀太平洋が見えゐるか
   
 助手席に地図を見る役山遊び

 春日傘噂がひとり歩きして


平成17年6月号抜粋の目次へ

    閉 校

 閉校の日や剪定の行届き
 
 閉校の記念に植うる山桜
 
 田楽の舞処に芽張る大銀杏
 
 春の水フォッサマグナに沿へりけり
 
 残雪の峠薄着に過ぎし悔
      うへんだひら
 耕して上平に至りけり
 
 芽落葉松通行止の柵固し
      
 正真と追而書せり万愚節
 


平成17年5月号抜粋の目次へ

    牧童

   だくあし
 諾足の騎手現るる午祭
 
  魁けて八重紅梅の盛りかな
 
  草餅や母は十五で嫁ぎきし
 
  牧童に羊刈る日を尋ねけり
 
  春水の奔れる岩に山女釣
 
  五時限の音読聞こゆクロッカス
 
  鳥雲に思へば流離長かりし


平成17年4月号抜粋の目次へ

    ゆくりなく

 初雪の五センチ積り一騒ぎ
 風邪患者ばかり土曜のクリニック
 ゆくりなく梅を探りてきたりけり
 正刻に路線バス来し霜柱
 破戒僧その後知らぬ薄氷
 剪定のあるときは鋸用ゐけり
 突出しの料理の妻に梅の花
 冴返る水面息を吐いてをり


平成17年3月号抜粋の目次へ

    侘助

 粕汁の沸騰せるを提げてきし
 大股に師走の風の中を行く
 息かけて眼鏡を拭ふこつごもり
 大盃の年酒を回し飲みにして
 初売りの準備早暁より騒き
 面打の笛方つとむひよんどり
 家々の世襲の舞を初神楽
 夕さりの侘助今日の花落す


平成17年2月号抜粋の目次へ



平成17年1月号抜粋の目次へ

    零余子

 手に触るる気配に零余子こぼれたる
 もう少し長き腕欲しぬかごの辺
 冷蔵の酸橘色づきはじめけり
 雁や三度乗り継ぎふるさとへ
 喪に集ふ血族長き夜を酌んで
 泥つきの芋つこ届く遠くより
 往路より復路が近き萩芒
 新紙幣みてから神は旅立てり

  禁無断転載