菊花展 (静岡)鈴木 三都夫
咲くとなく十月桜かくまばら
赤は褪せ白は錆びたる曼珠沙華
花茗荷このごろ頓に物忘れ
とろろ汁里人はみな話好き
穂芒に川面ささくれ立ちにけり
初鴨の安堵の浮寝貪れる
運ぶ歩の静かに混める菊花展
厚物の丈を揃へて妍競ふ
長屋門 (出 雲)安食 彰彦
懸崖の菊香らせて長屋門
晴れわたり花石蕗の黄の耀けり
花石蕗の黄色佳き事ありさうな
日のぬくみある亀石や庭小春
庭小春神名備山を遠景に
右手に塔左手に石蕗の花咲かせ
違棚造り忘れし冬座敷
飾りなき書院造りや冬障子
尾張の国 (浜松)村上 尚子
きしめんを啜り尾張の天高し
蟻穴に入る城門の蝶番
石垣に咬ます小石や草の花
金の鯱仰ぐうしろに菊花展
菊人形抱かれて向きを変へにけり
晩秋の雨樋天守閣より垂るる
草の絮飛んで七里の渡し跡
鳥渡る戦禍逃れし時計台
襖絵 (唐津)小浜 史都女
神宮の橘は実をつけてをり
金木犀人形塚に匂ひけり
神鶏の喉透きとほる菊日和
襖絵のひと間ひと間に秋惜しむ
菊人形蕾の多く初々し
晩秋の雲が動けば鯱うごく
行く秋の宝物館の長剣
ひひらぎの匂ひしてくる七五三
会津富士 (宇都宮)鶴見 一石子
颱風の近づく風と雨の音
颱風の直撃屋根の明かり窓
颱風の避りし舗装路泥芥
薄紅葉濃紅葉競ふ会津富士
いろは坂尤も紅葉ゐの勾り
箒川水蒼くして澄めるなり
辻馬車の馬の眼を閉づ霜の花
杖なくて歩きし七歩雪仏
冬に入る (東広島)渡邉 春枝
露草の露一滴をてのひらに
木犀の香りにはづむ立話
乳母車に眠る幼児菊日和
赤もまた寂しき色よ曼珠沙華
母のもの羽織りて月の庭に佇つ
爽やかや平成生れの子も父に
病名は聞かず語らず冬に入る
楼門の柱のぬくみ石蕗の花
台風圏 (浜松)渥美 絹代
秋風や山羊の食みたる草に花
見えてゐる船の遠のく秋の昼
台風圏湯を沸かす鍋鳴り始む
百歳の通夜の帰りの星月夜
野良猫に鈴つき燕帰りけり
でこぼこの土間どぶろくの量り売り
すげ替ふる鼻緒の赤し豊の秋
風呂敷に包む喪服や鳥渡る
秋の旅 (函館)今井 星女
台風の予報に腹を括りけり
列島を丸がかへして台風来
台風が去りて身辺整理かな
秋空に手のとどきさう白い雲
一日を悔いなく過ごす秋日和
紅葉に少し間のある北の旅
百二十六島巡る水の秋
駒ケ岳見えず大沼秋の雨
|
菊の女王 (北見)金田 野歩女
水澄むや名苑巡る順路板
秋気満つ雄松さつぱり刈られけり
鷹渡る道を尋ぬる城下町
信州の空に伸びらか大楓
サロマ湖のべた凪後の月ふたつ
朝顔の種子青色と書き添ふる
清き瞳の菊の女王菊人形
栗ごはん無口な夫と五十年
名古屋城の秋 (東京)寺澤 朝子
「城で持つ」街は碁盤割り天高し
西国へ睨み利かせし城の秋
菊花展庭の小菊も添へられて
勾やかに春姫さまの菊人形
この城の系譜連綿荻の声
奈落めく城の空堀ぎす鳴くや
清正石撫ぜて行く秋惜しみけり
城暮れてかりがね寒き城下町
屋根神様 (旭川)平間 純一
秋のこゑ屋根神様の錆深し
秋高し天下見おろす金の鯱
薄もみぢ金色の鯉ひるがへる
松手入ダンディーに松仕上がりぬ
穴惑うねうね走るモノレール
赩々と明けゆく雲や冷まじき
葡萄棚解きてふた粒見つけたり
大銀杏散りて稲荷の小さくあり
鵙の声 (宇都宮)星田 一草
穭田を展べて山並み遠くあり
どの顔も仏頂面の花梨の実
コスモスを揺らして風は花の色
みの虫の宙ぶらりんにある孤独
斎場を出でて色なき風の中
烏瓜ソソソドドドの高さかな
一穢なき鴟の空より鵙の声
冠雪の富士見てよりの旅心
野紺菊 (栃木)柴山 要作
手絞りが誇りと嫗爽やかに
城垣をせり出して来る鱗雲
池の辺に祝婚の輪や初紅葉
子育て稲荷路地の奥より鉦叩
破られし獣除けネットすがれ虫
そぞろ寒藍の機嫌をみてゐたり
母の忌や供華に添へたる野紺菊
異邦人がひそとベンチに七五三
菊花展 (群馬)篠原 庄治
機嫌良し風の申し子秋桜
野仏の眦伝ふ露時雨
ひたすらに小花を漁る秋の蝶
甌穴の大渦を吐く秋出水
葛茂る山に還りし放棄畑
溶岩をゆく穂芒一本手慰み
一木に搦み通草の笑み割るる
千鉢の花咲き揃ふ菊花展
夜寒 (浜松)弓場 忠義
秋しぐれバス折り返す医大前
もの音の硬くなりたる夜寒かな
パソコンの固まる画面そぞろ寒
コップ酒干せば俄に虫しぐれ
能書は要らず徳利と走り蕎麦
残菊を折るてのひらの香り立つ
てのひらに水のやうなる熟柿かな
みづうみの一湾統ぶる鴨の声
濃りんだう (東広島)奥田 積
一行に鳥好きのゐて鶸の声
もみぢして水の明るく庵住まひ
ここからは別れて登る松虫草
山で逢ふ山友達や濃りんだう
山路の句にゆかりの寺や草の花
畳屋の夫婦睦まじ秋の暮
茶の花や裏参道に日のぬくみ
昔から変はらぬ八百屋大根買ふ
|