最終更新日(Update)'19.11.01

白魚火 令和元年11月号 抜粋

 
(通巻第771号)
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11月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句   久保 徹郎 
「巻貝」 (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集 (巻頭6句のみ掲載) 坂本タカ女 ほか
白光集 (村上尚子選) (巻頭句のみ掲載)
       
竹内  芳子、大澄  滋世
白光秀句  村上 尚子
白魚火集(白岩敏秀選) (巻頭句のみ掲載)
    坂田 吉康、髙島 文江
白魚火秀句 白岩 敏秀


季節の一句

(呉)久保 徹郎

秋空へ麒麟の首が触れてをり  村松 ヒサ子
(平成三十一年一月号 白魚火集より)

 大きな麒麟を見上げると長い首が青い空いっぱいに見えた。視界は空と麒麟のみだ。長い睫毛の優しそうな大きな眼、口をもぐもぐさせながら悠然と遠くを眺めている。遥かな草原を思っているのだろうか。よく晴れた晩秋の穏やかなひと時の色鮮やかなコントラストの情景が目に浮かぶ。そして作者の大自然への畏敬の念、感謝の思いが伝わってくる。

口紅の跳ぬる寝顔や七五三  秋葉 咲女
(平成三十一年一月号 白魚火集より)

 今日は朝から普段は着たこともない着物を着て、少し化粧もして貰ってお父さんとお母さんに連れられて大きな神社へ。神主さんの祝詞やお祓い、お父さんに写真もいっぱい撮って貰ったし、いっぱい歩いた。もうくたびれちゃったよお。ぐずって顔を拭ったので折角の口紅は頬っぺたに跳ね上がっているけど、今は抱っこされて天使のように眠っている。すくすくといい子に育ちますようにとの優しき思いが伝わってくる。

短日や真上より刺す畳針  鈴木 敬子
(平成三十一年一月号 白魚火集より)

 初冬の夕暮れ、ちょっとした用があって畳屋を訪れた。店の入り口は土間になっていて、その薄暗い作業場で畳屋の主人が畳床に畳表を縫い付ける作業を黙々と行っている。畳に身を載せるように屈みこんでは、太く長い畳針で縫っていく。些かの狂いもなく等間隔に、真直ぐに針を刺し太い糸で縫っていく。手持無沙汰な作者も黙ってその作業を眺めている。街には冬の気配が漂い初めた夕暮れのひと時。私も子供の頃に店先から畳を作るところを見ていたような気がする、いや幻かも知れない。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 水引草(旭川)坂本タカ女
蕗の葉に戻してやりぬ蝸牛
道草をする捕虫網放り出し
青葉木菟鳴いて深まる山の闇
向日葵の首に疲れの見えてきし
風鈴をうかがひに来て風遊ぶ
手を添はせ水引草の紅たしか
ためらひてゐし流燈のやがて消ゆ
初鴨の思ひおもひの泳ぎして

 蓮片々(静岡)鈴木三都夫
青時雨窟小暗き不動尊
蓮の花はんなりとして香しく
蓮の花いたぶる風に散り堪へ
ひとひらがひとひら誘ひ蓮の散る
滝風の届く渕まで来て仰ぐ
滴りが滴りを追ひつながれる
押し寄せてくる対岸の蝉時雨
蓮の葉の裏を返せし風は秋

 秋暑し(出雲)安食彰彦
通帳の残額きびし残暑かな
秋暑し黒ネクタイをゆるく締め
秋暑し訃報を受くる卒寿とか
神名火は瑞穂の国よ稲の花
出西生姜からしうましと語りけり
出西生姜洗ひ香りをこぼしけり
老いてなほ出西生姜出荷せり
今日もまた出西生姜掘りし老

 盂蘭盆(浜松)村上 尚子
幾度も空を見てをり広島忌
はやばやと買ひし苧殻を持ち歩く
子供には子供の役目盆用意
先頭を行くは先師や盆踊
湯上がりの髪梳いてをり盆の月
地蔵会やみづヨーヨーを借りて撞く
鯊釣のよそのバケツを見て回る
虫の音や天井の灯と手元の灯

 鉄砲水(唐津)小浜史都女
水怖くないかお羽黒糸とんぼ
豪雨あと蝉のむくろの五つ六つ
嫋々と雨連れてくる竜田姫
唐黍にむらさきはしる雨のあと
数珠玉よ野菊の花よ立ち上がれ
鉄砲水跡がいくつも葛の花
藪蘭の総立ちに雨あがりけり
大雨の爪跡二百十日かな

 東山道(宇都宮)鶴見一石子
陸羽街道青田風吹く柳かな
造り滝一瞬にして水止まる
天領の暑さ忘るる杖二本
東山道余一の里の祭髪
向日葵の疲れきつたる花と茎
墨壺は石打つ鏨男郎花
水澄める渡良瀬茶屋の手打蕎麦
秩父銘仙足利銘仙満つる秋

 新涼(東広島)渡邉 春枝
塗替の遊具をぬらす驟雨かな
盆の月窓に明日の米を磨ぐ
きのふとは違ふ風向き燕去ぬ
便箋の折目正して涼新た
身ほとりを羽音の過る無月かな
新涼の厨にメモのあれこれと
藩邸の何処に佇つも虫の声
願望に終はる船旅八月尽

 踊(浜松)渥美 絹代
鮎を焼く川原に山の影きたる
釣りの子に声かけ涼み舟通る
迎火やかすかに梁のきしみをり
踊待つ山の向かうの山を見て
いくたびも木の根を踏みて盆踊
踊の輪ぬけ山水を汲みにけり
送り火やにはかに強き風おこる
山の端の夕日を眺め秋刀魚焼く

 広島忌(函館)今井 星女
八月や広島長崎愢ぶ我
過ちはくりかへすまじ原爆忌
反戦の心新たに広島忌
原爆忌七十四年の祈りかな
ただ祈ることに徹して原爆忌
原爆忌家族みんなで鶴を折る
折鶴に息を吹きこむ広島忌
完成の千羽鶴持ち広島忌

 つまべに(北見)金田野歩女
古郷の人と行き合ふ墓参
つまべにや母亡き庭に咲き継ぎぬ
道標のハングル表記木槿咲く
好き嫌ひ分かるる南瓜煮てをりぬ
包丁を研ぐ新涼の水垂らし
大西瓜転がる里の勝手口
風船葛紺屋軒へと伸びをりぬ
二駅の日帰りの旅紅葉狩

 流灯(東京)寺澤 朝子
ふるさとのあの空恋ほし二つ星
七夕や父に教はる飾り網
待て待てと父の切り分く大西瓜
長身の長子頼りの盆灯籠
「明治百年」踊りし日あり若かりし
流灯を追うて誦経の声流る
母連れて父の流灯一直線
寝惜しめる夜々もありたり天の川



鳥雲集
巻頭1位から6位のみ

 葉月(名張)檜林 弘一
溜息のやうなボサノバ夏果つる
プードルの手綱の長し涼あらた
濃紺は潔き色葉月潮
七輪を飛び出す火の粉野分あと
雁渡し遠き住所を記す絵馬
飛石のほどよく離れ竹の春

 放物線(浜松)林 浩世
風少し重くなりたり夕立来る
放物線描くボールや夏終はる
新涼やプラットフォームに風を受け
客船の汽笛の太し涼新た
下戸と言ひ枝豆に手を伸ばしたる
とんばうの増えては消ゆる湖畔かな

 日盛 (浜松)阿部 芙美子
日盛のにはとり石を啄みぬ
ウイスキーのグラスことりと夜の秋
秋めくや路地の奥行く下駄の音
白桃を啜る一人の夜風かな
山霧やがれ場を渉る縦走路
檸檬齧る若きに戻るには遅し

 新豆腐(宇都宮)星田 一草
マニキュアの真赤な十指夏旺ん
夕立の過ぎたる真夜の星の数
起き抜けの水の旨さや原爆忌
おちよぼ口して烏瓜花閉づる
語り継ぐことあまたあり終戦忌
今日一日恙なく暮れ新豆腐

 秋澄む(松江)西村 松子
恋占の紙に乗りたるあめんぼう
露けしや水辺にたてば旅愁めく
原子炉の村に秋潮ひたと寄す
秋燕師の家囲む築地松
父の忌の茜さす雲涼新た
秋澄むや轆轤より壷たちあがる

 星月夜(東広島)源 伸枝
一村を沈めしダムの水澄めり
葛咲くや崩れし崖を這ひのぼり
硝子戸に残る雨粒虫しぐれ
母のことノートに綴る星月夜
傷多き机に燈火親しめり
読み終へてはづす眼鏡や虫すだく



白光集
〔同人作品〕 巻頭句
村上尚子選

 竹内  芳子(群馬)

岩清水呑みて一息つきにけり
幼子と一緒に見たり流れ星
鈴虫の声に溶け込み眠りけり
秋灯や使ひ馴れたる万年筆
蜩や星点々と増えて来し

 大澄  滋世(浜松)

リハビリの初めの一歩雲の峰
刻々と変はる風紋土用あい
仕事着にアイロンをかく夜の秋
電線に山鳩一羽野分あと
陵を即かず離れず草雲雀



白光秀句
村上尚子

蜩や星点々と増えて来し 竹内 芳子(群馬)

 蜩は〝日暮〟とも書くように、特に夕方になると澄んだ美しい声で、森や林の中を好んで鳴く。この時期は山に近いほど日ぐれは早い。空を見上げれば一番星に続き、次々と星が数を増している。読み終えたあとも、蜩の声と星の輝きがいつまでも心に残る。
 平明にしてしみじみと郷愁にかられる作品である。
  鈴虫の声に溶け込み眠りけり
 こちらは美しい虫の音の代表の鈴虫である。今年の残暑は特に厳しく、こんな贅沢な時間を過ごせた方は何人いただろうか。作者のお住まいである、群馬県の中之条盆地の地形を想像すると、素直に納得できる。自然に抱かれて人間らしい暮しができるのは何より幸せなことである。

陵を即かず離れず草雲雀 大澄 滋世(浜松)

 陵は天皇、皇后、皇太后、太皇太后の墓所をいう。この句の場所を特定するのは困難だが、最近話題になっている仁徳天皇陵を始め、大阪、奈良、京都に多く見られる。その周囲で見付けた蟋蟀より小さい「草雲雀」である。「即かず離れず」と見たところに、この「陵」への作者の深い思いが窺える。
  刻々と変はる風紋土用あい
 暦の上で秋はすぐそこにきているが、一年の内で最も暑いと言われている土用。砂丘に立っていると俄に涼しい風が吹いてきた。一昨年の鳥取市で行われた全国大会には、多くの方がその風景を堪能されたに違いない。今は足元だけを見詰め「土用あい」という日本語ならではの美しい言葉により、風紋の繊細な変化だけを切り取っている。

廃坑を噴き出す風やをとこへし 中村 國司(鹿沼)

 ここは大谷石の採掘場跡と思われる。現在は資料館となり、神秘の大空間となっている。そこから地上へ噴き出す風は非常に冷たく、この世の風とは思えない。「をとこへし」としたのは、苛酷な作業に携わった人々のことを思ってのことであろうか。

流れ星息をたひらにして眠る 髙島 文江(鹿沼)

 長い間体調を崩されていたことが分かっていたので、下十二の言葉が私なりに理解できたような気がした。この夜は「流れ星」に出合えた喜びを胸に抱いて眠りについた。

手花火の一人は母の膝の中 坂田 吉康(浜松)

 庭先で家族だけでも楽しめる手花火。下十二の言葉は家族構成まで見えてくる。この場にいるそれぞれの声や動きが手に取るように分かる。揚花火とは違う日本の風景である。

縁側の湯呑み茶碗や盆の月 小林さつき(旭川)

 最近の家屋はめっきり縁側が減ってしまったが、ここに存在するのが嬉しい。そこにはいくつかの湯呑み茶碗が置かれている。ただのお月見ではなく「盆の月」により、目の前の人だけではなく、多くの人との繋がりを懐かしんでいる姿が見える。

床擦れの母に風鈴鳴りにけり 鈴木  誠(浜松)

 床擦れという、一見俳句には似つかわしくない言葉だが、それにより長い間病床に就かれていたであろうことがよく分かる。楽しみの少ない母上は風鈴が鳴ったことだけでも喜んでくれた。そばに居る作者も束の間の喜びをかみしめている。

涼風の林を梳きて来たりけり 松原トシヱ(中津川)

 林の中から涼しい風が吹いてきたことだけを言っているが、この句の要点は「梳きて」という三文字にある。俳句において「てにをは」と同時に、一語一語が大切である。

県境の蒜山三座鰯雲 松崎 勝(松江)

 岡山県と鳥取県の境にある火山群。三座とは上蒜山、中蒜山、下蒜山を指す。戦時中は陸軍演習場があり、戦後は開拓され、酪農と観光開発が進んだ。そんな歴史をふまえて、その上を流れる鰯雲に思いを寄せている。

大花火函館山が崩れさう 赤城 節子(函館)

 函館の旅に函館山は付き物であろう。山頂からの景色はもとより、豊富な植物、渡り鳥の休息地、麓の教会等々…。その山が花火の大音響で「崩れさう」と表現した。俳句は思い切った表現により成功することが多い。

新涼や今日のはじまる割烹着 山本 美好(牧之原)

 かつては主婦の代名詞のような割烹着。最近はあまり見かけなくなったが、台所で働くのには理に叶っている。秋の訪れに家事への意気込みが、その白さをもって感じ取ることができる。


その他の感銘句

亡き夫のワイシャツを着て種を採る
山二つ繋げて虹の懸かりけり
足元に濃き影落とす秋日傘
きささげや使はぬ庫裡の煙出し
受け皿に西瓜一切れ晩年へ
踝にふるる草より秋立ちぬ
初蟬や小陰にとむる乳母車
飲み干せしジンジャエールや秋暑し
大の字の昼寝の形くづれけり
向日葵の高きが一つそつぽ向く
溝蕎麦やスクールバスのすれすれに
多数決で飼つてもらつてゐる蜥蜴
カーステレオに流るるロック夏の雲
円卓の真中に盛られマスカット
テレビよりラジオの親し秋の夜半

吉川 紀子
大石美枝子
横田美佐子
佐藤陸前子
金子きよ子
阿部 晴江
大河内ひろし
大菅たか子
村上千柄子
山田 春子
樋野久美子
塚本美知子
内山 純子
田中 知子
朝日 幸子



白魚火集
〔同人・会員作品〕  巻頭句
白岩敏秀選

浜松 坂田 吉康

蜩の砂場に赤き如露ひとつ
今切を跨ぐ大橋葉月潮
どかどかと釣人来り蘆の花
投釣の鉤のはるかに新松子
機織やぴくりと動く山羊の耳


鹿沼 髙島 文江

石塀のつづく町並花カンナ
葡萄垂る石材商に蔵二つ
草の実やもう使はれぬ石工小屋
くわんおんの眼差しはるか秋の雲
少女らのこゑコスモスのあたりより



白魚火秀句
白岩敏秀

今切を跨ぐ大橋葉月潮 坂田 吉康(浜 松)

 かつて、浜名湖を東西に結ぶ東海道の舞阪宿と新居宿の間に「今切の渡し」があった。約四キロメートルの距離に二時間ほど要したらしい。遠州灘を北上する青葉潮の逆波に命の危険を感じた時もあったろう。今は浜名大橋が出来て、瞬く間に渡ってしまう。古来から変わらない青葉潮と技術の進化で出来た大橋。変わるものと変わらないもの、昔と今の共存を言い止めている。
  機織やぴくりと動く山羊の耳
機織は即ちチョン・ギース。チョン・ギースが鳴いたか、草むらから跳び出したか。驚き易い山羊の耳がぴくりと動いた。「…神、空にしろしめす。すべて世は事も無し」(ブラウニング 上田敏訳)。秋風が爽やかに吹く草原のある日のことである。

少女らのこゑコスモスのあたりより 髙島 文江 (鹿沼)

 コスモスが美しく咲き乱れている。その辺りから少女たちの屈託のない、楽しそうな声が聞こえてくる。コスモスを見ながら、少女たちの声を聞いているうちに、おのずと昔に返っていく作者。コスモスの明るさや少女らの声が、作者に過ぎ去った日への郷愁を誘っているようだ。音もなく忍び寄る秋思である。
  葡萄垂る石材商に蔵二つ
 宇都宮市は大谷石の産地として有名である。大谷石は柔らかくて加工し易いという特徴がある。そういう大谷石を手広く扱っている石材商が、蔵を二つ持っているという。これだけなら何事もないが、「葡萄垂る」の取り合わせが意外。撓わに垂れた葡萄に石材商の悠揚迫らない余裕が見える。

ちよつかいを出しては喧嘩夏休み 伊藤かずよ(津山)

 兄弟喧嘩はいつもこうして始まる。大抵、お兄ちゃんが弟にちょっかいをだす。弟にはお母さんという強い味方がいるので、思い切って向かっていく。そして泣かされる。仲の良い兄弟の長い長い夏休みである。

帰省子にそれとなく聞く暮し向き 石川 寿樹(出雲)
 都会暮しを始めて、初めて帰省した子。日常の生活状況よりも、食事は三度しているか、お金は足りているか等とストレートに言葉に出せないでいる父親の心理を的確に語る。帰省子からは「うん、まあな」と素っ気ない返事。子を持つ親の心配はいつまでも尽きないのである。

かちわりや村に一人の漆掻き 大平 照子(三好)

漆掻きは漆の木に疵をつけ、出る汁を採取する。六月から九月までの暑い時期に行う。山に漆の木も少なくなり、それに伴って職人も少なくなった。作者の住む山城地区に一人が残っているのみである。「漆の木の命は取るが、漆で作られた器は何年も生き続ける。それが魅力だ」と最後の漆掻きは言った。

秋風や納屋に掛かりし猫車 本倉 裕子(鹿沼)

 特別、変わったことのない句に思える。しかし、秋風と組み合わされると、猫車に存在感が出る。一年中、農作業に使われた猫車。秋仕舞いが過ぎると、ゆっくり休めとばかりに納屋に仕舞われたのである。秋風が冷たくなると人間も猫車も、来春までしばし安息の時に入る。

思ひ出が花火の中によみがへる 白崎 信子(函館)

今年も花火を見に出掛けた。豪華な花火を見ているうちに、いつしか思い出の中に…。幼い頃に母に手を引かれて見た花火。青春の頃に二人で胸をときめかして見た花火。思い出に耽っている作者に、大きな音の花火が一発揚がった。

夜濯や明日決勝のユニホーム 後藤 春子(名古屋)

 明日の決勝戦のために、みっちりと練習をしてきた子どもが帰ってきた。早速、明日に間に合うように夜濯を始めた。夜濯が終わって見上げた空には満天の星。どの星もひときわ輝いて見えるのは、勝利を願う母親の思いがこもっているせいか…。

山の子はどの子も素直地蔵盆 横田 茂世(牧之原)

 盂蘭盆が終わると地蔵盆が始まる。地蔵尊は子どもの守護仏なので、子どもが主役となるが、少子化でだんだんと淋しくなっている。しかし、作者の地区はまだまだ賑やかなようだ。どの子も年寄りのことを何でも聞いて、素直に動いてくれる。思わず頭を撫でてやりたくなるほど素直な山の子どもたち。


    その他触れたかった句     

終戦日西本一都の忌なりけり
木の実落つ地球の軸を少し逸れ
掬ひたる一匹に買ふ金魚鉢
丹精の葡萄一粒づつ甘し
牛小屋に梯子掛けあり秋の蟬
渡し場に切符切る音秋涼し
菩提寺の屋根は青銅花木槿
新聞の折り目正しき今朝の秋
早稲中稲実りの色の加賀平野
るるるると鳴く鳥のきて柚子熟るる
草刈つて水音近くなりにけり
雲の峰暖簾の奥の醤油樽
秋暑し髪束ねたる赤いゴム
みちのくの水に生まるる新豆腐
丁寧に髪乾かせば秋の虫
遊船の役目を終へて繋がるる

大野 静枝
西村ゆうき
牧野 邦子
宮﨑鳳仙花
山田 眞二
才田さよ子
萩原 一志
根本 敦子
米沢 茂子
稲井 麦秋
柴田まさ江
若井真知子
寺田 悦子
菊池 まゆ
尾内 真実
有川 幸子


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