岬 安食彰彦
山寺に柴蘇に漬けたる春の蕗
菓子箱の焙り若布のふくよかに
菊根分け磴の上なる鎮守さま
トロ箱に少し足らざる菊根分け
春の露廃屋跡の屋敷神
背負籠の老婆の降りる梅の坂
黄水仙委細わからぬ無縁墓
梅東風や裏参道の庵と堂
三 月 青木華都子
男には男の話題日脚伸ぶ
芽吹き急山より女声のして
流されてときに向き変ふ春の鳰
三月の少しゆる目のループタイ
啓蟄や鶏放ち飼ひにして
丸窓の嵌めころしなる春障子
山焼きの煙に犬もむせてをり
忙中閑花芽起こしの雨の旅
たんぽぽ 白岩敏秀
枕木を井桁に組みて駅は雪
花時計針一巡に日脚伸ぶ
早春の谺返らず遭難碑
海へ向け椅子置き替ふるクロッカス
遅れ来て椅子を軋ます針供養
朝寝して夢のかけらをつなぎをり
たんぽぽや遠くの海に貝生まれ
青空の風をつなげて風車
すずり匣 坂本タカ女
裸木のうしろに廻りみたりけり
山眠るポケットに持つ文庫本
丁寧に落款を押す雪催
雪を掻くつくづく雪の重きかな
雪卸す親綱といふ命綱
ひとひらづつのてつさしばらく箸にせる
箸長く持つは父ゆづりふぐと汁
きさらぎや和紙を貼りたるすずり匣
椿 園 鈴木三都夫
落椿点景として椿句碑
落椿突と華やぐ椿句碑
掃かである椿を園の布置とせる
狼藉の限り椿を荒す鵯
名にし負ふ一花重たき玉椿
菰内に息をひそめし冬牡丹
冬牡丹娘盛りを菰内に
山茱萸のちまちまちまと黄なりけり |
涅槃西風 福村ミサ子
白魚食ぶ身の内澄みてゆくごとし
野梅咲く神話の川の高鳴りに
梅の花風の死角にとく匂ふ
行くほどに小暗き径や藪椿
黒猫の畦突走る涅槃西風
耕しを待つや堆肥をどかと置き
地虫出づ 松田千世子
梅東風の道を迷うて悔もなく
海臨む三つ葉葵の涅槃寺
好い加減申すな寝釈迦聞いてをる
紅椿落ちて弾んで句碑開き
冬牡丹日差しの色となつてきし
発掘の石に経文地虫出づ
水温む 三島玉絵
春立つや牛飼ひの積む草ロール
山の音海の音聞き木の芽張る
春嵐湖に雲影飛ばしけり
雨一と日自分のための雛飾る
洗ひ場に浸す砥石や水温む
あしおとの闇やはらかく通り過ぐ
寒念仏 森山比呂志
鉦の音が路次を曲れり寒念仏
良寛忌いろはの言へぬ子のふえて
全身が声のかたまり寒稽古
ものの芽の尖ることより始まれり
松根油採りしは昔山笑ふ
合格の嬉しさ母を抱きしめり
採氷現場 今井星女
火の山の裾の採氷現場かな
大沼の端の端より採氷す
息白く二言三言採氷夫
その中に女が一人採氷夫
採氷や湖の碧さもとぢこめて
沼まつり氷で造る滑り台
春の雨 大屋得雄
一の滝二の滝雪解水落す
春日和手にペンギンの縫ひ包み
木端屑白く飛ばしぬ犬ふぐり
菜の花や裸足で遊ぶ男の子
ランドセル食み出してをり春の雨
春の雨学生服を部屋に乾す
風光る 織田美智子
愛蔵の書を賜りぬ竜の玉
寒晴の父母の墓詣でけり
魚は氷に上り老いても漁師かな
風光る百の鴎を飛び立たせ
風花とまぎるる梅の散り急ぐ
初蝶は黄色なりけり門より来 |