柿 安食彰彦
遂道を出づればカーブ雁の空
秋日溜む手抜をせずに塩焚けり
山粧ふ廃校跡の塩焚場
漆喰壁の鶴の鏝絵や木守柿
柿熟るる昔遊廓格子窓
大振りの栄螺の尻尾艶もてり
坪畑の野壷にからむ零余子蔓
民宿へ秋の時雨を道連れに
走りそば 青木華都子
刈田中鴉うなづきつつ歩む
籾殻を焼いて一村煙攻め
門前は通行止めや菊花展
磐梯は宝の山や鳥渡る
ひとの丈ほどの麺棒走りそば
茸狩や全く知らぬ道に出て
秋惜しみつつ書き損じたる便り
引つ越しの荷にひと株の石蕗の花
木 の 実 白岩敏秀
秋耕の土すこやかに裏返る
秋うらら指鉄砲に撃たれけり
本を抜く書棚の隙間秋しぐれ
空き部屋のあるかと胡桃割つてみる
親離れ子ばなれ木の実降りにけり
川に沿ふ道にはじまる草紅葉
画布に塗る秋七色の伯耆富士
晩秋の色に砂丘の暮れにけり
海 鵜 坂本タカ女
岳の名と同じ川の名鮭還る
海見えてきし目を戻す刈田かな
海眩し鮭に刺網定置網
網逸れし鮭影武者のごと遡る
漁終へし鮭網海に濯ぎをり
ほまち鮭選別台の下に置く
鰓呼吸して捕はれの鯔の跳ぬ
すれすれに秋の潮目を海鵜飛ぶ
勤労感謝 澤田早苗
教へ子へ返信勤労感謝の日
うち中の靴を磨けり勤労感謝の日
徒食の掌みつめ勤労感謝の日
大恵那の日ざしに映ゆる冬紅葉
老人検診見せ合ひながらの日向ぼこ
着ることもなきお下りの秋袷せ
塩味に程よくしまる衣被
今年また三日坊主の日記買ふ
小鳥来る 鈴木三都夫
膨らみて鞘を拂ひし芒かな
その中の白は仏心彼岸花
燃え尽きて蕊さらばへる曼珠沙華
色ごとに名乗を挙げし花野かな
鱗雲串刺しにして飛行雲
天辺に位を張る鵙の高音かな
一山に山門いくつ小鳥来る
茶の花のあまりに咲くは疎ましく
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山 紅 葉 栗林こうじ
地下濠の口鎮魂の花木槿
漁りを眺めつ足湯秋うらら
無言館出でて無言や山紅葉
菊展の用意をさをさ旧城下
隣家の身に沁む話となりより
重ね着し子等の下校を見守りぬ
鮭 颪 佐藤光汀
鮭颪ことさら河口さざめきぬ
簗前に鮭放精の濁りかな
ほつちやれの眼抜かんと海猫鴉
出面婦の斑入りの鮭を手土産に
蕎麦刈られ雲の百態流れけり
十勝嶺に十日の月の煌とあり
懐 手 鶴見一石子
新米の威力を量る台秤
小春日を残し汐引く九十九里
騎馬戦のやうに折れゐる枯はちす
晩年は迷ひの多き懐手
新巻の口あけられて化粧塩
力みたる彩ではなけれ帰り花
秋 暁 三浦香都子
秋暁や出て行く舟と帰る舟
絵葉書の中の湖さんご草
海見ゆるところの遺跡小鳥来る
さらさらと風ゆらゆらと珊瑚草
声あげて来し秋の蚊に刺されけり
オホーツクの大波小波鮭のぼる
残 る 虫 渡邉春枝
番犬のまどろみ深き秋旱
束で買ふ作業手袋草もみぢ
静御前の墓や桜のもみづれる
海桐の実はじけ震災記念館
拭き減りの格子戸の艶秋ざくら
酒蔵のすみに消火器残る虫
野 仏 小浜史都女
擦る手の熱くなりしかいぼむしり
小鳥来と窓閉ざしたる調律師
窯閉ぢし後の歳月昼ちちろ
釉薬の残りし甕にある秋思
一つより二つが淋し返り花
返り花野仏ふつと息したる
岬 小林梨花
すつぽりと岬を包む秋の空
秋天へ柏手の音吸はれけり
床に映ゆ巫女の緋袴秋澄めり
道すがら摘みし野菊をもて見舞ふ
蔓竜胆もつれ銅剣出土跡
音絶ちて海面きらめく十三夜 |