臼 と 杵 安食彰彦
餅臼も杵も蒸籠も納屋の隅
年用意坊ちやん刈りと丸刈りと
冬帽子被りてゆけと児等の言ふ
明日よりは暴風積雪との予報
今朝ばかり初日に向ひ深呼吸
ゆつくりと正月の庭掃きにけり
屠蘇を注ぐ若き国造眩しかり
初夢に英語数学鬼教師
お 年 玉 青木華都子
ぶつかつて水立ち上がる寒さかな
箒目を乱す四五羽の冬雀
近づけばまた遠ざかる笹子かな
数へ日の数へ時間となり暮るる
打つ鐘の余韻や年の改まる
威風堂々たる男体の初景色
若水をいただく神の竹柄杓
不意に来てすぐ帰る子やお年玉
山 眠 る 白岩敏秀
冬帝や牛一列に山くだる
焼藷屋遠き怒濤を見てをりぬ
冬の日の藁塚より低く雀飛ぶ
潜りたる水輪に鳰の浮びけり
枯葉鳴る空のかたさにどこか触れ
天井をくすぐつてゐる煤払
大峰に添うて小峰の眠りけり
年の暮佃煮買うて戻りけり
電話番号 坂本タカ女
鳥渡る電話番号語呂合せ
電話してゐる間の釣瓶落しかな
耳揃へ積む酒蔵の今年米
人肌に酒米冷ます根雪来る
威丈高なる酒母樽や山眠る
手洗米自動洗米寒造
もろ肌を脱ぐ麹室寒造
冬ざれや蔵にトロッコ軌条跡
竜 の 玉 鈴木三都夫
箒目を再び隠し散る紅葉
面影を僅かに残したる枯野
忙中に一刻の閑菊を焚く
弄れば目を眩しめる竜の玉
近づいてくる笹鳴のもたせぶり
笹鳴に歩をゆるめては止めては
冬紅葉一葉に色の乱れなし
冬紅葉色を極めて誤らず |
団扇太鼓 武永江邨
退屈な午後四時冬至南瓜買ふ
柚子風呂や縫はれてありしほぞの下
膝くづし炬燵の人となりにけり
声上げて追焚き頼む初湯かな
初勤行白装束の法華僧
初空へ団扇太鼓の揃ひ打ち
山 始 笠原沢江
亡き友の育てし菊も焚きにけり
落葉して日射しを貰ふ卵塔墓
初詣一つ灯れる地蔵堂
頑くなな顔のゆるびし賀状かな
枝打ちを敷いて御饌置く山始
すずしろの歯応へありぬ七日粥
漱 石 忌 金田野歩女
栗鼠の尾の美しき膨らみ冬柏
熱燗や段々大きくなる話
母を訪ふ振つて畳みぬ時雨傘
図書館の奥に全集漱石忌
歳晩の村社の磴の篝かな
開の文字あとは雪中開拓碑
寒 詣 上川みゆき
山茶花の散り敷く中の葬りかな
伊勢海老を先づは遺影に供へけり
日輪はあまねく母へ福寿草
土器に怒濤ひびけり寒詣
二歳児と歌留多取り合ひ泣かせけり
井戸蓋に石ふたつ載せ年明くる
冬 紅 葉 上村 均
葱の香を残しリヤカー行き過ぎぬ
ゴンドラの影の這ふなり冬紅葉
冬山の近き野鳥の掲示板
綿虫や行く程せまき峡の空
鴨鳴くや遠嶺に残る夕あかり
冬晴や庭師息子へ代替り
伊賀上野 加茂都紀女
歳晩の伊賀の忍者に迎へらる
新装の俳聖殿に冬雀
万年青活け芭蕉生家の年用意
彩どりの落葉寄せあり草鞋塚
旅人に釣月軒の置火鉢
お飾りの済みたる蓑虫庵を訪ふ |