最終更新日(Update)'14.09.01 | |||||||||||||||
|
|||||||||||||||
|
|
(アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。) |
季節の一句 渥美 絹代 |
「一木に」(近詠) 仁尾正文 |
曙集・鳥雲集(一部掲載)安食彰彦ほか |
白光集(白岩敏秀選)(巻頭句のみ掲載) 三上 美知子 、中山 雅史 ほか |
白光秀句 白岩敏秀 |
鳥雲逍遥 青木華都子 |
白魚火集(仁尾正文選)(巻頭句のみ掲載) 星 揚子、大隈 ひろみ ほか |
白魚火秀句 仁尾正文 |
|
|
季節の一句 |
|
(浜 松) 渥 美 絹 代 |
|
弥生時代から続いている稲作。稲は日本人にとって特別な作物である。 早稲は穂に紺深めゆく日本海 山根 仙花 (平成二十五年十一月号 曙集より) 遠山の淡き藍色稲は穂に 田原 桂子 (平成二十五年十一月号 白魚火集より) 暑さがやわらぎ、秋の澄んだ空気に変わりつつあるこのごろ、二百十日、二百二十日も無事に過ぎ、稲は穂をつけ始めた。 稲穂の向こうに広がる日本海、田んぼから望む遠山、日々眺めている景であり、はるか昔からずっと続いている景である。その日本海は紺を深め、遠山はうすうすではあるが、稜線がはっきりとするようになってきた。 夏から秋になっていくあはひの頃を、海と山の色の変化で捉えた二句。「早稲は穂に」、「稲は穂に」と、稲の成長を具体的に述べ、季節に敏感に暮らしている作者の素朴な気持ちを伝える。収穫までもう一息、穏やかな日々であってほしいという願いも感じられる。 稲穂垂れ囃子の稽古はじまりぬ 小浜 史都女 |
|
|
|
曙 集 | |
〔無鑑査同人 作品〕 | |
|
|
昼 寝 安食彰彦 肖像の三代並ぶ夏座敷 旅一夜見事な鮎の化粧塩 竹杖と寝棺の上の夏帽子 のつけから一人気儘にビール飲む 昼食のあとの極楽三尺寝 たつぷりと長き昼寝をしてみたし 梅雨明くる清水に喉を鳴らしけり ピーマンの緑のまぶし梅雨明くる 春惜しむ 青木華都子 春惜しむハングル語での長電話 迅雷に驚かされし午前二時 牛蛙全き牛の声なりし 茄子とまと植ゑて三坪に足らぬ畑 橡は実となりたる県庁前通り どこ迄も続く茶山や捨て茶刈り 雨ののち曇りのち晴れ梅雨明くる 同姓の並んで二軒稲は穂に 三 輪 車 白岩敏秀 夏帽や全身で漕ぐ三輪車 身を躱すとき鹿の子にけもの臭 海芋咲き怒涛のごとく日暮れ来る 夏椿牛舎に高き鉄ゲート 搾乳の白き泡立梅雨の晴 草笛の息をゆたかに吹きにけり 箱庭に如雨露の雨を降らせけり 折り鶴を紙に戻して冷夏かな 定 書 坂本タカ女 花筏その向う岸動きだす 蓮の葉を回り道して花筏 途中まで読む定書蝉時雨 息切れのして女坂白糸草 空威張りして裏返る牛蛙 コレクションとすうなぎ屋の箸袋 雨雲の居坐つてゐる破れ傘 裏参道木の階や蝉の殻 梅雨ごもり 鈴木三都夫 水玉を煌と結びし蓮浮葉 浮葉まだ風に抗ふこと知らず 梅花藻の星と点りし流れかな 薔薇園の順路の風にほろと酔ふ 休耕田捨ててもおけぬ草を刈る 青大将隠れし草を盲打ち 摂心の一山寂と朝曇り 昨日の句今日はや褪せて梅雨ごもり |
短 夜 山根仙花 旅二日二日の宿の明易し 旅遠く来て短夜を語りあふ 掃きかけてあり竹箒梅雨に入る 一つづつ登る石段梅雨重し 螢とぶ闇やはらかき母郷かな 十薬の花の十字の暮れ残る 竹落葉積るともなく積りけり かなかなのかなかなかなと夕べ呼ぶ 梅雨の頃 小浜史都女 睡蓮の池の膨らみきつてをり 水掛けてなほ黒くなる梅雨ぼとけ 合歓の花日暮たのしむやうに咲く 蟻塚のつくりたてなる匂ひかな 滝頭まだ夕空の青かりし 向日葵はやはり見上ぐる方がよき 城濠の主のやうなる蛇に会ふ 撫子や母への介護なつかしく 梅雨晴間 小林梨花 良き知らせばかり届きて梅雨晴間 桑の実を摘むや指先紫に 蛍の夜一時帰国の子と逢ひぬ 三世代揃ふ夜店の明かりかな 帰省子を囲み祝盃上げにけり 久々に帰国せし子の日焼顔 父と子の背くらべ梅雨の晴間かな 久々に逢ふ子も老いて梅雨深し 落 し 文 鶴見一石子 紫陽花の寺巡りして江の電へ 水無月の涼しき嶺の連なりて 落し文人の気配にあわてやう 明け易し市のひらかるる浜通り 日の匂ひまとひて雹の降れるなり 雹礫地面を叩き玻璃叩く 雹つぶてくるりくるりと跳ぬるなり 街道は雹の飛礫の道となり 緑 雨 渡邉春枝 夏萩のこぼれて庭の男下駄 梅雨寒や移植の松に支へ棒 石庭を洗ひ上げたる緑雨かな 笹百合や川渡るたび靴ぬれて どくだみの匂ふ手をもて祈りけり 短夜の万年筆に指汚し 漬け終へて梅酒の瓶に年月日 七月の山や札所の忘れ杖 |
|
|
|
鳥雲集 | |
一部のみ。 順次掲載 | |
|
|
石見銀山 富田郁子 山の神祀る間歩口蜥蜴這ふ 銀山の暗き土牢梅雨じめる 羅漢窟へ反り橋渡る朝曇 五百羅漢に螢袋のゆれ通し 石に彫る黄泉の伝記や竹落葉 下闇や石積み祀る塞の神 髪 洗 ふ 桧林ひろ子 紫陽花の毬に日差しの集まれる 背伸びして吊す風鈴かぜを呼ぶ 利き足の一歩に茅の輪くぐりけり 夏布団干して人来るあてもなし 明日と言ふ日を新しく髪洗ふ 白粉花に遮られゐる戸口かな 合歓の花 武永江邨 夏柳老舗紺屋の紺暖簾 新緑に足を伸ばして露天風呂 恋敵現れ夏蝶三つ巴 梅雨深し目に力入れ一書読む 沼の上にせり出してゐる合歓の花 堰洩るる水音細し合歓の花 初 蛍 桐谷綾子 初蛍光残して遠ざかる 羅や袖口に蛍入りくる 滝道の闇をゆさぶる蛍かな 水音を渡り蛍火天空に 枝の先光を留め恋蛍 虹の根は箱根湖畔の旧役場 夏 大 根 関口都亦絵 封切れば八十八夜の新茶の香 夏燕宿に栄ゆる英語塾 まつさらな心で潜る茅の輪かな 皮引けば辛き匂ひの夏大根 紫陽花や裏庭に引く山の水 梳き細る髪ねんごろに洗ひけり 太宰の忌 寺澤朝子 梅雨はげし舞踏教室いまルンバ 都心にも雨の警報太宰の忌 凌霄や身を深々と歯科椅子に 白靴のすいと降り来る銀座線 朝曇始発電車に人まばら 日のうちは千住に舫ふ涼み船 |
くちなはじやうご 野口一秋 紫陽花の御色直しの雨となり 青嵐吊橋渡る婆裟羅髪 香水に息を殺しぬ昇降機 釣宿の珍味くちなはじやうごかな 通といふ釣りし初鮎丸齧り 田水沸く蒸籠の上にゐるごとし 小 鯵 刺 福村ミサ子 潮入りの川の匂ひや南吹く 小鯵刺河口の波を打つて飛ぶ 黒南風や台船銹を深めたる 天領の蛍袋は白ばかり 經蔵の格子越しなる黴匂ふ 高欄にモップの乾く安居寺 蛍 の 夜 松田千世子 蛍の夜大事なことを等閑に 捕るよりも追ふ楽しさの蛍狩り 捕るまじき一夜限りの蛍とて 夭折の子の蛍火か草に消ゆ 青芒夜風がふいに曲りきて 半夏生伴侶の怪我の唐突に 蓮 開 く 三島玉絵 萬緑やどの木にもある木の名前 早苗田の昨日の色と今朝の色 水音は山のつぶやき青時雨 あると聞く幻の音蓮開く 吹き上ぐる蓮田の風に溺れけり 蹲踞の辺りにこぼれ花南天 大 砂 丘 今井星女 車窓より五月富士見え手を振れり 茶どころの句会八十八夜かな 海までの砂丘を歩む裸足かな 大砂丘茅花は銀の穂をかかぐ ひとところ茅花流しの砂丘かな 白靴の百の足あと大砂丘 藤は実に 織田美智子 虻宙にとどまつてゐる翅音かな 青鷺の考えてゐて歩き出す 病院の広き中庭藤は実に 年ごとに甕を小さく梅漬くる 採ることのなき山桃の熟れはじむ 痩身の男がさせる黒日傘 |
|
|
||
白光集 | ||
〔同人作品〕 巻頭句 | ||
白岩敏秀選 | ||
|
||
三上 美知子 兄弟に蜊蛄一匹づつ釣れて 中山 雅史 植ゑられてより田の水の動かざる |
||
|
蛇の尾の消えたるあたり風生れ 揺るる時重さを見せて大牡丹 看取りとは側に居ること団扇風 早苗饗にもんぺの膝をくづしけり 雷鳴や獣の耳にある産毛 新茶汲む夫と二人の時間かな 風に干す影の重なる梅雨の傘 裸子の薄くなりゆく蒙古斑 蛍飛ぶ草の闇より空の闇 水口の石動かして田水引く 新涼やピン一本で髪上げて テーブルの向き変へてみる夏座敷 松葉菊這はす港の常夜灯 宍道湖の夕日真面に新茶汲む 朝のパン焦げて匂ひぬ夏深し |
早川 俊久 大山 清笑 須藤 靖子 福本 國愛 秋穂 幸恵 錦織美代子 秋葉 咲女 吉川 紀子 塩野 昌治 荻原 富江 山田 春子 浜野まや子 谷田部シツイ 原 道忠 山崎てる子 |
|
|
鳥雲逍遥(8月号より) |
青木華都子 |
|
おそ霜の不安や赤き峰の星 |
田村 萠仙 |
|
|
白魚火集 |
〔同人・会員作品〕 巻頭句 |
仁尾正文選 |
|
宇都宮 星 揚子
ところどころ渦巻いてゐる梅雨の川 呉 市 大隈 ひろみ 射干や男結びの四つ目垣 |
|
|
白魚火秀句 |
仁尾正文 |
|
ビール飲むうつすら泡の髭つけて 星 揚子 乾杯か何かでビールを一気に空けた。見るとうっすら髭の辺に泡がくっついていた。偶然だが面白い寸景である。心がそこにあるとこういうものも忽ち句にしてしまう。そのことよりも掲句は読者を信じて読者が自由に鑑賞し創作に力を貸しているのである。為には単純化が図られていなくてはならぬ。こういう行き方を推奨したい。 羅や老女の膝の謡本 大隈ひろみ 「羅や」と羅に全体重をかけている。生糸を涼しく織ったこの羅は黒であろうと思う。「羅や」が老女の膝の謡本という静謐な場を導き出しているのである。「老女の膝の謡本」は勿論「羅や」を入れると一句に動詞が皆無である。強い意志が示されたことになる。強い句を作らんとして胴間声を張り上げても全く逆になることを知るべきである。 大型の田植機買つて跡を継ぐ 藤田ふみ子 農家を継ぐ若者が減ったことと、高齢化により日本の農業が危ぶまれている。そんななかで掲句ははっきりと「跡を継ぐ」と言っている。「大型の田植機」を買って貰うことが交換条件だったのかも知れないがそれでよいではないか。人は期待をされたり責任を持たされると思わぬ力を発揮することがある。 製材の井桁に積まれ夏燕 高井 弘子 林業の衰退に伴い製材所もめっきり減り、機械鋸の音も木の香も懐しい。しかし作者の住まいは天竜美林にも近く、このような光景は珍らしくないのかも知れない。そんな日常的な景色のなかにもしっかりと俳句の目を養ってきた。それが「井桁に積まれ」である。 襟足を夫に剃らるる梅雨晴間 勝部チエ子 男性が床屋で顔や襟足を剃ってもらうことは普通のことであるが、女性はどうであろう。作者の年齢から察するとおそらく五十年以上もそうしてもらっているのであろうか。御主人を信頼しきって座っている作者の姿が見えて微笑ましい。読者を幸せにしてくれる一句。 夕焼空ポプラの影を丘の上 小林さつき 北海道の広大な景色が浮かんでくる。俳句の基本が写生であることは正岡子規以来継承されてきた。 朝顔の早起きの子に咲きにけり 大川原よし子 「朝顔」は秋の季語であるが、我々のイメージは夏休みと重なりやすい。掲句が「早起きの子に」と言っているのが面白い。朝顔は人間の暮しに合わせて咲く訳ではない。作者のこの子に対する何ものにも勝る愛情がこの言葉を生んだのだと受け取った。 工事場の朝の体操ほととぎす 山崎てる子 体操の効用はいろいろあるが続けてこそ結果が出る。掲句は工事現場である。働く者同士の意志の疎通や怪我の予防にもなる。そばでは「ほととぎす」が負けじと鳴いている。この平仮名表示は体操によって気持や体がほぐれてきたような効果もある。俳句はリズムと共に耳や目からもその奥深さを感じるものである。 干し物のたたみてありし昼寝覚 高橋 裕子 一瞬うろたえながらも、やがて納得した作者の姿が見えてユーモラスである。今迄に類を見ない現代的な「昼寝覚」の佳句である。気になるのは誰が「干し物」をたたんだかということ。御主人か子供さんかお姑さんか…。作者の幸せな家庭が垣間見えて楽しくなる。 干すシャツの袖から袖へ南吹く 古島美穂子 この「シャツ」は竿にTの字になるように干してあるのである。まっ白に洗われたシャツの一方の袖からもう一方の袖口に風が吹き抜けてゆく様子をそのまま詠んでいる。夏の季節感をよく捉え、健康的で好感がもてる。 |
|
禁無断転載 |