最終更新日(Update)'17.10.01

白魚火 平成29年10月号 抜粋

 
(通巻第746号)
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 10月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句    林  浩世 
「汗しつつ」 (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集(一部掲載)坂本タカ女 ほか
白光集(村上尚子選)(巻頭句のみ掲載)
       
竹内 芳子、上武 峰雪    ほか    
白光秀句  村上 尚子
句会報 群馬白魚火会 総会及び俳句会  遠坂 耕筰
句会報 平成二十九年度栃木白魚火  第一回鍛練吟行句会報  松本 光子
句会報 坑道句会 荒神谷史跡公園吟行記   三原 白鴉
白魚火集(白岩敏秀選)(巻頭句のみ掲載)
     林  浩世 、小村 絹代  ほか
白魚火秀句 白岩 敏秀


季節の一句

(名古屋) 檜垣 扁理   


文学の小径いざなふ秋の蝶  渡邉 春枝
(平成二十八年十二月号 曙集より)

 作者は確か広島の方だと思うので、この文学の小径は恐らく尾道の千光寺近くの小径を指すのだろう。若い頃、愛媛へ帰省する途中で立ち寄った事がある。小径と言っても中々の坂道である。眼下に光る尾道の内海が運河のようだった。純文学に耽溺していた当時の私の記憶をいざなう様な「季節の一句」、秋の蝶の句である。尚、信州の信濃追分近くにも文学の小道があって、堀辰雄や立原道造ら縁の林道も、何やら詩情をいざなわれる小道である。

爆心地を踏む足元に秋の蝶  村上 尚子
(平成二十八年十二月号 曙集より)

 ヒロシマを詠むには相当の覚悟と力量が要ると思われて、私には到底及び付かない句材だが、掲句もまた「秋の蝶」である。しかし、爆心地を踏む足元の蝶である。私には幻想の秋の蝶が幾千万羽、レクイエムの様に舞っていると見える。と思えば凄い一句だ。勿論、純粋に客観写生であっても。

迎火に幼き者の残りけり  中山 雅史
(平成二十八年十二月号 白魚火集より)

 迎え火も送り火も、時と事情に拠って辛い季語だ。三年前に私の姪は二十九歳でスキルス癌に連れて行かれた。同じ歳の夫君と、ふたつにもならない双子の女児を残したまま。掲句、中山氏の事情は知らないが、何か沁み入る一句である。

  芋虫の山を動かしさうな奴  二宮 てつ郎
(平成二十八年十二月号 鳥雲集より)

 二宮氏の句はいつも興味深い。さりげない孤愁や淡々とした諦観のような、えも言われない哲学的な詩心がある。山を動かしそうな芋虫は、メタファーであろうか。ならば芋虫の暗喩は何かしらと深読みしてしまう。同掲の「海光る日なり通草の熟れをらむ 二宮てつ郎」と言う句にも惹かれる。美しい叙景に、推量の助動詞「らむ」が良い。二宮氏とは、二十年以上も前の島根での全国大会でお会いしたきりだが、その時の秀句「父の日や父と言ふ字はやさしい字 二宮てつ郎」を何時までも覚えている。語弊を恐れず言うと、「俳句らしくない俳句」を詠みたいと、私は思う。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 つるでまり  坂本タカ女
紛失の句集いできし曝書かな
切り花の切り口炙る朝曇
埃かむりし消火栓半夏生
風鈴の思ひ出したるやう鳴れり
足とめぬ人なかりけりつるでまり
さつぱりと朝顔咲けり顔つくる
盆が来るいつも笑顔の写真なる
飛ぶかまへしてゐし飛蝗向きを変へ

 大 瑠 璃  鈴木三都夫
蓮の葉に玉の遊べる梅雨晴間
梅雨長し泰山木の花も錆び
桑の実を子供心にふふみけり
綿々と呼ぶ声綴る河鹿笛
ひとところ日の斑の躍る木下闇
山清水放生池へ涸るるなし
風といふ涼しきものをふところに
大瑠璃や山の和尚は話好き

 合歓の花  山根 仙花
橋一つ渡れば母郷合歓の花
山の端に日暮れ来てをり合歓の花
夕日まだ残る一樹や合歓の花
窓拭いて梅雨深き空輝かす
日々のこと日々に忘れて暑に耐ふる
雲の峰崩れんとして止まれり
夏草の深さへ沈む童児墓
星流れ古里遠くなりにけり

 貧  厨  安食 彰彦
寝室に蚊帳吊つてある頃のこと
貧厨に一皿ありし焼茄子
その頃はかくれて水を盗みけり
副知事の肴を語る芋焼酎
汗拭いて鰹のたたきつくりけり
桑の実や拳骨先生なつかしき
ほととぎす茶庭に陶を干しにけり
筒鳥や浮浪の滝は乱されず

  滝   村上 尚子
山川の風の涼しき茣蓙の上
囮鮎生簀の水をまはしけり
釣りたての鮎の混み合ふバケツかな
沢水に笊ごと沈め冷し麦
滝音にがんじがらめにされてをり
滝行の女もつとも声とほる
わが声も滝音として落ちにけり
やまびこの元気に戻る青嶺かな

 媛 の 宮  小浜史都女
山水のあつまつてきし滝頭
梅雨の滝耳に納まりきれぬかな
蝦夷で見しあの日あのこゑ青葉木菟
捩花やをとこを祀る媛の宮
唐臼に姥百合が気を吐きてをり
扇子置く茶事のはじめと終りかな
帷や青き瞳の子に茶を点つる
領巾を振る松浦佐用姫秋隣

 御仏の道  鶴見一石子
蓮咲きて御仏の道近くなり
鷺草や巣立ちの風に挑むらし
竹煮草戊辰の役の閻魔堂
紫の雨ありがたや菖蒲畑
採りたての茄子の紫きしみ合ふ
紫蘇を揉む一気に朱色迸る
蕺草の墓所を背にして雷神社
我武者羅に生きし歳月初蛍

 晩 夏 光  渡邉 春枝
滝音を静め飛行機着陸す
名園の風の涼しき石の橋
夏桔梗ゆれて川面に色こぼす
日焼子に電車の座席ゆづらるる
妙薬はなべて小粒や雲の峰
日焼して冒険心のまだ失せず
味噌汁におとす卵や梅雨あがる
板の間の木目浮きたつ晩夏光

 からすうりの花  渥美 絹代
越してきてすぐ茄子苗を植ゑてをり
青柿の落ち川上に雨来たる
鳶の舞ふ岬に渡御の舟着きし
一病のありたる安堵日雀鳴く
鶏小屋のしづまりからすうりの花
焼香の列に日焼の子が二人
鳥の声近くにしたる門火かな
銀漢や薪棚に薪ぎつしりと

 葉桜の頃  今井 星女
夏霧や三方海に囲まれて
夏霧の中より現るるロープウェイ
花は葉にかつて戦場なりし城
葉桜の外堀一周して惜しむ
葉桜の影を落として五稜郭
一稜を埋めつくして未草
紫に大地を染めてラベンダー
マリア像ラベンダーの香に包まれて

 朝  涼  金田野歩女
四つ目垣をはみ出してゐる鉄線花
裏庭の葉蔭に白き四葩かな
朝涼や麺麭屋の麺麭を焼く匂ひ
月見草原野に戻る線路跡
熱帯夜音の静かな慈雨となり
涼風や鰊御殿の百畳間
病葉を掃く苑丁の朝仕事
柳蘭墨くろぐろと「千尋窯」

 晩 夏 光  寺澤 朝子
葛飾の川瀬に浮かみ夏の鴨
白さるすべり心に修する忌の一つ
夏書に背正す身ほとり片付けて
作家五木涼しく語る「昭和歌謡」
反骨は若き日のこと蟻地獄
羅に重ねし齢おもふかな
ふるへつつのうぜんほたり花落とす
子規居士の正面写真晩夏光



鳥雲集
一部のみ。 順次掲載  

 葦 茂 る (鹿 沼)齋藤  都
新緑の風行き止まる慰霊の碑
葦茂る鉱毒一揆偲ぶ村
遊水地見渡す限り葦茂る
桑茂る人すれ違ふだけの道
廃村の寄り添ふ墓や花萱草
ひと皮をむきつつ洗ふ辣韮かな

 百 日 紅 (宇都宮)宇賀神 尚雄
夏草の丈に隠るる筑波山
窓を開けいつもながらの遠花火
草刈りを途中で止むる陽の荒さ
雲の峰肩に乗せある男体山
子供等の蛇口むさぼる炎暑かな
猛き陽に静かに咲ける百日紅

 捕 虫 網 (浜 松)佐藤 升子
ちちははに振つてみせたる捕虫網
打水の光の束を放ちけり
流燈の一つが岸を指してをり
流燈のふたつみつつと相寄りて
秋めくと名の無き橋を渡りけり
輪に入れば踊の顔となりにけり

 合歓の花 (江田島)出口 廣志
夏なれや座敷を抜くる潮の香
鍬一丁肩に懸け行く麦稈帽
軒簾懸けて世間を遠くせり
明易の択捉島巡るクルーズ船
サハリンの白樺林遠郭公
分校はみんな仲良し合歓の花

 合歓の花(宇都宮)星  揚子
蟬の穴地上の音を聞いてをり
日時計の針を横切る蟻の列
ゆつくりと雲上がりゆく合歓の花
せりせりと噛む辣韮のワイン漬
串通すのみの役割鰻焼く
サングラス外し相談受けてをり

 棚  経 (牧之原)本杉 郁代
水馬次々雲に乗り移り
一日を無事に過ごせり髪洗ふ
新松子すでに紋様しかとあり
盆三日一日は夫の好物を
棚経の僧にもありし愚痴話
送り火の燃え尽くるまで話し込む

 浴 衣 掛 (出 雲)渡部 美知子
中天を閏皐月の望の月
だまし絵のからくりに似て夏の雲
溝淩へして町内の仲間入り
一局の続きを指しに浴衣掛
炎天へ坊主頭の飛び出せり
畳目に食ひ込んでくる大西日

 落 し 文 (群 馬)荒井 孝子
玄室の石組確と竹落葉
日盛りの鉄鎖のごとく蟻の列
玄室の黙深くせり蟬時雨
落し文命の重さありにけり
陸橋に親子の影や兜虫
大夕立手綱滴る湖畔馬車

烏瓜の花 (浜 松)安澤 啓子
青嵐磐座太き根を噛める
枯色となりし茅の輪に日のにほひ
暈かかる月出で烏瓜の花
一文字の塩の看板西日さす
水無月の能楽堂の野外席
梅雨明やちりぢりに散る団子虫

 ひぐらし (群 馬)鈴木 百合子
風青し橋の上なる町境
夕菅の花湖に向き山に向き
遊船の水尾ゆるやかに秋隣
ひぐらしの声ひぐらしを追ひ掛けて
とんぼうの飛べる高さに湖の風
木道の尽きし花野を折り返す

 花  火 (東広島)挾間 敏子
蜥蜴の子小さき呼吸を波打たせ
手花火の匂ひ残れり寝間の闇
腰低く結ふ夫の帯花火の夜
身を折つて潜る涼しき御胎内
舞殿の古り放題や滝の音
供花今日は赤のまんまでありにけり

 青なんばん (旭 川)平間 純一
夏至の日のライ麦パンとワインかな
暮六つや音して落つる夏椿
清々と古稀に乾杯青なんばん
御旅所の輿より神を移す闇
海ぶだう食めば波音南風吹く
あさがほや紺屋百年貫きし

 青 山 河 (宇都宮)松本 光子
姫女苑遊女の墓を囲ひけり
神木の幣の揺らぎも梅雨湿り
玉砂利の梅雨の音踏む静寂かな
故山めくここ武蔵野の青山河
日の匂ひ交へひたすら葭簀編む
田中正造の棒切れの杖涼し

 桃冷やす (浜 松)弓場 忠義
雲の峰立ちてみづうみ深くなり
アロハシャツ着て足どりの軽くなり
農道に簾立て掛け野菜売る
凌霄の伸び切つてより盛りかな
送り火の後に残りし石二つ
桃冷やす山の水引く甕の中

 瑠璃光寺 (出 雲)生馬 明子
見覚えのある夏帽に遠会釈
千段の磴吹き上ぐる風青し
しづくして青葉若葉の瑠璃光寺
饅頭をつまみてをればほととぎす
屋根光る茂りの中の一軒家
魂祭回し読みする母の歌集

 岩 煙 草 (牧之原)小村 絹子
蜘蛛の囲に蜘蛛逆しまに眠りをり
霊山の一筋の滝岩煙草
足裏のつぼ心地好き跣かな
肩薄き姉との話ソーダ水
戒名を読みづらさうに盆の僧
墓洗ふ閼伽桶に水足してより

 夏  空 (松 江)寺本 喜徳
夏空へ空鋏入れ老庭師
新刊書青葉の栞誰が入れし
登りつめ凌霄豊かに花を着け
門庭に凌霄咲かせ旅にあり
サーカスの赤きテントや夏の月
人形を納めいただく濁り酒



白光集
〔同人作品〕 巻頭句
村上尚子選

 竹内 芳子(群 馬)

ぬばたまの闇に香を立て今年竹
外灯の明かりを返す青田かな
母の名のうつすらとある夏帽子
ぎしぎしと詰め放題のなすびかな
冷麦や使ひ込みたる竹の笊


 上武 峰雪(平 塚)

泰山木の花散る風をおこしつつ
蛍呼ぶ大人の声と子の声と
夕涼みひたすら遠き灯を愛す
病院の車回しに花ユッカ
筌掛けて棚田の水を落しけり



白光秀句
村上尚子


冷麦や使ひ込みたる竹の笊  竹内 芳子(群 馬)

 今年の夏は暑かった。あまり暑い日は食欲もなくなるが、食べずにいる訳にはいかない。そんな時に助けてくれるのが、よく冷えた麺類である。「冷麦」を茹でるたびに出番となる「竹の笊」に改めて目を止めた。中七の「使ひ込みたる」の表現により、一句が俄に鮮やかなものとなった。長年の主婦の目ならではの作品である。
  母の名のうつすらとある夏帽子
 目の前にある少し古びた「夏帽子」を手に取ってみた。裏側を見ると、文字は薄れていたが、はっきりと〝お母さん〟の名前が読みとれた。という内容だが、この簡素な表現に含まれている作者の思いは深い。思わず被ってみた。過ぎ去ったお母上との日々が蘇り、しばし幸せな時間が流れていったことであろう。

泰山木の花散る風をおこしつつ  上武 峰雪(平 塚)

 「泰山木の花」の姿は説明するまでもない。多くの作品はおのずと咲き誇る姿を詠んだものが多い。そのなかで掲句は、散りながら地に落ちる迄のわずかな時間を捉えている。「風をおこしつつ」の表現は、最後迄、この花の存在を強く印象付けている。
  病院の車回しに花ユッカ
 この句には場所がはっきりと指定されている。作者が九十七歳ということは、診察が済んだあと、タクシーか、お家の方が迎えに来られたのであろう。それにしても目の付け所が秀でている。病院は病院でも「車回し」、そして季語として目を止めたのが「花ユッカ」である。掲出句も含め、後輩の私達に大いに刺激を与えてくれた。いつ迄もお元気であって欲しい。   

土用灸足の三里を攻め立てる  花木 研二(北 見)

 「三里」とは、灸をすえる体の特定部位であり、足は膝頭の外側下の少しくぼんだ所にあたる。熱いとは一言も言ってはいないが、「攻め立てる」により、熱さの様子は読者の三里をも攻め立ててくるようだ。
  
牛蛙小腹の空いてきたりけり  佐藤陸前子(浜 松)

 「牛蛙」のあの図体と鳴き声を思うと、即座に合点がゆく。夕食からかなり時間が経っているのであろう。作者のつぶやきとも思える下十二のフレーズが絶妙である。

屋号にて呼ばれ振り向く田草取  若林 光一(栃 木)

 土地に根付き、先祖代々のものを引き継ぐことが難しい世の中である。掲句はその愁いを払拭してくれた。一句からは明るい声と共に、周囲の人達との信頼関係まで垣間見ることが出来る。

立ち話片陰失せてしまひけり  高田 喜代(札 幌)

 「この頃元気?」とかで始まり、「じゃあね」と、短い時間で終わるのが本来の立ち話である。ところがある切っ掛けから話は深刻になるばかり。ついに「片陰失せてしまひけり」となってしまった。さぞ驚いたに違いない。

雲の峰優しき父の肩車  鈴木  誠(浜 松)

 作者は幼い頃「肩車」をされたことを思い出している。あくまで断片的であるが、優しい父であったことに違いはない。目の前の「雲の峰」を見て思い出は深まるばかりである。

所在無きバーの止り木夏至の夜  中村 公春(旭 川)

 作者のお酒に関する作品は無尽蔵。それも一人だけである。今日は居酒屋ではなく「バー」へ行った。やはり一人である。一年で一番夜が短い「夏至の夜」というのも意味深。
 
初めて書く孑孑の字の動きさう  清水 純子(浜 松)

 俳句でもしていなければ「孑孑」と漢字で書く機会はおそらくないと思う。作者は書くことにより、発想が広がった。目の前には本もののぼうふらと、文字の「孑孑」が混在している。

子の皿にいつまでもあるなすびかな  三加茂紀子(出 雲)

 肉が嫌いだという子供のことはあまり聞かないが、野菜が嫌いだということはよく聞く。この句は「いつまでもある」と遠回しに言っているところが面白い。結末を聞かせてもらいたいところである。

緑児の前髪結ぶ大暑かな  中野 宏子(磐 田)

 おしゃれやお出掛けの為ではなく、少しでも涼しくしてあげようとしたことである。「前髪結ぶ」と具体的にその動作を表現したことにより、その場の雰囲気が声となって見えてくる。大暑の日のほほえましい一齣である。


    その他の感銘句
石窯のピザ焼きあがる朝曇
みどり児の両手まさぐる涼しさよ
端居して少し素直になれさうな
フライパンに二個焼く卵今朝の秋
亡き夫の寝息聞こゆる籠枕
シャンソンの流るるラヂオ明易し
冷房のよく効きコーヒーよく香る
逝きし子の好きな甘酒供へけり
髪洗ふ九十二回の誕生日
合歓咲くや手の平に乗るベビー靴
灯を消して団扇ひとりの音たつる
肩へ貼るしつぷの匂ひ夜の秋
汲み置きの水あめんぼの一大事
十円の切手貼り足し夏見舞
紫蘇揉めば指くれなゐに若返り
福嶋ふさ子
渡部 幸子
大塚 澄江
森田 陽子
金子きよ子
佐藤 琴美
牧野 邦子
山田 哲夫
佐久間ちよの
石田 千穂
坪井 幸子
佐川 春子
秋穂 幸恵
杉原  潔
中西 晃子


白魚火集
〔同人・会員作品〕 巻頭句
白岩敏秀選

 浜 松  林    浩世

文机に小さき影さす火取虫
せんべいを割る音梅雨の明けにけり
石像の海向いてをり大南風
息子から男に変はるサングラス
花茣蓙にころがしてある熟寝の子

 
 松 江  小村 絹代

三輪山を真正面に茅の輪立つ
神鶏の二声三声杉落葉
首塚のぽつねんとあり青田風
黄泉へ出すポストがありぬ木下闇
書架一段空けて涼しき一日かな



白魚火秀句
白岩敏秀


息子から男に変はるサングラス  林  浩世(浜 松)

 母親にとって、息子はいつまでも子どもであり、少しも成長しないと思っている。ところがある日、パリッとした服装で出掛ける支度をしていた息子が、サングラスを掛けているではないか…。それは母親が口を挟む余地がないほどの男ぷっりのよさ。息子の知らない一面をみた驚きと大人になったと思う安堵の交じる母親の複雑な心理が伝わってくる。
  花茣蓙にころがしてある熟寝の子
 花筵は花見のときに用いる筵。花茣蓙は絵模様を織り込んだ茣蓙で、夏に用いてひやりとした涼感を楽しむ。
 余程涼しいのか泣き疲れたのか、花茣蓙にすやすやと眠っている子。「ころがしてある」と感情移入のない表現に熟寝の子の可愛さが表れている。

首塚のぽつねんとあり青田風  小村 絹代(松 江)

 この首塚は、前後の句から乙己の変(六四五年)で斃れた蘇我入鹿のものだと分かる。首塚は奈良・明日香村の飛鳥寺から一○○メートルほどの所にある。
 かつては権勢を誇り、文武百官を従えた入鹿も、今は五輪塔一基でぽつねんと青田風に吹かれている。歴史の栄枯盛衰を目の当たりして、しみじみと感慨に耽っている作者。

均す土駆け抜くる土炎天下  計田 美保(東広島)

 今年の球児たちの甲子園の夏は終わった。勝者も敗者もともに暑い夏であった。
選手たちの実力が発揮できるようにきれいに均されたグランド。そこを選手たちが力一杯に駆け抜けていく。グランド整備員たちの懸命さ、球児たちの懸命さ。大きな思い出を残して、炎天の夏が過ぎ行く。

山彦の涼風連れて戻りけり  渡部 幸子(出 雲)

 ヤッホーと呼べばヤッホーと応える山彦。作者の立つ山はまだ暑いのに、山彦は応えるだけではなく涼風を連れて来たという。向こうの山彦の住む山には、小さな秋が生まれていたのだろう。思い切った飛躍が涼感を呼ぶ。

義経の波浪に見えし青葉潮  池田 都貴(宇都宮)

 源義経の人気は衰えていないようだ。蝦夷に渡ったとか、大陸に渡って成吉思汗になったという説など色々である。揚句も滔々と北上する青葉潮に義経像を重ねている。波の逆巻く壇ノ浦の海に義経の「八艘飛び」を見たという。まるで平家滅亡の幻影を見ているような句である。

花火師に届けと拍手送りけり  榎並 妙子(出 雲)
 華やかなものには、それを支えている者がいる。その一つが花火師であろう。夜空に開く大輪の花は花火師あってのこと。作者はきれいな花火にも、それを揚げた花火師にも惜しげもなく拍手を送っている。「届け」に作者の感謝の気持ちが籠っている。

洗ひたる手のすぐ乾く土用入  冨田 松江(牧之原)

 今年の土用入は七月十九日。梅雨が明けて暑さが本格的となる時である。
 主婦は炊事、洗濯など何度も水を使い手を洗う。そのたびに手がすぐ乾く。目に見えない「土用入」を目に見える手の乾きで表現して見事。

カーテンを引けば青空颱風過  大滝 久江(上 越)

 天気予報通りに、一晩中風が唸り雨が激しく降った。まんじりともせずに夜を明かした作者。朝になって恐る恐るカーテンを引いて見上げた空には、何とコバルトブルーの空が広がっているではないか! 颱風の置き土産に感謝感謝…。

独り居の母置き帰る夏燕  森山世都子(松 江)

 母は連れ合いを失ってから、ずっと独りで暮らしている。折りにつけて母を訪ねているのだが、やがては自分の家庭に帰らなければならない。残される者も残す者も心配と淋しさに胸が一杯になる。空には―親子の気持ちを知らない夏つばめが無心に飛び交っている。


    その他触れたかった秀句     

蟻の列仏を彫りし岩ぬれて
付いて来し影と別るる日陰かな
夜の秋ひとり酒酌む平人忌
水引の紅を離るる夕日影
昼寝の子顔に涙の跡ありぬ
形代の名の重なりて沈みをり
初秋の通りすぎたる野球帽
しづかなる力漲り蓮の花
野佛に声かけて行く日傘かな
敗戦日だまつて水を飲みにけり
饒舌な叔母の昼寝にほつとせり
夏の蝶ジャングルジムを抜けて来し
洗顔の泡の膨らむ夏の雲
頃合ひを図り出さるる冷西瓜
礼状に切手貼り足す晩夏かな
朝顔市明日咲く色を選びけり
雨激し川面に刺さる稲光り

溝西 澄恵
萩原 峯子
檜垣 扁理
秋葉 咲女
新開 幸子
徳増眞由美
市川 節子
梶山 憲子
永戸 淳子
中村 文子
板木 啓子
大河内ひろし
山田 春子
加藤 明子
斉藤かつみ
柿沢 好治
落合志津江

禁無断転載