最終更新日(Update)'15.02.01

白魚火 平成27年2月号 抜粋

 
(通巻第714号)
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 2月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句    浅野 数方 
「通ひ帳」(作品) 白岩敏秀
「唇寒き」(作品) 仁尾正文
曙集鳥雲集(一部掲載)坂本タカ女 ほか
白光集(村上尚子選)(巻頭句のみ掲載)
       
中村 國司 、林  浩世  ほか    
白光秀句  村上 尚子
いまたか俳句会  星  揚子
白魚火集(白岩敏秀選)(巻頭句のみ掲載)
         小村 絹子、飯塚比呂子 ほか
白魚火秀句 白岩 敏秀


季節の一句

(苫小牧) 浅野 数方    


磯節の浪轟轟と春を呼ぶ  鶴見 一石子
(平成二十六年四月号 曙集より)

 追分節の江差に二年間暮らした。江差の冬は潮吹雪に襲われ、白波が怒濤のごとく進撃してくる。風も束風と称し半端ではなかった。鴎島から荒波の日本海を眺め、春はまだなのだろうかと春を待ちくたびれていたのを思い出す。
 「春よ来い」ではなく「春を呼ぶ」に感動である。「轟轟と春を呼ぶ」の力強さに惹かれた。

一杓の水こぼす音春立てり 横田 じゅんこ
(平成二十六年四月号 鳥雲集より)

 作者は茶道の先生と聞く。時々茶道を句にされて居るのを楽しませて頂いている。
 掲句の一杓の水は、お茶を点てて客に差し出した後に水差しから水を釜に汲み入れる、水の音である。杓の水を静かに釜に返すと、シュンシュンと鳴っていた釜の音が静まる。客はお道具拝見を所望する。次の所作への静まり返ったホッとした一瞬である。一杓を返して立つ水の音に春が来た。春が聞こえる。なんと優しい光景だろう。小さな音に耳を聞き澄ます「小さな幸せ」を大事にしたい。

 雪の朝の珈琲を楽しみながらニュースを見ていると、マララ・ユスフザイさんが最年少でノーベル平和賞を受賞した。流暢な英語で「子どもが学校に行けない状況を私たちで終りにしましょう。終りにすることを始めましょう」という演説を自分の言葉で訴えていた。
 世界中が戦争のない平和な春が訪れることを切に願ってやまない。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 草は実に  坂本タカ女
雪吊や枝の数なる縄のかず
枝移りして雪吊の縄結はふ
のぼりよりくだりが怖し草は実に
柿剥いてひとり暮しの独り言
凩や小股の女急ぎあし
蔵にべたべた噺家色紙新酒出づ
展示してむかしの甑今年酒
鰐口じやらんじやらんと紅葉且つ散れる

 蓮 掘 女  鈴木三都夫
溺れ咲きして睡蓮の残り花
初鴨の沼の広さに適ふ数
残る虫途切れんとしてかく細く
日の射して花新なる冬桜
さらぼうて蓮田もつとも冬ざるる
敗荷の水に動くは何かゐる
蓮枯れて面影偲ぶすべもなし
蓮掘女汚れ仕事の顔上げず

 帰 り 花  山根仙花
山の日は山に沈みぬ帰り花
帰り咲くものに山の日とどまれり
鳥渡る山々肩を並べをり
合掌の千体仏に木の実落つ
冬日寂千体仏の合はす手に
岩襖駆け登らんと蔦紅葉
夕煙上げて冬立つ湖畔村
日に乾く亀の子束子小鳥来る

 寒  さ  安食彰彦 
ホバリングしてゐるみさご急降下
冴返るMRIの音烈し
採血の看護師の指つめたくて
寒さうにゆく病院の長廊下
人の名を思ひ出せなくふと寒し
狛犬の冬日にまみれ呆けをり
なにもなき揚舟冬日のみのせて
玄関の石にも寒のありにけり

 湯 豆 腐  青木華都子
登るほど濃くなる紅葉高台寺
橡の葉の貼り付く雨の遊歩道
裸木となりたる冬の橡並木
しやりしやりと踏み崩したる霜柱
全容を見せてくれたる雪の富士
湯豆腐の豆腐踊つてゐるやうな
駿馬には駿馬の気品冬薔薇
スカーフを二重におしやれ巻きとかや

 御 嶽 山  村上尚子
日向の鴨日陰の鴨とかぞへけり
新しき手袋に五指をさまりぬ
冬支度始まる栗鼠の頬ぶくろ
山の幸たらふく食うて神の留守
御嶽が見え冬耕の畝立つる
短日や点して小さき峠の灯
先を行く男ありけり朴落葉
マスクして少し己に目をつむる

 波 乗 り  小浜史都女
鳥たちに天辺の柿残しおく
ひとしぐれあり藍染の藍匂ふ
時雨中一気に渡る橋五つ
麦の芽に黒衣のやうな鳥おどし
鴨の数千や二千でなかりけり
一湾を鴨に貸したるごとき数
波乗りをたのしんでゐる鴨一羽
十一月終る皇帝ダリアかな
 冬  麗  小林梨花
冬麗や波音唄ふごと寄せて
空の青波の青さや千鳥鳴く
本俵つぶして音を冬天へ
初海苔を摘む指先の良く動き
冬麗の江に差し伸ぶる松の枝
漢人の祠傾く石蕗の花
風花のふはりふはりと一峡に
寒風に閉ぢ込められてをりにけり

 焚  火  鶴見一石子
羽衣の松の碑初時雨
雪吊りの縄につなぎ目なかりけり
冬晴や浜の漢の高ばなし
浅草の仲見世通り年の暮
缶コーヒー両手につつみ白き息
やつちや場の根菜の香の焚火かな
袖無の似合ふ余生となりにけり
生と死の一字一韵冬銀河

 石蕗日和  渡邉春枝
浮雲の動くともなき石蕗日和
もう一度数へ直して鴨の池
神鹿として侍りをり神の留守
ポケットに納まる手帳冬ぬくし
明りなき家に「ただいま」月冴ゆる
山茶花の垣根ごしなる長話
着ぶくれて美への憧れ今もあり
言の葉のときに棘あり隙間風

 返り咲くつつじ   渥美絹代
新蕎麦を待つ飯田線見ゆる席
冬はじめ新聞受に青き屋根
雲のなき十一月の峠越ゆ
散紅葉露店をたたむ行き来かな
大根を提げ蕎麦打ちを見てをりぬ
返り咲くつつじ筧のよく鳴れり
布団干す昨日葬りのありし家
木に吊るすイルミネーション寒波来る

 牧  場  今井星女
放牧の牛に番号草紅葉
草紅葉ホルスタインが立ち上る
大夕焼牧場の牛動かざる
秋晴や牧場にある展望台
湖畔道どこ歩きても初紅葉
鳶低くとぶ深秋の大沼湖
紅葉を借景とせるコンサート
水楢の一枚づつの落葉かな

 水  鳥  金田野歩女
落葉踏む日向日陰の違ふ音
針に糸通して貰ふ冬麗
木枯やとろ火で煮込むシチュー鍋
青頸の湖水弾くる首振れば
焼芋の煙にこぞつて巻かれけり
反動を付け水鳥の潜きかな
持て成しはロビーの暖炉森の宿
寒風の舫ひの船を軋まする

 十 二 月  寺澤朝子
高張の宵より灯る十夜寺
お十夜の婆の一人として詣づ
石蕗咲いて砂町いまも波郷の町
波郷忌の夕日とどめて小名木川
小春日や老工ひとりの鉄工所
複雑に変る信号空つ風
雑踏へ入るマフラー強く巻き直し
炊出しの募金呼び掛く十二月


鳥雲集
一部のみ。 順次掲載  

 隙 間 風  武永江邨
目印のごとくに早も櫨紅葉
夜の静寂暁けのしじまに銀杏散る
境内の大方銀杏落葉なる
真夜覚めて全身で聴く霜のこゑ
法要を待つ間の庫裡や隙間風
刃物屋の黙し商ふ神等去出祭

 冬なかば  野口一秋
葉牡丹の渦に鳴門の海憶ふ
冬なかば大名竹の緑かな
東司にも臘梅を挿し東慶寺
逮夜なる柊花をこぼしけり
大白鳥着水湖のたぶたぶと
今度こそ最後と思ふ日記買ふ

 神 渡 し  福村ミサ子
神渡し河口に波の鬩ぎあふ
攻め焚きの窯が鳴り出す神の留守
綿虫や川もて隔つ御神域
むささびの巣穴のありぬ御神木
風垣を抜けくる風に干す潤目
鴨鳴くや一都句碑より湖見えて

 竜 の 玉  松田千世子
探しもの未だ見つからず年の暮
本当の色に間のある竜の玉
捨つるには惜しき色葉を袋詰め
山茶花の咲くと思へば散つてをり
何処からとなく臘梅の香りかな
梅早し停年近しと云ふ漢

 笹子鳴く  三島玉絵
四阿の茅葺き屋根や笹子鳴く
さわさわと句碑の背山の竹の春
しんしんと落葉を急ぐ句碑の山
山の木々うつして瀞の冬深し
門に佇ち何処へも行かぬ冬帽子
どの路地も海へ通ずる冬夕やけ

 寒 夕 焼  織田美智子
高階の秋灯ひとつづつ消ゆる
団欒の灯にきらめきて黒ぶだう
診察を待つ間に消ゆる寒夕焼
病むことは罪負ふごとし茶が咲いて
冬もみぢ白湯を甘しと思ひけり
セーターを脱ぎて薪割り始めけり
 
 里 祭 り  笠原沢江
忌を修す父の墓前に新酒注ぎ
墓詣り拾ひし木の実供へきし
電球を祠に吊るし里祭り
大根の干し場に決めて残す稲架
秋深む水平線の濃かりけり
村祭り幟の張りは田の中に 

 小  春  上村  均
寒林のまだ明けやらず鳥鳴けり
小春日や川原の畝の直ならず
寒晴の波は寄せつつ汐引きぬ
そそくさと河豚を下ろして船発ちぬ
釣人が去りて焚火がくすぶりぬ
山の端に夕日の沈む掛大根

 子 規 庵  加茂都紀女
ひともとの上野の森の冬桜
子規庵の十一月の青糸瓜
袴着の太刀で遊ぶや神の前
子規庵の熟柿を鳥の餌台に
銀杏散る園の砂場に山河あり
冬ざくら見たくて雨の根岸まで

 句 碑 園  関口都亦絵
啼く牛の谺を残し牧を閉づ
子抱き地蔵永久に子を抱き冬に入る
つれづれに句碑園巡る小春かな
師の句碑に心かよはす小六月
冬の日の差して黒黒土竜塚
みづうみにまだ日のありぬ鴨の陣

 石  蛙  奥田  積
冬日ぬくし芭蕉遺愛の石蛙
芭蕉庵跡とふ稲荷かへり花
初霜や鼻緒のかたき男下駄
山門の屋根に冬鳥日のまぶし
耳鳴りか霜ふる音か夜の白らむ
枯菊の残る庭先昼の月

 出雲の空  梶川裕子
教会も古刹も百歩冬紅葉
神集ふ出雲の空の重くなり
湖と川をわかつ大橋浮寝鳥
桜もみぢ母校の跡に立志の碑
籾殻焼く煙湖上へ夕星へ
冬に入る伏せて積みおく植木鉢


白光集
〔同人作品〕 巻頭句
村上尚子選

 中村 國司

帆を張つて応ふる秋の漁り船
初鴨や布陣ときをり組替へて
渡来種といふ色つよき草の花
天狗党の碑に檪の実落ち頻る
日々仰ぐ主峰は未踏冬に入る


 林  浩世

検印の残る書籍や鳥渡る
シャンパンを抜き十二月始まりぬ
百葉箱に冬日まんべんなく当たり
子に編みしセーター小さきままありぬ
からつぽの百味箪笥や冬の月



白光秀句
村上尚子


初鴨や布陣ときをり組替へて  中村 國司

 水鳥の中で一番身近に見られるのが鴨の類である。もっとも鳥に詳しくない者にとって、白鳥や鴎以外はみな同じように見える。
  俳句では秋になって初めて北方から飛来してきたものを「初鴨」と呼び、冬の「鴨」と区別している。
 鴨は毎年同じ沼や池に渡ってくるというが、その陣が整う迄にはしばらく時間がかかる。「布陣ときをり組替へて」には長旅の羽根をやっと休めてはみたものの、目まぐるしく変わる環境で仲間を待つ鴨の心細さのようなものが窺える。作者のあのどっしりとした姿からは想像しがたいやさしさと繊細さが感じられる。
  渡来種といふ色つよき草の花
も、作者の個性が光る作品として注目した。

からつぽの百味箪笥や冬の月  林  浩世

 本来は漢方医か漢方の薬局で見掛けられるはずの「百味箪笥」。最近はたまに骨董店で見掛けるぐらいである。
 俳句の素材としては古いが、あまり詠まれていない。そして何より「からつぽ」という言葉の斡旋が良い。作者がたくさんの小抽出しを次々と開けて見ている時の声が聞こえるようだ。「冬の月」との取り合せも唐突のようでありながら、どこか呼応し合っているのもこの作品の魅力である。

立冬や父の焚きたる風呂に入る  石川 寿樹

 昔は一番風呂に入るのは父親と決まっていたが、掲句はそれをいとも簡単に覆した。現代の暮しでは珍しくはないだろう。
 「立冬や」の切れ字の余韻の中には作者の思いと、父上への感謝の気持が籠っている。
 詠んでいるだけで体の芯まで温まってくる。

啼く鴨に遠くの一羽応へけり  多久田豊子

 誰もが見かける風景であるが、この作品には作者だけの目と耳がある。それを素直な言葉で表現したことで俳句が生まれた。鴨と作者だけの時間が静かに流れている。

鉈をもて冬至南瓜を真二つに  山田しげる

 南瓜との格闘は主婦なら一度はしたことがあるはず。旬の頃から数ヶ月経つと皮はますます固くなる。そこへ登場したのが「鉈」であったとは…。これにて本懐を遂げた。リアリティー満点である。

大根引だんだん雨の強くなり  森  志保

 専業農家の畑であろう。引き始めた大根が山のように積まれているが、作業は中半である。折しも雨が降りだした。見落してしまいそうな景であるが、「だんだん」という言葉により時間の経過と気持の焦りが臨場感をもって伝わってくる。

還暦の小学校歌菊日和  西村ゆうき

 一人の発言に皆が声を揃えて校歌を唄った。小学校を卒業して以来五十年近くが経っていた。しかし気持の上では昔のままだ。還暦は人生の節目かも知れないが、社会ではまだまだ必要とされている。折りしも「菊日和」である。「還暦」に乾杯!

焼酎をかけて渋柿酔はせけり  竹内 芳子

 渋柿を食べる方法は干し柿にするか、熟柿になる迄木に残しておく。しかし掲句は「焼酎」をかけたという。それを一週間程密閉しておく。その結果しっかりと渋を吐き出すのである。「酔はせけり」としたところが作者の腕の見せどころである。

枯木立大きく月の出でにけり  埋田 あい

 「枯木立」は天候や時間によってさまざまな姿を見せる。
 掲句は夜の冷たい空気の中に「大きな月」を得たことにより、「枯木立」が生き物のようにクローズアップされてきた。明快な言葉に支えられ、その景色も鮮やかに印象付けられた。

カーテンの襞から子ども冬日和  山田 春子

 子供は身の回りのものを何でも遊びの道具にしてしまう名人である。掲句はそれがカーテンだった。大きな窓に掛けられた「襞」のたくさんあるものだろう。
 作者のお住まいは函館である。外は寒いがこの部屋は温かい空気と笑い声で満たされている。

ホチキスで綴づる伝票日短  大滝 久江

 作者のてきぱきとした仕事ぶりが見えている。「ホチキス」の音が快くもあり急かされているようにも聞こえる。「日短」によりその思いを強く感じさせる。もし「日永し」であったなら作者のイメージは全く変ってしまう。


    その他の感銘句
伊那谷の夕日かけ足吊し柿
照紅葉瀞に水輪の生れけり
落花生莢に上総の日の匂ふ
小鳥くる膝に広げし子の絵本
本立てに夫の日記や小六月
日向ぼこ生きてゐること忘れけり
小春日や穴熊勝手口まで来
柿照葉光を空へ返しけり
外つ国の夫に勤労感謝の日
新米の積み上げの場所清めけり
不知火の海凪ぎてをり冬夕焼
湯湯婆に触れないやうに触れてをり
新築の螺旋階段小鳥くる
霜月の川波岩を撫でてゆく
髙部 宗夫
野田 弘子
大澄 滋世
山田ヨシコ
斎藤 文子
弓場 忠義
田久保とし子
江角トモ子
板木 啓子
山田 敬子
鍵山 皐月
秋穂 幸恵
桑名  邦
田口 啓子


白魚火集
〔同人・会員作品〕 巻頭句
白岩敏秀選

 牧之原  小村 絹子

逆さ富士湖瀲灔と冬に入る
寒林といふ明るさのありにけり
枯れて尚凛然として富士薊
琅玕の湖に薊の返り花
雪の富士裏も表もなかりけり

 
 群 馬  飯塚 比呂子

話好きな庭師来てゐる小春かな
茶の花や山家に乾く添水の音
鉄の扉に鉄の閂冬薔薇
豪商の名残の屋号木守柿
袴着の機嫌のなほる肩車



白魚火秀句
白岩敏秀


 逆さ富士湖瀲灔と冬に入る  小村 絹子

 瀲灔とは「さざなみのしきりに動くさま。また、水のあふれるさま」と広辞苑にある。富士山をどっしりと映しているのだから、水を豊富に湛えた堂々とした湖が相応しい。
 富士山の倒影が立冬の湖のさざ波に揺れているという。遠くの富士山の実像と眼前の湖面に映しだされた虚像、富士山の不動と湖面に揺らぐ虚像の動。立冬の湖に二つの世界の絡み合いがみごとに調和している。
 寒林といふ明るさのありにけり
 寒林は冬木立のことだが、音の響きから寒さを強調させるところがある。一方、見た目には落葉を尽くして、無一文となった木々にはさばさばした明るさがある。
 無一文に見える寒林は豊かな繁りのために次の芽を育んでいる。日光が木立の根元まで届く明るさと木々が育てている芽の未来への明るさ。対象がポジティブに捉えられていて、読む人の気持ちを明るくさせる。

話好きな庭師来てゐる小春かな  飯塚比呂子

 まだ剪定は残っているのに、今日中に作業は終わるのかしら…。作者のやきもきした呟きが聞こえて来そうである。鋏の鳴る音よりも言葉の数の多い親方ではある。
 それでも、親方が庭木を移るたびに小春の空が明るく広がっていく。話好きな親方は話上手で剪定上手なのである。小春の季感が申し分のない柔らかな雰囲気をつくりだしている。

枯蓮の折れて己を支へけり  高村  弘

 途中で折れた茎が池に刺さり、残った枯蓮を支えている。花の盛りの頃は自らで立つ力もあり、周囲の蓮がお互いに支えあって立っていた。枯蓮になると自力でも仲間の力を借りることはできない。それでも立たねばならない哀しさがある。「花の君子」の誇りとして…。〈冬菊のまとふはおのがひかりのみ 水原秋桜子〉

硝子戸に朝日が斜め今朝の冬  中村 早苗

 冬になれば日の出も遅くなり、日差しも弱々しくなる。作者は朝のカーテンを開けたところ、朝日が斜めから射していることに気づいた。普段なら硝子戸の高いところから射しているはずである。いつも開けるカーテンであり、いつも見ている朝日なのだ。日の射す僅かな角度の違いが立冬という季節の大きな区切りに繋がっている。観るとはこのようなことをいうのだろう。

サスペンスドラマ観てゐる神の留守  坂田 吉康

 十一月のとある日曜日、作者は寢転んでテレビのサスペンスドラマを観ている。散文で書けばそれだけのことだが、十七音に「神の留守」を組み合わせると、句が俄然面白くなる。腕白坊主が両親の留守の間に、ちょっと悪戯をしている気分…。「神の留守」の視点を少しずらして詠んだ面白さである。
 大仕掛けもなく、読者をくすりと笑わせる技はこの作者独特のものだ。

山盛りを押へ間引菜持ち帰る  田口三千女

 どういう訳か、間引菜は笊や籠に入れるとふんわりと膨らんでくる。そんな盛り上がった間引菜を押さえながら持ち帰ったのだ。おそらく、家の近くに畑があるのだろう。「山盛りを押へ」に間引菜の湿りを含んだ柔らかさが伝わってくる句である。

夕凍みや葱の白さを斜めに切る  高橋 茂子

 日暮れが近くなると、いっそう空気が冷たく凍る感じになる。そんな中で鍋物の白葱を斜めに切る。家族が揃って鍋を囲むころには鍋の暖かさと家族の温かさで満たされる食卓であるが、今はただ夕凍みの中にある。
 この句のポイントは白さを「斜めに切る」にある。斜めに切られた葱の白さが夕凍みを増幅させているようだ。

ベランダは空のポケット木の実ふる  富樫 明美

 言われてみれば納得できる。家で一番広い空間は空のベランダである。だからいくら木の実が降ってきても十分な余裕がある。
 一方、空を「そら」と読むとスケールがぐっと大きくなる。空のポケットだから地球上の木の実を全部集めてこのポケットに入れることができる。
 どちらで鑑賞しても「ポケット」の表現に夢の膨らむメルヘンチックな趣がある。


    その他触れたかった秀句     
風花す峡の日昏れは木々揺れて
赤にまだ濡れ色のある落葉かな
夕星へ翼揃へて鳥渡る
本店といふ格式のあり小春
立冬の雀群れゐる大樹かな
早昼を済ませて寄席へ菊日和
新走り蔵の隅まで風通す
ひとひらの紅葉つきたる傘畳む
旨き飯を食べて勤労感謝の日
外灯へ夜霧集めて更けにけり
吊橋の時々搖れて紅葉散る
神集ふ出雲の国を膨らませ
冬空が青く泣きたき喪服かな
焚火の輪背に夕暮の寒さ負ひ

中林 延子
浜崎 尋子
内藤 朝子
寺田佳代子
吉田 美鈴
原 美香子
埋田 あい
伊藤かずよ
鈴木 滋子
丸橋 洞子
藤田 眞美
野田 弘子
市岡 良子
川神俊太郎

禁無断転載