最終更新日(Update)'26.03.01

白魚火 令和8年3月号 抜粋

 
(通巻第847号)
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3月号目次
    (アンダーライン文字列をクリックするとその項目にジャンプします。)
季節の一句  浅井 勝子
福達磨 (作品) 檜林 弘一
青表紙 (作品) 白岩 敏秀
曙集鳥雲集 (巻頭1位〜10位のみ掲載)
白光集 (奥野 津矢子選) (巻頭句のみ掲載)
  坂口 悦子、市野 惠子
白光秀句  奥野 津矢子
旭川白魚火新年句会 吉川 紀子
令和八年栃木白魚火 新春俳句大会 奈良部 美幸
白魚火集(檜林弘一選) (巻頭句のみ掲載)
  坂口 悦子、土屋 加代子
白魚火秀句 檜林 弘一


季節の一句

(磐田)浅井 勝子

 三月と言えば真っ先に雛祭が頭に浮かびます。白魚火誌令和七年の五、六月号にも数多の雛祭に関した句がありました。いずれも景の浮かぶ納得の句ばかりでした。その中で少し視点の違う三句を選ばせて頂きました。

行儀良く並ぶ履物雛祭  熊倉 一彦
          (令和七年五月号 白光集より)
 桃の節句祝いに大勢のお客様を招待されたのでしょう。上五中七の措辞で小さなお客様を想像しました。にぎやかな声とおだやかな春光に満つる雛の家の様子が心持よく伝わってくる一句。男性の作が目を引きました。

息とめて入るるひと筆雛の目  青木 いく代
          (令和七年五月号 白魚火集より)
 ひと筆による目の描き方が人形の面ざしを決めるものですね。「息とめて入るる」で張り詰めた空気と作り手の真剣さが手に取るように伝わって参ります。美しくかわいらしいお雛さまに仕上がったことでしょう。唯一無二の手作りの雛人形。素敵です。

雛あられしあはせ色に転がりぬ  工藤 智子
          (令和七年六月号 白魚火集より)
 ふとしたはずみで雛あられをころがしてしまったのでしょう。その色どりが一瞬しあわせ色と閃いたのですね。色彩の名前には無い「しあはせ色」を敢えて使っておられます。詩的な「しあはせ色」の言葉によって読み手も福のお裾分けを頂いたような感じがいたします。寒さ厳しい北国にも少しずつ春が近づいて来る事と思います。



曙 集
〔無鑑査同人 作品〕   

 初景色 (出雲)安食 彰彦
恙なく卒寿を越ゆる大旦
若水を汲んで卒寿の襟正す
御降りの音の静かになりにけり
十六島の海苔の雑煮をいただいて
宝船二艘の並ぶ違ひ棚
磨かれし句碑に満ちたる淑気かな
初山河小さな門を開け放つ
島石の春日灯籠初景色

 馬が顔出す (浜松)村上 尚子
みかん熟る村の十戸と日を分かち
父と子の落葉踏む音重ねゆく
百歳の膝に赤ちやん日向ぼこ
短日の駅のステンド・グラスかな
島一つ置き歳晩の海暮るる
双六を広げ日本を見てゐたり
海を見て正月の凧もどりくる
厩舎より馬が顔出す三日かな

 山羊 (浜松)渥美 絹代
田仕舞の煙のまつすぐ棺出る
おでんの火落とせば風の音にはか
古戦場跡大根のよく太る
からつ風口尖りたる魚焼く
立ち上がる山羊に冬日の集まり来
道違へマフラーきつく巻き直す
山羊小屋の前に聖樹の小さき鉢
野水仙大きな鳥の影よぎる

 大きな風 (唐津)小浜 史都女
山からの大きな風や神迎
木枯ときくに大きな闇ありぬ
踏切が遠くで鳴れり霜真白
飛ぶやうに過ぎてけふあり晦日蕎麦
凍雲に触れてはもどる庭雀
退屈に飽き鳩とゐる寒鴉
天山はまだ日のありぬおでん煮る
雪に耳澄まして夜の起居かな

 茶の花 (宇都宮)中村 國司
よそ様の小庭蠟梅にほひ初む
歳晩の没日まんまる叫びたし
小走りが習ひ街路に年惜しむ
どぶ川の赤や焦げ茶や真冬展
白鳥の川をかなたに加波筑波
くさぐさの神の身ほとり寒椿
国民と呼ばれふりむく冬の街
茶の花を時が流れてゆく感じ

 羊の役 (北見)金田 野歩女
突堤の鷗の中の百合鷗
眼抜焼く炉端焼屋の煙の中
厚岸の潮を含みて牡蠣届く
重ね着のしつくりとこぬ首回り
地蔵様の前後ろ無き毛糸帽
目覚むれば虎落笛なり夜更けなり
横文字の多きニュースや冬至粥
聖夜劇羊の役を喜んで

 年越 (東京)寺澤 朝子
新築のための解体冬日和
毛糸玉一つにて足る嬰のもの
手編みせしセーター斯くも重宝に
ほつほつと花増ゆるなり冬至梅
かほどなる流れに鴨の陣立てる
書込みの時に赤文字古暦
年惜しむ父の文筥にわが手紙
年越の明あか灯す仏の間

 伏流水 (旭川)平間 純一
あをあをと杉玉飾り冬に入る
酒眠る琺瑯タンク冬北斗
冬の月伏流水のなまぬるし
雪庇どど不意の暖気の仁王門
暁闇の音なき世界雪しんしん
浜育ちの母の自慢鍋破
焦げ目つく冬至南瓜や恙無し
白鳥や羽根の疲れの深眠り

 木守柿 (宇都宮)星田 一草
あをぞらに鵯のにぎはふ木守柿
皇帝ダリア空に溶け入る高さかな
背伸びして届かぬ高さ吊し柿
会津への戊辰街道柿すだれ
窓越しに鵯の来てゐる実南天
ふる里の葱は根まがり根深汁
ひとりにはひとつの秘密すきま風
みはるかす枯野に一歩試歩の杖

 去年今年 (栃木)柴山 要作
柿簾いよよ際やか加波筑波
大枯野愛犬鼻を低くして
初雪や男体山なんたいの薙浮き出づる
ひとり居にやうやう慣るる根深汁
受験塾の窓煌々とクリスマス
八十年戦なき世の年詰まる
忘年会齢忘れて世直し論
去年今年薬増やさず生かされて

 初電話 (群馬)篠原 庄治
手の窪でしばし遊ばす雪ばんば
笹鳴に笹鳴応ふ一藪
風小僧鳴いて抜け行く冬木立
髪床の鏡に憩ふ年の内
浮雲の日に輝けり初御空
お互歳に触れもし初電話
初詣磴を半ばに膝笑ふ
添書に人柄にじむ年賀状

 喧騒 (浜松)弓場 忠義
水底に月を歪めて冬の川
狐火や爺の大噓聞いてをり
着ぶくれの身を細めたり終電車
マフラーを外し喧騒ほどきけり
詠み散らし反古ふやしつつ冬籠
切干を戻せばにほひふくらみぬ
かたはらに魚の跳ねたり浮寝鳥
喧騒を逃れ見上ぐる枯木星

 磴千段 (出雲)渡部 美知子
神去りてひつそり閑と冬の杜
漱石忌候文に四苦八苦
すきま風築百年を軋ませて
冬の蠅ひと悶着を静観す
磴千段吐く白息の乱れたる
所在なき者にもやさし冬ともし
最終便名残の空へ消えゆけり
先生も教へ子も老い年始酒

 小刀 (出雲)三原 白鴉
切干に風は刃となる夜かな
冬うらら二駅ほどの小さき旅
うるめ焼く酒はちろりに正一合
陶を焼くほのほを裾に山眠る
小刀を立てて紙垂切る年用意
屠蘇を酌む盃は米寿の三つ重ね
初夢の荒唐無稽を吉とせり
竜の玉心揺さぶる一句欲し

 寒さ (札幌)奥野 津矢子
留守番に来て初雪を搔く子かな
橋の名は町の名小春日を歩く
着ぶくれて受診の円き椅子に着く
長靴の片方倒れたる寒さ
オーロラのひかり大根太り出す
冬青草村は区となる変遷図
太るたび叩かれてゐる氷柱かな
凍裂の松に夕風来てをりぬ

 父 (宇都宮)星 揚子
葉が揺れて鳥の影揺れ小春かな
軽き音ひろげて杜の木の葉雨
横列に波を倒しぬ北おろし
極月の父のしづかな寝息かな
初春の握る父の手やはらかき
家族分のハンバーガーを買ふ二日
正月や卵豆腐を啜る父
ページ繰る星のつけ爪日脚伸ぶ

 山眠る (浜松)阿部 芙美子
本尊は秘仏なりけり山眠る
欠席の子の靴箱に冬日差す
ドライアイに目薬十二月八日
夕焚火一人二人と来て無口
裸木の影たくましき瘤を持ち
からつ風予備校の旗煽らるる
見上げたる師走の空の広さかな
凍結湖小舟をひとつ置き去りに

 鴨のこゑ (浜松)佐藤 升子
夜空より外す途中の大熊手
大根を抜きたる穴の匂ひをり
みづうみに日の入る頃の鴨のこゑ
おでん酒のれんの風を背に受けて
居酒屋に脱いで傾くブーツかな
電飾の道に咳こぼしゆく
牛乳の沸湯十二月八日
極月の石を嚙みたる靴の底



鳥雲集

巻頭1位から10位のみ
渥美絹代選

 十二月 (浜松)塩野 昌治
木枯一号天守の鯱の反り返り
涸川へハーレー音を落としゆく
大皿をナンのはみ出す十二月
開戦日麵麭一斤の焼き上がり
年送る町名太く屋台蔵
うつばりの闇を震はせ除夜の鐘

 小晦日 (群馬)鈴木 百合子
秒針の音のほかなし冬の月
臘月の硯の陸に薄埃
詠み口を変へてみたきや冬木の芽
山水に瓶子を洗ふ小晦日
お飾に遺影の頰の隠れけり
汀まで初日鏤め山上湖

 懸想文 (藤枝)横田 じゅんこ
十二月八日夕日の橋渡る
木の葉髪八十三は響きよし
沖へ行く船の灯りも聖夜の灯
元どほりたたみて仕舞ふ懸想文
朱肉練り上げ一月の法務局
寒牡丹物音たてぬやうに住む

 山羊の鬚 (浜松)林 浩世
冬うらら鬚を立派に山羊老いぬ
冬蠅の集まつてくる山羊の尻
冬日向バイソン岩と化してをり
豆腐屋のおからのぬくし片時雨
小六月土鈴ころろと丸き音
枯芒富士ゆつたりと裾を引き

 琥珀 (浜松)青木 いく代
日照り雨枯野明るくしてゐたる
釣り人のひねもす一人十二月
冬りんご嘘と知りつつ頷いて
硝子絵のマリアふくよか冬日影
山眠る琥珀太古の虫を抱き
塗椀の蓋の吸ひつく寒土用

 ジュラ紀 (浜松)大村 泰子
貝殻にジュラ紀の艶を冬の星
百の雑魚百の影ひき山眠る
鳥立ちて千両の実を零しけり
一陽来復駅にボサ・ノバ流れをり
絮飛ばしをり刈り残したる冬芒
船大工木端飛ばして寒に入る

 冬の虹 (函館)広瀬 むつき
小春日や持ち替へて読む文庫本
松の枝に群るる雀や初時雨
時雨るるや借りたる本を胸に抱く
夫呼びてしばし見てゐる冬の虹
冬の虹空を広げて消えゆけり
飼主に似たる飼犬冬ぬくし

 一本の鍵 (呉)大隈 ひろみ
返り花校門しかと閉ざされて
もう急がなくてもよいと浮寝鳥
耳遠き夫婦の会話大根煮る
ポケットに一本の鍵落葉踏む
数へ日の父の名のある脚立かな
お降りの雪と見るまに日の射して

 吉野の葛湯 (多摩)寺田 佳代子
ふかふかの落葉溜りを飽きず踏む
みちのくや牡蠣田へ寄する波しづか
室の花ローブの刺繍細やかに
夜のふけて吉野の葛湯とろり溶く
ひとときをらふそく灯す聖夜かな
冬凪の湾に客船貨物船

 冬落暉 (多久)大石 ひろ女
裸木に真青な空の余白かな
百歳を目指す人ゐて冬うらら
冬落暉あしたが無事に来る予感
笹鳴にひとりの暮し和らげり
ひらがなの手紙の届くクリスマス
冬ぬくし童に還る人とゐて



白光集
〔同人作品〕   巻頭句
奥野 津矢子選

 坂口 悦子(苫小牧)
犯人は意外や意外寒夜更く
凍星の瞬きにふと坂本九
神馬舎に木製の馬雪しんしん
トドワラの最後の一樹冬の虹
枯木星数へて帰る明日は晴

 市野 惠子(浜松)
官庁街銀杏落葉の積もる坂
筆不精の子より近況冬ぬくし
ぼろ市やガラスのランプ選びをり
葉牡丹を植ゑて変はらぬ日々送る
寄宿舎の窓に学ラン冬休



白光秀句
奥野 津矢子

凍星の瞬きにふと坂本九 坂口 悦子(苫小牧)

空気が澄んでいる冬の夜空は星が一際輝いて見える。その輝きと寒さの中で「ふと」坂本九を思った作者。緊張感を与える「ふと」の表記で坂本九に繫げた。「見上げてごらん夜の星を」「上を向いて歩こう」の歌詞が浮かんできた。あるいはあの悲惨な事故の事も思い浮かんだことだろう。頭が冴えてきて眠れそうもない作者の思考は星になった坂本九からギリシャ神話へと繫がったのかもしれない。凍りついたように冴える「凍星」は想像力を生み出す季語と思う。
 トドワラの最後の一樹冬の虹
トドワラは北海道・道東の野付半島の立ち枯れしたトドマツ林のことで「トドマツの原っぱ」が語源。今は地盤沈下や海水の浸食で立ち枯れして白化した木が年々驚くほどの早さで減少して残りが僅かと聞く。掲句の「最後の一樹」がまさに失われてゆく絶景と言えるでしょう。季語の「冬の虹」に作者の哀感と希望を感じ取る事が出来た句。

筆不精の子より近況冬ぬくし 市野 惠子(浜松)

母として嬉しい子供からの便り、まして筆不精のあの子から来るとは・・。便りを受け取った時の多少の不安が近況の報告だったのでほっとして笑顔が広がった。作者の素直な気持ちを謙虚に句に仕立て無理の無い柔らかさを感じた。それは季語の「冬ぬくし」にも当てはまる。
 ぼろ市やガラスのランプ選びをり
「ぼろ市」の傍題に「世田谷のボロ市」が載っている。東京世田谷の旧代官屋敷前に立つ市で町内一キロメートルにわたり様々な店が出て賑わっているようだ。歴史は古く天正二年に始まったと季語の解説に載っている。作者が選んだアンティークなガラスのランプはどの様な物なのか、部屋に飾るのか灯を入れて生活の一部とするのか興味が湧く。価値のある骨董品かもしれない。ゆっくりと時間をかけて選んだ拘りのランプ、今年を明るくしてくれるでしょう。

血圧は正常と記す初日記 中林 延子(雲南)

血圧の正常値は年齢により変わる。家庭と診察室でも数値が変わる。降圧剤を飲んでいる私は毎朝血圧手帳に数値を書いているが掲句の作者は正常と記している。健康的な生活で今年もまた元気でいられることを確信している句となった。

寒鴉狸小路を滑空す 山羽 法子(函館)

狸小路は札幌の中央区西一丁目から西七丁目までの全長九百メートルのアーケードのある商店街で二十四時間歩行者専用である。そこを鴉が滑空するとは、天井は結構高いが鴉はかなり大きいので歩行者の驚きが想像出来る。冬を越すことがその後の鴉の生きてゆく逞しさに繫がる。狸小路の鴉のその後が気になる句ではあるが面白い。

物忘れするたび笑ふちやんちやんこ 鈴木  誠(浜松)

袖の無い綿入りの防寒着ちゃんちゃんこ。還暦の祝いの赤いちゃんちゃんこを着る風習は近年敬遠されているらしい。
掲句は子供が着ているのか作者が着ているのか、どちらにしても笑いを誘うのに「ちやんちやんこ」のアイテムはとてもよく効いている。そしてあたたかい。

一番に入る柚子風呂仕舞風呂 舛岡美恵子(福島)

冬至に無病息災を祈り柚子風呂に入る。一番風呂に入りそれが仕舞風呂とは・・家人が出掛けているのかあるいは一人暮しなのかと思いを巡らせている。潔い詠み方だと思う。

冬日差す七番線は富良野行 沼澤 敏美(旭川)

作者の住む旭川の駅から富良野・美瑛方面行きの列車が出ている。観光客に人気の富良野線は今でも七番ホームから出発している。一番端のホームまでは結構歩かなければならないが変わらない事の安心感がある。

オブラディ・オブラダ入院の十二月 松田独楽子(函館)

十二月に入院は大変な事。忙しい時期と重なり家族の不安も如何ばかりかと心配になった。しかし同掲句に退院の句が続いていたので無事に退院できた事が解る。ビートルズのオブラディ・オブラダは(人生は続く)と言う意味、これからも前向きに生きてゆく作者の決意を感じる句。

日本間へ独り寝に行く寒さかな 磯野 陽子(浜松)

畳敷きの日本間の和室は冬の寒さが身にしみる。掲句を読んで故郷の旭川の厳しい寒さを思い出した。朝には睫毛が凍っていた。作者の住む浜松の寒さはどのくらいなのだろうと想像している。「寒さかな」と詠嘆して寂しさも含んだ句に春が早く訪れますようにと願う。

初旅は海相棒の名は「キューブ」 唐澤富美女(群馬)

新年になっての初めての旅は海を見に行く。四季折々に見ていても初旅としての海はまた格別かと。ふるさとの海かもしれない。その旅の相棒が「キューブ」とは。私の想像となってしまうが相棒とは日産のワゴン車で愛称「キューブ」の事ではないかと。愛車に名前を付けている方もおられる。
想像力を膨らませてくれる面白い句に仕上がった。


その他の感銘句

山茶花の音なき散華師の逝けり
文机にけん玉置かれ小六月
冬の雲川上澄生の絵に似たり
あの人の足に触れたる掘炬燵
カレンダーに予定びつしり冬の蠅
すたれゆく物の早さよ毛皮売
息白し網で登坂の消防士
「ぐりとぐら」読み聞かせをりクリスマス
一陽来復通販で買ふつけまつげ
杣小屋の壁剝がれをり牡丹鍋
チャリティーの箱透けてをりクリスマス
空き缶にじゆうと吸殻飾売
小石にも短日の影ありて踏む
除夜の鐘撞きて僧より飴もらふ
新聞の重さは希望大旦

森田 陽子
牧野 敏信
佐藤 淑子
髙橋とし子
前川 幹子
金子千江子
古橋 清隆
松山記代美
花輪 宏子
山田 哲夫
埋田 あい
砂間 達也
鈴木 利久
谷口 泰子
上松 陽子



白魚火集
〔同人・会員作品〕   巻頭句
檜林弘一選

 苫小牧 坂口 悦子
冬の日の明るさ貰ふ万華鏡
冬銀河消せるインクで書く日記
しぐれ虹富士を残して消えゆけり
幾何学の編み込み模様毛糸編む
焼網をどんとはみだす鱈場蟹

 北見 土屋 加代子
鳶の輪のぐいと近づく深雪晴
穴釣の空は快晴オホーツク
宗谷線ひと駅ごとの雪催
しんしんと雪しんしんと中尊寺
俎板の窪み避けつつ葱刻む



白魚火秀句
檜林弘一

冬の日の明るさ貰ふ万華鏡 坂口 悦子(苫小牧)

冬の日差しはありがたいものではあるが、決して強さはない。北国のそれはなおさらであると思う。掲句は万華鏡の世界に差し込んだ冬の日差しに焦点をあてている。作者は万華鏡の視野の中に見る冬の日差しに、強さのある輝きがあることに感慨を覚えているのである。「貰ふ」という措辞が柔らかく秀逸である。受ける、入る、などではこの句柄にはそぐわなかったであろう。
 冬銀河消せるインクで書く日記
この作品の切り口は新しさを感じる。普遍的な光を放つ冬銀河と不確実性を思わせる消せるインクとの対比が鮮明である。作品の解釈は読み手の感じ方次第であろうが、冬銀河の存在のような普遍的な日記を書いてみたいと願う作者の思いが背景にあるような気もした。伝統情緒にとらわれず現代的で令和の風の吹く一句と思えた。

宗谷線ひと駅ごとの雪催 土屋加代子(北見)

この作者の今月の作品は、北国らしい風景の具象化(見える化)をした句柄が並んでいた。雪催という季語は降雪の気配という本意であるが、中七の「ひと駅ごと」というフレーズが絶妙である。駅と駅の移動の間には晴れたり曇ったり、時には雪催と空模様が移り変わっているような感がある。延長二百キロメートルを超える最北の鉄道路線である「宗谷線」という固有名詞の強さが一句をしっかりと支えている。
 鳶の輪のぐいと近づく深雪晴
作者の足もとには深雪、見上げる冬青空から鳶が舞い降りてくるという構図である。どことなく張りつめた空気感の中で「ぐいと」という副詞が効果的な役割を果たしている。物理的に降下してきたという意味にもとれないことはないが、空を仰いだ瞬間に、鳶の輪が視界にぐいと広がる感覚を捉えた一句であるとも思える。

わがのんど呑み食ひ唄ひ年の果 遠坂 耕筰(佐野)

以前に「人はのどから老いる」という書籍を見たことがあるが、誰もがなにげなく使っている咽だが大切な器官であることを改めて思わせる句柄である。背景には忘年会などの景が浮かんでくるが、年の暮、十二月、年忘、などと比べると少々厳しさの漂う「年の果」である。終わってしまった時間の重さを受け止め一年を振り返る、そんな感慨を感じさせる季語でもある。

明日の風待つ凧二つ枕辺に 橋本 晶子(いすみ)

凧揚げを楽しみにされて帰省をされた二人のお子さんの様子が目に浮かぶ。枕辺という場所がこの句の焦点となっている。明日の風、二つ、といったポイントをはずさず一句にまとめた作者の力量を感じさせる作品。今夜は枕辺に置かれている凧だが、明朝は良き風に凧を舞い上げる二人の子の姿が見える。

寒き夜や栞のやうに寝返りす 山西 悦子(牧之原)

寒夜に床につけば行火などの手段のない限り、しばらくは体の温もりを得るのには時間がかかると思う。そろそろ温もってきた体を「栞のやうに」寝返りを打ったというのであろう。「寝返り」を「栞」に喩えた感覚は、作者自身の実体験から生まれたものと思われる。常套的な比喩を安易に使うと陳腐な一句となりやすい。比喩は斬新さがなくてはならない。

マドンナも半寿となりぬ年忘 足立 義信(浜松)

半寿とは八十一歳を祝うこと。漢字の半を分解すると八十一となることに由来している。マドンナというポップな言葉と半寿という古風な言葉との組み合わせが妙。昔は皆のアイドル的存在であった女性とともに、同時代を生きて来たという感慨が溢れる年忘であろう。

花八手向う三軒みな独り 後藤 春子(名古屋)

「向う三軒」というフレーズを聞けば、両隣ということばが自然と繫がってくるものだが、ここで「みな独り」というどんでん返しがあるところがおもしろい。このちょっとしたユーモアに取り合わせた「花八手」がクールである。向かいの三軒はご高齢者の住まいとも思われるが、この季題を使って、さりげない日常感を醸し出しているところがよい。

ビルの陰に仕舞屋のあり青木の実 鈴木 利久(浜松)

この仕舞屋は、商いの長き時代を終えた店舗であろうか。ビルの陰にひっそりと、都市化の波から取り残された一角を思わせる。青木の実は、冬に赤く熟す小さな実。人の営みが衰えても、この植物は相変わらず季節を刻む。仕舞屋との対比が鮮やかであり、季語に余韻を感じさせる作品といえる。


    その他触れたかった句     

短日や解けぬ結び目切り離す
大きめの箒を買うて年用意
小競り合ひ時にはありぬ鴨の群れ
藪柑子これより先は番外地
大学に向かふ縦列開戦日
十二月動く歩道にひよいと乗る
墨匂ふ地の神の札十二月
煤逃や今日の床屋はフルコース
今さらに母の晩年鯨汁
釣堀のルアーとりどり冬ぬくし
寒蜆おまけの音を足す秤
茶の花や木立を洩るる日を集め
東京の土産のカヌレ聖夜更く
初雀きのふと違ふけさの顏
寒稽古己の声を楯として

栂野 絹子
松山記代美
相澤よし子
山田 眞二
小杉 好恵
前田 里美
鈴木けい子
熊倉 一彦
三浦 紗和
鳥越 千波
福本 國愛
土江 比露
山田 惠子
上松 陽子
太田 雅美


禁無断転載