最終更新日(update) 2015.12.01 

  平成26年度 みづうみ賞  
             平成27年12月号より転載


発表
平成二十七年度 第二十三回「みづうみ賞」発表
 第二十三回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成二十七年十一月     主宰  白岩 敏秀

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
笑  顔 林  浩世  (浜 松)
秀作賞   5篇
大地凍つ 荻原 富江
(群 馬)
春  光 吉田 美鈴
(東広島)
夏  炉 檜林 弘一 (名 張)
里 神 楽 田口  耕  (島 根)
追 儺 豆 鈴木喜久栄 (磐 田)
 
   みづうみ賞  1篇
   林 浩世 (浜 松)
 
   笑  顔
雀斑の少女駆け来る麦の秋
噂するたびくちなはの伸びにけり
汗の子の大きな笑顔抱きとむる
校庭の蛇口空向く雲の峰
したたりのその一滴を身のうちに
初秋の風よく通る母の部屋
美しく沈んでゐたる新豆腐
ハーモニカ秋の初めの音生まれ
眠る子の睫毛の長し虫時雨
ためし書きは曲線ばかり小鳥来る
秋澄めり図面に落とす三角点
山眠る座り心地の良き木椅子
歳晩の夕日大きく沈みけり
自画像の眼の生き生きと冬深し
寒九の雨カンヴァスに色重ねゆく
涅槃図の色あふれをり混みあへり
野遊びや水筒ひとつあれば良し
佐保姫の領布虹色にひかりけり
てのひらに受くる仔猫の息づかひ
振り返る春の日差しの中に母



  受賞のことば   林  浩世
 東京での白魚火全国大会から戻ってきた私を待っていたのは、「みづうみ賞」受賞のお知
らせでした。心から驚き、疲れが飛びました。
 俳歴は結構長いのですが、その大半をのんびり過ごしてきた寡作な私に「俳句は沢山作らねばならない」と叱咤してくださったのは、円坐B句会講師となられた黒崎治夫先生でした。背中を押されて、昨年から多作を目標に作句するようになり、その成果がこのような形で現れたことに感謝しております。
 今年の二月に仁尾主宰を、そして昨年六月に白魚火入会の切っ掛けを作ってくださった清水和子さんを亡くすという、つらいことが重なりました。仁尾主宰からは温かで的確なご指導を、清水さんには刺激を与えていただきました。お二人に心より御礼を申し上げます。
 たくさんの方々のおかげで今日があると思っております。
 これからもどうぞよろしく御指導下さいますようお願い申し上げます。

住所 静岡県浜松市
生年 昭和三十年


 秀 作 賞   5篇
   荻原富江 (群 馬)
   大地凍つ
山笑ふ測量の声下りてくる
堤防の先の先までかげろひぬ
よみがへる一本松や秋の風
新松子浄土ヶ浜の彼の世めく
枯松の影点点と秋の浜
秋の潮津波の残す遊覧船
断崖に津波の跡や雁渡る
秋時雨海のふくらむ細江かな
土台のみ残る家並や草紅葉
秋夕焼合同墓地の黙深し
草は実に漁港に廃車錆びしまま
黙黙と漁師の運ぶ秋刀魚かな
秋深し仮設店舗の灯の洩るる
みちのくの日差しの弱し崩れ簗
堆き汚染の残土大地凍つ


   吉田美鈴 (東広島)
   春  光
春光へ土蹴りたてて烏骨鶏
校庭に残る白線春休み
靴脱いで渡る渓流閑古鳥
噴煙の影引いてくるお花畑
雨脚の激しくなりぬ夜のテント
雪渓を登りきつたり塩むすび
霧晴るる尾根にまつ赤な避難小屋
木道を撓ませ渡る草紅葉
牛舎まで芒の径を歩きけり
ガラス戸を雨粒走る夜食かな
鍵盤に一指の迷ふ夜寒かな
ちちろ虫名残の声を揃へをり
冬ごもりメトロノームに楽合はせ
初仕事黒板の図に色チョーク
待春や机の上の旅程表
   

   檜林弘一 (名 張)
   夏  炉
日の出づる空にどんどの煙立つ
一本の丸太を掛けし雪解川
惜春の句帳余白の残りけり
花の色並び替へゐる牡丹売
固まつて風に吹かるる余り苗
木下闇獣の罠の仕掛けあり
天窓へ吹抜けのある夏炉かな
噴水の喜怒哀楽のあるごとく
火縄銃火蓋を切りぬ武者祭
泡粒をひとつ噴きたる水中花
押し寄せてきし木犀の香の一波
日陰れば色の妖しき毒茸
鍋守の揃ひの法被大根焚
くの一の忍者屋敷の煤払
白刃のごと寒濤の起ち上がる


   田口 耕 (島 根)
   里 神 楽
元旦祭御座八畳を舞ひ清め
狩衣を薄紫に初神楽
神楽舞ふ四方柱の檜の香
隠岐神楽二畳の御座を広く舞ふ
夕闇に漁火望む里神楽
神楽歌潮風深く吸ひ込みて
氏子の子抱いて巫女舞ふ神楽かな
風花や巫女舞の鈴序破急と
神楽笛荒ぶる神の名告りたり
怒濤めく神楽囃子や大蛇出づ
素戔鳴や神楽の赤熊振り乱し
肩に背に湯浴びて見する湯立神楽
寒紅をさして祈祷の巫女出づる
寒暁や神懸かる巫女御座の中
笹子鳴く楽屋に袴たたみゐて


  鈴木喜久栄 (磐 田)
   追 儺 豆
杉の穂のゆれて春星生まれけり
土手滑る手のつくしんぼ高く上げ
傾きし首を正して雛納む
遠足の子に羽根広げたる孔雀
ふりむけば母のゐさうな花の中
一笊の梅干す空の広すぎて
モネ展を見る香水の香に噎び
丁寧に米を研ぎをり終戦日
かなかなや杭より長き杭の影
松手入仕上げの枝をひと揺すり
貼り終へし障子の前に背を正す
重さうな雲を支へて冬木立
家中の時計を合はす年の夜
初鏡いつもの顔を見てをりぬ
買ひ物に追儺の豆を加へけり

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