最終更新日(updated) 2012.02.17

平成24年平成24年度 白魚火賞、同人賞、新鋭賞   
           
      -平成24年2月号より転載
 白魚火賞は、前年度一年間(平成23年暦年)の白魚火誌の白魚火集(同人、誌友が投句可)において優秀な成績を収めた作者に、同人賞は白光集(同人のみ投句可)の中で同じく優秀な成績を収めた作者に授与される。また、新鋭賞は会員歴が浅い55歳以下の新進気鋭作家のうち成績優秀者に授与される。
選考は"白魚火"幹部数名によってなされる。   

 発表

平成24年度「白魚火賞」・「同人賞」・「新鋭賞」発表

  平成23年度の成績等を総合して下記の方々に決定します。
  今後一層の活躍を祈ります
              平成24年1月  主宰  仁尾正文

白魚火賞
 本杉郁代
 渡部美知子

同人賞
 鈴木百合子 

新鋭賞
 内田景子
 斎藤文子


 白魚火賞作品

 本杉郁代      

      夏  萩
初旅の富士どこからも眞正面
群青の湾一望に寒明くる
現世の声も届くか涅槃絵図
来合せて和尚と唱ふ涅槃経
七回忌桜の頃と決めにけり
詰め合すうぐいす餅と桜餅
しやぼん玉夢の数ほど生れけり
まほろばの茶原の緑見の限り
更衣へて少女一際ねび勝る
手囲ひの中に点れる蛍かな
蛍舞ふ命の日数惜しむかに
竹皮を脱ぎ散らかして伸びにけり
夏萩や次の札所は文殊さま
星合ひの一際澄みし今宵かな
松明の火を又足しつ虫送り
余生とてまだ夢のあり今日の月
葉を落し風の自在の大銀杏
逃げ易き日差しを留め冬菫
おでん屋の串で数へるお勘定
蝋梅の色も香りも尽しけり

  渡部美知子   

    出  雲   
神在祭納屋に休める電気鋸
絵硝子の色を濃くする時雨かな
神楽果て荒き息継ぐ国つ神
虎落笛いまだ尾を引く事ひとつ
一茶の忌紅一点の句座に着く
あなじ強し横歩きする通し土間
息白く回転ドアを譲り合ふ
薄氷を避けて踏処を失へり
木の芽吹く中に校塔高く立つ
春泥を来て閼伽桶の水こぼす
椿落つ少し遅れて鯉動く
神名火をひと巡りして鳥帰る
星くづもネオンも揺るる代田かな
口笛を追うて若葉の山に入る
白日傘くるくる回し遠会釈
炎天を来て熱き茶にもてなさる
「だんだん」を繰り返さるる生身魂
稲光上棟を待つ梁の黙
花野より転がり出づる笑ひ声
白帝の統ぶる出雲や雲多し

 白魚火賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば>  本杉郁代             本杉郁代  

この度は白魚火賞誠にありがとうございました。
 友人に誘われ七人ほどのグループで鈴木三都夫先生に御指導をいただき始めた俳句でした。
 ふり返ってみますと静岡白魚火に入会して以来十七年の歳月が過ぎております。
 当初は字が読めない、言葉が理解出来ないなど悩むことばかりでした。
 三都夫先生が御熱心に御指導下さる定例句会をはじめ、バス吟行、合同句会などに参加させていただく機会も増え初心者の私達にはとてもよい勉強の場となりました。
 句友のみなさんのお顔も覚え、お話させていただく機会もでき、ほんとうに尊い十七年の月日でした。
 例年三月の総会の折は仁尾先生に御臨席をいただき盛大に俳句大会を開き主宰の御指導を仰いでおります。
 三都夫先生の温かな御指導のもとよき先輩の方々、そして大勢の句友のみなさんと共に俳句を学べる幸せを心より感謝いたしております。
 この度の身に余る大きな白魚火賞は私にとりまして喜びも大きい分、又今後への不安もいっぱいです。
 常に陰になり日向になり励まして下さっている先生、そして句友のみなさんほんとうにありがとうございました。
 これを機に今後一層の研鑚を積み微力ながら静岡白魚火の益々の充実と発展のため少しでもお役に立てたらと願っております。
 終りになりましたが仁尾先生、三都夫先生に温かい御指導を賜りましたこと心より御礼申上げます。ありがとうございました。
 今後とも御指導のほどよろしくお願い申上げます。


 経 歴
本  名 本杉郁代
生  年 昭和十四年
住  所 牧之原市
家  族 長男夫婦
 俳 歴
平成六年  静岡白魚火入会
平成十一年 白魚火同人
平成十六年 みづうみ賞佳作
平成十七年 俳人協会会員

  <本杉郁代さんの横顔> 坂下 昇子
  
 郁代さん白魚火賞受賞心よりお喜び申し上げます。
 今年度は小村絹子さんのみづうみ賞受賞に引き続き、郁代さんの白魚火賞受賞とおめでたいことが重なり、当会にとっても誠に嬉しいことです。
 郁代さんは現在静岡白魚火会の会長として活躍され、常に会の発展を心掛けておられます。最近もまた彼女の紹介で会員が増えました。
 今年度の静岡白魚火会の総会では、鈴木三都夫先生の米寿の祝賀会を計画し、お祝として尺八の奏者を招き、生演奏を聴くことができました。先生も大変喜んでくださり、私共も尺八の音色のすばらしさを堪能させて頂きました。
 郁代さんは数年前最愛のご主人を病気で亡くされました。どんなにか悲しく辛かったことでしょうが、俳句の方は一度も休まず投句されておりました。俳句に対する情熱の並々ならぬことに感じ入りました。
 しかし、ご主人に対する思いは深く、俳句の中にもそれがよく表れています。
  忘ることも供養の一つ萩の花
 ご主人の亡くなった悲しみをいつまでも引き摺って沈んでいてはご主人も喜ばないだろう、早く元のような笑顔を取り戻そうと努力している姿が窺えます。しかしどんなに忘れようとしても忘れられない悲しみが萩の花に象徴されているように思います。
  七回忌桜の頃と決めにけり
 これは仁尾主宰が副巻頭に採られた句で、主宰は「あっけらかんとした表現であるが、七回忌を前にして改めて夫をいとおしく思ったのである。しみじみとしたものが紙背にある」と評されています。
 このように郁代さんの句には、表現はさらっとしていてもその奥に深い思いを秘めたものが多いように思います。
 また、次のような句もあります。
  わあつとしか言ひやうのない大花火
 大空に打ち上げられる花火を見て、何と表現したらいいだろうといつも悩みます。それを彼女は思ったままに「わあつとしか言ひやうのない」と表現しました。何と素直な表現でしょう。正にその通りですがなかなかこうは言えません。明るい彼女ならではの表現だと思います。
 明るく積極的で、誰にも気を遣ってくれる郁代さん、今後の増々のご活躍をご期待申し上げます。

  〈受賞のことば〉  渡部美知子        渡部美知子      

 冬とは思えないような暖かな日、白魚火賞受賞の連絡をいただきました。驚きのあとは嬉しさで胸が一杯になり、すぐに上川先生宅へ報告に伺いました。そしてその日は眠りにつくまでふわふわしておりました。
 白魚火に入会したのは平成四年。人のつながりに不思議な縁を感じて入会したものの、数年間はいつ止めようかと思いながら作句する不真面目会員でした。句会は欠席がち、投句は休みがち…もしあのまま止めていたら、多くの事に気づけぬまま歳を重ねていたことと思います。
 この度の受賞につきましては、仁尾主宰はじめ上川先生・諸先生方のご指導お力添えのおかげと心より感謝申し上げます。また折々に支え励まして下さった浜山句会の皆様に深くお礼申し上げます。編集部の一員としてお手伝いさせていただけること、句会で鍛えていただけることに感謝し、これからも前を向いて歩んでいこうと思います。

 経 歴
本  名 渡部美知子
生    年 昭和二十八年
住  所 島根県出雲市
家  族 母・夫
 俳 歴
平成四年   白魚火入会
平成十三年  白魚火同人
平成十六年  白魚火新鋭賞
平成二十年  みづうみ秀作賞
平成二十二年 みづうみ佳作賞
平成二十三年 俳人協会会員

<これからも「出雲」を> 上川みゆき 

 美知子さん、白魚火賞受賞おめでとうございます。
 美知子さんは、島根県立大社高等学校卒業後、県外の大学へ進学し国文学を専攻されました。帰省してからは、「出雲大社国学館」の講師をはじめ、県立高校の国語の講師を務められ、現在も若い子らとの交流を続けて教壇にたっておられます。至って穏和そのもので、先ず人からの顰蹙を買うことなど全く考えられないお人柄です。職業柄、誠に当を得た人というべきでしょうか。
 美知子さんが俳句を始めたきっかけは、私の同窓であった土江意宇児出雲商業高校長(生前白魚火同人)の学校へ勤務した時でした。彼の言伝など頻繁に持参してくれるようになった折に、「あなたも一緒に俳句をしませんか?」と、誘ったという按配でした。根が頭脳明晰故、一瞬躊躇の気配が見えましたが、そこは押しの一手で引き込んでしまい今日に至っています。
 現在は公民館活動の一環としての俳句会、「浜山句会」の一員として、十数名の仲間と切磋琢磨して勉強し中心的存在で活躍しています。また、読売新聞の島根版の選者、白魚火編集部の一人として、忙しさを物ともせず取り組んでおられます。
 この一年で、白魚火集巻頭、白光集準巻頭を獲得し、俳句の上達には目を見張るものがあります。
  春の野へ十二センチの赤き靴
  緑蔭の深きに眠る乳母車
  檸檬啜る稚にシャッター音頻り
 若い美知子さんも最近おばあさんになられました。孫俳句は甘くなりがちと言われますが、その甘さを逆手にとっての優しさの見えてくる俳句の数々は、ほのぼのとして心温まるものがあります。
  一礼をしてより稲を刈り始む
  寒の水飲みて再び筆とりぬ
  古茶いれてゆるゆると読む養生訓
 何かに取り組むに当たって、気持ちの切り替えの上手い人と受け止めます。俳句の中にもその様子が詠われ、「一礼をして」「寒の水飲みて」「古茶いれて」等平素の姿が浮かんできます。
  狐火や色鮮やかな解剖図
  春の爐の燃えさし忽と炎を放つ
  万緑や的の真中を射抜く音
 はっきりとした色彩の見える句、平明ではありますが、十七音の中に自分の思いを託した句と受け止めます。穏やかな中に芯の通った、凛とした姿がみえる気がします。
  白帝の統ぶる出雲や雲多し
  神在祭納屋に休める電気鋸
  神楽果て荒き息継ぐ国つ神
 故郷を詠んだ句も多々あります。低い雲、神在祭、神楽、国つ神などは代表的なものと言えるでしょう。
 特に二句目の句は出雲大社ならではの神在月を詠んだものです。国引きの浜で篝火を焚き、全国よりお集まりの神々をお迎えします。八百万の神々を迎えてからお帰りになるまでの間は、大社町は歌舞音曲を慎むという慣わしになっており、大きな音のする電気鋸も休んでいるというのです。大社の神事を上手く詠んでいると思います。
 人生八十年、いえ百年ともいわれるようになりました。まだまだ若い美知子さんです。ふるさと大社を根源に、力量を存分に発揮し、生涯「出雲」を詠ってほしいと願っています。
 本当におめでとうございました。


同人賞
 鈴木百合子

    鰯  雲
坂下門くぐりて了ふる初参賀
早春のひかり巻き込む座繰糸
小流れに調べ生まるるふきのたう
足尺で薯植うる畝たてにけり
布衣の身となりて摘みゐる茎立菜
子持嶺のぽんと突き上ぐ朧月
利休梅堂の一灯揺れ止まず
少年の瞳に青葉若葉かな
榛名嶺を映して植田しづかなる
点しては消えては源氏蛍かな
釣糸を垂らし木陰の三尺寝
花百合の開きてよりの重さかな
すんなりと針孔とほしをり夜の秋
鉛筆の芯のかをれる今朝の秋
新涼や糊のききたるシャツカラー
老い母に旅銭もらふ鰯雲
長き夜や付箋だらけの法規集
霜の夜の白湯に甘味のありにけり
刃毀れの奉納刀や寒昴
奥四万の水分神冬木の芽  
 -同人賞受賞の言葉、祝いの言葉-
<受賞のことば> 鈴木百合子              鈴木百合子
 
 十一月三日、文化の日に安食副主宰より同人賞のお知らせをいただきました。
 正に青天の霹靂。身に余る賞の重さに緊張の日々を過ごしております。
 父の供養にと始めた俳句も十四年という歳月が経ってしまいました。
 句に縋り、句によって救われてきた十四年でもありました。
 その間、仁尾正文主宰、白岩敏秀先生そして地元の田村萠尖先生を始めとする群馬白魚火の皆さんに、ご指導ご鞭撻を頂きましたこと厚くお礼申し上げます。
 俳句とは、麻薬のようなもの。
止めようと思っても、簡単には止められない手強いもの。
 今では、日常生活において欠かすことの出来ないものになってしまいました。
謂わば、人生のパートナーです。
 俳句の七五調は、ことばの基本的なリズム。日本人の細やかな感性を最も引き出してくれる文学と認識しています。
 この受賞を機に自己を磨くと共に己の感性を磨き、穏やかな気持ちで自然に対峙し、美しい季節の移ろいを詠んでいけたらと思っています。
 借景に裏榛名置き桔梗かな  一都 
 父在りし日に、西本一都初代主宰が我が家の狭庭で詠まれた裏榛名が、今真向かいに泰然と聳えています。
この度は、本当に有難うございました。

 経 歴
本  名 鈴木百合子
生 年    昭和二十五年
住  所 群馬県吾妻郡
家  族 母・弟夫婦
 俳 歴
平成九年  十一月白魚火入会
平成十三年 白魚火同人
平成十四年 白魚火新鋭賞受賞
みづうみ賞 秀作二回
      佳作五回

  <同人賞受賞者の横顔:おめでとう 百合ちゃん> 田村 萠尖  
     
 鈴木百合子さん(通称百合ちゃん)、このたびは同人賞の受賞おめでとう。
 白魚火六月号の白光集で巻頭になった時、今年はひょっとすると賞をもらえるかも、との予感が走ったのを思い出しました。
 同人賞がはじめて白魚火誌上に発表されたのが平成二十年度で、第一回受賞者は群馬の荒井孝子さんでした。
 あれから四年、再び群馬の百合ちゃんが五人目の栄冠を手にされたわけです。
 百合ちゃんの父親故吾亦紅さんは、私とは俳句の兄弟弟子ですが、白魚火に於ては先輩で、オートバイで誌友の増加に走り廻り、群馬白魚火会の発足に盡力され、初代会長として大きな功績を残されました。それだけに鈴木宅へは一都先生をはじめ、県内外からの来訪者も多く、学生の頃から俳句関係者の雰囲気を肌で感じつつ成人した百合ちゃんでした。高校卒業後、昭和四十五年に中之条町役場へ就職され、社会人として多くの人との接触の中で「鈴木さんは吾亦紅さんの娘さんかね」などと言われることも多く、亡き父への思慕も一段と深くなったと思われます。
 そうしたことも手伝って、自分も俳句の道へ進み、一歩でも父へ近づいてみたいと言う意識が高まり、平成九年白魚火誌に加入し、群馬白魚火会の行事にも積極的に参加され、会員との交流にも前向きの姿勢で当ってくれました。
 平成十三年に同人となり、翌十四年には新鋭賞を受けるなど頭角をあらわし、みづうみ賞においても、秀作賞二回、佳作五回を得ています。探求心の旺盛さ、プラス物おじしない性格など恵まれた素質を十分に活用され、更なる活躍が期待されています。
 俳句以外に昭和四十七年琴道に入門し、年若くして助教の資格を得ており、名取への道も開かれているものの、親からもらった名前で、生涯を貫きたいと云うことのようです。
 平成二十三年白光集作品の中から
  障子貼る枠に遺れる父の文字
〝なにが書いてあったか興味深い〟
  恋猫の月下を駆くる句碑の庭
〝庭先の松の根方に吾亦紅句碑が建てられている〟
  一幅の軸に一輪黄水仙
〝軸に書かれた吾亦紅の独得の文字が見えるようである〟
  服薬の白湯分ち合ふ夜の秋
〝薬用の白湯を分ち合って呑んだ、おふくろさんとの姿が見えてくる〟
 とりとめのないことばかり書いてしまったが、あらためて受賞を称えるとともに、一層の研鑚を期待しております。

   新鋭賞 
  内田景子

   山 眠 る
茹で蟹の万歳をしてお元日
せせらぎの音の脹らみ春動く
のどけしや爺ちやんが押す乳母車
朝に見て昼見て夜も見る桜
子等唄ふ玩具のチャチャチャ百千鳥
天道虫空に放ちて明日は晴れ
新茶汲む有田に唐津萩茶碗
留守番の猫に一切れ初鰹
このところ手に取るだけの水着かな
仇討ちのごとかなぶんを追ひ詰めし
名月に手合はす母の身じろがず
オレンジはお日様の色柿吊す
休日の薄き口紅冬すみれ
山眠る真つ赤な箱の養命酒
省くことありさうでなし年用意

   斎藤文子
 
   寒 稽 古
富士山の倒れてきさう枝垂梅
春宵や転がつてゐる貝釦
理科室は一階の端子猫ゆく
町分かつ川のありけり鯉幟
梅雨明けや口中に飴ころがして
茅舎忌の葉先に雨の雫かな
線香花火揺らさぬやうにしてゆるる
夏祭母の歩幅で歩きけり
俎板の乾き八月十五日
鬼の子や塩味ききし歯磨き粉
棒稲架の端に手拭ひ日の暮るる
煙突のなき家に住みクリスマス
読初や兄となりし子膝に置き
寒稽古雑布並らべ干されあり
サッカーの十番拳突き上ぐる

新鋭賞受賞の言葉、祝いの言葉
   

<受賞のことば> 内田景子                内田景子

 この度は新鋭賞という栄えある賞をいただき、身の引き締まる思いです。
 俳句との出会いは平成十九年四月のある日、小浜史都女先生から届いた、俳句教室へのお誘いの葉書でした。
 その日はゴールデンウィークで休日。特に予定もなかったため、軽い気持ちで参加することにしました。正直申しまして、格別俳句に興味があったわけではありません。
 月二回の句会は大変勉強になります。和気藹々と笑いの絶えない楽しい句会です。
 入会当初は歳時記二冊と睨めっこ。俳句のハの字も知らぬ強みで自由に作句。沢山作りました。そうしている内に段々難かしくなりました。季語には詩的な言葉が沢山あることを知り、日本人の美意識の高さや四季の豊かさを学びました。
 現在は・・・・。
苦手な写生と向き合い悪戦苦闘の日々。白魚火の締切にも毎回追われる始末。
ですが何事にも根気がなく、習い事もたしなむ程度で終わっていた私。年齢を重ねた今、平凡な生活の中に、俳句を通して心豊かな日々を送っていきたいと願っております。
 最後になりましたが、史都女先生、ありがとうございました。句友の皆様、今後とも宜しくお願いいたします。

 経 歴
本  名 内田景子
生  年 昭和二十八年
住  所 佐賀県唐津市
 俳 歴
平成十九年八月  白魚火入会
平成二十二年十月 白魚火同人


   <内田景子さんの横顔>  小浜史都女

 景子さん、新鋭賞受賞おめでとうございます。
 景子さんの新鋭賞は佐賀の「ひひな会」「姫沙羅会」の中で最も早い受賞です。それもそのはず、景子さんの俳句は当初から目を見張るものが数多くありました。初めは恐いもの知らずとでもいいましょうか、何でも句になり沢山出来て、どんどんファックスで届き驚くほどでした。少し飛躍した面もありましたが、内容が明るく楽しい句ばかりでした。沢山出来るので当初から〝みづうみ賞〟にも挑戦してもらいました。今も続いています。
 景子さんは行政にかかわる会社の事務を一人でてきぱきと捌き重宝がられています。明るい性格で几帳面、地域でも活躍されているようです。仕事が一人なので友だちづくりは大切にされています。子どもからお年寄り、若い人達も含めて人は人との関わりの中でしか成長できないと自分に言いきかせ、今いる環境の中で自分の出来ることを精いっぱいやっていきたいと。……気持ちのいい言葉。
 趣味はドライブ、小旅行、おいしいものを食べること、サスペンス小説やドラマとか。性格は超現実的で超ロマンチストです。
 景子さんの句は一貫して明るくて楽しい。時には度肝を抜くような句にも出合うが、それが景子さんの良いところ。新鮮で誰も作ってないような句が多い。白魚火誌は隈なく何回も読むそうだ。それで新しい句が出来るのだから頼もしい限りです。
 二十三年の景子さんの句に少し触れてみよう。同人集の中から
  母徒歩で髪結いに行く小春かな
  どう見てもそれなりですよ初鏡
  喧嘩せし昨日はきのふあたたかし
  男にも八方美人百合の花
  峰雲へ赤ん坊たかいたかいかな
  祖父ちやんと仲良くなる日冬休み
 日常生活の中から家族や人を詠んだ句が多いが斬新で底抜けに明るい。誰も詠んでない句が目立つ。
  妙齢の男歩きや雪の道
  目の合ふて一目惚れなる雛買ふ
  佐賀平野鷲掴みして雲の峰
  ラインダンスしてゐるやうな掛大根
  万国旗翻るごと干蒲団
 簡潔に詠み、しっかりした写生句の中にも心動かされる楽しいものが多い。
 景子さんはよく勉強する。最近は自然詠、写生にも力を入れてめきめき上達している。
 若い景子さんにとっての新鋭賞はまだ俳句の道の通過点です。これからも明るさと闊達な面を生かして、のびのびと佳い句をつくり、ご精進されんことを願います。

〈受賞のことば〉  斎藤文子               斎藤文子 

 この度は、新鋭賞をいただきましてありがとうございます。身に余る賞で、不安と緊張でいっぱいでございます。
 私が俳句に興味を持ちはじめましたきっかけは、同じ職場で働いていた村上尚子さんと旅行に行った時のことです。村上さんは、事あるごとに小さなノートにメモを取っておられ、後日旅行の句を見せてくださいました。同じ体験をした私にとりまして、それは楽しい思い出の再現でした。その時、なんて俳句とはすばらしいものだろうと思いました。
 その後、退職された村上さんより句会へのお誘いをいただき、磐田の「槙の会」へ入れていただきました。この句会は、黒崎治夫先生の御指導のもと、私の拙い一句一句にまで丁寧に御意見を賜り、楽しくも緊張感をもって今日に至っております。また白魚火に入会させていただき、浜松で行われました全国大会では、句友の方々の厚い思いに圧倒されてしまいました。
 この度の受賞は、ひとえに仁尾主宰をはじめ白魚火諸先生方、「槙の会」の黒崎先生、また諸先輩方のお陰と思っております。心より御礼申し上げます。
 これからも身の回りの自然や事柄に目を向け、私なりの感ずる心を忘れずにいたいと思います。どうぞ御指導のほど宜しくお願い申し上げます。

 経 歴
本  名 齊藤文子
生  年 昭和三十年
住  所 静岡県磐田市
 俳 歴
平成十六年  磐田「槙の会」入会
同 年    白魚火入会
平成二十二年 白魚火同人


 <オリーブさんのこと>  村上尚子 

 文子さんとの出合いは今から十五年程前になります。磐田市で最も患者さんの多い小児科医院での同僚でした。
  名医で気さくな院長は、文子さんに〝ポパイ〟のガールフレンド〝オリーブ〟というニックネームをつけました。文子さんはそれを聞いてにこにこしていたことを覚えております。働く部屋と時間が違いましたので、日頃親しくする機会はあまりありませんでしたが、陰日向のない実直な人柄はすぐ分かりました。
  今はすっかり職場になくてはならない人となっております。
  俳句を始められたのはいつからということはなく、除々に興味を持たれたように思います。「槙の会」への勧めにもすんなり応じ、数ヶ月後には左記の作品をもって「白魚火」へデビューしました。
  面一本声高らかに文化の日
  秋夜長夫の居ぬ間の長電話
  秋深し便りのなきは羔なき
  その他にも初期の作品を見ますと、三人の息子さんの成長を喜ぶと同時に、やがて巣立ってゆかれる寂しい母親の気持が素直に表現されております。
  その頃何より恵まれていたことは、院長が「馬酔木」に投句をされていたことです。五年程して私が退職したあとも、院長と折にふれ俳句談議に花を咲かせていたようです。
  とても若々しい文子さんですが、現在は既に教職を退かれた御主人とお二人だけの暮しです。四人のお孫さんにも恵まれ、休日にはおばあちゃん役にお忙がしい日々を過ごされております。そのような中から、視線の多くはお孫さんとその身辺に向けられます。
  なはとびをひとつとべたよつくしんぼ
  おんぶの児の大き欠伸や春の雲
  天瓜粉幼三人羔無し
  ままごとの道具散らばる残暑かな
  冬帽子小犬に話しかけてをり
  今迄の家族詠とは違い、見方にも表現にも余裕が見受けられるようになりました。 
  春昼や体重計の針の揺れ
  ビートルズ流るる部屋の熱帯魚
  父と見し植田に落つる夕日かな
  夏蝶に合うて一日のはじまりぬ
  はたはたの次のひと跳び消えてをり
  大寒や餌食む牛の揺るる腹
  これらは更に一つの殻から脱け出し、巾広い女性の目で捉えられた最近の作品です。数年の間に着実に俳句の力を培ってきたことが分かります。
  〝オリーブ〟のように誰からも愛される文子さん、今回の受賞を原動力に、さらなる飛躍をされますことをみんなで見守ってゆきます。
  先ずは第一関門突破、本当にお目出とうございました。

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