最終更新日(update) 2010.05.30 

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成22年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による1篇が25句の俳句コンテストです。先ず予選選者によって応募数の半数ほどに厳選され、更に主宰以下の本選選者によって審査・評価されて、その合計得点で賞が決定します。

発表
平成二十二年度 第十七回「みづうみ賞」発表。
 第十七回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成二十二年五月     主宰  仁尾正文

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
涼新た 飯塚比呂子  (群馬)
秀作賞   6篇
紅   鈴木敬子
(磐田)
天蚕の郷 大山清笑
(中津川)
おとなが二人 小林布佐子 (士別)
茎立菜 鈴木百合子  (群馬)
遠花火 鈴木喜久栄 (磐田)
草笛   挟間敏子 (東広島)
 
   みづうみ賞  1篇
   飯塚比呂子 (群馬) 
    涼新た
奥利根の水のふくらむ雪解かな
初蝶の風に逆らふこと知らず
塗り替へし神橋にほふ木の芽晴
風船に吊られて弾む児のあゆみ
幼なさを尾羽の先に巣立ちけり
なだり畑なだるるままに耕せり
ががんぼの片足こぼれをる座敷
眠る児のぴくりと動く青簾
窓あけて風鈴の風もらひけり
かるの子の跳ぶにはあらず転げ込む
木道に腰掛けてゐる夏帽子
ゆるやかに稜線を這ふ登山道
洗顔の泡こまやかに涼新た
人ひとり見えてかくれて芒原
揺り椅子に身をあづけたる秋思かな
茅葺の屋根ほこほこと菊日和
どの坂も海へ至れりななかまど
観音のまなざし遠く秋惜しむ
呼べばすぐ応ふる猫や小六月
胸深く封じると決め毛糸編む
指先にぱりつと割れし初氷
刃当てるやいなや白菜弾けけり
煎薬の匂ひの満てる霜夜かな
白鳥の飛び翔つ呼吸計りをり
しののめの噴井つぶやく深雪かな
  受賞のことば   飯塚比呂子      
 

 風の便りに誘われて一時間ほど車を走らせ早咲きの桜を観て戻った日の夕べ、「みづうみ賞」のご連絡を戴き、驚きと喜びで胸がいっぱいになりました。
 子供達が家を離れ、夫は仕事、一人で過ごす時間が多くなり、空虚感を埋めたくて誘われるままに入れていただいた俳句への道ではありますが、ゆったりとした時間を過ごせることが私の性にあっていたのか、今では無くてはならないものになりました。誘い合っては野へ山へ出かけ、自然の生気をいただきながらの句作、許される限り続けて行きたいと思っております。
 受賞に際しまして、これまで育ててくださいました主宰であられます仁尾正文先生はじめ、諸先生方、群馬白魚火会の田村萠尖先生、諸先輩、句友の皆様に、心より感謝とお礼を申し上げます。
 また選考の労をお取り下さいました、諸先生方に、深くお礼を申し上げます。
 今後とも御指導よろしくお願い致します。

住  所 群馬県吾妻郡
生年月日 昭和十五年
 俳 歴
平成二年   白魚火入会
平成八年   白魚火同人
平成十五年  みづうみ賞選外佳作
平成十六年  みづうみ賞佳作
平成十七年  みづうみ賞秀作
平成十八年  みづうみ賞秀作
平成十九年  みづうみ賞秀作
平成二十年  みづうみ賞秀作
平成二十一年 みづうみ賞秀作

 秀 作 賞   六篇
   鈴木敬子 (磐 田)

  紅
建国日魚の形の石拾ふ
船津屋の畳廊下や春の冷え
早春の窓に木曽川長良川
刈られたる羊の大き眼かな
裏方の酔うて祭の果てにけり
布を裁つ仕事夕顔ひらくまで
せせらぎに旅のハンカチ浸しをり
干草の山のくづれし左千夫の忌
束子まだ雫のありて野分晴
萩すすき誰か後ろを過ぎにけり
秋まつり神馬の餌を掲げ持つ
遊ぶ子に秋日するりと逃げやすし
数珠玉や十歩で渡る丸木橋
組み替へて秋思の腕となりにけり
掘りあげし蓮常陸の泥こぼす
冬ともし紅差し指に残る紅
虎落笛反り身となりて飲む薬
のらくろの復刻版を読初に
タグ付けしまま茹でらるる松葉蟹
母の足袋穿いて白髪をふやしけり


   大山清笑(中津川)
    
  天蚕の郷
天蚕の生れしばかりの五粍ほど
天蚕や天与の色の黄緑に
飽食のあとの天蚕水を吸ひ
天蚕の檪林に日の燦燦
風に首立てて山蚕の機嫌かな
日の射して山蚕の首の立ち上がる
山蚕飼ふ郷青梅雨に包まるる
天蚕の郷の高空嶺を連らね
天蚕にみどりの風の渡りゆく
天蚕は禱りの姿もて眠る
上がり蚕の首振り乳房探るかに
上がり蚕の切に首振る木洩れ日に
透き通りいのち昇華す蚕の上がり
薄繭になりゆく音の秘かにも
己が身をがんじがらめに繭となる 禱
天繭を振れば蚕霊の音返す
天繭の初繭を捥ぐ美濃の谿
水差して繭宥めつつ糸を取る
繭跳ねて糸取鍋の湯玉飛ぶ
山蚕糸混ぜて織らるる機の音
   

   小林布佐子 (士別)
    
 おとなが二人
水底の鯉の沈黙柳散る
秋晴や米と塩盛る獣魂碑
老犬の鼻先冷ゆる暮色かな
沼守の声に集まる霧の鴨
よく回る風向計や冬隣
黒板に書かれし牧の冬支度
シーソーにおとなが二人木の実降る
幾たびの旋回鴨の渡りゆく
遠山の初冠雪や牛帰る
冬に入る牧舎に明り取りの窓
茜雲より白鳥の降りてきし
初雪を踏んで覗きし魚影かな
白鳥の雨の重たき飛翔かな
仔白鳥ときをり群を離れけり
山の宿灯り白鳥鳴き交す
湧水の注ぎてぬるむ冬の川
手袋が好きなり方向音痴なり
朝市の木椅子冷たき昆布売り
音もたぬ人と寒さを手で話す
福耳の綿羊生れクリスマス


   鈴木百合子 (群馬)
    
  茎立菜
部屋といふ部屋に初風迎へけり
立春の総門を開け脇門も
父の墓訪ひしな摘める茎立菜
つばくらやかつと目を剥く鬼瓦
結界に関守石を花の雨
向ひ合ふことのなき水芭蕉かな
山風をマイクひろへる氷室祭
河骨の黄を散らしたる隠れ沼
木曽川を狭めて青嶺たたなはる
合掌の袖口に汗手貫かな
施餓鬼会に出掛くる前の湯浴みかな
蝋涙にほのほ映せる百八灯
双幅の落款の朱や月今宵
みづうみの波走らせる雁渡し
草の戸の鼻先に鹿威しかな
風帯のたはめる夕べ実南天
いづこより生れいづこへ雪蛍
蕎麦掻きの出来栄えをほめちぎりをり
凍つる夜の枕かたきを均しけり
注連綯へる藁湿らせてより昼餉


  鈴木喜久栄 (磐田)

  遠花火
薄氷の動き出したる光かな
手品師の指軽やかや山笑ふ
桜えび干されて由比の浜明かり
桃色の刺し糸買うて春惜しむ
ドーナツの歪に揚がる子供の日
両腕を拡げて話す蛇の丈
朝市の曲がり胡瓜に農婦の名
遠花火湯ほてりの嬰抱き取りし
コスモスに脱線したる紐電車
うたた寝の覚めし後より夜の長し
新顔は左利きなり松手入れ
秋晴るる転勤の子の背大き
色変へぬ松正面に浮見堂
芦を刈る比良八荒の風の中
ちちははの居る家冬の薔薇紅し
長命の家系に嫁ぎ年用意
こんな日もあんな日もあり日記果つ
帰る子の尾灯見送る三日かな
向かひ合ふ墓にも分けて水仙花
味噌蔵の麹つぶやく春隣


  挟間敏子  東広島)

  草笛
薪正しく積んで棲みをり梅の家
母の結ふ三つ編み固く大試験
浪人を決めし子の吹く石鹸玉
風花や息あたたかく仔牛寄る
帰りには母の手に来ず入学子
春の田を出て来て人の子をあやす
草笛を上手に吹いて無口の子
渋滞のもと田植機でありにけり
梅干しに出て星空を一人占め
両脇に子が寝返つてくる暑さ
手花火や父似母似の顔浮かび
島ひと日運動会に明け暮れぬ
ひるがへる一枚となり稲雀
赤とんぼ母を預けてもどる道
こまごまとマスクの夫の眼へ語る
ストーブや主義それぞれの手をかざし
炉話や誰も知りゐて聞きたがる
まなじりの皺まで父似冬帽子
冬銀河生家を終の住処とし
みどりごを抱かせてもらふ四温晴  

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