最終更新日(update) 2009.05.31 

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成21年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による1篇が25句の俳句コンテストです。先ず予選選者によって応募数の半数ほどに厳選され、更に主宰以下の本選選者によって審査・評価されて、その合計得点で賞が決定します。

発表
平成二十一年度 第十六回「みづうみ賞」発表。
 第十六回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成二十一年五月     主宰  仁尾正文

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
返り花 星 揚子  (宇都宮)
秀作賞   6篇
今年竹   檜林弘一
(名張)
日向ぼこ 大石益江
(牧之原)
夜干梅   三上美知子 (雲南)
夜紙漉く 鈴木敬子  (磐田)
夏めくや 飯塚比呂子 (群馬)
落鮎   竹内芳子 (群馬)
 
   みづうみ賞  1篇
   星 揚子 (宇都宮) 
    返り花
まろやかなヴィオラの音や春の雪
早春の振子の速き時計かな
草萌や靴を履きつつ駆け出す子
操れる高さに凧の揚がりけり
ゆるやかに揺るる水かげ桃の花
片言のピアノ聞ゆる春の昼
紫陽花といふも真白を極めけり
親の顔飲み込みさうに燕の子
校長の見つけて来たる兜虫
蝉の声貫くごとく弓引けり
向き変へて星の近づくてんと虫
萩咲くや雲ゆつくりと流れゐて
国府跡までの畦道草紅葉
竹藪に竹の垣根や鵙の声
回りみな刈田となりし国府跡
虫の音を聞き分けらるる数となり
大樹なる銀杏黄葉の小さき撥
散るやうに群るる鴉や秋の暮
卓袱台に茶碗の跡や秋灯
枯芝のふかふかなるを踏みゆけり
茶の花やくるりとまろむ鉋屑
決断の色に躑躅の返り花
泥濘に山茶花の白やはらかき
日陰りて落葉湿りの匂ひせり
探梅やここより隣町となる
  受賞のことば   星 揚子      
 
この度はみづうみ賞をありがとうございます。思いもよらぬ受賞に驚きと喜びとでいっぱいです。
 昭和六十年、職場句会であった「いまたか俳句会」に入会し、今は亡き橋田一青先生のご指導を受けてから早二十四年。ものをよく見て詠むようにとのお教えのもと、日常生活や自然の中での感動や発見を句にしてまいりました。俳句を通して、あらゆるものにいとおしさを感じ、少しずつ心が豊かになっていく思いがします。そして、今、「俳句」に出会えた幸せを感じております。
 西本一都先生の「わが俳句足もて作る犬ふぐり」の白魚火の指針に沿って、これからもしっかりとした客観写生の句が作れるよう努力したいと思います。
 受賞に際しまして、これまで育ててくださいました仁尾先生はじめ諸先生、栃木白魚火、いまたか俳句会の皆様に心から感謝申し上げます。

住  所  栃木県宇都宮市
生年月日  昭和三十一年
 俳 歴
昭和六十年  いまたか俳句会入会
平成四年   白魚火入会
平成六年   白魚火同人
平成八年   みづうみ賞選外佳作
平成九年   新鋭賞
平成十年   みづうみ賞佳作
平成十一年  みづうみ賞佳作
平成十二年  みづうみ賞秀作
平成十三年  みづうみ賞佳作
平成十四年  みづうみ賞佳作・選外佳作
平成十五年  みづうみ賞秀作
平成十六年  みづうみ賞佳作・選外佳作
平成十七年  みづうみ賞佳作
平成十八年  みづうみ賞秀作・佳作
平成十九年  みづうみ賞秀作
平成二十年  みづうみ賞選外佳作二篇
 

 秀 作 賞   六篇
   檜林弘一 (名張)
   今年竹
対称を正して注連を飾りけり
色に出て紅梅の芽の確とかな
紅白の樹を一対に梅ふふむ
百千鳥競へる声の膨れきし
酒蔵の醸して柔し春の闇
水温む鯉に浮力のつきにけり
目に追へるほどよき数の落花かな
身動きのとれぬ汀の花筏
破れ傘風をいなしてをりにけり
ハンカチの四角四面のたたみぐせ
今年竹はや青年となりにけり
マニキュアの指草笛を鳴らしをり
搦め手にまくなぎ陣を移しけり
向日葵と同じ高さに肩車
番犬の夏負けの舌出しにけり
かなかなに応へかなかな遥かより
落鮎の躍る姿に串打たる
歳晩のランプひとつの易者かな
岩肌に張り付き滝の凍てにけり
年忘れはや席順の乱れをり


   大石益江(牧之原)
    日向ぼこ
引つ張つて緩めて凧の揚がりけり
蜂の巣を見つけてからの騒ぎかな
茶刈機の止まりし後の重たさよ
裏からも新茶と読むるのぼり旗
日の残る空より降ろす鯉幟
母の日や母の願ひし農に生き
紫陽花に余りし雨の零れけり
思ひきり声出してみる滝の前
懐しき色のあれこれかき氷
日焼けして似合はぬ服となりしかな
ひと山にして籾殻の軽さかな
攫ふものなくて刈田の風軽ろし
釣舟の俄に月見舟となり
零余子飯むかごの色に炊き上がる
先客は落葉でありし野天風呂
お日様のいびつに差して榠樝の実
焼芋屋秤りはいつも目分量
日向ぼこ借りて用足す薬売り
何もせぬことも仕事や日向ぼこ
石段は男の歩巾寒詣り
   
   三上美知子 (雲南)
    夜干梅
浅春の杉の丸太の匂ひけり
たんぽぽや寺を巡りし杖洗ふ
信号を渡る練習葱坊主
白靴に遺跡の土の付いて来し
父祖よりの壷に納むる夜干梅
銀の鍵投げ入れ海を開きけり
手の届くところに一つ青胡桃
旅の途の熱き珈琲夜の秋
鷺翔ちてみるみる刈田暮れにけり
昼灯す城の地下倉つづれさせ
堀船の賑はつてゐる鵙日和
高稲架に風の乾いて来たりけり
色変へぬ松の傾ぎも一の宮
墳丘に草の紅葉の始まりぬ
竜の髯番所の跡に実を結ぶ
茶の花のまぶしき朝となりにけり
赫々と冬日に透ける鳩の足
底見えぬ古井ありけり石蕗の花
山眠る荒神様に幣あまた
クリスマス声響き合ふ子供劇


   鈴木敬子 (磐田)
     夜紙漉く
ふる里の山総立ちに寒明くる
田に畑にものの焚かるる雨水かな
野遊びの注がねば転ぶ紙コップ
落第の子の濡れ傘を一振りす
どこまでも遠出したがる春帽子
簗へゆく仮設階段ゆれてをり
クリスマス声響き合ふ子供劇
岩魚焼くぶつけるごとく塩ふられ
声いつか離れ離れに蛍追ふ
冷麦に差し水ドラマの男死す
祝ぎごとのありふんだんに水を打つ
別れ来て月に濡れたる靴を脱ぐ
音沙汰の吉備の白桃届きけり
つぶやけば夫が応へて秋灯
白湯呑んで敬老の日と思ひをり
七五三遠出してゐる宮の矮鶏
風邪薬どつさり貰ひ落ち着かず
紙漉の土間を小犬が通りけり
夜紙漉くうからやからの無口なり
子等の声まぶしく過ぐる三日かな
透くといふ一途なことを寒の水


  飯塚比呂子 (群馬)
   夏めくや
琴の音の洩れくる路地や松の内
春淡し畳に下ろす嬰の靴
感知してともる外灯猫の恋
桑を解く括られ癖の残りけり
犬の名をさくらと呼びて野に遊ぶ
脱皮して口の大きな蚕かな
岩魚焼くぶつけるごとく塩ふられ
声いつか離れ離れに蛍追ふ
冷麦に差し水ドラマの男死す
祝ぎごとのありふんだんに水を打つ
別れ来て月に濡れたる靴を脱ぐ
音沙汰の吉備の白桃届きけり
つぶやけば夫が応へて秋灯
白湯呑んで敬老の日と思ひをり
七五三遠出してゐる宮の矮鶏
風邪薬どつさり貰ひ落ち着かず
紙漉の土間を小犬が通りけり
夜紙漉くうからやからの無口なり
子等の声まぶしく過ぐる三日かな
透くといふ一途なことを寒の水


  竹内芳子(群馬)
   落鮎
立春の音鳴らしてはピアノ拭く
ふらここに夕日を残し子ら去りぬ
柳絮舞ふあなたに山河霞みをり
うつさうとしてゐて涼し橅林
浅沙咲く沼の隙間に空ありぬ
伐採の音しきりなる炎暑かな
山吹や瀞をはなるる水の音
幾度も水を打ちては人を待つ
泊らずに帰るふるさと盆の月
大西瓜気合を入れて抱へけり
こほろぎに夫との会話つつぬけに
味噌蔵の高き小窓や秋の風
水引の揺れては紅を深めけり
秋刀魚焼く炭火を夫が熾しをり
庭手入れこんな所に鵙の贄
落鮎の刹那の命きらめけり
松手入梢にかかる昼の月
若き日の白衣の写真秋惜しむ
今日もまたけふいちにちの落葉掃く
粧ひを解きし山々初しぐれ

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