最終更新日(updated) 2007.03.06 

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成17年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による俳句コンテストで、今回(平成16年11月〆切り)が12回目となります。1篇が25句で、本年は応募総数93篇でした。これを先ず予選選者8名で30篇に絞り、更に主宰以下8名の本選選者によって審査され、賞が決定しました。


 発表
 平成十七年度 第十二回「みづうみ賞」発表第十二回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。

         平成十七年五月 主宰 仁 尾 正 文

  
   みづうみ賞 1篇
     雪 蛍  荒井孝子(群馬



   秀作 8篇
  菊人形 横田じゅんこ (藤枝)
指疼く 清水和子    (浜松)
凧揚げ 辻すみよ    (静岡)
蕎麦の花 大石ひろ女  (佐賀)
北京ダック 大村泰子    (浜松)
冬ザクラ 飯塚比呂子  (群馬)
粥 柱 奥野津矢子  (北海道)
秋のこゑ 浅野数方    (北海道)

    
   佳作 10篇
  浦 曲 竹元抽彩   (松江)
森の木 中山雅史   (浜松)
曲り家 星 揚子   (宇都宮)
蛇の衣 鈴木 匠   (群馬)
柳の芽 山本美好  (静岡)
桐一葉 大塚澄江  (静岡)
宍道湖の四季 錦織美代子 (島根)
会津の大地 荒川政子  (宇都宮)
坂東太郎 安田青葉  (東京)
むささび 小林布佐子  (北海道)

 
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 選外 佳作 11篇
白 寿 村上尚子 蕎麦の花 大石美枝子
初仕事 大山清笑 女ごころ 村松ヒサ子
木の芽雨 佐藤升子 冬銀河 西村松子
秋高し 原 みさ 魚 影 横手一江
初 蝶 宮川芳子 胡麻筵 野沢房子
牧開き 小玉みづえ

      

  作品及び受賞の言葉

   みづうみ賞


(群馬) 荒 井 孝 子

雪  蛍

  命果つるまでの修羅あり春の闇
  春吹雪犬のまつはる柩出づ
 夭折の子の骨拾ふ春の雪
 春浅し微笑める子の遺影抱き
 雪間より命あるもの萌え出づる
 寒明くる厨は泪拭くところ
 月命日来るあをあをと蓬餅
 墓の供華より初蝶のとびたてり
 美しき子の戒名や夕桜
 ひとひらの花の付きたる墓標かな
 梅雨晴間形見の眼鏡かけてみる
 蛇苺踏まれぬための色なりし
 寂しさに吊る風鈴の鳴りにけり
 医学書と漫画の本を曝しけり
 水打ちて祭の一と日遠くをり
 炎天の蟻に大志のありにけり
 一草も許さず引けり墓の草
 不如帰鳴くだけ鳴きて発ちにけり
 刻みゐる遺愛の時計秋立てり
 朝夕の遺影に声をかけて秋
 在りし日のままの一と間や萩の風
 短日や遺されしものこまごまと
 思ひ出の詰まる引出し秋の声
 天命と思ふ一世や草は実に
 吾の方に近づいてくる雪螢

 
 受賞のことば


 息子の一周忌をすませ、ようやく心の中にやすらぎの時間を取り戻しはじめた春半ば、「みづうみ賞」の通知をいただきました。驚きと喜び、そして悲しみ、複雑な思いでこの賞の決定を受け止めました。
 ささやかな趣味として俳句を始め、ここまで続けて来られたのは夫と息子達の大きな支えでした。短かい生涯を閉じた子への感謝の思いを込めて「雪螢」の鎮魂の句を作りました。
 これからの残された人生は、夫と共にひたすら息子の供養に明け暮れますが、それぞれの趣味に生き、己の俳句に傾注することでもあります。
 これまでの仁尾主宰をはじめ白魚火のみなさまの暖かいご指導とお励ましに深謝申し上げますと共に、今後共よろしくお願い申し上げます。

 住 所 群馬県吾妻郡

 生  年 昭和十七年

 俳  歴
  昭和五十九年白魚火入会
  昭和六十三年度 新鋭賞受賞
  平成元年    白魚火同人
  平成八年    みづうみ賞秀作
  平成九年    みづうみ賞秀作
  平成十年    みづうみ賞秀作
  平成十一年   みづうみ賞秀作
  平成十二年   みづうみ賞秀作
  平成十六年   みづうみ賞佳作
 



 秀 作 賞


  横田じゅんこ (静岡)

   菊 人 形

 宙つかみ風をつかみて揚雲雀
 亀鳴けり御伽噺の好きな子に
 入口も出口も一緒苗木市
 涅槃図の後ろ寒寒してをりぬ
 一山を揺さ振つてゐる滝の音
 花茣蓙を畳めり裏も花模様
 風鈴の音一つ売れ一つ減る
 身の内にこれだけの水汗の噴く
 えごの花一気呵成に散りしかな
 明日はまた明日の彩に七変化
 河骨に水の身じろぎなかりけり
 木の実独楽中の一つは利かん坊
 気休めに立たされてゐる案山子とも
 コップ酒農機具にかけ秋祭
 朝顔にありし折れ目の几帳面
 毎日が育ち盛りの西瓜かな
 夜も菊着て人形の眠られず
 恙無し湯婆にある肋骨
 冬至柚子使ひ忘れてしまひけり
 母とゐてことばは要らぬ冬桜




  清水和子 (浜松)

   指 疼 く

 くきくきと雉の歩める風の中
 水温む父のベレーの被り癖
 指疼く夜は花冷えと思ひけり
 小町の忌一枝も挿さぬ壷を置く
 藤棚の奥より夕べ迫りくる
 水張りし田の面に風の走りけり
 花火見る漁終へてきし船仕立て
 忘れゆきし玩具音出す夜の秋
 新涼の煙一すぢ上ぐる寺
 西行の二度越えし山秋茶摘む
 本降りとなる十六夜の酒少し
 秋の鮎薪積みあげし宿の軒
 木犀や時折変る風の向き
 とろろ汁話は母に及びけり
 松手入仰ぎ見をれば見下ろされ
 冬立つや海境に船一つ置き
 ぎしぎしと葉をきしませて大根引く
 水涸れの沈下橋なり渡りけり
 鳥籠のこぼれ餌に寄る寒雀
 大寒の飯噴く匂ひ籠りをり




  辻すみよ (静岡)

   凧 揚 げ

 輪飾の掛けある井戸の水を吸む
 初売りを盛り上げてゐる梯子乗り
 待春の重なり合へる千羽鶴
 不意に来し波を真面に海苔掻女
 花大根薄むらさきの朝が来し
 風船に息吹き入れて飛ばしけり
  凧揚げの糸弓なりに立ちあがる
 受け答へ直ぐにはできずシクラメン
 牡丹剪る心重たくなつてきし
 捩花の間延びしてきし螺線かな
 あかときの子豚生まるる花樗
 風走る青田の景となりにけり
 蝉の羽化見る少年の一途なる
 赤とんぼいつも日差しの中にゐて
 花野より花野眺めてゐたりけり
 明日は晴れ花野に靴を飛ばしけり
 輪になつて民話聴きをり冬うらら
 北山に雲のはだかる時雨かな
 借りて着る温み残れるちやんちやんこ
 川面にも日溜りのある鴨浮寝




  大石ひろ女 (佐賀)

   蕎 麦 の 花

 秋潮や指さす方に佐渡見えて
 台風の余波に揺れゐる定期船
 秋風の流刑の島に来たりけり
 遥かなる水平線や秋桜
 放牧の牛に日当たるねこじやらし
 キリシタン塚は色なき風の中
 ななかまど四方を海に囲まれて
 どの径も海に行き着く芒風
 黄昏は海より来たる蕎麦の花
 潮騒の中に聞きたる夜のちちろ
 曼珠沙華魔除けに吊りし大草鞋
 鐘楼のなき寺に聞く鉦叩
 千年杉すつくと立ちてつくつくし
 椿の実砂金掬ひに笊使ひ
 草の花身の幅ほどの径歩く
 船頭の赤き脚絆や野紺菊
 天高し櫂の短かきたらひ舟
 秋茜能楽堂に日の射して
 露草や賽の河原の石まろく
 稲架掛けて佐渡は海より暮るるかな




  大村泰子 (浜松)

   北京ダック

 待春の豆ふつくりと煮上がりぬ
 煎りたての豆をむんずと年男
 字小字四方に芽吹山連ね
 別れ霜伊賀は山脈従へて
 暗きよりシテ現るる薪能
 護摩焚ける焔の上がる安居寺
 薔薇咲くや習ひたくなるフラメンコ
 夏柳蔵町に聞く時の鐘
 笹山に潮の香届く土用かな
 自在鉤かすかに揺るる晩夏かな
 夜咄の茶事に松虫鳴きにけり
 らふそくの手燭を持てる無月かな
 色変へぬ松や門前町市場
 群を追ふ羊飼ゐて草紅葉
 冬近き路地入口の天麩羅屋
 居間に掛くる短冊替ふるお茶の花
 小春日の木椅子に窪みありにけり
 銘柄を変へて酒買ふ石蕗の花
 着水の水輪拡ぐる番ひ鴨
 寒波来る荷台に北京ダックかな




  飯塚比呂子 (群馬)

   冬 ざ く ら

 一羽来て五羽来てはづむ初雀
 懐に餅を二切れ山始
 抱き来て達磨どんどの火の中へ
 龍の玉かくれクルスの墓探る
 父の忌や春めきて山動き出す
 春耕の新らしき鍬匂ひけり
  夕方の投げ売り狙ひ苗木市
 座禅草見に来て芹を摘みにけり
 甌穴に魚影のはしり五月来る
 浅間嶺の雪消え代田掻きにけり
 足跡に濁りのよどむ植田かな
 通し柱二尺二寸の夏座敷
 かなかなや縁より暮るる山の畑
 子の一家かけつけて稲刈りにけり
 草の絮空の碧さに見失ふ
 ポケットに橡の実ひとつ旅終る
 唐織の几帳に紅葉あかりかな
 初冬のまたぎの里に獣臭
 涌泉の底まで冬陽とどきけり
 散り際を風のさらひし冬ざくら




  奥野津矢子 (北海道)

   粥   柱

 綿虫や大きくひらくたなごころ
 夜を這へる家蜘蛛冬の始まれり
 鉾墓の朽ちし辺りの雪ばんば
 朽野や木墓おのづと傾きぬ
 園丁に声かけらるる冬日中
 冬晴やがやがや渡る太鼓橋
 剥製の鮭の生き生き雪明り
 幻てふいとうの泳ぐ十二月
 かんじきを貸し出してゐる美術館
 子の揃ひ今宵柚湯となりにけり
 エプロンの紐締め直す湯ざめかな
 朝風呂をたてて雪掻きはじめけり
 食積のひとつは母の好きなもの
 母のこと叱つてしまふ粥柱
 寒紅を曳くほほゑみの形して
 四の五のと言はぬつもりの寒鴉
 寒明やつぎつぎ鵯の入れ替はる
 雪像の天辺に腰掛けて彫る
 蜆買ふ突ついて命確かむる
 似合ふまで試してをりぬ春帽子




  浅野数方 (北海道)

   秋 の こ ゑ

 地虫鳴く社務所に並ぶ能の面
 集落を幾つも越えてちちろの夜
 山里の宮司はをみな秋桜
 古民家の二畳の仏間濃竜胆
 生掛屋の庇に這はす糸瓜かな
 朝市のかかさの朝餉栗ごはん
  今年酒量り売りする路地の市
 秋簾巻き締め路地の店仕舞
 学僧のくぐる三門初紅葉
 一本の和蝋燭より秋のこゑ
 重陽や撞かせて貰ふ寺の鐘
 寄り合へる合掌の里実南天
 天下御免どぶろく祭の荒筵
 唐棹のくるりくるりと秋高し
 絵葉書をどうぞと神父蔦紅葉
 小春日や両手ひろぐるマリア像
 落葉から栗鼠の貌出す文学館
 雪ばんば煙の太き畑仕舞
 荒星や繋がれてゐる狐鳴く
 彫りさしの小面山の眠りけり


 佳 作

  

  竹元抽彩 (松江)

   浦   曲

 嬰児を回し抱きして女正月
 採立ての海苔一摘み朝餉汁
 風旗を立てて棚田の畦を焼く
 春休み釣宿となる浦十戸
 花ちるや路地筒抜けに風の径
 新品の網を広げて三尺寝
 炎昼や浜に魚臭の風起る
 帰省子のギター流るる夜の波止
 揃ふまで待つて浦曲の盆踊り
 爲さんは浦の長老敬老日
 朝寒や荷揚場いつも殺気立つ
 不器用な駐在さんや河豚を干す
 風花や急坂多き通学路
 年忘れまづ揚船に酒そそぐ
 浦里は風の音のみ年暮るる




 中山雅史 (浜松)

  森 の 木


 急流に魚影とどめて更衣
 熱きまま祭りの燭の外さるる
 吹かれゐる遠つ淡海の蛇の衣
 川へ落ちさうな昼寝の男かな
 新しきワイシャツ合はぬ敗戦忌
 師系図に破門の絵師や猿酒
 朝霧の消ゆるを待たず竹を伐る
 獣みな目の美しき野分かな
 神渡し盃に酒あふれさす
 山眠る弥勒は指を細うして
 クレヨンの青の短き寒の入
 海境の少うし撓みすみれ咲く
 マジシャンの鳩を取り出す春怒濤
 蝋涙や出郷の夜の樫の花
 森の木と話す八十八夜かな




  星 揚子(宇都宮)
 
   曲 り 家

 吸ひ込まれさうなる古井春の宵
 曲り家の広き厩のあたたかき
 木の橋をゆつくり渡る日傘かな
 碑の文字を格子戸越しに見て涼し
 眠りたるやうなへの字の蜥蜴かな
 日盛の針の短かき花時計
 語り部の顔いつぱいに汗拭ふ
 星祭オカリナの音のやはらかき
 泡立草風に黄の波打つてをり
 風そよぐたびに隠るる秋の蝶
 箱膳の納まりよろしちちろ虫
 雨に色深めし桜紅葉かな
 碑は西向いてをり鳥渡る
 かつと見しままに蟷螂枯れゆけり
 鉄橋を過ぎゆく電車冬の月




  鈴木 匠 (群馬)

  蛇 の 衣

 裁つ着けに腓入らぬ春神楽
 あかときの寒戻りたる眉の月
 地方紙にくるまり届く黄水仙
 ドラム罐に種浸しある山家かな
 メーデーの警邏の巡査しんがりに
 山繭の縒り糸のうすみどりかな
 六月の行商磯のにほひせり
 蛇の衣吾に脱ぐもの何もなし
 やはらかき膝を枕に業平忌
 始まりはフラッシュほどのはたたがみ
 炎昼やクレーンの腕よく伸びて
 短冊を一都に替へぬ夏椿
 奥宮へ薄暗がりの男郎花
 水洟のにはか大工となりにけり
 無季俳句父の形見の外套に




  山本美好 (静岡)
  
   柳 の 芽

 振る舞ひの酒にどんどの火屑かな
 犬ふぐり空の色より外知らず
 日溜りの何処に座しても仏の座
 足元を飾りて椿落ちにけり
 水面掃く風柔らかき柳の芽
 蹲踞に組みしばかりの花筏
 日当りて見る見る開くチューリップ
 海涼し渚に浸す土踏まず
 咲き次ぎて下火となりし百日紅
 秋めくや庵に近き水の音
 彼岸花あとかたもなく消えにけり
 花芒きのふの向きと今日の向き
 青空に余白のありて鰯雲
 逆縁の子よ霜月の星一つ
 凩に負けぬ一人の生活かな




  大塚澄江 (静岡)

   桐 一 葉
  
 家苞は切山椒に決めてをり
 風強し海苔簀に海苔簀重ね干し
 野方図に枝を広げて野梅咲く
 沈丁に集まりやすき風のあり
 ポケットに携帯電話青き踏む
 手に乗せし天道虫のこそばゆき
 滴りが滴りを生み滴れる
 曖昧な高さに舞うて夏の蝶
 その先は宙に浮きたる忍冬
 浜茶屋に飾る七夕潮じめり
 かち烏こんがらがりし巣を作る
 桐一葉母は仏となりしかな
 紅葉の真つ只中にゐる私
 日を追うて陣を移せし沼の鴨
 をちこちに年木積みある寺領かな




  錦織美代子 (島根)
  
   宍道湖の四季

 みづうみに朝の始まる蜆舟
 舫ひ綱張りては弛む芦の角
 生徒等の課外授業の蜆とり
 葭の笛吹いて葭切鳴かせけり
 向日葵を咲かせ湖北の休耕田
 雲の峰湖へ延びたる滑走路
 空港の灯の点りたる月見草
 行々子河原に声を競ひをり
 根無草風穏やかな舟溜り
 嫁ヶ島淡墨色の夜涼かな
 カンナ燃えみづうみへ向く無人駅
 釣人の丈余の芦を背に負ひて
 鰡飛んでとんでみづうみ暮れんとす
 宍道湖に一舟もなし神渡し
 穏やかに暮るるみづうみ鳰の声




  荒川政子 (宇都宮)

   会津の大地
  
 まんさくや漆器問屋の鬼瓦
 アカシアの花天領の空の下
 万緑や鉞を研ぎ鑿を研ぐ
 鑿涼し若き木地師の二人ゐて
 山法師火気厳禁の漆漉し
 塗素地のほどよく乾く萩の風
 故郷はあかがねの町芋穀焚く
 子育て地蔵いつも人来る小鳥来る
 芒野を走る一輌只見線
 手休めの自然薯掘りの木地師どち
 仕事あがりの熱燗二合雪しまく
 木地師小屋木地師二人の牡丹鍋
 漆器納め終へたる夜の根深汁
 火伏せ神祀る大梁大囲炉裏
 神木に二礼二拍手斧始




  安田青葉 (東 京)
  
   坂 東 太 郎
 
 夜桜や黄泉の入口かもしれぬ
 飛花落花やさしくされてさみしかり
 てのひらに貰うて軽き桜貝
 寺山忌五月の空を愛しけり
 薔薇の香やくちびる触るるほど寄せて
 葉は剣花は盾とし花菖蒲
 男振りあつぱれ坂東太郎かな
 路地縫うて朝顔市の猫車
 傘の花ぱつと四万六千日
 後の月うれし涙は背を向けて
 武蔵野のもみぢ夕日の色のせて
 眠らざる夜の銀座のいてふ散る
 酉の市一番星の出てゐたる
 山茶花や昔のままの細き道
 下町の辻商ひや花八手




  小林布佐子 (北海道)

   む さ さ び
 
 里もみぢ直方体の熊の罠
 砂金沢これより先は鹿の山
 鹿群るる川幅広くなるところ
 湖をこえて色なき風となる
 一村の雨に籠もれる鬼城の忌
 蕎麦を刈る空をいちにち雲流れ
 薪を割り薪積み上ぐる小六月
 裸木に遊べる栗鼠の頬ぶくろ
 ふくらめる狐の尻尾初氷
 雪吊りや跡継ぎのゐる山の寺
 熊を見し話もちきり茸鍋
 初雪や村が物音失へり
 冬暁や通学電車灯し来る
 むささびの来てゐる寺の厨窓
 せはしなき栗鼠や大雪注意報


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