最終更新日(updated) 2025.02.01

令和7年 白魚火賞、同人賞、新鋭賞
           
      -令和7年2月号より転載

 発表

令和七年度「白魚火賞」「同人賞」・「新鋭賞」発表

  令和六年度の成績等を総合して下の方々に決定します。
  今後一層の活躍を祈ります。
              令和七年一月  主宰  檜林 弘一

白魚火賞
坂口 悦子
野田 美子

同人賞
鈴木 誠

新鋭賞
安川 理江

  白魚火賞作品
坂口 悦子

     木の根明く
畳屋の背中に屋号針供養
ミモザ咲く茶房にパリの風景画
野外劇始まる予感木の根明く
春の川稚魚は光の海目指す
やはらかな春日重ねて産着縫ふ
母の日の紅茶に落とすローズジャム
早苗田の濁り沈めて月上る
蝙蝠や逢魔が時の風ぬるし
アイスティー明るき雨のテラス席
無防備に寝る子の重さ秋うらら
星月夜ひかりの帯となる列車
約束の場所へ小走り秋の虹
見送りの言葉に詰まり秋扇
約束は点滅五回秋蛍
虫かごの蜻蛉放してバスに乗る
葡萄食ぶ墓の話に加はらず
知床の五湖は五色に秋の声
神の留守時に乱るる心電図
雑炊に玉子を花と散らしをり
双六の大金持ちで上がりをり

白魚火賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば>  坂口 悦子                 

 この度は、白魚火賞をいただき有難うございます。
 このような大きな賞を目の前にし、嬉しさよりもこれからどのような句を作って行ったら良いのか、また作れるのか戸惑いの方が大きく大変恐縮致しております。
 七年前、浅野数方さんが季寄せを持ってふらりと現れ、にこやかに「季語入れて五・七・五。来週までに三句ね」。この言葉から私の俳句が始まりました。
 吟行の時には花の名前や鳥の名前、風の事、雲の事などなど自然音痴の私には驚きと発見がいっぱいでした。
 季節が巡る度に知らなかったことを少しずつ覚える、肌で感じた季節を言葉に置き換える、そんな少しずつをゆっくりと積み重ねた時間だった様に思います。
 見たもの感じたものを一度自分の中に取り込み自分のフィルターを通して十七音の文字にする。正解もなければ不正解もない、そんな俳句にすっかり夢中になってしまいました。
 これからは自分だけの楽しみに終わる事なく俳句の楽しさを大いに外に発信し続け、仲間を増やし、少しでも多くの俳句仲間と楽しさを共有できたらと思っています。
 最後になりましたが、白岩敏秀前主宰、白光集選者村上尚子先生はじめ諸先生方、知更鳥句会・実桜句会の諸先輩方のご指導に感謝いたします。有難うございました。
 これからも精進を重ねて参る所存でございます、今後ともご指導賜りますようお願い申し上げます。



 経 歴
本  名 坂口 悦子(さかぐち えつこ)
生  年 昭和三十一年
住  所 苫小牧市

 俳 歴
平成三十年 白魚火入会

令和三年  白魚火同人
令和四年  俳人協会会員


~悦子さん がんばりましたね~   浅野 数方

 ただただ、おめでとう~おめでとう~おめでとう。
 悦子さんの努力の賜です。気を抜くことなく俳句と向き合ってきたからこそ戴けた白魚火賞です。胸を張ってください。
 七~八年前、俳句に誘うと「能力が無いので無理」と、きっぱり断られました。読書が大好きで漢検、英検に夢中になり、塗り絵、パッチワーク、旅行や美術館巡りと多趣味である悦子さんを俳句に引っ張り出すのは大変でした。
 何とか白魚火入会に辿りつき、リモート句会に誘ったところ、ストイックな悦子さんは案の定、俳句にのめり込みました。「あ~~分からない分からない」「何が分からないのか分からない」と悩んでいました。私は「悩め、悩め」と面白がり、「分からない事が分かればもう安心」と。独りで句と向き合う下地が出来ていたのです。好きなようにやってみたら…と突き放すことができました。
 すると、ペン字の練習だと言っては、みづうみ賞や好きな俳句を書き写し、季語が分からないと言ってはパソコンで季語集を作る。考えて努力をしている訳ではなく、せっかちなので何かしら動いていなければ満足しない性格のようです。
 またリモート句会では、「句としては成り立たない」「季語の本意ではない」、主宰からも「最近の悦子さんの句は、おとなしくてパンチがないね」等、皆さんからの激励にまた悩む。悩む種を沢山与えて下さったリモート句会の方々に感謝していました。私もそう思います。
 小さな日常が積み重なって俳句の「分からない」という壁を乗り越えているのでしょう。これからも沢山の壁にぶつかります。
 その都度乗り越えて下さいね。
二〇二二年(令和四年) 苫小牧市民文芸第六十四号
市民文芸奨励賞  坂口 悦子
 「支笏湖逍遥」
  残雪の映ゆる支笏湖青極む
  湖の近づく気配夏きざす
  夏空や観光船の水脈長し
  新緑や山懐の奥の奥
  老鶯のひと声に足止まりをり
  ライダーの青葉若葉を縫ひ来たり
  万緑を余す事なく水鏡
 この頃から北海道や苫小牧での俳句大会に数々入賞されています。これからも地域に根ざして更なる活躍を期待します。
 また、野歩女さんから引き継いできた「実桜句会」も二〇二五年度から代表を悦子さん、事務局長をやす美さんにお願いをしました。北海道を視野に入れた新しい実桜句会を作って下さい。
 改めて白魚火賞受賞おめでとうございます。
 《やったぜ悦ちゃん!》

  白魚火賞作品
野田 美子

     平和
彫り立ての龍より木の香初やしろ
小正月手首に輪ゴム付けしまま
ゆつたりと雲は峠へ初観音
春まぢか過ぐる園児にシャボンの香
囀や小鼻膨るる鬼瓦
げんげ摘む川向うより山羊の声
永き日のあぶくの動く水溜り
葉桜や砲弾型の慰霊の碑
バケツごと友へ筍届けたり
更衣蛇行のたびに川膨る
梅雨晴やロバのパン屋の路地に入る
夏萩や列車のよぎる裏参道
青田へと風呂焚く煙の流れゆく
秒針の影は前後に長崎忌
溶けかけのチョコレート舐め敗戦日
雲間より嶺に日の差す送り盆
椿の実拾ひ御廟の磴のぼる
落慶の檜のにほひ霜日和
夕しぐれ淡き火影に曼荼羅絵
豆腐屋のラッパ遠のく開戦日

白魚火賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば>  野田 美子                 

 この度は栄えある白魚火賞を賜りありがとうございました。
 突然のお知らせに過呼吸になったかと思うほど驚き、涙が頰をつたいました。
 俳句をきちんと勉強したいなぁ~と思っていた私でしたが、白魚火はあまりにもレベルが高く、こんな凄い結社で果してやっていけるのか何度も自問自答しました。でも、母早都女が亡くなる寸前まで俳句を通して充実した時を過ごしていたのを思い出し、平成二十八年清水の舞台から飛び降りるつもりで白魚火に入会しました
 近隣に白魚火の句会がないからどうしようと考えていたら、静岡県から村上先生、渥美先生がはるばる指導に来てくださり、愛知、岐阜、三重の三県の句友を集め句会が始まりました。
 名古屋句会の誕生です。
 句友の皆さんの豊かな表現力や先生方の的確な指導にこの世にこんな素晴らしい世界があったのか・・・と驚き、あっという間にのめり込んでいきました。
 決して平坦な道ではありませんでしたが落ち込んだ時には句友の励ましが力となりました。
 白岩前主宰は白魚火集の選で忙しい最中でもリモート句会に参加してくださり、一句一句丁寧に指導をしてくださいました。
 村上先生や渥美先生も時間をみつけては新幹線で駆けつけ、今日まで指導を続けてくださっています。
 多くの方々に支えられ、研鑚を重ねることができた八年間であったと思います。
 改めまして白岩前主宰、村上先生、渥美先生、句友の皆さまに心より感謝申し上げます。
 再びスタート台に立ったつもりで精進を重ねて参りたいと思います。また、一人でも多くの人が俳句を通して豊かな人生を送れるよう尽力して参りたいと思います。
 今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い致します。



 経 歴
本  名 野田 美子(のだ よしこ)
生  年 昭和三十二年
住  所 愛知県丹羽郡

 俳 歴
平成二十八年 白魚火入会
平成三十一年 白魚火同人
令和元年   みづうみ賞秀作賞
令和三年   みづうみ賞奨励賞
令和四年   白魚火八百号記念随筆賞秀作賞
       みづうみ賞秀作賞
令和六年   みづうみ賞秀作賞


野田美子さんに乾杯   伊藤 達雄

 野田美子さん白魚火賞受賞おめでとうございます。
 名古屋句会での愛称は、「美子さん」、ライン名は「野田っち」です。
 野田さんとの出会いは平成二十九年の長野県高森町の吟行でした。私にとっても美子さんにとっても初めての吟行句会でしたが、待ち合わせのバスターミナルで、大きな声と笑顔で、不安一杯の私の肩にかかる力をやんわりとほぐしてくれました。
 井伊直政の父を匿っていた寺を詠んだ、
  井伊の血を守りし寺や梅香る
に高得点が入っていたことを覚えております。入会後一年あまりで、何と美子さんは五句欄に掲載されました。
  スナメリのヨットと競ひ空青し
  夕立の最中に来たる豆腐売り
  乾杯の頃にビールの泡消ゆる
  登山靴のひも締め直す遭難碑
  蟬時雨叩いて捏ぬるパンの生地
 みずみずしさとクスッと笑えるようなユーモアに富む美子さんらしい作品です。
 そして令和三年には、ついに巻頭をとられました。
  禅堂に衣摺れの音はだれ雪
  待針を数へて戻す春の雨
  桜蕊ふる遮断機の撓りゐて
  弛びたる電線の影蝶の昼
  ずれたるまま終はる合奏チューリップ
 着々と力を付けてこられたことがよく分かる句です。
 作句は日常の題材も多く、細やかな観察力で、こんな見方もあるのかと常々感じ入っています。
 また、名古屋句会の立上げ、運営に奔走され、檜垣会長の右腕となり、テキパキと問題を片付け、欠かすことのできない人となっておられます。ひととなりは、一言で申せば、行動力があり、且つ繊細な気配りと気風のよさでしょうか。若いですが「姐御タイプ」と、句会仲間の共通の認識です。
 俳句へのきっかけは、白魚火でもご高名なご母堂様の影響が大きかったとお聞きしております。血筋を受け継がれておられ、その熱心さには頭が下がります。
 今後も個性豊かな俳句を詠まれ、句友の目標となって下さることを願っております。
 本当におめでとうございます。
同人賞
鈴木 誠

トランプの婆持つ娘よく喋る
咲きましたと梅の宿より便り来る
記念樹のマロニエ芽吹く美術館
讃岐富士正面に見て遍路笠
畦道も遍路道なり鈴の音
水口の切られ春耕初まりぬ
白牡丹言ひたき事の一つあり
風の声して竹皮を脱ぎにけり
波を追ひ波に追はるる夏帽子
黒南風や補陀落渡海ありし浜
堰板を抜きて水番去り行けり
錫杖の音こだまして秋に入る
和ばさみの糸切る音や涼新た
生御魂ジョッキ片手に武勇伝
同行の杖を洗ひて萩の宿
校庭に跳箱一つ秋の暮
神の留守ごろ寝してゐる妻と猫
銃口の先に冬鳥遊びけり
編み直す母の匂ひの毛糸玉
薪一つ足して大根の炊き上がる

-同人賞受賞の言葉、祝いの言葉-
<受賞のことば> 鈴木 誠              

 この度は、同人賞を頂き誠にありがとうございます。妻が勝手にカルチャーセンターに申し込んだ時から俳句との付き合いが始まりました。幸運であったのは、その俳句講座の先生が仁尾正文主宰(当時)だったことです。今でも覚えている事は、最初の句会で先生からカセットテープを渡されて、聞いておく様にと言われたことです。それには小学生の俳句が入っていて〝天国はもう秋ですかお父さん〟と言う句でした。そして先生の説明には、こうしたドラマチックな事は中々在るものでは在りません、何気ない日常を見つめて俳句にしなさい、とのお言葉でした。そうしたご指導のもと気付けばもう二十年余も過ぎてしまい、今は村上尚子先生のご指導を受け句作りを続けております。思えば、仁尾先生、黒崎先生(仁尾先生の朋友)、村上先生と素晴らしい指導者に恵まれた私は実に果報者です。又、句友にも恵まれ、今回の受賞に当たり私のプロフィールをお願いした阿部芙美子さんは最初に隣の席で俳句のいろはからたしなみを教えて頂いた先輩です。いまでは、何でも言い合える、お姉さんです。他にも数多くの句友に恵まれて、ただただ何も考えず、俳句を楽しんで来ました。ところが、確か札幌大会の時だったと思います。白岩主宰(当時)にご挨拶に伺った時です。私が挨拶をすると「鈴木誠さんですね」と私の名前をおっしゃって頂きました。何百人といる会員の中で私の名前も覚えていて下さる事に感激致しました。白魚火集と白光集、合わせて毎月十二句を揃えるのに、四苦八苦をしている毎日ですが、主宰、村上尚子先生に選んで頂ける様に頑張っております。
 こんな私を同人賞に選んで頂きました、白岩前主宰、安食編集長、村上先生に心より感謝致します。


 経 歴
本  名 鈴木 誠(すずき まこと)
生  年 昭和二十三年
住  所 浜松市

 俳 歴
平成十六年  白魚火入会
平成二十五年 白魚火同人
       俳人協会会員

個性ゆたかに   阿部芙美子

 鈴木誠さん、「同人賞」受賞おめでとうございます。
 誠さんから今度同人賞を貰える事になったとお聞きした時は本当に嬉しかったです。誠さんが浜松社会保険センターの俳句講座の「円坐句会」に入ってこられたのは平成十五年だと記憶しています。この時期を前後して弓場さん、亡き大城さんが入会され、この三人が理系で、俳句が私の発想出来ない様なものが多く、何だか解らないけれど斬新で面白くて、少なからず刺激を受けたものでした。
  蜻蛉飛ぶ空は無限の蒼さかな
  冬やつて来いよとポプラ仁王立ち
  シベリア気団蹴飛ばして桜咲き
 初期の頃の作品ですが、思いつくままに自由に詠んでいる様な若さを感じました。
 「円坐句会」では毎年合同句集を発行しているのですが、誠さん初参加の俳句欄の下の短文に「私は光を扱う技術屋です。理屈が物言う世界で生きて来ました。……光の究極は、時に波で有ったかと思うと粒であったりするんです。〝渾然として且つ論理的な不思議な世界です〟何処か俳句の世界に似ていると思いませんか。」と誰かに宣戦布告をしている様に書いています。
 そして平成十九年の浜松白魚火大会で仁尾先生の特選に
  タンジェント九十度なり冬銀河
が入りました。
 先生の選評は誠さんの理屈とは全く関係なく「昔習った三角関数を俳句に持ってきたのが面白い。サイン、コサインでは無くタンジェントが良い」と話されました。この句は私も鮮明に覚えていて、俳句とはこういうものなんだと教えられたような気がしました。
 趣味の多い誠さんですが、遍路に何度も行かれ結願もされています。
  秋風に輪袈裟なびかせ伊予に入る
  逆打ちの遍路と出会ふ沈下橋
  鈴鳴らし同行二人花野行く
  結願の寺まで三里秋遍路
 他にも紹介したい句は沢山有りますが、それは自撰二十句で鑑賞頂けたらと思います。
 これからも誠さんらしい個性豊かな楽しい俳句を詠んで、皆を貴方の世界に誘ってほしいものです。
 改めて誠さん本当におめでとうございました。

   新鋭賞 
    安川 理江

   北の街
元日や夜明けを待たぬ新聞店
長き髪きりりと結び寒稽古
温かき祖母の形見のコート着る
泣き笑ひ色々ありて卒業す
いつせいに花咲き揃ふ北の春
たんぽぽの沢山咲いて秘密基地
友の言ふ北の桜は雪のやう
鳴らぬかと鈴蘭そつと振つてみる
思ひ出は遠きに沈む夏の海
香水の瓶の形はマーメイド
過ぎしこと過ぎしこととし遠花火
パレットになき色ばかり初紅葉
悲しくて紅き林檎に齧りつく
ふんはりと長きまつ毛に雪が乗る
唇を強く嚙みしめ雪を搔く

新鋭賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば> 安川 理江                

 このたびは新鋭賞をいただき、ありがとうございます。最初にお手紙をいただいた時は「何かの間違いかな」と思い、大変驚きました。
 未熟な私を選んで下さった白岩敏秀先生、村上尚子先生、白魚火の諸先生に厚くお礼申し上げます。
 高校生の頃から俳句に興味を持ち、折に触れ俳句を作っていましたが、「これで良いのだろうか」と悩んでいました。
 今井星女先生の俳句を読んだ時、「こんな俳句が作りたい」と強く思うようになりました。父が仕事でお世話になった方の奥様が星女先生の古くからのご友人でその縁で幸運にも先生に師事することが出来ました。
 現在は、家の事情で句会に参加することが出来ませんが、日々の暮しの中での何気ないことから季節の移ろいを感じるようになり、そこから俳句の材料を探すのが楽しみになりました。
 思うような俳句を作ることが出来ずに落ち込む私に、「このままで大丈夫だから」と励まして下さった今井星女先生。「諦めずに続けることが大事」といつも言って下さった森淳子さん。句会に参加出来ない私を気に掛けて下さり、相談に乗って下さる広瀬むつきさん。私の体調を気遣って下さる先輩方。日々、皆様に感謝しております。
 まだまだ未熟ですが、これからも長く俳句を続けて行きたいと思います。

 経 歴
本  名 安川 理江(やすかわ りえ)
生  年 昭和五十四年
住  所 函館市

 俳 歴
平成二十八年 白魚火入会
平成三十年  白魚火同人
令和五年   俳人協会会員


    お祝いの言葉   広瀬むつき

 理江さんのこの度の「新鋭賞」受賞を心よりお祝い申し上げます。
 理江さんは、平成二十七年に今井星女先生の紹介で函館白魚火会に入会されました。若々しい理江さんの入会に、会員の私共は大喜びでした。
 理江さんは新聞店の娘さんとして生まれました。お父様の方針で「家業をひとつでも覚えることも勉強」と、小学六年生の冬から中学三年生の春まで夕刊の配達をされていたそうです。辛かった日々もあったようですが、今では所長の弟さんの片腕として新聞店を支えられている働き者です。
  吹雪く中新聞庇ひ配りけり
  あかぎれの指で折りたる夕刊ぞ
 会に参加され、元気に活躍されていた理江さんだったのですが、四、五年前からお母様の体調が悪化し、やむなく不在投句という形を余儀無くされました。不在投句の形を取りながら、お母様の看病や新聞店の仕事に現在も携わっておられます。
  病院の待合室にフリージア
  折れさうな母を支へし春の朝
 諸事情はあっても、理江さんの俳句にかける情熱はしっかりしていて、句会の句も提出日までには必ず句会報担当の富田さんの所に句が届いています。立派です。
 理江さんの句からはいつも「夢」を感じます。高校の時に抱いた俳句への憧れをずっと持ち続け、心底には若い女性らしいロマン溢れる句作りを追い求めているように感じられます。
 村上尚子先生からは、こんな句も採り上げられておりました。
 白光秀句 村上尚子(平成三十年五月号)
  ふんはりと長きまつ毛に雪が乗る 安川理江
 (前掲句に対する評)「こちらは今年も大雪で苦労された函館市。三十八歳という、若い作者の長い「まつ毛」に一片の雪が「ふんはり」と乗ったという。雪の日のほんの一齣。これだけで充分である。」
 親思いの理江さんも、新聞店で働く理江さんも、決して投句を休まない理江さんもどれも本当の今の理江さんです。若くて頑張りやの理江さんを、私共も仲間としてこれからも応援し、共に成長していきたいと思っています。今回の受賞、星女先生もどんなにかお喜びになられることでしょう。新鋭賞、本当におめでとうございます。

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