最終更新日(update) 2025.12.01 

  令和7年度 みづうみ賞
             令和7年12月号より転載


発表
令和七年度 第三十三回「みづうみ賞」発表
第三十三回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          令和七年十二月     主宰  檜林 弘一

  (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)    
   
みづうみ賞 1篇
和紙の帯 坂口 悦子 (苫小牧)
秀作賞    5篇
百葉箱 佐藤 やす美
(札幌)
星飛ぶ 高井 弘子
(浜松)
水の音 野田 美子 (愛知)
雲雀東風 保木本 さなえ (鳥取)
清和の天 松山 記代美 (磐田)
(作者五十音順)
 
奨励賞    5篇
春の鳥 小杉 好恵
(札幌)
ふるさと 妹尾 福子
(雲南)
子らの声 原 和子 (出雲)
風土記の里 原 みさ (雲南)
吾ひとり 山田 眞二 (浜松)
(作者五十音順)
 
     みづうみ賞    1篇
    坂口 悦子 (苫小牧)

    和紙の帯
切り花のぐんと水吸ふ春を吸ふ
雪しづく光の珠のふるへをり
たんぽぽや犬と寝転ぶ外野席
春光や沖より海の色戻る
春の星酵母ゆつくり育ちをり
立ち漕ぎの自転車初夏の風を追ふ
残照の芒種の海へ糸下ろす
飛行機になつて走る子大夏野
ででむしや星座はとうに傾きて
黒揚羽来てより樹々のざわめきぬ
抱けばはや眠りにつく子月涼し
まつすぐに伸ぶる国道豊の秋
蝦夷富士の水湧くところ新豆腐
千年の森へ啄木鳥音放つ
青空をくるりと回し林檎捥ぐ
つぎはぎの埴輪の口へ差す冬日
島に島重ねて瀬戸の冬落暉
クリスマスきれいに伸ばす包み紙
凍鶴の上ぐるひと声川あかり
新海苔のかをりに和紙の帯ほどく



  受賞のことば   坂口 悦子
 この度は、みづうみ賞を賜りまして誠にありがとうございます。
 何分にも経験不足の私ですので、これからもっと頑張りなさいという激励の賞だと思っております。
 俳句に出会い、季節に心を寄せて言葉にするという事を学びました。
 そして多くの素敵な俳句の仲間に出会うことが出来ました。
 これらは今後も私の人生において大きな宝物になる事と確信しております。
 大好きな北海道の厳しくも大らかな自然をこれからも詠み続けて行きたいと思います。
 俳句を始める切っ掛けを下さった浅野数方さん始め実桜句会、知更鳥句会の皆さん、本当にありがとうございました。
 審査に当たられた檜林主宰、曙作家の先生方に心から感謝いたします。
 ありがとうございました。


住所 苫小牧市
生年 昭和三十一年


  秀 作 賞   5篇
佐藤 やす美 (札幌)
    百葉箱
辛夷咲く下校の道のじやんけんぽん
鳥風を見送る山のうすみどり
木の芽風乳の匂のタオル干す
アカシアの花の香りの通学路
万緑の中にひつそり百葉箱
髪洗ふけふの自分を捨つる夜
金平糖かりつとかめば風涼し
習ひたての母の字書く子あかとんぼ
ペガサスを探す大きな背の中で
野分晴百葉箱の鍵開くる
栗鼠走る師走の森の滑り台
雪つぶて先生ばかり狙はれて
日脚伸ぶ裁縫箱に五円玉
小吉を積み重ねたし明の春
指折りて思ひ出したる仏の座



高井 弘子 (浜松)
    星飛ぶ
ポケットに飴玉二つ山笑ふ
初蝶や抱く子の喃語おーおーと
二百歩で回る菜園風光る
メロディーの聞こえて来さうしやぼん玉
我を映すうぬぼれ鏡更衣
枇杷熟るる庄家の大き門構
蛍火のほつほつ増ゆる夕べかな
掌のほうたる青く零れをり
新涼や門前町の硯切り
星飛ぶや繋ぎ合はされ弥生土器
書いて消す句帳の汚れ木の実落つ
大きくて少し歪な林檎剝く
紫蘇の実を摘みたる指の香りかな
奥座敷の雪見障子に朝日差す
味噌汁へこつんと落とす寒卵



野田 美子 (愛知)
   水の音
終戦日漏れてをりたる撒水栓
嘴開けて鴉飛びゆく厄日かな
秋深し寝転ぶ河馬へ檻の陰
神の留守瀬にゐる鯉のよく肥えて
木の間より延ぶる日の帯七五三
渡し跡枯蔓音もなく吹かれ
雪をんな痰切飴を買うてゆく
草萌の古墳を越えてゆく機影
二羽の鳥春の霰をついばめる
花筏割つて小舟の向きを変ふ
踏青や缶のドロップ音をたて
二人して畳む日の丸麦熟るる
青嵐上までつづく椋の洞
空蟬の典医の門の梁つかむ
蓮の葉を回りて水の玉太る



保木本 さなえ (鳥取)
   雲雀東風
ゆるやかに水の押しゆく花筏
春泥や干されて小さき靴ばかり
百千鳥森の木洩れ日弾ませて
屋形船に橋を数へて春深し
まだ旅のできるしあはせ雲雀東風
鳥声は新樹の風に乗つて来る
清水飲む神代のごとく髪束ね
けふもまた同じゆふぐれ桐の花
新涼の香りを運ぶ風起ちぬ
八月や昭和のラジオ捨てきれず
街の灯のとほく揺れゐる秋の浜
十月の海ひろびろと暮れゆける
コーヒーの沸くまで無口今朝の冬
水に映りて雪吊の出来上がる
どの靴も光つてをりぬ初電車



松山 記代美 (磐田)
   清和の天
ひときはの白湯の甘みや寒明くる
花の門かつてこの地に遊里あり
ブラウスを買ひに街まで蝶の昼
ネモフィラの丘や清和の天広し
食べつぷりのよき子けふから夏休
風はらむ大樹の下の苔清水
山門をくぐる日傘をたたみけり
三叉路を守る道祖神秋高し
猫のゐる介護施設の菊盛り
行く秋の遠出ポップを聞きながら
枇杷の花笑ひ上戸の母とをり
学校へ移動図書館来て小春
黒雲の沖に湧き立ち冬深し
山里の郵便局に冬の蠅
高架橋下の工房日脚伸ぶ

  奨 励 賞   5篇
小杉 好恵 (札幌)
    春の鳥
硝子雛潮風匂ふ坂の街
涙目で母の手解く入園児
花菜風すやすや眠る赤児かな
春の鳥光を零し飛び立ちぬ
朧夜や湖畔の宿の常夜灯
ルピナスや育ち盛りの兄おとと
秋入日すとんと胸に染み渡る
もてなしの巧みな女将式部の実
北大の厩舎の灯クリスマス
裸木の枝に意志あり覚悟あり



妹尾 福子 (雲南)
    ふるさと
梅東風や上り切つたる磴百段
産土に二礼二拍手梅匂ふ
風わたる植田に一羽こふのとり
葭切や日暮間近の畑仕事
寝の早き向かう三軒蛍の夜
藁葺きの残る一軒凌霄花
尼寺にグラジオラスの燃ゆる紅
木の実落つ布袋の耳に腹の上に
宍道湖の秋日を窓に「やくも」過ぐ
出逢ふ人みな無言なる除夜詣



原 和子 (出雲)
    子らの声
薬屋の奥に神棚春の風邪
子らの声浸みこむ校舎卒業す
山藤を映す渓流日を弾く
神木の走り根越ゆる蟻の列
葭切の中洲乗つ取る鳴きつぷり
吸ひ込まれさう真夏日の海の紺
草引けば草の命の匂ひけり
夕さりや突と一声おしいつく
流れゆく雲の速さよ月今宵
やはらかき日差しを纏ひ山眠る



原 みさ (雲南)
   風土記の里
七草を風土記の里に摘みにけり
雉子の声とほる棚田の展望台
八雲立つ出雲の空や初つばめ
囀や古事記ゆかりの八雲山
滝壺の水の蒼さや木の芽晴
風土記野の風の遊ばす鯉のぼり
須佐之男と比売の裔かも恋蛍
磐座の紙垂千切れ飛ぶ野分かな
藁葺きの神楽の宿や小鳥来る
林立の杉の秀透かす冬落暉



山田 眞二 (浜松)
   吾ひとり
せせらぎの音に震ふる草の花
トランクに結ぶスカーフ秋の風
風呂敷の固き結び目神の留守
おしくらまんぢゆう大きく曲がる遊歩道
とつぷりと暮れて賑はふ酉の市
時刻表に付箋いくつも風ひかる
前歯無き少年蝌蚪を掬ひをり
点滴のしづく卯の花腐しかな
退院は父の日カルビ肉を焼く
夏空に恐竜の居て吾ひとり

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