最終更新日(updated) 2024.02.01

令和6年 白魚火賞、同人賞、新鋭賞
           
      -令和6年2月号より転載

 発表

令和六年度「同人賞」・「新鋭賞」発表

  令和五年度の成績等を総合して下の方々に決定します。
  今後一層の活躍を祈ります。
              令和六年一月  主宰  白岩 敏秀

同人賞
福本 國愛

新鋭賞
前川 幹子
同人賞
福本 國愛

   夏に入る
薙払ふ棒より太き軒氷柱
手遊びに折るだまし舟春炬燵
内裏雛向かひ合はせに納めけり
道草のつくし夕餉の玉子とぢ
たんぽぽの絮風に消ゆ空のきゆ
清明や「い」よりはじまる出席簿
紐出でて蝌蚪一寸の初泳ぎ
花冷や青い光の一等星
磯桶を湿らす海女の朝支度
緩みなき轆轤の音や夏隣
夏に入るオールの揃ふ舵子の声
桐の花洗ひ晒しの作務衣かな
父の日の父の釣果の刺身かな
空青し喉太くしてラムネ飲む
漁火と一番星と月見草
新涼やホームルームのはじまりぬ
長き夜の膝に「シートン動物記」
草の闇ひとつ調子の鉦叩
熊除けの鈴の入りゆく茸山
早朝の糶ゆく符丁息白し

-同人賞受賞の言葉、祝いの言葉-
<受賞のことば> 福本 國愛              

 この度は、同人賞をいただきありがとうございました。喜びと驚きと戸惑いの落ち着かない状態が続いています。
 「ひあしのぶ」が何であるかもわからないまま平成十九年、地元公民館の俳句教室に入ったのが俳句との出合いでした。早速、歳時記を買い求めました。
 そして、平成二十二年、白岩主宰に声を掛けていただき白魚火「はまなす句会」に入会しました。それから十三年間、直接、文法・切れ字などの俳句の「は」の字から丁寧に教えていただき、千八百余句の添削指導を受けて来ましたが、未だに景の見えない独り善がりの俳句は句会ではいつも「ぼつ」。
 「多作多捨」にはほど遠い句会にやっと間に合う句作りですが、「継続は力なり」を信じて里山歩きを楽しみながら季節の移ろいの驚き・喜び・煌めきなどを平明な自分の言葉でほっこりとする俳句を詠むことができるように精進していきたいと思います。
 ご指導を賜った白岩敏秀主宰、白光集選者村上尚子先生はじめ諸先生、句友の皆様に感謝いたします。ありがとうございました。
 今後ともよろしくお願いいたします。


 経 歴
本  名 福本 國愛(ふくもと くによし)
生  年 昭和十五年
住  所 鳥取県鳥取市

 俳 歴
平成二十二年 白魚火入会
平成二十五年 白魚火同人
平成二十八年 俳人協会会員

福本國愛さんのこと   西村 ゆうき

 福本國愛さん「同人賞」受賞、誠におめでとうございます。鳥取白魚火会一同、心よりお祝い申し上げます。
 國愛さんは平成二十二年の鳥取白魚火会創立当初からのメンバーです。たいへん気さくで穏やかなお人柄が皆から慕われ、句会のお世話一切をお任せしていますが、何年か前から手製のプリントを配られるようになりました。それは、これまでの白魚火誌から選んだ句の季語を( )で抜いた練習問題です。皆が「宿題」と呼ぶそれを作るために俳誌を精読し、一番勉強されたのは國愛さんご自身ではないかと思います。それ以来、巻頭に掲載される機会が増えたように思うからです。またこの文を書かせていただくに当たり託されたのは、これまでの投句を切り張りした分厚いファイルでした。このような日頃の地道な努力が、この度の賞となって実を結んだのだと思います。
 國愛さんは、三十八年間中学校の理科の先生をされ、そのうちの十年間は教頭、校長を務められました。句には学校生活の一こまや子どもを見守る眼差しが現れます。
  教へ子の成人の日の髪飾り
  清明や「い」よりはじまる出席簿
  消しゴムの真つ新な角大試験
  ランドセル銀杏落葉の音を蹴り
 以前、川に河骨が咲いていると皆を案内されたことがありました。自然な状態で川に咲くのはとても珍しいのだそうです。國愛さんは動植物にとてもお詳しく、いろいろな情報を伝えてくださいます。度々魚釣りに、森林公園にと、フットワーク軽く出かけられ、観察眼のよく効いた句を作られます。
  寒鯉や背に力を秘めてをり
  流さるる初蝶風にまだ馴れず
  紐出でて蝌蚪一寸の初泳ぎ
 ご実家が鳥取砂丘の近くにあり、子どもの頃は砂丘が遊び場だったそうです。砂丘をよく詠まれるのは郷愁なのかもしれないと、ふと思いました。そして「馬の背(砂丘の稜線)」を全国区にしたいと何度も句にされます。
  風紋を砂にもどして春一番
  道をしへ風紋蹴つて消えにけり
  馬の背へ旅の半ばの夏帽子
  馬の背を色なき風と上りゆく
 絵手紙もご趣味のひとつ、対象を凝視する姿勢は俳句に通じます。
  風の知る翅の脆さや秋の蝶
  花八手小さき音のもぐり込む
  風花の重さを風にあづけをり
 最近は言葉に新しい感覚を取り入れられ、皆が驚くと照れた顔でにっこりされます。
  啓蟄や恐竜になる紙粘土
  万緑やキッチンカーの紙コップ
 皆のまとめ役であり、頼もしい大黒柱の國愛さん。これからも足取り軽くますますお元気で、俳句の道を歩んで行かれますように。
 「同人賞」本当におめでとうございます。

   新鋭賞 
    前川 幹子

   髪くくる
龍天に登る日となり髪くくる
山笑ふ少し甘めの玉子焼き
春ごとのはじまる髪を切りにけり
水馬の下をのたりと鯉二匹
定位置にペン置き夏の立ちにけり
昼深しするする落つる蜘蛛の糸
髪束ね冷麦の束ほどきけり
盆の月魚の赤き粗洗ふ
夜濯を終へて日記を書いてをり
野分だつ髪をばつさり切りにけり
台風の去りし夜更けのラジオかな
頓服の効きくるまでの虫時雨
極月の赤き鳥居をくぐりけり
百本の水仙包む新聞紙
カレーの香ただよふ店や寒鴉

新鋭賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば> 前川 幹子                

 この度は、新鋭賞という輝かしい賞をいただき誠にありがとうございます。
 立冬を迎えたにもかかわらず、富士山の雪化粧が消えた暖かい日、編集長からの封書が届き、心も身体も暖かくなった瞬間でした。受賞には縁遠いと思っておりましたので、いまだに信じられませんが、これも白岩主宰、村上尚子先生、そして浜松白魚火句会クリエート支部で大変お世話になっている渥美絹代先生、弓場忠義先生、句会の皆様方のお蔭です。お導きいただきありがとうございます。
 私の俳句との出会いは、ボランティア活動の仲間が句会を開いていて、そこで教えてくださっていた弓場先生にお誘いを受けたのが始まりです。一年程、俳句を学び、新しく開設された白魚火句会へ入会させていただきました。受付ではいつも渡辺強さんがお声かけくださり、句会の皆様には、あたたかい雰囲気の中で一緒に学ばせていただいています。句会では、渥美先生に一句一句、丁寧にご指導いただいて、なんとか句作を続けることができています。
 俳句に関わるようになって、季語の美しさや日本語の使い方など、句会で学んでいます。そして、何よりも日常のほんの些細なところへも心が動き、目が留まるようになったように思います。今まで作った句を読み返してみると、その時のことが瞬時に思い出される感覚になる時があります。日々慌ただしく過ぎる中で、心がけていないと時間だけが過ぎてしまいます。家族のこと、自分のこと、生きている一瞬を切り取った俳句ができるよう真摯に取り組んでいこうという気持ちになりました。
 続ければ続けるほど、俳句の難しさ、奥深さ、また楽しさを味わっています。俳句を続けていくことが今の目標です。これからも、俳句と向き合い句会の皆様方と楽しく続けていきたいと思います。今後ともご指導をよろしくお願い致します。この度は誠にありがとうございました。

 経 歴
本  名 前川 幹恵(まえかわ みきえ)
生  年 昭和三十九年
住  所 静岡県浜松市

 俳 歴
平成二十七年十月 白魚火入会
令和元年 白魚火同人


    お祝いの言葉   渡辺 強

 この度の「白魚火新鋭賞」受賞を心よりお祝い申し上げます。
 幹子さんは、平成二十七年九月に「浜松白魚火会」の九番目に発足した、新人育成の「浜松白魚火俳句教室(現浜松クリエート句会)」に参加した十数人のメンバーのひとりです。
 幹子さんは、年齢も一番若く、句会に花を添えるような存在でした。
 社会人としてまだ現役であり、その中の限られた時間を縫っての句会への参加は、日々の雑事から一瞬解放された本人の自由な時間のように思えます。絶えず笑顔を保ち句会に参加されています。幹子さんの作風を近詠よりご紹介します。

家庭では、
  物干してまた物干して小春かな
  湯気立てや五人家族のひとり起き
  冷蔵庫開けてため息ひとつつく

ふる里の思いと父母へは、
  キヨスクの弁当三つ買ひ帰省
  つややかなものを選びて茄子の馬
  亡き父と冷麦たべし店による

 作品は一句ごとに十分時間を掛けて仕上げるのではなく、日常の瞬間瞬間の飾らぬ対応が平明な句作に現れているのではと共感しています。
 これからも家庭や仕事の遂行に邁進し、さらにそれらと平行に、俳句以外の趣味やたのしみが増えればさらに円熟した作品が生まれるのではと思います。
 これを機会にさらなる今後のご活躍を期待して、お祝いの言葉に替えさせて戴きます。

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