最終更新日(update) 2024.12.01 

  令和4年度 みづうみ賞
             令和6年12月号より転載


発表
令和六年度 第三十二回「みづうみ賞」発表
第三十二回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          令和六年十二月     主宰  白岩 敏秀

  (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)    
   
みづうみ賞 1篇
浮力 原 美香子 (船橋)
秀作賞    5篇
白牡丹 鈴木 竜川
(磐田)
日差し 野田 美子
(愛知)
残照 原 和子 (出雲)
金の糸 前田 里美 (浜松)
草いきれ 宮澤 薫 (諏訪)
(作者五十音順)
 
奨励賞    5篇
夏の雲 宇於崎 桂子
(浜松)
月涼し 大塚 澄江
(牧之原)
夢半ば 寺田 佳代子 (多摩)
昼寝 山田 惠子 (磐田)
鮎うるか 吉村 道子 (中津川)
(作者五十音順)
 
     みづうみ賞    1篇
    原 美香子 (船橋)

    浮力
つくづくし池に五重の塔の影
山ひとつ越ゆれば都桃の花
ちちははに会ひに行きたし春の虹
春昼の河馬に浮力のありにけり
読み聞かす絵本蛙の目借時
ふるさとに弟ひとり柏餅
交番の巡査の不在桜桃忌
遠雷や知恵の輪ふつと外れをり
亀の子の石の色して石の上
遊船や佃大橋いま頭上
散り際はスローモーション蓮の花
初秋や朝方の雨音もなく
ひと呼吸おいてきちきちまた跳べり
頰杖の欄干秋の風かよふ
自転車と渡る踏切夕月夜
体育の日ピザ屋のバイク路地走る
新宿の燃ゆるがごとき冬落輝
父と見しオリオンけふも輝いて
着ぶくれてがらがらぽんの最後尾
家苞に帝釈天の年の豆



  受賞のことば   原 美香子
 この度は「みづうみ賞」を賜りありがとうございます。決定通知を手に何かの間違いではないかと何度も読み返し、信じられない気持ちで胸がいっぱいになりました。まだまだ未熟な私の作品を読んで下さいました白岩主宰をはじめ諸先生方、これまで温かくご指導を頂きました寺澤朝子先生、初学の頃よりいつも応援して下さった林浩世さん、共に学び励まし合った句友の皆様に心より感謝と御礼を申し上げます。
 俳句を始めて十五年。みづうみ賞の挑戦など私には到底無理な事と思っていましたが、友人の挑戦する姿を見て、私も頑張ってみようと思い立ちました。以来四年、俳句の面白さと同時に難しさ、奥の深さを改めて感じる日々となりました。この度の受賞を励みに平明な句をめざし一歩一歩努力を重ねたいと思います。改めて厚く御礼申し上げます。


住所 千葉県船橋市
生年 昭和二十八年


  秀 作 賞   5篇
鈴木 竜川 (磐田)
    白牡丹

回り出す古きレコード君子蘭
山笑ふきこきこ軋む観覧車
杖となるかうもり傘や春の虹
亀鳴くや古地図広ぐる城下町
巣籠の鳩の目玉のとがりをり
ばばぬきのばばの二巡目子供の日
山深き母の在所や余花の雨
豆飯に今年の出来を確かむる
白牡丹門前市に買ふ小切れ
かすかなる幹の水音新樹光
小魚を磯に残して処暑の風
手斧目の残る柱や茸飯
飴なめて咳しまひ込む夜汽車かな
襟巻にかくして欠伸おもひきり
風呂吹の湯気を分かちて妻とあり



野田 美子 (愛知)
    日差し
蜩や渡しの小屋に灯の点り
図書館の空に鳶の輪冬に入る
小春日や背負はるる子の足揺るる
冬鵙や小窓開きたる修道院
枯柳の影揺れてゐる蔵の壁
やはらかき日差し古墳へ小正月
梅散つて焦げ目の多き団子かな
床板に松脂の噴き春の雨
浅瀬ゆく鷺の大股山笑ふ
巣づくりやまた踏切の鳴り出しぬ
山あひに青き煙の立つ日永
鯉幟の影を踏んでは子の跳ぬる
真つ白な藻の花ひとつ咲く朝
鵜篝のときをり雨に膨らみぬ
水切りを教へてくるる跣の子



原 和子 (出雲)
   残照
礁打つ波音にある淑気かな
春浅し拾へば砕け虚貝
突として風が雨呼ぶ木の芽時
夕べには上がる明るさ若葉雨
夏つばめ影を水田に滑らせて
低くたかく子らに追はれて夏の蝶
笹百合の咲きつぐ家の喪中札
潮の香や背山より降るつくつくし
差しかけて二人に小さし秋日傘
残照の水面を破り鰡跳べり
ひそやかに燃えては散りぬ冬紅葉
あをぞらと霰たまはる誕生日
あと五分あと五分だけ毛糸編む
枯葦のゆれて日暮を早めけり
冬木の芽来ては飛びたつ雀かな



前田 里美 (浜松)
   金の糸
気功師の曲ぐるスプーンや黄砂降る
父方は長寿の家系木の芽張る
青梅を漬けたる夜の静かなり
初蟬や父の書棚に日本地図
夕蟬やピアノの蓋に古き傷
天の川刺繍の針に金の糸
稲妻や飯の炊けたる電子音
ポスターに髭の落書秋うらら
秋の宵とりわけ小さき針の穴
荒筵小豆を叩く祖母の背
長き夜の火を入れなほすカレーかな
相輪に夕雲かかり笹子鳴く
小晦日鍋に弾くるポップコーン
新春の金のドレスのオペラ歌手
はつはるの指先白き巫女の舞



宮澤 薫 (諏訪)
   草いきれ
東風吹くと小粋なショール買ひにけり
切株の年輪密にひこばゆる
禽獣に恋の気配や風見草
しやぼん玉理科教室の窓を出る
菌を打つ榾木百本花曇
紫陽花の紫紺に立てる仁王門
すぐ乾くことの淋しき洗ひ髪
湖は大きな鏡閑古鳥
茅原へ父の消えゆく草いきれ
星糞といふ峠あり星流る
潜り戸に留守の貼紙小鳥来る
壁の裸婦消して寝につく宿の秋
木から木へ鳥影さはに神楽月
歩く速さは詩を生む速さ小六月
着ぶくれて眩しき雲を見てゐたり

  奨 励 賞   5篇
宇於崎 桂子 (浜松)
    夏の雲
雨蛙めがね曇つてきたりけり
巻尺のしゆると収まり梅雨明けぬ
赤紫蘇のあくぬき喉の渇きたり
夏の雲負くるつもりの口喧嘩
赤とんぼ山が押し出す雲白し
秋湿椅子の背もたれぐらつきぬ
駅ひとつ歩き菊人形を見る
冬日さす座敷のすみに船簞笥
枯蓮の風父の声もたらしぬ
しやぼん玉髪のリボンのゆるみをり



大塚 澄江 (牧之原)
    月涼し
観覧車最上にゐて鳥雲に
桜散り寂々として日の暮るる
父の日の波おだやかな海に釣る
夕焼に棚田一枚づつの空
日盛に疲れの見ゆる花時計
鳥渡る大海原に船二艘
松手入すみて一番星ひかる
靴の砂捨てて砂丘の秋惜しむ
木の実落つ山の静寂に山の音
目を閉ぢて風を去なして浮寝鳥



寺田 佳代子 (多摩)
    夢半ば
鳥帰る鉛筆を足すペンケース
観音のすらりとおはす出開帳
山笑ふ緑の絵の具なほ絞り
うららかや裏の畑に声かけて
種物屋玻璃戸磨いて開店す
浮世絵のごとき白波夏旺ん
しばらくは膝に眠らせ砂日傘
裏山の切り立つ漁港青みかん
十夜婆記憶違ひを笑ひ合ふ
煮凝や話上手に溶け始め



山田 惠子 (磐田)
   昼寝
母がゐて父もゐし頃子持鯊
巣作りの鳥の出入りを見守りぬ
みづうみを風渡りゆく花祭
潮の香の日焼の顔を洗ひけり
月涼し鎮痛薬の効き始む
水打ちて朝の掃除の終りとす
新藁の香をきつちりと束ねけり
助手席の母のおしやべり山粧ふ
露草へ日の当たり来る朝の来る
待春の絵馬重なりて風に鳴る



吉村 道子 (中津川)
   鮎うるか
啓蟄の午後はやさしき雨降りぬ
つばくらや心配事の軽くなり
山鳥の尾の消えてゆく木暗がり
遠足のトンネル三つ駅二つ
母の忌や鮎の煮付に足らぬ味
むき出しの梁に棟札秋涼し
畳なき家も良きかな魂迎
新米の粥吹いてゐる獺祭忌
小夜時雨にぎりばさみの小鈴鳴る
つまびらかに山の話や牡丹鍋

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