最終更新日(update) 2023.12.01 

  令和5年度 みづうみ賞
             令和5年12月号より転載


発表
令和五年度 第三十一回「みづうみ賞」発表
第三十一回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          令和五年十二月     主宰  白岩 敏秀

  (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)    
   
みづうみ賞 1篇
きれいな箱 西村 ゆうき  (鳥取)
秀作賞    5篇
山登り 宇於崎 桂子
(浜松)
十月のカレンダー 寺田 佳代子
(多摩)
生命線 原 美香子 (船橋)
汗の重さ 山田 惠子  (磐田)
笑ひ声 山田 眞二 (浜松)
(作者五十音順)
 
奨励賞    5篇
朝桜 大澄 滋世
(浜松)
落葉踏む 塩野 昌治
(浜松)
星月夜 妹尾 福子 (雲南)
牡丹の芽 保木本 さなえ (鳥取)
運命線 松山 記代美 (磐田)
(作者五十音順)
 
     みづうみ賞    1篇
    西村 ゆうき (鳥取)

    きれいな箱
風軽き野に初蝶の生まれけり
蝌蚪およぐ水の翳りをぬけ出して
電車では行けぬところに春の星
片空のまだ濡れてゐる春の虹
つばくらの杼のやうに雨縫つてゆく
傘さして旅の途中の茅の輪かな
青空をはらりと飛んで夏の蝶
せせらぎは闇を潤す河鹿笛
空蟬や朝となりゆく空の色
蟬の殻入るるきれいな箱探す
くるぶしに風のまつはる螢狩
星涼しリュックの底に日記帳
千年の灯明を継ぐ安居寺
いさり火の連珠に沿うて籐寝椅子
日雷ふいに決心つきにけり
夏燕砂丘に風の走り出す
倒木の影の入り組む滝の道
いつさいの音をのみこむ滝の音
蜘蛛の囲を離れて雲の流れけり
山城の鬼門抜け行く白日傘



  受賞のことば   西村 ゆうき
 それまでは全く無関心で他人事のように受賞発表のページを眺めていましたが、句友が頑張っておられるのを見るにつけ、わたしも取り組まねばいけないのではないかと思うようになりました。去年に続き二回目の応募となった今年は、手直しの途中で改めて俳句の基礎の大切さを感じ、自分の俳句が確立出来ていないことに気付きました。その反省のもと来年また頑張ろうと思っていた矢先に思いがけなく大きな賞を賜ることになり、驚きと喜びで胸がいっぱいです。わたしの作品を選んでいただき心より感謝申し上げます。
 ここまで温かくご指導いただきました白岩主宰、村上先生、渥美先生、そして多くの方々に厚く御礼を申し上げます。
 これからも自分の道を探しながら、俳句という森の中を歩み続けて参りたいと思います。


住所 鳥取市
生年 昭和二十八年


  秀 作 賞   5篇
宇於崎 桂子 (浜松)
    山登り

雲をぬけ頂に立つ秋彼岸
秋ともし肘にたつぷり化粧水
みづうみの波打ち霧の消えゆけり
ゆく秋のボタンをしまふ燐寸箱
瘤おほき橅の大木冬夕焼
冬至梅嬉しき事を書き置きぬ
釣瓶縄乾いてゐたり山眠る
初雪へ飛び出してゆく鈴の音
草萌や遺跡平らにならされて
若鮎のひかりひきつれのぼりゆく
水にほふ落花はじまる気配せり
原色の昭和の駄菓子夏来る
ハンカチをゆはへてありぬ猫車
山頂や全身の汗すぐ乾く
山下りて二人で分くるかき氷



寺田 佳代子 (多摩)
    十月のカレンダー
春めくや胸に大きな蜻蛉玉
初わらび古墳に日差し届きけり
子をあやす母さへづりの中に立つ
蘆牙へ波をかぶせて舟の着く
地球儀の半分は影夕永し
また別の鳥来る水場ハンモック
片蔭に鎌園丁の昼休み
線香花火しやがみ込む子の白き頰
里まつり笛の音闇へ流れけり
小鳥来る窓にいちばん近き木へ
旅ふたつ入れ十月のカレンダー
色葉散る濁りを分くる鯉のひれ
石垣に大火の名残り冬の蝶
針箱に指貫ふたつ雪もよひ
初夢の後ろ姿はたぶん父



原 美香子 (船橋)
   生命線
空の青みづうみのあをいぬふぐり
後ろ手に絵馬を読む人あたたかし
深川の小路を辿り浅蜊飯
背広脱ぎ平も課長も花筵
海風にさらはれてゆくしやぼん玉
蚊を打つて我が鮮血の確かなり
廃校に村の市立つ花でいご
退役の船の甲板大西日
街灯の下に自転車夏の果
爽やかや音楽室のチューニング
通草の実不老不死てふ井戸に蓋
雲行きの怪し稲穂の波打てり
空つ風踏ん張つてゐる足の指
生命線一ミリ伸ぶる日向ぼこ
ペアで買ふ珈琲カップ春を待つ



山田 惠子 (磐田)
   汗の重さ
春立つや書取帳の太き文字
かな文字の豊かな丸み春の雨
夫のシャツに汗の重さのありにけり
夏夕べ雑踏を行く肩車
人も字も明るきが良し立葵
吊忍水やる時は背のびして
卓上の父の文鎮夜の秋
遠花火駅まで人を送りけり
願ひごとばかりが増えて稲の花
法要や矢羽根芒の見ゆる席
倒木のほろと崩るる秋意かな
帰りには抱かれて眠る七五三
カトレアの置かるる日本刺繡展
大根抜けば土を離るる音のして
雪もよひ狐うどんの大き揚げ



山田 眞二 (浜松)
   笑ひ声
少年の細き足くび草の絮
校門を抜けては戻る鬼やんま
草の実や腰かがめ入る秘密基地
新松子林の奥に牛のこゑ
仏壇に置く臍の緒と次郎柿
川岸のひかり集むる帰り花
引き汐の引つぱつてゐる冬日かな
大寒の湯気の出てゐる剣道着
谷間より鳥のひとこゑ水温む
野遊の少年石を積みにけり
下校子の弁当箱の中に蝌蚪
逃水の消えたる空のひかりかな
雨光る朝や泰山木咲きぬ
教会の白き窓わく梅雨の星
夜濯や仏間に人の笑ひ声

  奨 励 賞   5篇
大澄 滋世 (浜松)
    朝桜
さへづりに包まれてゐる兄の墓
朝桜退職の日の社旗仰ぐ
木苺の花に触れゆく塩の道
黒南風やミシンの軸に油差す
棚田へと音やはらかく山清水
昨夜の雨とどめて庭の額の花
道隔て違ふ町の名花水木
秋の灯や伯母と系譜を語らひぬ
桟太き生家の居間の腰障子
磐座の空ゆるゆると鷹の舞ふ



塩野 昌治 (浜松)
    落葉踏む
風光る富士より高くかもめ飛び
春宵や出掛けに雨の来てをりぬ
桜蕊降る仁和寺の夕明り
海月浮く太平洋の波に乗り
灯の下に波ひるがへる夜の秋
一葉落つ日は高々とありにけり
川波の光に跳ねて下り鮎
落葉踏む山路明るくなつてきし
笹鳴や木の間隠れに木曽の山
春待つやよき夢らしき子の寝顔



妹尾 福子 (雲南)
    星月夜
丘の上の白き教会花ミモザ
花束のメモに驚く万愚節
小流れを被ひつくせり花卯木
コーラスに手話も交はり風薫る
響きよく回る水車や風涼し
七夕や丁寧に書く願ひごと
父母の面影のせて魂送り
子の語る夢にうなづく星月夜
文机に触れてこぼるる実むらさき
親鸞忌善女となりて一日過ぐ



保木本 さなえ (鳥取)
   牡丹の芽
牡丹の芽うすくれなゐにほどけたる
山の水一つになりて春の川
無人島ひとつ浮かべて春の海
兄弟は多きほど良し柏餅
軽やかに言葉を交はすソーダ水
秋草を活けて草の名添へてあり
送り火や帰したくない人ばかり
柿のなるちやうど梯子のとどくとこ
コスモスのいつしか風の花となり
白鳥の固まりて来る光かな



松山 記代美 (磐田)
   運命線
きつちりと盛り塩春の立ちにけり
教会の硬き長椅子木の芽風
軽やかな箒の音の余花の寺
風青し万年筆の男文字
似顔絵に眼鏡大きく日焼の子
文机に広げし墨絵初月夜
秋澄むや加賀の指貫土産とす
平穏の匂ひこんがり秋刀魚焼く
運命線深し勤労感謝の日
来し方を行李に母の年移る

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