最終更新日(update) 2022.12.01 

  令和4年度 みづうみ賞
             令和4年12月号より転載


発表
令和四年度 第三十回「みづうみ賞」発表
第三十回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          令和四年十二月     主宰  白岩 敏秀

  (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)    
   
みづうみ賞 1篇
日々に 浅井 勝子  (磐田)
秀作賞    5篇
旅惜しむ 寺田 佳代子
(多摩)
海光 西村 ゆうき
(鳥取)
雨あがる 野田 美子 (愛知)
風の中 原 美香子  (船橋)
少年 山田 眞二 (浜松)
奨励賞    5篇
宝づくし 青木 いく代
(浜松)
蘇枋咲く 大澄 滋世
(浜松)
草の絮 大塚 澄江 (牧之原)
百日紅 原 和子  (出雲)
秋気澄む 本倉 裕子 (鹿沼)
     みづうみ賞    1篇
    浅井 勝子 (磐田)

    日々に
大安吉日盆梅の白一輪
風船売ねむさうな顔してをりぬ
福耳の夫の帽子やバードデー
麦秋や捨てかねてゐる笊と籠
早苗饗のはじまる朝の鳥のこゑ
アッパッパ時間に追はれゐたりけり
蠅叩時をり無駄な音立つる
生身魂笑顔をほめてもらひをり
秋暑なほ水をぶつけて顔洗ふ
桐一葉うしろの山へ日の移る
日々に疎し夜庭のこともちちははも
蓮の実の飛ぶや遠くに五重塔
根気よく笛のおさらひ木の実降る
昼からは雨蝦芋の煮ころがし
別腹のあるらし焼芋屋へ走る
冬将軍遠つ淡海の暮れにけり
厄詣潮入川の波尖り
一喝へ居住まひ正す寒稽古
マスクの目熱は峠を越してをり
砂浜に鷺の足跡春まぢか



  受賞のことば   浅井 勝子
 この度「みづうみ賞」を賜りました事、誠にありがたく深く感謝申し上げます。
 白魚火に入会させて頂き、毎年のみづうみ賞受賞の方々の御句を拝見させて貰い、私にはとても手の届かないところと思っておりました。今回思いもかけない受賞通知にびっくりいたしました。俳句を学び始めて四十年余り、欲もなく勉強も疎かで、唯ひたすら続けることのみをよしとして参りました。私個人にとりましては大きな実りを得られたのかと喜びもひとしおでございます。
 これも一重に主宰や黒崎先生、村上先生のお導きのおかげであり、衷心より御礼申し上げます。今後とも先生方のお力添えを仰ぎ、ぽつぽつと年齢なりに精進して参りたく存じます。


住所 静岡県磐田市
生年 昭和十五年


  秀 作 賞   5篇
寺田 佳代子 (多摩)
    旅惜しむ
美術館出で陽炎へ帰りけり
菜の花や雲の流れに風見えて
花筏浅き流れに影生まれ
石垣を崩す根の張り遅桜
忍冬の花や東司に竹箒
屋形船へ上げ潮の波夏つばめ
神域に声を張りたり羽抜鶏
砂浜に干乾ぶる魚南吹く
鮒鮓を苞に近江の旅惜しむ
色鳥の胸を広げて飛び立ちぬ
放物線描くかはらけ渓紅葉
暮れなづむ四条烏丸冬隣
古書市に足を止めたり小六月
ビル街の底の底まで寒夕焼
約束の無き日落葉を踏みにゆく



西村 ゆうき (鳥取)
    海光
寒晴や声かがやかせ子の駆くる
ふきのたう朝の山気に濡れてをり
春の雪払ひ万葉歴史館
一灯に白象の浮く涅槃絵図
花の雨空より海の明るくて
桜蕊ふる猪目窓灯りをり
夕日より男抜け出す青田道
病葉の反転しつつ流れゆく
青芝の弾力に立つベビー靴
白日傘足元くづす波のきて
風鈴の音や漁火の点々と
海光へらつきようの花揺れやまず
秋高し朱のつややかな舞楽面
銀漢や鉄路ひびかせ列車過ぐ
炉明りや遠き目をして語り終ふ



野田 美子 (愛知)
   雨あがる
永き日や川に小さき泡生まれ
朧夜のときをり鳴らすボールペン
蜂飼に寺への道を尋ねたり
発つたびに一羽遅るる雀の子
甘茶仏水陽炎のたつてをり
黒南風やタンカーゆると外洋へ
大仏の背より夏雲湧きにけり
髪染むるひととき目高見てゐたり
飯盒に数多の凹み終戦日
廃坑へつづく崖道鳥渡る
秋ともし辞典に父のサインかな
冬ぬくし向きばらばらに雑魚泳ぐ
落葉蹴るひとり下校の列はなれ
鳰潜り番屋の煙のたなびきぬ
焚く竹の爆ずれば屋根の雪しづる



原 美香子 (船橋)
   風の中
母の日や子のエプロンの片結び
江戸川に手漕ぎの渡し夏燕
百年の楠より垂るる毛虫の子
菜箸の先黒焦げの大暑かな
千ピースのパズルぴたりと爽気かな
五時の鐘鳴る雲梯に秋日濃し
指先でつまんでみたる望の月
コートを手に銀座の古き喫茶店
河豚食べて女ふたりの昼の酒
冬うらら手水に光る五円玉
路地裏の昼時に来る焼芋屋
早春の土掘り返す犬のジョン
手洗ひの石鹼匂ふみどりの日
山藤や風の中なる野辺送り
鳥曇アイロン台に焦げの跡



山田 眞二 (浜松)
   少年
良くとほる裏ごゑ水の温みけり
忙し気な電卓の音木の芽張る
魚屋の看板傾ぐおぼろかな
初蝶の鉄棒の縁なぞりゆく
木剣の一振りごとにさくら散る
甘味屋にひとり卯の花腐しかな
吊つてあるランプのゆれて梅雨に入る
手渡しに遠忌の通知合歓の花
まくなぎや夕べの雲のうねりをり
朝焼や田んぼ一枚づつの色
日の丸の旗に薄月かかりをり
酉の市下駄突つ掛けて見に行きぬ
少年のゆび先ぬくし冬の草
暮はやし旅の途中の路線バス
ひと袋あめ玉買つて年暮るる

  奨 励 賞   5篇
青木 いく代 (浜松)
    宝づくし
鎌を研ぐ鋼の匂つちぐもり
おぼろ夜の開いてをりたる屋台蔵
赤ん坊を抱かせてもらふ花の下
今日の伸び加へて風の今年竹
遠雷や父の名のある書を見つけ
一の蔵二の蔵涼風渡りをり
鶏頭の夕日の色をのせてをり
十月の森ふはふはの土踏んで
冬日和パズルのやうに家組まる
子の春着半襟宝づくしかな



大澄 滋世 (浜松)
    蘇枋咲く
清明の水ゆきわたる千枚田
春昼の寺院ぼんぼん時計鳴る
城山に仰ぐ春星みなうるむ
山間の五六戸照らす夏の月
風鈴の風にさ揺らぐ師の色紙
新緑の風のなかゆく車椅子
裏庭の夜雨に匂ふ栗の花
山峡の空の高さや今日の秋
低山に薄雲かかる小春かな
空風に紙飛行機の宙返る



大塚 澄江 (牧之原)
   草の絮
涅槃図に濁世の身もて侍りけり
夏の夜の寺幽霊の供養祭
図鑑手に捕虫網ゆく夏野かな
干し烏賊の磔のごと干されけり
草競馬果て潮騒のたかぶれる
蛍待つ髪しつとりと湿り来し
松手入れすみて星降る夜なりけり
峡の日の移ろひ易し櫨紅葉
松籟の浜に潮の香夕千鳥
あかときの空喧噪の寒鴉



原 和子 (出雲)
   百日紅
鳥声の水面に弾け蘆の角
向かひ合ふ酒屋醬油屋つばくらめ
母山羊の孕みてをりぬ花万朶
身を寄する木陰に降れり蟬時雨
百日紅蹴上げの高き父母の墓
何かゐて水輪ひろごる今朝の秋
焚きつけは売出しちらし苧殻焚く
夕映えや釣果なき日の荻の風
冬日さす方へ移れり檻の驢馬
口数の少なき一日根深汁



本倉 裕子 (鹿沼)
   秋気澄む
春浅し息吹きかくるボールペン
梅の香や水たつぷりと厨事
胸騒ぎのこし蝙蝠過りたる
一面に広ごる青田長屋門
ソフトクリーム回転木馬眺めつつ
手文庫に祖母の結櫛秋気澄む
卓袱台に箸置二つ秋日濃し
倒木の大砲めける枯野かな
山上の動かざる雲十二月
凍滝の一筋の水透きにけり

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