最終更新日(update) 2021.12.01 

  令和3年度 みづうみ賞
             令和3年12月号より転載


発表
令和三年度 第二十九回「みづうみ賞」発表
第二十九回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          令和三年十二月     主宰  白岩 敏秀

  (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)    
   
みづうみ賞 1篇
水の音 齋藤 文子  (磐田)
秀作賞    5篇
みどりの夜 青木 いく代
(浜松)
祭笛 浅井 勝子
(磐田)
宇於崎 桂子 (浜松)
双眼鏡 寺田 佳代子  (多摩)
冬銀河 吉田 美鈴 (東広島)
     みづうみ賞    1篇
    齋藤 文子 (磐田)

    水の音
竜天に登るぽこんと水の音
石ひとつ拾ひ遅日の紙押へ
絵の中のをんな横むき春の風邪
春愁や布に沁みゆく水の玉
ゆく春の黒板の文字みぎに逸れ
十薬を引いてにほひの中にをり
やけにけふ大きく見ゆる金魚かな
ファスナーの白靴母のちひさやか
人待ちをれば月見草ひらきけり
サーファーの波のおもても裏も見ゆ
教会の扉残暑の音たつる
秋の灯を載せ目薬のひとしづ
く はちきれさうな玉子サンドや小鳥来る
秋うらら羊の睫毛やぎの鬚
中腹に祠を抱く紅葉山
息深くして霜月の橋渡る
母の背を見てをり梅の返り花
冬の虹通りすがりの人と見る
寒の水ぶつけて顔を洗ひけり
ひとところやはらかき日を冬の草



  受賞のことば   齋藤 文子
 この度は、みづうみ賞を賜りまして誠にありがとうございます。
 二〇〇四年、村上先生のお誘いで、結社「白魚火」、超結社の句会「槙の会」へ入会しまして十七年が経ちました。
 俳句を始めまして、道端の草や木に目を向け、空を見上げ、いろいろな風を感じられるようになりました。また多くの言葉も知ることができました。ただ俳句は、奥が深く本当にむずかしいと痛感しています。
 この間、仁尾正文前主宰、白岩敏秀主宰、村上尚子先生をはじめ諸先生、句友の皆様には、温かい御言葉をたくさん頂きました。
改めて感謝申し上げます。
 今後は、この賞を励みにより一層精進をしてまいりたいと思っております。


住所 静岡県磐田市
生年 昭和三十年


  秀 作 賞   5篇
青木 いく代 (浜松)
    みどりの夜
きさらぎのまるくなりたる水の音
みづうみに風強き日や野梅咲く
牧に出る牛の長鳴き水温む
小流れに指を浸せば山笑ふ
薔薇の芽や近づいてくる話し声
半衿をつけ替へてをりみどりの夜
ぎしぎしの咲きみづうみの濁りをり
当惑の白扇音をたて閉づる
朝顔のきのふの花を摘んでをり
星流る胸の奥処に風かすか
鵙鳴くや賽銭箱を硬貨逸れ
縁側に母ゐるやうな柿日和
初富士を見る快晴の天守閣
実万両焚かぬ窯にも薪積まれ
寒鯉のじつとしてゐる力かな



浅井 勝子 (磐田)
    祭笛
天気晴朗沖へ出てゆくヨットの帆
退屈なひと日遠くに祭笛
白昼の人込みに黒日傘消ゆ
蠅叩婦唱夫随をよしとせむ
爪すぐに伸びてすこやか夜の秋
底紅やうしろのこゑに振り返る
踊子のおのれに酔ひて身を反らす
霊棚の灯にそれぞれの影生まる
羊羮を等分に切る盆の月
音小さく倒るる箒鳥渡る
秋暑しとほくを見遣るこけしの目
豊年の村の果てまで歩き抜く
稲光行方分からぬままの鍵
秋風にころがつてゐる竹の籠
跳べさうな小川ままこのしりぬぐひ



宇於崎 桂子 (浜松)
   風
春一番柱時計の遅れだす
十薬やしばらく電車こぬ線路
夏祓風あをあをと匂ひけり
ゆく夏の恵比須柱に傷のなき
いただきの二人秋立つ風の中
庭のもの活けて二人の星祭
酔芙蓉記憶は都合よく変はる
長き夜や昭和ポップスかけつづけ
すぢ雲のふはりとかかる紅葉山
らふそくの炎のゆらぎ冬に入る
山茶花の垣根煮炊きの匂ひせり
日の中にゆつたりとゐる冬至かな
牡丹鍋雨戸に何かあたりをり
大寒のまつたき夕日海に入る
一番星寒紅をつけ直したり



寺田 佳代子 (多摩)
   双眼鏡
伐採の音へ傾く巣箱かな
囀へ焦点絞る双眼鏡
川底は不思議にあふれ蜷の道
磯遊び夢中なる子へ波しぶく
更衣髪を短く切ることも
獣道抜けくる風や雲の峰
湯上がりに羽織る形見のレースかな
形代や楷書で記す家族の名
秋袷母似の眉を薄くひく
キューピーのきゆうと秋思の音立つる
誰にやらう夕顔の種採り終へて
柿日和里山の地図おほざつぱ
立ちさうに乾く靴下冬に入る
炭竈の火入れ四隅に御神酒撒く
竈出しやまだ温もりの残る炭



吉田 美鈴 (東広島)
   冬銀河
浚渫機川に轟く余寒かな
スニーカーに土の弾力木の芽晴
夕星や春大根を抜きに出て
大瑠璃や山頂すぐと道しるべ
登山宿明日の天気図壁に貼り
雪渓を踏み稜線を目指すなり
ザック下ろす小梅蕙草見はるかし
教卓の八千草香る授業かな
手から手へ赤子抱かれて秋日和
四重奏響く秋夜の音楽堂
秋の星縫うて消えゆく機翼の灯
蜜柑むく子らと星座の話など
朝礼に座す底冷えの体育館
長き水尾曳き白鳥の飛び立てり
師にもまたその師のありて冬銀河

無断転載を禁じます