最終更新日(updated) 2019.02.04

平成28年平成25年度 白魚火賞、同人賞、新鋭賞   
           
      -平成31年2月号より転載

 発表

平成三十一年度「白魚火賞」・「同人賞」・「新鋭賞」発表

  平成三十年度の成績等を総合して下の方々に決定します。
  今後一層の活躍を祈ります。
              平成31年1月  主宰  白岩 敏秀

白魚火賞
 計田 美保
 

同人賞
 保木本さなえ
 
新鋭賞
 山羽 法子

 白魚火賞作品

 計田 美保      

      出席簿
部活よりおしやべりが好き心太
叱られて西日の当たる部屋で泣く
風邪ひきの斜線ふえたる出席簿
教へ子より届く句集の卒業号
もうスーツ着ることもなし冷奴
横文字の這ふ啓蟄の手帳かな
わが影を抱きかかへたるあめんぼう
五月闇時に言葉は羅針盤
一握りの無垢まだ胸に蓮の花
余命ありてこその予定や鰻食ふ
短夜や砂紋は風の置手紙
神棚に置く命名書小鳥来る
母の胸に小さきげつぷ秋日和
我を牽く夫青年となる花野
ほろ酔ひの夫を句材とする夜長
神の島に神の風あり鷹柱
短日やゆつくり外す本の帯
よく笑ふ姉さん被り大根干す
石州の光芒紡ぐ紙漉女
乳液のゆつくりなじむ霜夜かな


 白魚火賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば>  計田 美保               計田 美保  

この度は栄えある白魚火賞を賜り、まことにありがとうございます。これまでの句を振り返ってみますと、その未熟さを自覚せざるを得ず、これは更に精進せよとの励ましであると気づき、身の引き締まる思いです。
 平成十四年、県立高校在職時、俳句甲子園に出場の機会を得ました。その時、以前の職場で先輩であった奥田積先生に、俳句を一から教えていただき、そのご縁から白魚火に入会しました。文芸部顧問であった私は、生徒と句会を開き、句集にまとめ、学校で俳句の世界を広げていきました。俳句創作の授業は他の国語科教員も応援してくださり、一、二学年全クラスで行うことができました。そして、平成二十九年三月に迎えた定年退職。多くの先生方が見てくださる中で、教員最後の授業を句会で終えることができました。
 退職後、体調を崩し、家に籠ってばかりいましたが、それを元気づけてくれたのも俳句と、俳縁をいただいた方々でした。五七五の言葉と向き合っている時間は、大袈裟に聞こえるかもしれませんが、命そのものと思えます。なんでもない日常の一こまを句にすると、その一瞬は言葉によってそこにとどまり、自分の生きている証のような気がして、愛おしくなります。私の句は観念的になりがちですが、具象的、具体的写実に努めねばと自戒しています。
 前主宰仁尾正文先生、主宰白岩敏秀先生、白光集選者村上尚子先生はじめ諸先生、諸先輩、句友の皆様に導かれてここまで来ることができました。本当にありがとうございました。今後ともご指導賜りますようお願い申し上げます。


 経 歴
本  名 計田 美保(はかた みほ)
生  年 昭和三十二年
住  所 広島県東広島市

 俳 歴
平成十五年  白魚火入会
平成十八年  白魚火同人
平成十九年  白魚火新鋭賞


  <計田美保さんの横顔> 奥田  積

 昨年の静岡での全国大会の懇親会場でのことである。会も進んだ
頃凛々しい青年に思いがけず声をかけられた。「計田先生は来られていないのですよね」。安藤翔と名乗る青年だった。「俳句甲子園で?」と私は聞いたところ「いいえ僕は」と否定したが、彼は三年前俳句甲子園の全国制覇を果たした名古屋高校の文芸部で活躍した先輩の一人であったことが後に解った。
 計田さんについては、平成十九年度の白魚火新鋭賞の「受賞者の素顔」でも詳しく紹介したとおり、私とは元同僚だが優秀な国語科教師で、県内一二を争う名門進学校で、次々と実績を上げられ、昨年惜しまれながら退職されたのであった。私自身は超多忙な先生の補助的立場で俳句甲子園の手伝いをさせていただき、私の退職後、高校生との触れ合う機会をいただいて大変に嬉しかった。計田さんは各種の全国コンクールで、最優秀賞を受ける生徒を多数輩出された。そうした中で、高校生時代の安藤翔君との触れあい交流があったのであろう。勤務校の卒業生の一人Y君は俳都松山に移住して俳句甲子園を支える重要なスタッフとして活躍している。第十六回大会の俳句甲子園では〈夕焼けや千年後には鳥の国 青本柚紀〉の最優秀句を誕生させられたなども私の記憶に強くとどまっている。退職をされた三月に、先生を慕う卒業生達が集って俳句吟行会を催したのなどは先生の人柄を語るにふさわしい出来事といえるであろう。
 私達は、地元東広島市で、ジュニアの俳句を募集して表彰する「ジュニア俳句賞」を創設して取り組んでいるが、一万句をはるかに超える作品の選や表彰式に至る事務的処理は結構大変で、いわゆる若くて手の切れる計田さんの退職の日を待ちかねて事務局長に迎えたのであった。二十九年度のそうした選考が九分九厘まで進んだ
時点だった。十年前に治療され、すっかり完治したと思われていた乳癌が再発転移していることがわかったと知らされたのであった。共に泣きたい思いであった。先頃実姉を亡くされたばかりのなかでの出来事で、私は掛ける言葉を失っていた。
  断罪のごとき告知や初時雨       美保
  副作用の手先のしびれ賀状書く
  浮寝鳥夫にぽつりと吐く弱音
  治療日はお出かけ用の冬帽子
  落葉踏む音頼りなき我が身かな
  病にも意味はあるはず帰り花
  生き死には神の手中や冬銀河
  両脚に生きる意志あり初景色
  自分史の序より躓く春の昼
 しばらくは電話することさえも憚られる思いであったが「白魚火誌」への投句は途切れることもなく、同誌平成三十年二月号で紹介されたように、島根県川本町でのNHKの「俳句王国」への出演も果たされた。あらかじめ送られてきていた神社の貘の写真を詠まれた〈村守る貘は眠らず豊の秋〉は、参加者の勝ち抜きバトルで一位となり、明るい表情で参加への思いを述べられたが、事情を知っている者の目には、なかなかに正視はできにくかったのであった。
 最愛の夫君の支えが大きく、途絶えていた句会への出席や、市立図書館での「読書感想文の書き方講座」、「初心者俳句講座」をも担当されるなど、病に打ち克たれて、明るさの戻りはじめ、句友に大きな安堵感が兆してきた矢先のことであった。白魚火賞受賞の報である。
 「美男美女がお待ちしています」と、お招きを受けた名古屋大会、安藤翔さん、十月には計田先生は必ずご出席です。楽しみにお待ちください。

同人賞
 保木本さなえ

   野 水 仙
潮騒に香を強めたる野水仙
流れたる花屋の水の凍りけり
探梅の行手行手にある日射し
一本の音となりゆく雪解川
水音の絶ゆることなし雪間草
吊橋に立てば四方の山笑ふ
花の山海見ゆるまで登りけり
しやぼん玉飛んで雨情の空となる
昭和の日風にまみれて畦歩く
どの田にも水音のする立夏かな
十薬の白さを揺らす路地の風
ハンカチに一日の疲れ握りしむ
噴水に晴れ晴れといふ高さあり
刈り散らす草のしめりや今朝の秋
見えてゐる花野の人に追ひつけず
秋の色深く沈めて山の湖
朝霧や吊橋わたる人の声
木の実置く机の上の万葉集
掃き寄せて落葉思はぬ嵩となる
良き仲間ゐて雑炊で締めくくる

 -同人賞受賞の言葉、祝いの言葉-
<受賞のことば> 保木本さなえ              保木本さなえ
 
 

 この度は同人賞をいただき有り難うございます。身に余る賞に今も緊張しています。
 私と「白魚火」の出合いは友達が見せてくれた一冊の俳誌でした。それが「白魚火」でした。今から十一年前のことです。
 その頃、私は義父母を見送り、子ども達も独立して、これからどう生きようかと模索していた時でした。それまで四十五年間専業主婦でしたので、これからは少し頭を使う趣味でもと考えていた時に出合ったのが俳句でした。
 俳句には季語があり、歳時記が必要なことを知り、早速買い求めて、海や山などに季語を探しに出掛けました。少しずつ季語の使い方が分かるようになりました。その頃、友達を通じて白岩先生を紹介して頂き、先生の添削を受けることになりました。
 仁尾主宰の選は厳しく、上位入選は夢のまた夢でしたが、それでも毎月投句を続けました。句作に行き詰まると砂丘に行き、風音や波音をききながら広い砂丘をただ歩きつづけ、気持ちが落ち着くと家に帰り、また句作に励む。そんな独学の俳句作りが今も続いています。
 これからも俳句を楽しみながらゆっくりと進んで行きたいと思っています。
 この度の受賞は、白岩先生や村上先生のご指導の賜物と深く感謝しています。


 経 歴
本  名 保木本利枝子(ほきもと りえこ)
生  年 昭和十三年
住  所 鳥取県鳥取市

 俳 歴
平成二十年  白魚火入会
平成二十四年 白魚火同人 


  <保木本さなえさんのこと> 西村ゆうき  
     
 保木本さなえさん、白魚火同人賞の受賞おめでとうございます。鳥取白魚火会一同、心よりお祝い申し上げます。
 さなえさんは、実は、私たちにとって非常にミステリアスな存在です。と言いますのは、これまで、さなえさんと句会でご一緒したことがないからです。
 そのさなえさんに、広島大会(平成二十八年)へ向かう鳥取駅で初めてお会いし、ようやくお顔とお名前が一致しました。
 しかし、その広島大会では、
  逢ふも駅別るるも駅いわし雲
  コスモスも切符の色も淡き色
  原爆のドームにかかる今日の月
さなえさんの作られた三句全部が、選者特選に選ばれるという快挙を遂げられ、私たちは呆気にとられました。私がさなえさんに鮮烈な印象を持ち、その大きな存在に気付かされたのは、正にこの時です。
 翌年の鳥取大会では、
  風紋の続きは空へ鰯雲
  残り蚊の風来坊に刺されけり
  はやばやと灯の入る峡や山椒の実
という三句を作られ、その一句目は主宰特選に選ばれました。また二句目の「残り蚊の風来坊」という言葉は、どういう発想で生み出されるのか、さなえさんの思考の柔軟さに脱帽させられたものです。
 ふと気が付くと、五句欄の常連としてお名前をよくお見受けするようになりました。
 平成三十年六月号の「白光集」巻頭
  啓蟄や一鍬ごとに土応ふ
  梨の花白を尽くして峡埋む
  花の山海見ゆるまで登りけり
  雉子鳴いて山の夜明けのはじまりぬ
  しゃぼん玉飛んで雨情の空となる
 同じく九月号の「白光集」巻頭
  一山の谺となりて滝落つる
  水打つによき夕影となりにけり
  噴水に晴れ晴れといふ高さあり
  萍の雨の水輪に濡れてをり
  ハンカチに一日の疲れ握りしむ
 どの句も、身近な句材ばかりです。そして、さなえさんがご自分で見られた、感じられたままを、すっと気負いのない言葉で詠まれています。その平明さが、読み手の共感を得る所以ではないでしょうか。またそう思わせるのが、さなえさんの手腕、真の実力なのかもしれません。
 白魚火十月号「白光集」
  飲みほしてまだ鳴つてゐるラムネ玉
  睡蓮に雨の降る音かすかなり
  ほほづきが祭のやうに色づきぬ
本当にこまやかな気づきが、一句を成しています。誰にも聞こえないようなラムネ玉の音、睡蓮に降りかかる雨の音、祭のように色づいたほおずき。なかなか気付けない対象を、見事に詠まれる感性、それがとても優れていらっしゃると感銘します。
 さなえさん、これからも、益々、豊かな感性を磨いて句をたくさんお作りになり、鳥取白魚火会に刺激を与えてくださいますようお願いいたします。いつまでもご健康で、ご活躍ください。
 同人賞受賞、本当におめでとうございます。

   新鋭賞 
   山羽 法子
 
   麦 の 芽
御鏡の昆布長々と延ばしけり
寒霞天塩川より湧きいづる
氷ごとがばと漬物取り出しぬ
木の芽雨音の重なりゆくボレロ
ドラミング鎮守の森に響き春
豆蒔くや鉄道林の傍の畑
牛飼ひの町を見下ろし夏の山
峠より晴れやかに見る刈田かな
籾摺りの音に重なる雨の音
畑焼の狼煙のごとく幾筋も
紅葉且つ散る大雪山の沼の端
撃たれたる熊横たはる戸板かな
麦蒔きて天塩の山の白きかな
麦の芽や傾斜三十度の畑
土付きのビートの小山日向ぼこ

新鋭賞受賞の言葉、祝いの言葉

<受賞のことば> 山羽 法子                山羽 法子

 この度は新鋭賞を頂きありがとうございます。先生方、そしてお世話になっております句会の皆さまへ、まず御礼申し上げます。
 平成二十年の秋、次女のお友達のお母さんとしてお付き合いしていた西川玲子さんから俳句の会の紹介を受け、今井星女先生が指導される第二新葉会に入会しました。女性ばかり少人数の和気あいあいとした雰囲気の中、星女先生の「誰が読んでも分かる句に」の視点で出される講評と添削に、とても驚きました。その後、函館の白魚火会にも入会し、男女十数名の句会で投句者を予想しつつする選句はゲーム宛ら、すっかり魅了されました。
 道職員として転勤後、句会への参加は間遠になりましたが、道北の山々、農の営みなど、ぽつぽつ書き留め投句してまいりました。星女先生をはじめとする句会の方々の励ましがあってこそです。
 「月上げて函館夜景世界一」第二新葉会所属の故山下恭子さんが白魚火函館全国大会で詠まれた句です。俳句を通して出会えた方々に感謝し、句作に精進して行きたく思っております。

 経 歴
本  名 山羽 法子(やまは のりこ)
生  年 昭和三十七年
住  所 北海道士別市

 俳 歴
平成二十年  白魚火入会
平成二十四年 白魚火同人


   <山羽法子さんのこと>  今井 星女

 法子さん、この度の新鋭賞おめでとうございます。心からお祝い申しあげます。

 法子さんは、宮城県気仙沼市の出身で、高校を卒業後、教員になりたくて、北海道教育大学函館分校に入学。その後縁があって、結婚し、函館に住んでいました。二十七才の時に北海道庁の職員採用試験に合格し、地方公務員として現在に至っています。平成二十年の秋、友人の西川玲子さんの紹介で、白魚火俳句会に出席し、俳句を学ぶようになりました。彼女の性格は明るく、何ごとにも積極的で、大変真面目な方とおみうけしました。「句会がたのしい」とよくおっしゃっていました。
 道職員は転勤が多く、彼女は三年前に道北の士別市に転勤になりました。士別というところは旭川市に近く、ビート(砂糖大根)と豆の生産地で有名なところです。
 彼女は「農業改良普及指導員」という役職で、農家の方々と親しい関係にあります。

  ドラミング鎮守の森に響き春   法子
  昆虫の群に大型草刈機      〃 
  土付きのビートの小山日向ぼこ  〃 

 法子さんの趣味は「山登り」と「スキー」だそうです。

  牛飼ひの町を見下ろし夏の山   法子
  秋澄むや山肌なぞる山の道    〃 
  山頂で指差す峰も秋の色     〃 

 御家族は函館市に在住ですので、彼女は単身赴任で、士別でがんばっています。「来春で四年になるので、又転勤になりそうです」とつい最近おっしゃっていました。「こんどは函館に戻れるといいね」と私が言うと、「そだねー」と元気な声が返ってきました。
 「そだねー」は今年の流行語大賞で、北海道弁です。

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