最終更新日(update) 2017.12.01 

  平成28年度 みづうみ賞  
             平成29年12月号より転載


発表
平成二十九年度 第二十五回「みづうみ賞」発表
 第二十五回みづうみ賞応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。


          平成二十九年十一月     主宰  白岩 敏秀

 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   
  
みづうみ賞 1篇
竜 の 玉 三原 白鴉  (出 雲)
秀作賞   5篇
雪の富士 原  和子
(出 雲)
緑 さ す 安澤 啓子
(浜 松)
尾瀬ケ原 檜林 弘一 (名 張)
草 の 絮 田口  耕  (島 根)
諸所吟行 中村 國司 (宇都宮)
 
   みづうみ賞  1篇
   三原 白鴉 (出 雲)
 
   竜 の 玉
堰を越す力満ちたり春の水
春の雨音やはらかく電車過ぐ
野遊びや雲ゆく方へ歩をのばす
吸ひ込まれさうな青空辛夷咲く
ひとひらのまた加はりし花筏
柿若葉川面てらてら日を返す
麦笛や大志失せしはいつのこと
日時計の影立ち上がる五月かな
柿の花日暮れ静かに来たりけり
手花火の闇を深めて咲きにけり
百年を生きたる母の墓洗ふ
青白く浮かぶ湖月今宵
鰯雲ポプラ伐られし母校かな
稲荷社の赤き神額木の実降る
懸命に咲いて十月桜かな
穏やかに微笑む母や石蕗の花
初凪や長き水脈引く漁舟
冬天に鳶高々と舞ひにけり
我が夢の未だ凋まず竜の玉
寒蜆夜の静寂に砂を吐く



  受賞のことば   三原 白鴉
 この度は、みづうみ賞を賜り、誠に有り難うございました。
 みづうみ賞には、過去一年の句作を改めて見直すという意味も込めて整理をし、その中からこれと思う句を選び出し、推敲を加えて構成し、応募をしておりました。しかし、よもや私が歴史あるみづうみ賞をいただくことができるなど考えてもおりませんでしたので、受賞決定の通知をいただきました際は、我が眼を疑う思いで何度も読み返し、喜びと同時にこの賞の重さ、賞をいただくことの責任の重さに身の竦む思いを感じてしまいました。
 この賞をいただくことができたのは、偏に白岩主宰はじめ選者の先生方のご指導、日頃懇切丁寧にご指導いただいている山根仙花、三島玉絵両先生、さらにはいつも一緒に俳句を学び、励ましていただいている句友の皆様のお蔭があればこそと感謝いたしております。
そしてまた、この受賞は、大変な名誉であると同時に、これからもっともっと精進を重ねよという叱咤でもあると思っております。
 この賞の重さを胸にこれからも白魚火俳句の精神に則った自分らしい俳句が詠めるよう日々精進を重ねてゆきたいと思っております。何卒一層のご指導の程お願い申し上げます。


住所 島根県出雲市斐川町
生年 昭和二十六年


 秀 作 賞   5篇
   原  和子 (出 雲)
   雪の富士
ぬくきものはぬくき器に女正月
地下鉄の上り階段地虫出づ
田の窪の水あるところ初蛙
隣席と交はすひと言あたたかし
湖の朝のきらめき蜆舟
神楽師のくるりと回る薄暑光
無造作に脱ぎ捨てられし蛇の衣
使はれぬ鉄路錆吹く小判草
大鉢に泳ぐめだかの点と線
野球部の掛け声にある秋暑かな
夫婦して畝に糸張る大根蒔き
秋没日背負ひ農夫の帰りくる
上りはリフト下りは歩く松虫草
上空はどこまでも蒼雪の富士
東京の星は聖樹となりにけり


   安澤 啓子 (浜 松)
   緑さす
春泥の野鳥観察小屋に入る
ビニールの紐の解けてゐる古巣
行く春の動く歩道のてすりに手
緑さす城址に点字案内板
心太杉の柾目の箸軽し
老鶯の鳴き声に手の届きさう
神職につづき巫女来る夜店かな
秋蝶や雨後の日ざしの弱々し
長湯してをり枳殻の実を沈め
文化の日ラジオをつけつ放しにし
山鳩のふつと鳴き止み冬に入る
夕べには雨になりさう雪蛍
十二月八日の雨戸繰りにけり
二杯目のコーヒー年賀状を書く
マネキンの手足の動く春隣
   

   檜林 弘一 (名 張)
   尾瀬ケ原
残雪の風はるかより尾瀬ケ原
水芭蕉一会の色と思ひけり
鳴き交へる育ち盛りの蛙かな
座禅草向きを揃へて隣合ふ
木道に列を乱さず夏帽子
山荘の振舞ひ水のレモンの香
走り梅雨隣の小屋も昼灯す
夏の炉に旅の予定を尋ねあふ
遠雷のいまだ気勢を上げてをり
明け易し夢のつづきの空の色
早起きの人夏霧の向かうにも
日の差せば雲を払へる夏嶺かな
利かん坊めく行々子行々子
木道を行き交ふ歩荷南風吹く
夏つばめ見晴し小屋の梁太し


   田口 耕 (島 根)
   草の絮
波音を遠くに聞きて屠蘇祝ふ
診療の眼鏡拭きをり寒雀
春待つや汽笛闇より聞こえくる
校庭に牛まぎれこむ春休み
初燕午後の診療始まりぬ
外海へ尾を振る島の鯉幟
天瓜粉の中に目のあり鼻のあり
一団の生徒駆けくる虹のなか
カッターを漕ぐこゑ揃ふ雲の峰
実習船泊つる涼しき灯をともし
みささぎの井戸にただよふ一葉かな
鱸一本さげて患者の来たりけり
子供らの畦道帰る曼珠沙華
バスに乗る少女の肩へ草の絮
丸干しを焙るにほひや神の留守


  中村 國司 (宇都宮)
   諸所吟行
鬨あげて木の芽風立つ碧血碑
象潟や雨のあがりの呼子鳥
不忍池を流れず沈む花筏
隠岐風露草と教はる風の中
島泊り三光鳥に目覚めけり
宍道湖のちりめん波を蜆舟
岬鼻に牛の嚼みゐる涅槃西風
でこぼこな大阪のまち夏燕
傘さして二百十日の吾妻橋
芙蓉咲く村の真中の流刑小屋
太ももに稲穂の重み能登棚田
楸邨の句碑に兜太が赤カンナ
見えてゐて杳と竹島秋の蟬
塩原や遊女高尾碑雪づけに
寒苦鳥勿来関に啼きに来よ

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