最終更新日(update) 2007.05.26 

平成17年度平成17年度 白魚火賞、新鋭賞   
             平成19年6月号より転載

 みづうみ賞は、毎年実施の“白魚火"会員による俳句コンテストで、今回(平成18年11月〆切り)が14回目となります。1篇が25句で、本年は応募総数67篇でした。これを先ず予選選者で33篇に絞り、更に主宰以下8名の本選選者によって審査され、賞が決定しました。

発表
 平成十九年度 第十四回「みづうみ賞」発表

 第十四回応募作品について予選・本選の結果、それぞれ入賞者を決定いたしました。御応募の方々に対し厚く御礼申し上げます。

         平成十九年五月 主宰 仁 尾 正  文
 (名前をクリックするとその作品へジャンプします。)   

  
みづうみ賞 1篇
春 障 子 陶山京子   (雲南)



秀作 5篇   
鍬 始 大庭南子 (津和野)
大 綿 坂下昇子 (牧之原)
文 士 村 星 揚子 (宇都宮)
春 駒 飯塚比呂子 (群 馬)
茶 山 辻すみよ (牧之原)


佳作 5篇
千 鳥 大塚澄江 (牧之原)
冬 の 月  鈴木百合子 (群馬)
夕 虹 大村泰子 (浜松)
山 椒 魚 横田じゅんこ (藤枝)
星 今 宵 竹元抽彩 (松江)
     

  

 
選外 佳作 22篇
弓 張 月 谷山瑞枝 草 の 餅   梅田嵯峨
色なき風  奥木温子 水 喧 嘩   井上科子
福 寿 草 渡部幸子  旅 鞄   奥野津矢子
河 鹿 野澤房子  折 紙   清水 和子
草 相 撲 竹内芳子 茄子の馬 高橋花梗
秋の夕映 西田美木子 朱のポスト   高添すみれ
万 象  増山正子 長 春 花   栗野京子
北アルプス 鳥越千波 全国大会初参加 川崎ゆかり
おでん鍋 檜林弘一 冬の椅子   小林布佐子
祭 足 袋 曽我津也子 草もみぢ   松下葉子
髪 洗 ふ 山西悦子 潮 鏡  浅野数方


  * 総評へ
   みづうみ賞  1篇
 (雲 南) 陶山京子 

 春 障 子  
初燈明指先かろく触れて消す
初凪や松が枝張る嫁ヶ島
子に文をしたたむ仕事始かな
耕人や風まだ堅き峠の辺
城址より見えて我が家の白椿
指貫のしろがね光る春障子
筆のごと太き蕨を摘みにけり
黄水仙けふは句誌来る日と思ふ
ありつたけの庖丁を研ぐ遅日かな
遺児として詣づ靖国花は葉に
靖国に栖める白鳩緑さす
青葉木菟経本旅の枕辺に
回覧板もて麦秋の草屋訪ふ
山の田は高畦ばかり草を刈る
黴匂ふ蔵に長柄の棕梠箒
山の日のうすうす通草熟れにけり
藍皿の唐草模様衣被
田仕舞の煙入り来る通し土間
耳さとき鳥の逃げ足紅葉狩
仕込みゐし味噌の封切る寒露かな
小鳥来る祖母の使ひし糸車
沢水にざんぶと浸し蕪洗ふ
笹鳴を聴きしより雲七重八重
ふる里は根雪二尺の中に昏れ
絣など接ぎて幾日冬ごもり
  受賞のことば   陶山京子          


 三月に入ってからの思わぬ寒さに桜の開花予想も大きく外れ、気を揉ませる日が続いておりました。そんな或る日、思いもかけぬ「みづうみ賞」の通知をいただきました。
 封を切った時の驚きと喜びは忘れることはできません。
 山里に住む一農家の主婦のこまごまとした日常を一連の句に纏めてみたいと思いました。白魚火に入会して日が浅く未熟者の私にとっては、歳時記と辞書を傍らに苦しい句作が続きましたが、それも佳き思い出となって甦って参ります。
 仁尾主宰をはじめ、白魚火の皆様、地元三刀屋りんどう句会を熱心に御指導頂いている寺澤朝子先生、そして句友の皆さまのお陰と深く感謝致しております。
 これからもどうぞよろしく御指導頂きますようお願い申し上げます。
 
 住  所 島根県雲南市
 生年 昭和十一年

俳歴
 平成三年  句玉入会
 平成五年  句玉同人
 平成十六年 白魚火入会
 平成十八年 みづうみ賞選外佳作
 平成十九年 白魚火同人

 秀 作 賞   五篇
  大庭南子(津和野)

 鍬 始
家郷五十戸一望しつつ鍬始
田の神に幣立て村ののどけしや
剪定の木霊が返る山畑
鶏小屋に槌の音して彼岸前
霞む日や牛追うて行く親子づれ
風に乗り母の麦搗唄きこゆ
代掻くや神奈火に日の落つるまで
えごの花こぼれ仔牛の生まれけり
夜振火にあかあかとあり妻の顔
水番の遠近にゐて星の夜
夏桑を積む荷車に日のあふれ
分家より妻にと届くちらし鮨
粟の穂や牛飼牛を叱り行く
風呂を焚く火のちろちろと雁渡し
籾摺を時折母の来て覗く
瓜坊を池に落つまで追ひにけり
蔵の軒母屋の軒と大根干す
初あられ牛に不妊の治療受く
川舟の裏返されて十二月
清貧の父祖に倣ひて注連飾る


   坂下昇子(牧之原)

 大 綿
雨粒の梅の雫となりにけり
青き踏む少しの雨に少し濡れ
蝌蚪の尾の泥を揺らして静もれる
花びらの風より軽く舞ひにけり
遠足の列の縮まる信号機
自転車に風の生まるる若葉道
灯台は五月の風の中にかな
鯉幟雲を追はんと翻る
山車を曳く人の捩れてをりにけり
ありつたけ伸びたる雨のかたつぶり
吊ればすぐ風に馴染める軒風鈴
向日葵の大きく咲いて日曜日
盆用意母の残せし備忘録
都会派の鴨かも人の方へ寄る
大綿の宙にとどまりつつ舞へり
枯蓮影まで痩せてさらばへる
暮れなづむ一人遊びのかいつぶり
焚く菊の炎に色の生まれけり
着ぶくれてゐて何となく落ちつきぬ
聞き上手忘れ上手や日向ぼこ


   星 揚子(宇都宮)

 文 士 村
春障子開けたる空の青さかな
ひとひらの花散り風の生まれけり
やはらかきフルートの音や春の宵
花びらを蹴りて飛び立つ揚羽蝶
なめらかな筆文字の文涼しかり
丁寧に硯の海を洗ひけり
原稿の赤の書き込み爽やかに
使はれぬ井戸に木洩れ日つくつくし
きちかうや如雨露の水の迸る
秋気澄む池に流れのあるところ
竹林に来て膨れゐる秋の風
鶺鴒の光を飛ばしつつ飛びぬ
橋の名は童橋なり赤蜻蛉
鬼の子の顔出してゐる日和かな
鉤の字に路地曲がりゆく石榴の実
肌寒の触れゐて読めぬ点字かな
行く秋や蔵に小さな窓一つ
路地に猫のこのこ出づる小春かな
山茶花の坂また坂の文士村
立ちて漕ぐ自転車の冬不動坂


   飯塚比呂子(群馬)

 春 駒
春駒の造り酒屋に長居して
ゆるやかに刻の流るる冬牡丹
大寒の竹林にある静寂かな
雪山に噴煙あをき影落す
信濃より吉報とどく春隣
地虫出づ旅に出る地図買ひにけり
菜園に今日も母ゐてあたたかし
チューリップ幼なはすぐに仲良しに
木洩れ日の流れに揺るる座禅草
春愁の紅茶に眼鏡くもらせて
青芝に杭を打ち込み野点傘
駄菓子屋に下駄売つてをり祭り来る
つくばひの水音涼しき茶室かな
山開き赤きリボンの道しるべ
御点前の所作美しき桔梗かな
狭霧立つ山のなぞへに牧の牛
縁に座し雨音を聞く十三夜
雲影のゆるゆる渡る草紅葉
音もなく朝のしぐれや翁の忌
ねんごろに拭きたる納め達磨かな


   辻すみよ(牧之原)

 茶 山
一望の茶山に芽吹き来たりけり
蕨狩山だんだんと高くなり
見残しの見残し太き蕨かな
春光をお薬師様と分かちけり
ちぐはぐな会話楽しも花の昼
雨少し残る八十八夜かな
ゆつたりと風の行き交ふ柳かな
風鈴に気持ほぐれてきたりけり
尻尾まで青大将でありにけり
黒揚羽影に遅れて現はれし
小鳥来る空の青さとなりにけり
綱引きの踏ん反り返る天高し
衣被つるりと剥けて機嫌よし
一束の芒を括る芒の葉
雨の日は案山子を室に保育園
切支丹燈籠隠す実南天
一日を頬被りして蜑老いぬ
かいつぶり水輪はづれて浮びけり
花零し眠り初めたる茶山かな
豆撒の子等の被りし鬼の面

 佳作 五篇
  大塚澄江(牧之原)

 千 鳥
箒目の乱れなき矢場年迎ふ
御守りを携へ見舞ふ三日かな
一人降り一人乗る駅春田打つ
飾る度雛の小道具失せてをり
はくれんの一枚づつの解れかな
花筵みんな一芸持ち合はす
駈けて来る菜の花色のワンピース
寝羅漢の石の枕に苔の花
冬の寺雛僧のはくスニーカー
焚火の輪世間話は聞き役に
ばらばらに居ても仲間の湖の鴨
潮先を走る千鳥の風となる
真青なる空に尖りし冬木の芽
夕暮れを引き寄せてゐるお茶の花
寒行のしんがりを行く尼僧かな


  鈴木百合子(群馬)

 冬 の 月
琴爪の筥の蒔絵に淑気満つ
串刺しにされしどんどの達磨かな
早春の茶舗に小さき切り絵展
鳥籠の影置く春の障子かな
平らかな母の寝息や沙羅の花
うつくしき窯変の壺夏座敷
添書の長くなりたり星今宵
湖風にほぐれ初めたる芒かな
珈琲をおとす間の威銃
秋ふかし画布のクレヨン匂ひけり
手捻りの盃にあふるる温め酒
メールもて近火見舞を受けにけり
稜線を突き放しゐる冬の月
神棚の扉をきしませて年用意
注連綯へる屑のなかへと客通す


  大村泰子(浜松)

 夕 虹
ゆるやかに衣桁に掛くる花衣
地下足袋を枝にぶら下げ袋掛
干草を足でころがし束ねけり
噴水の穂の水玉の光りをり
門前の蕎麦屋の三和土涼しかり
夕虹を見てゐる腕を組みにけり
百の炬火ゆらぎてをりぬ虫送り
飛び入りす踊浴衣の後ろより
十六夜や寺の紋なる釘隠し
葭を刈る川の漣広げつつ
打ち終へし紺屋の土間の紙砧
時雨傘傾げひそひそ話かな
菜箸の紐のからまる十日夜
薮柑子色あるものの一つにて
待春や塩壺の塩しまりゆく


  横田じゅんこ(藤枝)

 山 椒 魚
膝の手の重くなりたる涅槃絵図
席順のおのづと決まる花莚
風船が子を従へて行きにけり
母の日の母より貰ふ割烹着
袋かけの一部始終を山烏
山椒魚岩になること躊躇はず
量られて窮屈さうなさくらんぼ
その中のひとつが浮きし冷し瓜
泳ぎ子の水につまづきつつ上がる
山風の鉄風鈴に集まれり
真ん中のへこむ硯を洗ひけり
たたまれて草に置かれし秋日傘
吊られをる鮟鱇何か言つて欲し
紙漉の小さき塵も見逃がさず
一礼の深ぶか札を納めけり


  竹元抽彩(松江)

 星 今 宵
剣の師も句の師も鬼籍走馬灯
お城下に残る銭湯枇杷熟るる
枝豆の茹で上る間に湯浴かな
もの思ふ漢に一葉舞ひにけり
秋蝶の折れ線グラフ描き飛ぶ
魂の消ゆる如くに流れ星
零余子飯病知らずの妻であり
ぐい呑みは親父の形見月見酒
秋刀魚焼く一番星を烟らせて
無器用な家系に生れ柿を剥く
田仕舞の煙棚引く千枚田
作務僧の庭掃きてをり百舌猛る
大根干す終の一束天辺に
鮟鱇の鍋囲みゐて寡黙かな
本閉ぢて珈琲入れて夜半の冬


総評
仁 尾 正 文 
 平成四年、先師一都先生の一周忌の前夜、長野市で荒木古川、鈴木三都夫氏に沢田早苗さんや私らも入った雑談中沢田さんから「「白魚火」では新鋭賞受賞の有資格者である五十歳(当時)以後に会員になった者にも励みになるような賞を与えたいものだ。」という発言があり、同座した者は全員賛同した。その後各方面に相談したところ了承が得られたので「みづうみ賞」という俳句コンクールが行われることとなった。第一回の成績発表は平成六年、従って今回は第十四回になる。第一回は応募が一四八篇あり藤川碧魚氏と私が予選をし、本選は鳥雲作家全員に藤原杏池代表、荒木古川編集長が加わり十数名にも上った。少し派手すぎるスタートで、結社最高の賞である白魚火賞を凌ぐ程であった。コンクールというものは選者の志向や眼識も色々であるので意外と思える結果も出て面白いものであった。ある時はみづうみ賞受賞作品に選者から「私は反対だ」というクレームがついたりしたこともあった。最近は選者も応募者もすっかり馴れて落着いてきた。今年は六十七篇の応募であったが九十篇を越したり、大体その辺を行き来している。応募作品は減ったけれども作品の内容は毎年確実に向上していることはうれしい。三年前に俳人協会評論新人賞を受賞した櫂未知子さんの近著『言葉の歳時記』の中に一昨年みづうみ賞を受賞した荒井孝子さんの「夭折の子の骨拾ふ春の雪」が抽出されていて喜ばしいが、白魚火のみづうみ賞にも俳壇の目が届いていることを自覚せねばならない。
 ここ二、三年前よりこのコンクールには、白魚火へ入って来てまだ日の浅い人の応募が目につく。他の結社で実力を涵養してきた人も居れば、全くの初心者から始めた者も居る。いずれにしてもフレッシュな顔ぶれは活性化に繋るので結構である。
 第十四回みづうみ賞の作品を総括すると①作品内容が向上してきている。②おしなべて字がきれいである。これは自らの作品を大切にするということで大切なことだ。③季語をふんだんに使って入賞者は殆んどが二十五句に二十五の季語を用いている。季語を豊富にということは一篇がしなやかになってよい。
 第十五回みづうみ賞は、昨年応募を締切ったときから既に始っていることは各自自覚されていることであろう

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